新川電機株式会社

長井 昭二

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今回は地球温暖化に対応して人類の「倫理が働く証」(?)として今開発している再生可能エネルギーのうち、風力に次ぐ大きなポテンシャルを持つと言われる太陽エネルギー(Solar Power あるいは PV)について調べてみました。その後で、再生可能エネルギーが「温暖化の限界」に間に合わない場合を想定して、人類が意図的に地球の温度を下げる、あるいは発生した CO2 を人口的に吸収削減する対策(ジオエンジアリング等)について考えてみます。

はじめに

今回の参考文献関係は

  1. Earth Policy Institute Home Page “Solar Power, June 18, 2014 [ China leads World Solar Power Record in 2013]
  2. “World on the Edge” Lester R. Brown 2011 Earth Policy Institute
  3. Engineering a cooler Earth by Erika Engelhaupt “Science News” June 5, 2010
  4. WWF2011 Report
  5. 孫 正義のエネルギー革命 PHP 研究所 2006 年 4 月
  6. “A path to Sustainable Energy by 2030” Scientific American November 2009
  7. “Super grid World “ New Scientist 18 December 2010
  8. “The Fate of an Engineered Planet” Scientific America, January 2013

です。

世界の太陽光発電の状況

まずは太陽光発電の状況を見てみたいと思います。上記参考文献の 1 の記事を中心に要約することにします。今のところ世界の太陽光発電は順調に増加しています。下図左側はこの文献内のデータ(World Cumulative Solar Photovoltaics Installations, 2000-2013)を加工したものです。

世界の PV 設備容量推移

世界の国別 PV 設備容量推移

2013 年の世界の PV の合計は 140,000MW となっています。100万KW の石炭火力の 140 台分です。年間のエネルギー(稼働率 15%)に変換すると約 0.67 Exa-J/年(Exa は 10 の 18 乗倍)です。世界の電気の年間エネルギー(約 70Exa-J/年)の約 0.96% です。現在の伸び率を使って 2020 年の生産エネルギーを推定(上左図の赤破線)するとかなり良いデータです。

他の予測と比較すると、例えば WWF2011 の 2020 年予測(上左図の緑破線)と、“Plan B”(Earth Policy Institute)の 2020 年予測(上左図の青破線)の比較では、両者を上回っています。ちなみに 2013 年に達成された発電容量 140,000MW は、ドイツの全家庭での使用電力を賄える量だそうです。

この急速 PV の増加に貢献したのは中国です。上右図の絵(Cumulative Installed Solar Photovoltaics Capacity in Leading Countries, 2000-2013)でも判りますが、ドイツとイタリアがその増加を減速したのにも関わらず、世界の合計の PV 設置量を押し上げました。

中国は特に大陸西側の甘粛省、新彊自治区、青海省での大型 PV が 2013 年に 11,300MW 追加され合計で 18,300MW となりました。特に青海省龍羊峡発電所の 1 号 PV の 320MW は世界最大で、2 号の 540MW も今年度中に運開予定です。中国政府は 2017 年まで中国全土でさらに 70,000MW 追加を決定しています。

日本の状況ですが、2013 年の設置量は 6,900MW とやはり急増して合計で 13,600MW となっています。これは再生可能エネルギー全量買取(FIT、Feed-In-Tariff)の制度の開始が良い効果を出しているようです。日本の PV は屋根置小型 PV が多いのですが、今年 2014 年の大分県でのメガ PV、82MW の運開があります。また大型プロジェクトでは長崎県の五島列島の宇久島(左図)での 430MW の開発(民間:京セラ-オリックス)が発表(2014年6月)されています。発生する電力は海底ケーブル(60Km)で高圧直流方式(HVDC)で九州電力の系統に接続され販売されます。土地が少ない日本ならではの特長のあるプロジェクトではないでしょうか。また後で触れますが、温暖化対策の「スパーグリッド計画」にも関係しますので期待したいです。日本全体での PV の計画は(経済産業省)2020 年まで 28,000MW を推定しています。

インドも積極的です。特に日本も訪問した Modi 新首相になってから、新しい方針を出して、2022 年に 34,000MW(今 22,000MW)を目標(全電力の 3%)に計画を立案しています。また興味深いのは、農業の灌漑用地下水ポンプにヂーゼルエンジンを使用していますが、これを全て PV にして、さらに用水使用を節水灌漑方式(Water-saving-drip irrigation = 植物の根に最小限の水滴を間欠的に給水 )を採用し、省エネすることで PV でも賄えるポンプにすることで PV の普及をさらに加速する計画です。これを地球温暖化対策 Triple-win(地下水資源の枯渇防止、化石燃料の削減、政府のディーゼル油補助金予算、約 6000 億円の削減)と呼んでいます。

