新川電機株式会社

長井 昭二

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今回は最終回となりますので、まとめに入ります。その前に地熱発電の話を少しします。
今回参照したのは下記の文献です。

1.Earth Policy Institute Home Page “Geothermal Power Approaches 12,000 Megawatts Worldwide” August 27. 2014
2.“World on the Edge” Lester R. Brown 2011 Earth Policy Institute
3.“Plan B 3.0” Lester R. Brown 2008
4.「異常気象と人類の選択」江守正多(国立環境研究所)著 2013 年 9 月角川SSC新書。
5.「Can Coal ever be Clean?」National geographic April 2014

はじめに

再生可能エネルギーのトップランナーの風力発電の設備容量は 318,000MW、次は太陽光発電 140,000MW、3 番目として地熱が上げられます。

実は3番目はバイオマスになるのではという期待もありますが、話が長くなるので今回はパスします。ですが、少しだけ話します。バイオマスは直接燃料としての利用は限界があり、セルロースの分解技術と微細藻(アルガエ)の実用検証が将来のバイオマス利用期待値の評価が大きく分かれるところです。その代表例が第2回で紹介した WWF2011 のバイオマス利用予測(2020 年に全体の約 16%、表示グラフから目算)と今回紹介している図書 Plan B のバイオマス利用予測(2020 年に全体の約 6.8%、MW 表示から計算)の差です。また輸送部門でのエネルギーに電気エネルギー・水素エネルギー(Plan B の予測)を使うか、バイオ液体燃料(WWF2011 の予測)にするかでもかなり差がでるようです。

世界の地熱発電

話を地熱にもどして、現在の世界の地熱発電設備容量は約 11,700MW と風力の約 3.7% ですが、風力より稼働率が 2.5 倍(約 75%)高いので、風力換算設備容量では 29,250MW、さらに、建物自宅用熱源(電気に変換しないエネルギー)としてすでに 100,000MWth 使われているのでそれを合計すると約 130,000MW 利用されていて太陽光(140,000MW)とほぼ同量の設備容量といえます。

下図に世界の地熱発電の合計の推移と各国の設備容量を示します。(Earth Policy Institute HP)

世界の地熱発電合計の推移

世界の国別設備容量推移

国別では米国がトップなのは以外です。日本はどうしたのでしょう。8 番目に甘んじでます。ここに地熱エネルギー利用の課題があります。
地球の地殻厚さは約 9.6km(6miles)で、その中に存在する熱エネルギーは、現在使用している石油とガスの 50,000 倍あると言われています。その開発が進まない理由は、

  1. 熱井戸の開発に初期コストの約 15% がかかることと、
  2. その井戸の蒸気容量の信頼性が不定で運転継続へのリスクがある。
  3. 鉱山法、公園法、温泉法等の規制あるからです。

しかし一旦、適正な井戸が開発されれば、燃料は不要で、稼働率も高いので、他の電源との同様な競争力が出てきます。
掘削技術の改善も進んでいて、石油会社の石油・ガス井戸の掘削技術を利用することが計画されています。資金面の支援では Wold bank も Global Geothermal Development を基金を創設して開発国での地熱開発支援にのりだしました。
近い将来の予測は Plan B では 2020 年までに 200,000MW(現在の 17 倍)の地熱電力エネルギーを予測しています。WWF2011 の予測は電気と熱で約 90,000MW(現在の 7.5 倍)を予測しています。Plan B は掘削新技術が急速に進むとの見方かもしれません。
インドネシアの例では今年 2014 年の夏に新しい法律ができて、地熱の井戸掘削が、他の鉱物資源と同様に森林地帯でも可能になり、急速に開発が伸びると予想されています。そのひとつの動きとしては政府系石油会社の Pertamina が石油から地熱発電ビジネスへシフトを宣言して、インドネシ政府の 6,900MW 地熱開発の主体なっていくことになりました。Shell 社の 2100 予測の動きに似ています。また北スマトラでは民間の ORMAT 社の 330MW 地熱発電プロジェクトが始まり 2018年 に運転開始します。
日本は合計 535MW の地熱発電がありますが、ここ 20 年停滞していましたが、FIT も始まり規制緩和(温泉法、国立公園法等)が進めば電気だけでなく、熱利用がさらに進むと想定されています。また昨今の電力会社における太陽光と風力発電の引き取り拒否の事案から出力が安定した地熱とかバイオマス発電等へのバランス力が働き、地熱発電の増加が期待されます。

