新川電機株式会社

長井 昭二

技術顧問...もっと見る 技術顧問

昨年に引き続き地球温暖化の話をします。約 1 年経過しました、また言い換えればたった 1 年しか経過していませんが、世界では地球温暖化、つまり CO2 削減の話はどうなっているでしょうか。

最近の海外、日本の新聞、あるいは TV を含めたマスコミの地球温暖関係の情報は、

  • 今世紀末の地球平均温度上昇 2℃ 未満は難しい。
  • COP21 で開発国と工業国の合意はできるか?
  • 米国と中国の首脳会議で CO2 クレジットのトレード計画を発表。
  • 米国カルフォルニア州の水不足と山火事の巨大化。
  • 日本の常総市の洪水で多数の死傷者と損害。
  • 日本の新エネ政策、FIT の見直し作業。
  • 日本での IPP と電力会社の石炭火力の申請増加と環境省のコメント。

などありますが、この中のひとつくらいは見たり聞いたりしたことがあると思います。
そこで主要な新聞の温暖化に関する記事を少しフォローしながらテーマの本質に近づいて行きたいと思います。

第 1 章 最近の社会動向が察知できる象徴的な新聞記事

(1)最初の記事は Financial Times(FT社)が 2015 年 10 月 13 日付紙面で 4 面に渡って EU のエネルギー事情「European Energy」の特集を書いています。この記事は COP21 を意識して書かれている訳ですが、VW 社の自動車排ガス不祥事が世界の再生可能エネルギー(グリーン経済)をリードしてきたドイツの信用を落としたこと、またドイツのエネルギー政策の難しさを取り上げています。記事の大枠は、

  1. EU エネルギー政策の三重苦(Trilemma トリレンマと言っています、三重のジレンマの略称だそうです)。安定供給できる、経済的で CO2 排出しないエネルギー確保へ難しい挑戦。
  2. ドイツの 2011 年福島後の石炭の復活で “Green イメージ” に陰りが。
  3. EU 内の大規模な国対国を結ぶ海底ケーブル布設で EU のエネルギー安定を強固に。
  4. 石油富裕国ノルウエーは化石燃料資源からの投資撤退(Divestment=負の投資)論議の先 駆者になるか。
  5. EU の化学、アルミ等重工業の CO2 政策への重い負担。
  6. 原子力の衰退。
  7. 電力トリレンマを解決するために EU の試練。

この中で注目は、第 2 項と 3 項と第 7 項です。

第 2 項は、ドイツの石炭政策です、2011 年震災後、再生可能エネルギーの開発を強力に進めたのですが、実は古い原子力を停止させた穴埋めに石炭火力を復活させたのです。このことはあまりマスコミでは報じられなかったと思いますが、2014 年ベースで約 44% の電力を石炭から賄っていました、再生可能エネは 26%、原子力は 16% ですから、いかに石炭からの電力が多いかです。結果 CO2 の排出量は 1.2% 増加しています。この状態でドイツは排出目標 2020 年までに CO2 40% を達成できるか、なおかつ 2018 年までに全ての原子力を停止すると宣言しています。が、VW 社の不祥事と合わせてドイツへの政策実行に懐疑的な目があります。
第 3 項は前回も少し書きましたが、海底ケーブルは再生可能エネルギー電力の融通が容易になり、結果安価で安定した電源となりうる話です。新しい投資ともなる訳です。
第 7 項では、編集のまとめで、トリレンマの難しさの中でも変革の兆しが見える話題を取り上げています。それは、

  1. ノルウエーのFund会社が石炭資源への投資を中止する。
  2. 石油メジャーの Shell、UK‘sBP、Total 社が国連に炭素価格(Carbon Pricing)構築についての国連に提案したこと、国連は welcome。
  3. イギリス銀行の頭取が公開スピーチで、気候変動へのリスクを認識して、投資機関は化石燃料への投資を見直し、新しい産業に投資をすることを提案。
    (この話題は後で取り上げる米国のレスターブラウン氏(Earth Policy Institute)の著書の「The Great Transition」のコピーのような気がしますが)

FT 社記者のまとめでは、COP21 の結果はあまり期待できないが、世界が合意できる唯一の方策は「炭素に価格を設定すること=Carbon Pricing」ではないかと書いており、Shell 社の気候変動アドバイザーの言質を例に、国別あるいは国際的な炭素マーケットが必須ではないか、そうでないと政府の規制で縛られるだけになってしまと。他の記事からもう少し追跡します。

(2)二番目の記事は、今年 2015 年 6 月の Financial Times(FT社) のやはり COP21 向けに書かれた記事から紹介します。

下図は、この記事の中で紹介されたここ 30 年の世界の年間 GDP と年間 CO2 排出量の関係図です。FT 社とデータ元の IEA が注目するのは 2014 年の CO2 が 2013 年の 32,5Gig トンと同じで増加が無かったことです。つまり 2014 年の GDP 上昇が 3%(黒の実線)だったのに CO2 の排出が「何かの活動」で抑制されたと見ています。
この現象はこの 40 年間の間で初めての現象だとのことです。過去 40 年の CO2 排出の減少・停滞は 3 回の通貨危機、経済危機だけで、今回のように経済が成長し GDP がプラス 3% なのに CO2 排出量が停滞するのは初めてだそうです