他のアジア圏では、韓国が 2013 年に 40%(1,500MW)の増加、タイでは大型 PV84MW(Lopburi Solar Farm)が全体 700MW に貢献しています。

このようにアジア圏は元気なのですが、EU 圏はドイツとイタリアが減速しています。ドイツは FIT の買取料金を約半額に低減したため、新設計画容量が三分の一に減少しました。
また、イタリアも PV の補助金は全て削減されたため減速しましたが、PV 設備コストが現状の 50% 以下になったため、少し大型(700KW、Ikea 家具)の PV の普及が始まったようです。このように一足飛びには進まないリスクはあります。先を長く注視する必要があります。

風力 とPV の普及は先が長い

上の二つの絵は、風力と PV の普及は先が長いという話の説明です。WWF2011 の電気エネルギー部分だけをプロットしてみました。風力も PV も現状(上右図内の青△は風力、赤△は PV 2013年)はいいスタートを切ってように見えますが、2050 年までに目標(上左図)に届くにはまだ先の話です。特に PV(赤線)の予測カーブは CSP(太陽熱発電)の増加分も見込んでおり 2030 年以降に急増加することになっています。うまくいくでしょうか。

引き続き外国の PV の話ですが、米国は加速しています。設備費が 15% 下がったことと、設備をリース契約にしことで増加したようです。また大型PVプロジェクト Agua Caliente、アリゾナ州の 290MW の 2013 年完成が目につきます。2015 年には Solar Star プロジェクト 580MW が運開予定でさらに加速することが予想されます。

カナダも 1,200MW に増加しています。

中南米ではメキシコは 240MW(2014)、ブラジル 70MW、チリのアタカマ砂漠での 100MW となっています。広さでは負けないオーストラリアは 3,300MW とやや少な目です。

中東はイスラエル、UAE、サウジアラビア延びています。特にサウジの PV 計画は 2032 年までに 16,000MW の開発を計画しています。これは現状の最大電力の約 40% にあたりその覚悟(石油枯渇後の準備)が見えます。

アフリカはさらに注目です。南アフリカの 175MW プロジェクトとガーナの 400MW プロジェクト、さらに注目はナイジェリアの 3,000MW プロジェクト(Skypower FAS Energy + ナイジェリア政府)とアルジェリアのg6,000MW プロジェクトです。ここは EU 圏にも近いことがあり、ただ単に PV 発電だけで注目されているのでなく、「スーパーグリッド」つまりアフリカと EU の電力網を海底ケーブルで接続する話、さらに太陽光の熱から蒸気を発生してその蒸気でタービンを回して電気を作る「太陽熱発電 = CSP:Collective Solar power」が多数計画されていることでも注目されています。左図は太陽熱発電(CSP)の実例(環境省 資料)です。たくさんの鏡(120m2/台)と約 100m の集光塔で 250℃ の蒸気を作って、その蒸気で発電しています。

下図は EU のスーパーグリッドの案(“SuperGrid World” NewScientist /18 December 2010) です。

「EU 内と北アフリカ、さらに中東を結ぶ超電力網スーパーグリッド計画」です目的はもちろん、アフリカ、中東で豊富に作りだされる CSP 電力と風力を EU に運ぶことですが、もう一つの目的は気象条件で変動するこれらの電源と水力、バイオマス発電と繋いでその変動を緩和する目的もあります。

このスーパーグリッド案は日本の五島列島の PV 発電計画にも影響を与えました、韓国-モンゴル-ロシアと日本の電力網を接続する「アジア圏のスーパーグリッド」計画につながる可能性があります。それを裏付けるように、自然エネルギー財団(孫正義エネルギー革命)と日本創生会議が「アジアスーパーグリッド」(下図)を提案しています。両者とも主旨は EU と同様ですが、関係する国の政治的意図は別にしても基本的には電気が豊富なところから不足しているところに融通しあうことです。運用の難しさはありますが、後で話す気候工学よりはリスクが少ないと思われます。

このように、少しずつ各方面で努力されて、CO2 発生の削減が進むように見えます。

問題は、やはり時間軸です。前回メルマガで「2075 年までに」と言いましたが、「+2℃ 以内」の達成は別にしても、2075 年までの間に気温が +2℃ を超えてしまい、劇的気象変動が頻発することになった場合、それに耐えうるかです。

最近の科学者の論議ではその今世紀末の「+2℃ 以内」達成に「あきらめ感」があります。そこで出てきたのが「応急処置案」です。意図的に短期間で大気温度を下げるか、人為的に排出した CO2 を大気から吸収して濃度を下げる案です。それが気候工学(ジオエンジニアリング)です。

その原理手法は大きく分けて二つあり、一つは太陽光を遮蔽して気温を下げる、二つ目は大気と海水から直接 CO2 を吸収する方法です。下図は代表的な方策案のイメージ図(“Engineering a cooler earth” Science News June 5, 2010 を加工) です。