まとめ

それではまとめに入ります。

このように、再生可能エネルギーの将来は技術的にも利用方法でも期待できるものになりつつあります。つまり「人類は何ができるか」の「一つ目の理性」働いように思います。しかし社会はまだ「納得」していません。つまり「社会の理性」がまだまだ働いていません。

つい過日 9 月 23 日ニューヨークで開催された国連気候変動首脳会合(気候変動サミット)でやっと米国と中国が自分達の CO2 排出には「責任がある」、「数値目標は早急に作る」と宣言しました。左図を見れば当然です、この 2 か国で世界の約 40% の CO2 を排出しているわけですから。その点 EU は「責任」を果たしています。

その同じ会議で、EU は向こう 7 年間に途上国に 4200 億円支援を約束、また C02 削減を 2030 年まで 1990 年比で 40% 削減を宣言しました。EU はアジア圏より約 75 年先に近代文明を築いた地域です。長く開発国を領土化して、資源をほしいままに利用したにせよ、成熟した文化圏となり、「理性が働きやすい」のでしょうか。

他の国はどうしたのでしょうか。日本は次の数値目標も決まりません。なぜそうなのか?

日本の再生可能エネルギー

ドイツの最近の動きが参考になります。太陽光等の再生可能エネルギーの買取価格を減額したため、とたんにその普及速度が減少しました。この理由は FIT の導入で再生エネルギーが急速に増加しました。本来は喜ぶべきことですが、当然買い取り量も増加して、その資金還流システムを支えている一般電気料金がどんどん上昇したため、ドイツ野党をはじめ消費者団体までも、その高い電気料金を不満とし電気料金の削減圧力が高まり、政府は FIT 買取価格を減額せざるをえなくなりました。

これが現在の市場経済システムの現実です。つまり CO2 量を減少するための FIT ですが、人類の市場経済は安い電気に戻ろうとする訳です。ここが今の資本主義経済での市場経済の欠点と言われています。ある経済学者に言わせると「資本主義経済は人類ではまだ実験中であと 100 年ほどやってみないと良し悪しが判らない」とのことです。

こうなりますと、CO2 削減には社会資本を使わないとその実施は難しいかもしれません。「Plan B」と「World on the Edge」の著者のレスターブラウン氏は炭素税を推奨しています。これも長年議論されてきましたが、世界の炭素税の例では 1991 年ノルウエーの炭素税があります。主に石油製品だけに課されていますが、その税金は 410NRH/ton-co2($71.8/ton-co2 2012)となっています。これを受けて石油会社の Statoil 社では先行してガス精製プロセスに CCS(CO2 吸収貯蔵)を導入して大幅な CO2 削減し大部分の炭素税を回避している事例があります。「National Geographies April 2014 」。

この炭素税を使った場合を例にして、日本の石炭火力の発電原価を試算してみます。

  1. 炭素税を $71.8/ton-co2=$0.0718/kg-co2 とした場合、石炭火力の Kwh あたりの CO2 コストを計算すると、約 7.25円/kwh=$71.8/ton-co2 x 0.942 kg-co2/kwh x \100/円(METI 2010 モデル、100 円/$ 換算)となります。
  2. 日本の石炭火力の平均発電原価は 10.3 円/kwh(METI2010 モデル)ですので、これを加算すると総発電コストは 17.55円/kwh(=10.3+7.25)となります。
  3. この値を日本の陸上風力発電 9.9~17.3 円/kwh(METI2010モデル)と比較すると、風力の方が安価か同等となります。こうすることで風力発電へのインセンティブ出てきます。(注意:実際のノルウエーの電力への課税はエネルギー税で取扱われており単純比較できませんが、CO2 価値だけとして参照しました。)