Source: Financial Times 注:実線が「Real GDP growth」 ( annual % change)、 棒グラフが「CO2 emission from fossil-fuel combustion」(gigatonnes)

その理由として、IEA の見解を載せています。

  1. 世界のトップ 3 の CO2 排出国、中国、US と EU がエネルギー使用に大きな変革があった。
  2. 特に中国は産業界にエネルギーの効率基準を適用、石炭燃料の削減と水力、風力、太陽光の再生可能エネルギー導入が進んだ。
  3. 米国でのシェールガス導入と石炭の削減が進んだ。
  4. EU はさらなる再生可能エネルギーの導入とエネルギーの効率化が進んだ。

具体的な数値は後で紹介する文献でも事例が紹介されますが、代表的なものは、

中国での現象:前回話しましたが、風力発電(91,000MW 設備容量)が原子力発電(16,000MW 設備容量)を超えたこと、2020 年まで風力を 200,000MW(日本の電力 10 社合計と同等)にする計画。1 億 7 千万の住宅が太陽光温水器を利用。その結果中国の石炭使用は 2007 年から 2013 年までに 18% 削減された。また、中国の「Peak Coal」が近いとの予測。石炭の減少が続き石炭産業の社債が不良債権化するとの予測です。
米国の実情:アイオワ州と南ダコタ州は 26% が風力発電でカバーされている。アイオワ州は 2018 年には 50% の電力を風力からと計画している。テキサス州は 10% を風力発電から。
全米に 2011 年、500 カ所あった石炭火力が現在 343 カ所に激減。
EU は:デンマークの例で 2014 年に 62% の電力が風力になった。2016 年にはさらに増加してその電力価格が石炭やガス発電の 50% 程度になる。ポルトガルとスペインは 20% が風力、アイルランドは 17% が風力。UK では 2014 年 8 月に風力が石炭発電を上回った日が何日もあった。
電力会社:ドイツ RWE 社と E.ON 社は再生可能エネルギーを取り込むビジネスに変革を開始した。

このことから、前回 COP20 で各国が合意した「今世紀末までの地球平均気温上昇 2℃ 未満達成」はもしかしたら、その達成に希望が持てるのではないか。言葉を変えると、「やればできる」という「甘い期待」を持たせるのですが、その記事の後段で、「そう簡単でない」事を追記しています。

次の絵は同新聞記事に掲載されている、1870 年以降の総 CO2 排出量と地球平均気温上昇の関係図です。

この相関は依然いろいろ不確定要素はあるのですが、昨年IPCCが発表した報告書を引用して説明しています。その内容は、
「温度上昇 2℃ を守るには、50% の確率で、2014 年からの 2100 年までに総 CO2 排出量を 1000giga トンに抑える必要がある」です。
今年間の世界の CO2 排出は 30giga トンですから 2040 年で1000giga トン超えてしまいます。
(giga トンは 10 の 9 乗トン、10 億トン)
それではどうするか。が、次の話になり今年の 12 月パリで行われる COP21 の事前打合ではすでに難航の気配ですが、次の章で関連図書を参考に少し考えてみます。
また「2℃ を超えたらどうなるのだ」という話も気になるでしょうから少し触れてみます。

(3)三番目の記事は最初の(1)項の FT 社の記事にも取り上げてありました。実は New York Times の方が掲載時期を 2015 年 10 月 1 日と早く取り上げました。タイトルは「地球温暖化は銀行家にも深刻な懸念: Climate Change is a Worry for Central bankers, too」です。ここでの登場する人物は銀行家です、気候学者でも科学者でもなく政治家でもありません。名前は Mark Carney, 職業は Bank of England の頭取です。
簡単に彼のスピーチを素解釈すると、

「地球温暖化は世界経済と投資・金融に大きなリスクであり、企業家や監督機関は緊急に 対策と取るべく動くべきだ。予想確率が低いとか高いとか言ってる場合でない」 とおっしゃてる訳です。また「気候変動のような現状認識を超える事象への保険想定はできない、と言う保険代理人は不用だ!」と声高(私にはそう見える)に主張しています。
「やっと観念したか」と言いたいところですが、イギリスの銀行家がロンドンでこのようなスピーチをするのは、下記の理由で相当本気になって、また覚悟を決めた発言と思われます。

  1. ロンドンは世界で最大の金融・保険のメッカです。
  2. 中でもロイドという世界の保険を 300 年支配して老舗がある保険のメッカで、このロイドにも変革しろと暗示しているわけです。
  3. 温暖化対策は化石燃料の削減です、イギリスの株式市場の 19% は化石資源会社の株式から利益を上げています。そこに主要な民間保険会社、公営年金基金も投資しているわけです、自らその利益を削減することになる訳です。

