2022/03/08 業界コラム 光藤 昭男 デジタルの次に来る世界 特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会 理事長 光藤 昭男 東京工業大学制御工学、MIT(マサチューセッツ工科大学 Sl...もっと見る 東京工業大学制御工学、MIT(マサチューセッツ工科大学 Sloan School MOT)修了。 東洋エンジニアリング株式会社産業システム事業本部プロジェクト本部長、株式会社荏原製作所取締役常務執行役員経営・事業企画統括・情報システム統括、IT エンジニアリング株式会社代表取締役社長、株式会社荏原エージェンシー代表取締役社長を務める。 特定非営利活動法人日本プロジェクトマネジメント協会理事長、2019年7月1日より特別顧問。 DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を最近ネット上でよく見かける。2018年秋に経産省が「DXレポート」として省内研究会の成果の発表がそのきっかけのひとつといわれる。既存ITシステムを、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変するDXの必要性と緊急性を説いた。単なるITシステムの改革でなく、経営面、人材面、技術面に分け、企業を新時代に合った形態に変革する必要性を説いた。 日経BP電子版「本当に使えるDXプロジェクトの教科書」では、「デジタル活用によって既存の事業モデルを根本的に変えるような取り組み」(同書1.1)を指し、「AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などを用いて新たなサービスを生み出したり、既存事業の収益構造や業務の在り方を変革したりする」とある。最近注目されているAIやIoTを利活用して既存の組織やその活動を“変革”することを強調している。AIやIoTだけでなく、これら技術を支える基盤として5Gやクラウドも含まれる。対象は違うが、一時話題となった“イノベーション”を求める動きに類似しており、DX推進という組織変革の体系に置き換えたようにみえる。DX推進の課題も、例えば、“DXをリードできる人材がいない”、“どう進めたらいいか分からない”など根本的なテーマがあげられている。DXへの動きはまだ途に就いたばかりであるといえる。 デジタルのもたらした国内での環境変化を簡単に振り返ってみる。情報処理学会(IPS)が掲載している「コンピュータ博物館」サイトが、コンピュータの歴史について詳しい。その情報の中の「黎明期のコンピュータ」では1943年の機械式加算機の試作品から記載がある。それ以降、「メインフレームコンピュータ」からはじまり「スーパーコンピュータ」「UNIXサーバ」「オフィスコンピュータ」「ミニコンピュータ」「ワークステーション」「パーソナルコンピュータ(PC)」「日本語ワードプロセッサ」などは、著者は「スーパーコンピュータ」を除くすべてを利用してきたので、このように並べてみると感慨深い。無論、「ゲーム機」もあてはまる。すべて「デジタル」信号で処理される機械である。この機械がもたらした生活への影響と変化はすさまじい。特にPCはビジネスだけでなく日常生活へ溶け込んで利用されている。1980年代前半の出版物である「Japan as Number One: Lessons for America」(Ezra F. Vogel)で述べられたような“日本がNO.1”に躍り出る動きがあった。その裏では、デジタルテクノロジーの飛躍的な向上が進みつつあった。特に、ネットワークとの融合がデジタルビジネス拡大の導火線となっていった。 アメリカの2社、マイクロソフトとアマゾンの成長を振返ってみる。1975年にマイクロソフト(Microsoft)がシアトル市で創業され、1985年にWindows、1990年にMicrosoft Officeを販売。1995年にInternet ExplorerとWindows95を発売した。その後も2009年に検索エンジンBing、2010年にクラウドサービス(Azure)の販売を開始している。今世紀に入り、PCとネットワークはデジタル化推進の大きな両輪として急拡大してきた。GAFAには、名を連ねていない。 アマゾン(Amazon)の出現も生活面に多大な影響を与えてきた。元々はネット書店であったアマゾンは、1995年にシアトルで創業した。巨大倉庫にありとあらゆる本を備え、ネット検索で瞬時に目的の本を見つけることができ、クリック一つの注文により翌日には手にすることができる。電子図書(Kindle)を利用すれば、1日も待つ必要がなく、欲しいと思ったその瞬間にダウンロードして読み始めることができる。アマゾンは、本のプラットフォームを利用してあらゆる生活品を翌日には届けるコンセプトでビジネス領域を拡大してきた。その過程で、各種業務のベストプラクティスを抽出し、業務の標準化を進め、グローバル業務を共通化してきている。デジタルを抜きにしてアマゾンは語れない。 