こうすることで炭素税の収入を再生可能エネルギーの買取費用に使えますので収支がバランスします。しかしこれも化石燃料で作る電気の量が 50% 以上までの間はバランスしますが、その比率が 50% より下がると、つまり再生可能エネルギーが 50% 以上になると、炭素税だけでは不足します。が、あまり先のことは考えないでおきましょう。

“World on the Edge” Lester R. Brown

そこで、レスターブラウン氏が主張する社会資本の投資の必要性とその実施可能な資金繰りの話です。その趣旨と背景は、開発国での CO2 削減の課題はただ単に炭素税と再生可能エネルギーを導入することでは不可能なのは自明の理です。

そこで EU も 4200 億円の支出を提案したように、開発国ではまず生活を安定させる社会基盤の整備が必要だとの提案です。その社会が安定すれば間接的に CO2 が安定すると見方です。あまり説明は不要と思いますが、貧困、女性の権利、家族計画、初等教育等の改善が進めば今の急速な CO2 増加は抑制できるとの見方です。そのためには社会資本の投入を提案しています。Plan Bが独自に計算したのが左図の 「社会インフラ必要費用」です。合計 7.5 兆円/年が必要となっています。

併せて、地球環境維持のため、工業国、開発国にかかわらず社会資本の投入を提案しています。

それは、植林、土壌改良、放牧地の改修、漁業再生、生物多様性支援等です。
左表「地球環境維持改修費用」がその見積もりです。合計 11 兆円/年 必要とされています。
この二つの合計は 18.5 兆円です。多いか少ないかわかりませんが、この様に具体的に金額が計算できるというところがこの調査の自信のほどが推察できます。
さてこの資金をどこからもってくるかですが、次の説明で解決できるとのことです。

レスターブラウン氏や他の社会評論家は化石燃料価格には隠された間接コストがあると主張しています。それは市場の石油製品の価格抑制のために使われている政府補助金と主要国の外国での石油開発調達のための国家戦略的名目の軍事費だと説明しています。
彼の見積もりでは世界全体の額は年間で約 50 兆円になるとのことです。

軍事費そのものも巨額になっています。主な使用目的は石油権益の確保が根幹と言われています。

同氏の調査では、左図のように米国では年間約 66 兆円、世界では 152 兆円だそうです。

彼の遠回しの暗示(直接的な表現は誤解を生むので?)では化石燃料を減らせば、この権益のための軍事活動は減少し軍事費が削減できるはずだとの主張です。上記で試算された必要社会資本の 18.5 兆円は、世界全体の軍事費の約 12% 程度です。なんとかなるのではと説明しています。

これと同時に同氏は、人類は低 CO2 社会に向けた急速な産業経済構造の変革は可能だと主張します。それは過去にいくつかの事例を挙げていますが、特段に強調している事案は米国の実例です。第 2 次世界大戦の開始後の米国の製造業の軍事産業への大変革です。内容は省略させていただきますが、彼の主旨は政治トップのリーダシップと国民の理解で人類は変革できる能力があるとの見立てです。

新川電機は何ができるか

さて、日本の企業、新川電機は地球温暖化問題にどう取り組むのが良いのでしょうか。私はこう思います。

  1. 昔えらい先生から聞いた話ですが、「企業の存在そのものが社会に貢献しているので、企業はできるだけ長く安定して経営が継続されること大切である」と。同感です、まずはそう願いたいですね。
  2. と併せて、「振動センサーを作っている会社」ですから、「今のセンサーをさらに進化させた」新しいセンサーで CO2 削減に貢献できるとさらにすばらしいですね。
  3. ではどんなセンサーが期待されるのでしょうか。それはすでに開発部署のトップの頭の中に芽生えているのではないかと思います。近い将来に出現することを期待したいですね。

皆さんはどうお考えでしょうか。

以上で私のコラムを終了します。長い期間、都合 4 回にわたり読んでいただいてありがとうございました。何かコメント等ありましたらいつでも遠慮なく願いします。