特に 3 番目の話は現状の最大投資先の化石燃料資源会社の利益を減少させることになりますから、利益を確保するには、別の投資先を早急に開拓する必要が出てくるという現実的な超重大な経営課題(これをリスクとは言っていない)になるはずです。

第 2 章 そこでエネルギー産業に変革が起きようとしている訳です。

その変革の確認するため下記の図書を紹介します。その内容は次回にしますが、概要だけを紹介します。
(1)まず初めに、Plan-B の筆者で有名な LesterBrown 氏の最近の著作 です。この筆者は 昨年もたびたび紹介しました。彼の今年 2015 年の著作です。「The Great Transition」: Shifting from fossil fuel to Solar and Wind Energy: Lester R. Brown 著 2015年 W.W. Norton 社出版」、 Earth Policy Institute の HP にもほぼ全文公開されています。私の今回のメルマガのタイトルはこの「The Great Transition」から来ています。
近年の 2013 年、2014 年の世界のエネルギー事情の調査を基に、再生可能エネルギーの増加、特に太陽光発電と風力発電急速な増加と化石燃料の衰退の現状を、具体的な国名、地域名を挙げながら記述して、そこでの再生可能エネルギーへの選択が主に市場論理で実施されること。またいくつかの国では政府の政策(FIT,RPS)が再生可能エネルギーの導入の加速化させている。ついには 3 大石油メジャーが、石油を商売にしない時代になってきた。世界は人類がエネルギーを木材燃料から石炭燃料に変換した産業革命以来のエネルギー変革の時代、「新エネルギー革命」、あるいは「新産業革命」、英語名で「The Great Transition」 あるいは「Energy Transition」の時代に入ったと宣言しています。
(2)次は「The Climate Casino」:Risk.Uncertainty. and Economic for a Warming World: Prof. William D.Nordhaus 著 2013 年 Yale University Press. 日本語訳「気候カジノ」藤崎香里 訳:日経 BP 社 2015 年 です。タイトルは「博打」風ですが、気候変動の諸言全体をカバーして ますが、とくに気候変動へ向けての取るべき経済活動での諸言では、炭素税の推奨しており先に紹介した Lester Brown 氏の「The Great Transition」と同意見であり、地球温暖化を防止するには、経済のシステムに「炭素への価格設定」、つまり「炭素税」か「Cap and Trade」を取り込まないと、CO2 削減は難しいと。彼は「炭素税」を今のところベター案と考えている。多くの国で導入が進むのではないかと想定します。

さらに、できるだけ世界事象を中立に把握するため、下記の資料も参考にしました。
(3)その次は投資・保険関係の話で「Climate Change Scenarios-Implications for Strategic Asset Allocation」Public report 2011, Mercer LLC, Carbon Trust and IFC  が気候変動 で生命保険、厚生年金等の運用にどんなリスクが生じるかを調査。この報告書のスポ ンサーはいくつかの政府系/民間年金基金、銀行ほか。
保険会社と年金運用会社がスポンサーのリポートも増えて来ています。保険会社等は「社会の不安定」を商売にしていますから、彼らが地球温暖化についてそろそろ真面目に考え出したといことは。「気候変動に将来リスクあり」ととらえ、投資の対象を「気候変動に敏感な asset から Lowcarbonasset」変革を推奨している。
(4)最後に「Climate Change: A Risk Assessment」という報告書 です。Center for Science and policy いう知識集団が UK 政府の支援で編集し提言している。Sir David King、UK 元英国政府の気候変動特の主任研究員と、ハーバード大学、中国の清華大学、インドのシンクタンク CWWE の専門家が参加。気候変動での食料とか社会全体的、また移民問題等のシステム的リスクをクローズアップ。さらなるリスクアセスの継続を主張している。
また同氏は「A Global Apollo Program」の中心的な著者で、世界的に電力貯蔵、スマートグリッドまた再生可能エネルギーへの研究開発費が少なすぎるので、他分野と同等以上の投資を呼び掛けている。今年 6 月に日本で講演を実施している。
目標:工業国と開発国はそれぞれ 2025 年、2020 年まで再生可能エネルギー価格を石 炭発電より安くする研究をすべきだとか提案しています。

これらの紹介で、少しは世界がまじめに地球温暖化のことを考えていると思われた方もいると思います。 が、その現実の生活とか経済を動かすにはということで次回は、炭素税と新しい経済システムについて書いてみたいと思います。

Source: Stern 2007, Grantham LSE/Vivid Economics

左図は UK の「Stern 報告」で示された将来の気候変動に対する GDP 損失予想で、気候変動を緩和しないと「どれくらい将来 2100 年、2200 年に損出がでるか」を予測した図ですが。予想損出にかなり幅があることが判ります。今、経済学者、保険会社は、ここを論議したいわけです。

経済学でいうと損失は負の資産ですから、その負の資産を減少すれば価値がでますので、炭素に価格設定すれば経済計算(プロジェクト PL 表)に乗るという訳です。

こう書いている私もあまり良く判ってないのですが。資本主義経済、市場経済を続けるなら、炭素に価値を付けたほうが、CO2 削減がしやすいとの結論に結びつけたいのですが、
どうなりますか。