2012/08/07 業界コラム 光藤 昭男 プロマネが世界を変える (その1) 親分の背中を見て育つ 特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会 理事長 光藤 昭男 東京工業大学制御工学、MIT(マサチューセッツ工科大学 Sl...もっと見る 東京工業大学制御工学、MIT(マサチューセッツ工科大学 Sloan School MOT)修了。 東洋エンジニアリング株式会社産業システム事業本部プロジェクト本部長、株式会社荏原製作所取締役常務執行役員経営・事業企画統括・情報システム統括、IT エンジニアリング株式会社代表取締役社長、株式会社荏原エージェンシー代表取締役社長を務める。 特定非営利活動法人日本プロジェクトマネジメント協会理事長、2019年7月1日より特別顧問。 非営利特定法人日本プロジェクトマネジメント協会の理事長、光藤昭男です。隔月3回に渡り日本を中心として「プロジェクト」と「プロジェクトマネジメント」に関する話題を提供します。よろしくお願い致します。 プロジェクトX 挑戦者たち中島みゆきの主題歌で始まるNHK番組「プロジェクトX挑戦者たち」は、大勢の人が「プロジェクト」という言葉を知る良い機会でした。中高校生の間でも「プロジェクトを進める」ことは増えてきているそうです。しかし、プロジェクトとはどのような行為かご存知の方は多くないと思います。しからば、定義をWikipediaから引用してみます。「プロジェクト(project)は、何らかの目標を達成するための計画を指す。どちらかと言えば、小さな目標の達成のためのものではなくて、大きな目標を集団で実行するものを指すことが多い。その計画の実現のためのタスク(仕事)の実行までを含めて指すこともある」とありました。「プロジェクトX」では、仕事を達成する“実行”のステップまでを含めており、この解釈が一般的でしょう。 プロジェクトは、今から5000年前の「古代」からありました。宇宙からも見える建造物と云われるエジプトのピラミッドや中国の万里の長城の建設は、巨大プロジェクトでした。巨額な財を使ったプロジェクトは、為政者にとって壮大な価値創造を狙った大事業だったと推測されます。最近では、アポロ計画やヒトゲノムプロジェクトが有名です。やはり、米国が国の威信をかけたプロジェクトだったといえます。 プロジェクトを実行するには、「プロジェクトマネジメント」と呼ばれている独自のマネジメント体系があります。それでは、「プロジェクトマネジメント」との定義を見てみましょう。「プロジェクトマネジメント(Project Management)とはプロジェクトを成功裏に完了させることを目指して行われる活動のことである。これにはプロジェクトを構成する各活動の計画立案、日程表の作成、および進捗管理が含まれる。」(Wikipedia)とあります。しかし、このプロジェクトマネジメント体系が、知識として体系化され、標準化され、普及しはじめたのはまだつい最近のことです。 「管理の科学」から「組織の科学」へ「マネジメント」という言葉とその体系も、単なる「管理」から離れて「管理の科学」として、体系化され、学問となり、普及し始めたのも、第一次世界大戦の前後、米国が名実ともに世界一の大国の座に上りつめた20世紀初頭以降です。人間の生産活動を科学的に分析して体系化した先達には、テイラー(F.W.Taylor)であり、スローン(A.P.Sloan)であり米国の研究者や経営者たちでした。その後、「管理の科学」は、「組織の科学」へと展開されてきています。 左から「はやぶさ」「あかり」「ひので」 ISASの科学衛星ミッション(JAXA提供)「プロジェクトマネジメント」に関しては、この米国にて、1960年代にさまざまな手法が開発されました。国防省(DOD)や米国航空宇宙局(NASA)がその手法開発に大きく貢献しました。特に、NASAの有人宇宙衛星をあげ、人類を月に送り込むプロジェクトでは、人道的側面と膨大な予算を使う費用面から失敗は許されないという理由から、綿密な計画を立てるためにプロジェクトマネジメントが必須の手法となりました。 一方、米国産業界では、少しでも人手や経費を削減するために科学的アプローチが工夫されました。今日でも盛んに利用されているPERT/CPMという有名なネットワーク手法の開発もこのころです。「マネジメント理論」が応用されたのは言うまでもありません。1990年までには、さまざまな分野のプロジェクトマネジメントの経験と実績を基に、どのようなタイプのプロジェクトのマネジメントにも適用できるように一般化された“知識体系”が、米国PMI(Project Management Institute)にて確立され、公開されました。その後、プロジェクトマネジメントは急激に世界に広まりましたが、“知識体系”となってからは、まだ30年も経っていません。