今回は詳細に説明しませんが、概略説明します。

左図の①は宇宙あるいは成層圏に太陽光反射板の設置、②はエアゾールを大気に散布し、③は海水を大気に散布し地球の温度を下げる方法で。また④は発電所から出る CO2 を吸収貯蔵、➄は海水に鉄粉を散布してプランクトンを活性化させて CO2 吸収させ大気中の CO2 濃度を低下させる案です。これ以外にもいくつかあるのですが、省略します。10 年前はこんな話、だれも相手にしませんでしたが実験は進められました。今は違います。「長期的に逆効果はないか検証すべきだ」また「この案が実施され中断された場合、どのくらいリバウンドするか」とか「やや真剣」になっています。これは必要性の裏返しです。次の絵(“Science News” June 5, 2010)はその効果を予測した絵です。

グラフの名称で Low/Mid/High-geo はその対策実施量の大きさによる効果を示します。「Aggressive emission cuts 積極的 CO2 削減策」と「Low-geo:少しのジオエンジニアリング」のカーブが近いのが意味するところです。しかしこれを実施するも相当大変です。社会的な合意が無いと難しいところです。ですがこんな意見もあります「CO2 削減努力もしないで、文句ばかり言って何もしないのはもっと悪い」。等などしばらくは議論だけが継続されると思います。ある科学者の想定では 2020 年ころから再度真剣に検討が開始されるのではとの予測です。

米国の科学者の中には、将来温暖化で洪水とか干ばつで困った国、例えば EU,USA,インドとインドネシアは国際合意を待てなく、2040 年代ごろにはやむなく実施する可能があると予測しています。その結果 2090 年代にそれが原因でロシアとカナダが人口植林地の農耕地化で紛争が発生する等を予測しています。ありますかね? SF の世界ですか?

下図がそれを想像させるヒントになるかもしれません。これは IPCC の第 5 次報告、ワーキンググループ 3 の報告にある絵です。

大気温度が上昇すると、どんな危険がどの程度リスクになるか、色が濃くなるほど被害リスクが増大することを示すものです。

左から 2 番目の Extreme Weather event の棒グラフは昨今の大型洪水と極大台風を説明しているように見えます。

今回の まとめ と最終回に向けて

そこで今回のまとめですが、再生可能エネルギーの開発導入が順調に進んでように見えます。経済状況ではその導入速度が停滞することがドイツの例でも分かります。そうなると非常対策を考えておく必要はあるのではと思うところです。しかしいきなりジオエンジニアリングには向かわないと想定できます。そこで中間的な案として CCS(CO2 吸収貯蔵)と「スーパーグリッド:超広域の送電網」は実用されていくのではと考えます。世界の一つの流れがそこに向かってます。

CCS とは何か、CCS は前出のジオエンジニアリングの④の大気中の CO2 を吸収して地下に埋蔵する案に類似しています。CCS の案は CO2 を大量に発生する火力発電所などを対象にそこから排出する CO2 を吸収し貯蔵する案(下図 CCS 概要  産業技術総合研究所)です。

それをさらに補強するためするため EU では Bio-CCS とういうシステムも提案されいてます。
これは石炭火力あるいは IGCC(石炭ガス化コンバインド発電)にバイオマス燃料を使用するものです。

初回で紹介した江守氏(環境総合研究所)も提案しています。バイオマスの CO2 分はカーボンニュートラル(植物成長時に CO2 を吸収したので)と言われ CO2 の排出分にカウントされません。したがって吸収貯蔵した CO2 分は 2 倍削減されたことになりこれを「ネガティブエミッション」と呼びます。

吸収した CO2 は基本的には地中に埋めますが、現在実施されている CCS は生産量が低下した油田に CO2 を注入して、CO2 吸収と石油増産の両方を実現し経済性を補完しています。将来は砂岩、玄武岩などの岩盤層に注入する計画です。ですが、その「前にやることがあるだろうという」意見もありますが、それは「何ですか?」ということです。

そこで本題です。地球温暖化に対して「人類の理性は働いているか」というテーマに対して次のことが言えます。私は「働いている」と思います。またさらに「もっと働く」ことになると思います、それは残念ながらもっと深刻な災害が発生した時です。

再生可能エネルギーの開発は、風力、太陽光、太陽熱は期待してよいのではと考えます。

が「スーパーグリッド」はすぐにも実施すべきだと思います。CCS は心配ごと多々ありますが「must」ではないでしょうか。

「理性が働く」という将来に「期待」を持って行くために、やはり経済的裏付も必要です。次回は対策の費用の話と、地熱利用の話と、最後に企業あるいは新川電機は何ができるかを最終回に書いてみたいおと思います。