このアマゾンは、2017年に高級食品を中心に販売するホールフーズ(WF : Whole Foods Market)を買収した。それまで食品販売ではアマゾンフレッシュがあったが、ネット食品販売市場に大きな影響を与えることが出来なかった。リアル販売に根強い人気のあるWF買収により、食品のネット販売に大きなインパクトを与えた。自宅からネット注文したのち、WFの実店舗に行くと既に紙袋に詰められた注文品がお客のピックアップ用棚に収められている。不足の商品や目で直接見て買いたい生モノなどは、来店時に買い足すことができる。市場ではアマゾンが本気でリアルビジネスに乗り出したことに驚きをもって受け入れられた。デジタルを適用したバーチャル中心のアマゾンが、リアルを扱うことにしたからだ。最近のニューヨークタイムズによれば、アマゾンを利用した消費者が使った年間取扱金額は6100億ドル(約67兆円:2020年6月から2021年6月)であるという巨大なビジネスドメインを築いて、今もなお急拡大中である。アマゾンが進めるデジタルによるバーチャルとリアルの融合ビジネスの成否はいずれ数字となって現れる。マイクロソフトやアマゾンの急成長は、デジタルの基盤の上に大きく花咲いたのだ。 もともと商売(business)では「信用・信頼」が重要だ。呉服の越後屋(現在の三越)で買えば、品質の間違いない着物・反物が買えるとなれば、多少高価格でも安心して行動を起こせたという。過去の取引の実績をベースとして「信用・信頼」が生まれた。越後屋のケースでなくとも、小さな取引が実績をつくり、少しずつ大きな取引となった。これはリアルおいて重要な商売の基盤であった。デジタル空間ではどうであろう。お互いが直接リアルに対面しない取引で重要なのも、やはり「信用・信頼」である。これを築くための重要な要素は、デリバリーとリカバリー(D&R : Delivery & Recovery)だという。顧客の手元に期待とおりにモノやサービスを届け(D)、万一問題が起きた場合は責任を持って善処する(R)。これが商売の基本である。マイクロソフトもアマゾンも「信用・信頼」の軌範に基づいているからこそ急成長を遂げたといえる。注1 一方で、現在進行中のデジタルの急速な拡大の将来に警鐘をならす人がいる。注2このままデジタルの普及拡大が続くと、人の役割を変質させるという。デジタルにより「自動化」、「グローバル化」、「生産性の向上」が進展する。「自動化」により多くの分野においてデジタルは、“より器用”に、“より賢く”する。この「自動化」向上によって、高い価値の仕事は一部の専門性やスキルのある人に集約され、残された仕事は誰にでも置き換えられる安価な仕事が増えてゆく。 デジタルは「グローバル化」に拍車をかけた。デジタルの力なくして、GAFA注3にみられるグローバルな急展開は考えられない。グローバル化により先進国の仕事が徐々に発展途上国へと移動する。これに巻き込まれる人の仕事の質を変化させ、働く場を失う人が出る。さらに、デジタルが一部のスキルの高い人の生産性をより引き上げる。皆で分担していた仕事が特定の人に集約されはじめる結果、多くの仕事が無くなってゆく。この「自動化」、「グローバル化」、「生産性の向上」の三要素がお互いにシナジーを起こし、世界中ならずと労働力の余剰が発生する。この現象は社会全体としてはより豊かになり、将来は今ほど働らかなくても良い生活がおくれるという。近い将来にこのことが現実に顕在化すれば、大きな社会問題になる。 DXを実現させれば、豊かな社会をもたらすが、一方で大きな社会問題を将来生じさせる可能性を指摘している。これが実は「デジタルの次にくる世界」なのかもしれない。当初は極論に思えたが、現実を整理するにつれ、豊かになりつつある世界の行く先は、すなわち、デジタルがもたらすかもしれない将来は、“働かなくても豊かな暮らしをおくれる世界が来る”のかもしれない。このような目で、GAFAの動きをみると興味が尽きない。 注1:「信頼とデジタル」ダイヤモンド社:三品和弘、山口重樹 注2:「デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか」東洋経済新報社:Ryan Avent 注3:GAFA : Google, Apple, Facebook, Amazon この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会 理事長 光藤 昭男さんのその他の記事 2022/03/08 業界コラム デジタルの次に来る世界 2021/11/09 業界コラム 情報と日本人が陥りやすい行動 2021/07/13 業界コラム 新型コロナ感染の拡大と日本人の行動 2012/12/04 業界コラム プロマネが世界を変える<最終回> [Ⅲ]P2Mのプログラムマネジメント 2012/10/02 業界コラム プロマネが世界を変える (その2) 成功体験を超えて 2012/08/07 業界コラム プロマネが世界を変える (その1) 親分の背中を見て育つ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月