新川センサテクノロジ株式会社

榎木 茂実

開発推進室...もっと見る 開発推進室

コラム執筆にあたって

新川センサテクノロジ株式会社 (SST) は1994年に新川電機株式会社 (SEC) から分社独立した子会社で、SHINKAWA Sensor Technology からSSTと称しています。これまでの開発歴史を織り交ぜて、これから重要視される「水素社会実現に向けた開発秘話」に関する執筆依頼が来ました。ただ、「水素社会実現に向けた…」というテーマ自体が横綱級で、対戦する筆者はあまりにも力不足です。地球温暖化を何とか鈍らせようとCarbon Neutral (CN) 社会転換への一助となる水素利用のための要素機器と当社渦電流式変位センサ関係を中心に記憶を辿りました。水素社会に限定せず、「CN社会への転換へ」の微力ながらのお手伝いについてお伝えしようと思います。

さて、水素社会の実現に向けた政策、具体的な取り組みや各統計データ等の詳細については、ここでは記載できませんので、関係省庁 (例えば経産省・資源エネルギー庁等) の報告1)等を参考にしていただきたいと思います。面白く興味深い記事が日本機械学会誌 (Vol. 129、 No. 1287、 2026) に「水素社会の光と影」と題した特集が組まれ、日本の法制化、行政と今後の動向、欧州と米国の現状、サプライチェーンをはじめ、構造用金属材料と水素侵入の影響のように技術的視点の特集論文も掲載されていました。これらの文献を参考にしていただくようにお願いします。
また、これまでに多くのお客様、諸先輩や、大学、研究所、試験場等の方々にご指導をいただきましたが、皆様とのお約束等から、所属、お名前、お付き合いの内容等は積極的に控えさせていただきました。また紙面の都合で紹介できない内容が多数あることもご了解願います。1980年代前半までのお話は諸先輩から伺った内容や後付けで得た情報です。私のメモリ容量不足や読み出し機能の劣化と戦いながらキーボードをたたきました。

1 色を持った水素

ところで、「水素」とはどういうものでしょうか ?

「この世で最もたくさん存在し、原子番号1、元素記号H、無色透明で、最も軽くて、燃やしても水 (H2O) となりCO2を出さないクリーンエネルギー源となる元素」
燃やせば水になる性質から国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 (以下JAXA) のH2系やH3ロケットは液体水素を燃料にして、補助ブースターエンジン切り離し後のメインエンジン、2段目エンジンでの飛翔時は水 (水蒸気) を放出しながら飛んでいます。一方で、水素を利用するには、輸送や貯蔵が難しく輸送効率向上のために液化します。こうすると20 K (-253 ℃) となり、この状態にするにはそれなりのエネルギーが必要で、漏れやすく、取り扱いは慎重な安全管理が必要な元素です。これら課題を克服し、水素の利点を活かすべく各機器の要素研究がされています。

本来無色透明の水素にその作り方の違いによって色が割り当てられています。化石燃料を燃やしてCO2を排出しながらつくる場合をグレー水素、そのCO2を回収・貯留・再利用する場合をブルー水素、CO2を生成しない太陽光・風力発電等による電気分解法や光触媒生成方法などによるものをグリーン水素とされています。経産省1)ではブルーとグリーン水素利用の拡大推進を奨励しています。コスト面でそれらの水素は現在約1,115円 / kgで、2030年までに334円 / kg、2050年までに222円 / kg (2023年11月のLNG価格相当) の実現を目標とされています。目標を実現するために、例えばNEDO (New Energy and Industrial Technology Development Organization、 新エネルギー・産業技術総合開発機構) では、2021~2030年度にかけて、「液化水素サプライチェーン構築」として約3,000億円余りの研究開発費が投入され、水素を「作る」「運ぶ」「貯める」「使う」をキーワードに官民各機関で分担して研究開発が進められています。
キーワード「運ぶ」では、水素の目標価格に輸送コストなども含めていることを考えると、輸送に関する機器等の要素技術は大変重要な研究開発項目です。流体の輸送といえばポンプが思い浮かびます。一般にポンプ軸に取り付けられた羽の回転により液体を輸送します。軸の変位・振動は回転機械としての性能を左右します。液体水素を輸送するのも同様です。水素を「作る」プロセス、また例えば発電関係等で水素を「使う」場面においても回転機械が関係すると考えれば、この軸振動・変位を測定する渦電流式変位センサに出番があり、その振動状態を可視化するモニタも出番があります。

(a) 水素導入量とコストの目標

(b) 水素の色

Fig. 1 水素を巡る最近の動きについて (出典:資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 2024年6月26日)

2 SST開発製品

Fig. 2.1は当社製品開発の歴史で、ビジネスの中で活躍してきた製品群です。 (a) 図は、センサやモニタ等の分野別の歴史で、その中でセンサに特化した歴史がその下の (b) 図です。
1977年に渦電流式変位センサの一般販売を開始して以来、回転機械への採用はもとより、1978年からの国産ロケット開発への参画を皮切りに、H2シリーズやH3形への展開、鉄道運輸での軌道検測、常電導磁気浮上式HSST (High Speed Surface Transport) の浮上制御用、タイヤ製造のプロセスでの厚さ制御用など、多岐にわたる分野への展開がされてきました。基になる渦電流式変位センサ開発は、1970年代前半に、あるお客様から高速回転機器の国産化開発において、回転軸の振動を測定するセンサ開発のお誘いがあったのが事の始まりと聞いています。このセンサは1977年に一般の市場に投入することができました。この辺りは、お客様への営業活動の中で、話題にあがる機会があると聞いています。