一説には、新しい知識や技術が成熟して日常的に利用されるに至るまでには、30年を要するといわれます。この説を適用しますと、「プロジェクトマネジメント」手法は成熟前の成長過程にあると言えます。一層の普及と活用のサイクルにより、誰でも何処でも使えるようにする必要があると思います。 「形式知」と「暗黙知」米国発の手法は、米国の文化に基づいています。人種のルツボである米国は、コミュニケーション上の誤解を防ぐ必要性から、言葉で表現する、言葉を記録することが習慣づけられています。このように文章化・図表化・数式化などによって説明・表現できる知識を“形式知”あるいは“明示知”と呼ぶので、米国は“形式知”を重んじる文化といえます。一方、日本では、ほぼ同じ民族から成り立っているので、言葉に表現しなくてもお互い共有している知識があり、これを“暗黙知”と呼びます。 米国では、一般的にこの形式知をベースに制度、手法が成り立っています。人々は、子供のころから考えを積極的に表現する教育を受けています。さらに、どのような組織でもリーダーがトップダウンにてものごとを進めることが日常的です。新たな分野へ挑戦すること、また挑戦して失敗しても次の成功に繋がるとして、評価され許容されています。従って、困難に遭遇しても失敗を恐れずに挑戦し、さらに競争相手に学ぶ姿勢も謙虚で素早く、徹底しています。挑戦を繰り返しますから、新領域での新奇的、画期的なビジネスモデルの構築にも長けています。太平洋戦争ではゼロ式戦闘機に遭遇し、明らかに初戦では不利であった空中戦も、すぐさま失敗に学び、新型グラマン機を開発し、戦局を有利に展開しました。高品質で低コストの繊維や自動車の日本から輸出攻勢があった際にも、日本のQCサークルに学びTQMとして体系化し、逆に日本に大きな影響を与えました。最近のi-PADの例でも、そのすべての要素技術は日本が持っているといわれながら、米国の優れた構想力とスピードある実行力に日本は敗退しています。いずれも米国の文化を背景とした、知識を体系化し活用し、個人のリーダーシップと組織的な動きによる良いマネジメントの結果だったと云えます。 日本は、親分の背中を見て育つ、言葉に出して言われなくても動きを感じ取って知識や教訓を得る、“暗黙知”をベースとした文化です。モノつくりの現場の力が強く、つくるモノが定まっていれば大変優れた製品をつくり出す能力が高いと云えます。米国のような強力なリーダーが不在でも、このモノつくりの強さで、世界第二の経済大国まで発展してきました。非常に優れた日本人の特徴と云えます。この特徴は一方で、何をつくるかということが重要な構想段階では、平均化しがちで特長がなく突出できないこと、コンセンサスを得るまで時間がかり過ぎること、日本人以外がチームに加わると本来は変革のチャンスであるにも拘わらず異質性を有効に活用できないこと、さらに、暗黙知をベースとした人材育成は時間がかかり過ぎること、などが問題だと指摘されています。“出る杭は打たれる”とか、“能ある鷹は爪を隠せ”の諺にもあるように、目立ち過ぎる人は疎まれます。議論を戦わすよりも人間関係を維持する方が最優先されることが多いようです。従い、本質に迫ることがないまま次に進む、あるいは、失敗を直視し充分に学ばないままに次に進むということが繰り返されています。さらに、強いリーダーは不要だという声すら聞えてきます。 メード・イン・ジャパンこれらを背景として、米国発「プロジェクトマネジメント」手法を日本の風土にてそのまま利活用することが出来るのでしょうか。折しも、福島第一原発の事故の最終報告をまとめた国会事故調査委員会の黒川委員長は、「この原発事故はメード・イン・ジャパンだった」と英語版報告書の序文に明記し、「事故の根本原因が日本人に染みついた習慣や文化にあると批判。権威を疑問視しない、反射的な従順性、集団主義、島国的閉鎖性などを挙げ」たそうです(朝日新聞7月7日)。 次回(10月)は、日本におけるプロジェクトの現場の状況を踏まえて、日本の風土におけるプロジェクトマネジメントの現状と将来の課題についてお話しします。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 特定非営利活動法人 日本プロジェクトマネジメント協会 理事長 光藤 昭男さんのその他の記事 2022/03/08 業界コラム デジタルの次に来る世界 2021/11/09 業界コラム 情報と日本人が陥りやすい行動 2021/07/13 業界コラム 新型コロナ感染の拡大と日本人の行動 2012/12/04 業界コラム プロマネが世界を変える<最終回> [Ⅲ]P2Mのプログラムマネジメント 2012/10/02 業界コラム プロマネが世界を変える (その2) 成功体験を超えて 2012/08/07 業界コラム プロマネが世界を変える (その1) 親分の背中を見て育つ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月