(a) 当社製品群別開発の歴史
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(b) センサ開発の歴史

Fig. 2.1 当社製品開発の歴史

1980年代に入り、回転機械監視装置 (TSI:Turbine Supervising Instruments) 分野への参入として、1981年に回転機械の変位・振動監視モニタVM-3シリーズの開発・市場投入がありました。その後、1990年代のVM-5シリーズ、2000年代のVM-7、2010年代から現在に至るVM-7Bシリーズへと変革しています。TSI用のセンサとしてAPI670 (American Petroleum Institute米国石油協会規格670) をベースにしたVKシリーズ、2000年代にリニューアルしたFKシリーズへと転換がされています。環境面を考慮した海上輸送での舶用ディーゼルエンジンの効率化にもこのFKシリーズは貢献しています。
工業施設に無線技術の具体的な応用が囁かれはじめた2000年頃に、米国の著名大学の指導を受けて無線振動センサSWiNSシリーズを発売しました。市場で斬新さを認めていただき、一部のお客様では、2016年の生産中止まで継続してお使いいただきました。そんな中2015年頃に、日本でも工業用無線周波数帯:920 MHz帯の割り当て運用開始や、2.4 GHz帯でのISA100やWiHARTの規格成立やWi-Fiの規格アップデート等に合わせて、新たにe-SWiNSシリーズ、及び、新川電機グループの米国法人 SEC of America (SECA) によるZARKシリーズが市場投入されました。センシングデータを活かすために、その表示と、モニタからの信号による機械の状態解析を行うハード、及びソフトウェア:infiSYSの開発も継続して行われてきました。1991年のベクトルフィルタによる振動状態のベクトル表示による見える化に始まり、SECAや国内の諸先生方の力をお借りして、infiSYSシリーズの開発に至り、現在も改良開発が継続されています。

これまでは、機械の状態がどうなっているかに視点が置かれていましたが、機械を運転するエンジニアの方々や、使用する一般ユーザの方々に状態と測定機器等の関係も知ってもらう必要があり、ISOにおいても、振動に関して人材のコンピテンシーのカテゴリー分けが規格化されました。当社は一早く日本機械学会から認定を受け、ISO18436-2準拠機械状態監視診断技術者 (振動) 資格取得支援講座教育機関として2004年に振動教育ビジネスを開始し、2,075名 / (2004年~2025年3月) のISO認定資格取得者を生み出しました。最近では、infiSYSを基に、お客様の設備の状態をオンラインで把握・診断する事業も展開されてきました。このように、約50年前に生まれた渦電流式変位センサから、ファミリーはハード・ソフト両面で反映してきました。このように見てくると、機器の状態、また、その機器により出来上がった製品の無駄削減等、機器の適切なメンテナンスへのデータを提供する当社の各製品は、それこそがCN社会実現への貢献と考えられます。

3 渦電流とは何でしょう?

モニタや解析機器、解析ソフトウェア等については別の機会に専門家にお願いするとして、ここからは、当社のコア技術である渦電流式変位センサについて可能な範囲でお話します。この渦電流式変位センサが「水素社会実現」に向けて微力ですが寄与しています。その名の通り、渦電流を利用したセンサであるようです。

開発秘話から話がそれますが、「渦電流とは何でしょう ? 」次のような説明がされます。
「コイルに交流電流を流すとその周囲に磁場 (磁界) ができ、そこに、ターゲット金属 (導電体) が近付くと、その金属上に電流が発生する。これが渦電流です。」とは言うものの… ? ? ? です。
ここでは、厳密性はひとまず置いておき、お話しいたします。

3.1 でんじきがく

堅苦しいタイトルを敢えてひらがなで書いてみました。
渦電流について詳細を議論するのはここでは控えます。渦電流の原理や仕組みは「渦電流式変位センサの原理と特徴」で紹介していますので、気になる方はこちらもご覧ください。
渦電流はその名の通りぐるぐると“うず”を巻いています。この現象の基本法則は、意外と理解しやすいということをお話しします。
次の二つが基本法則で、生活の中で何らかの場面で経験したことがあるはずです。

Fig. 3.1 渦電流

  1. まず電流から磁場を作る (Ampereの法則)
    電磁石に代表されるようにコイルに電流を流して磁場を発生させることです。電流が存在するとその周囲には磁場がぐるぐる円を描いた状態で発生していることを言っています。
  2.  
     
     

  3. 次は磁場の変動から電流を作る (Faradayの電磁誘導の法則)
    「磁場の変動」がキーワードで、生活に不可欠の発電の原理です。
    磁場が時間とともに変化しているときにコイルに電流を生じさせられます。コイルの代わりに金属ターゲットとしても同様にその金属表面に電流を生じます。ターゲット表面に到達した磁場から渦電流を発生させることを意味します。
    時間変化している交流磁場がターゲットに到達すると、それとは逆方向に (妨げ追い返す、或いは引き止める) 磁場を発生させるように“うず (渦) ”を巻いた電流がAmpereの法則により発生します。これを渦電流と言っています。この渦電流は、コイルとの距離の違いによって発生する量に差が出ます。即ち、この渦電流の差は距離を意味しています。

これら電磁気現象を纏めたのはMaxwellでMaxwellの方程式 (1864年、明治時代) として有名です。Maxwellの方程式は、電場と磁場の統一場理論でビッグバン以降、 成り立っているとされています。ちなみに遠距離重力場の定式化は先行し、有名なNewtonの定式化 (プリンキピア、1687年、江戸時代上期) はこれよりおおよそ180年先行していました。

もちろんOhmの法則、磁場の強さと磁束密度の関係やHerzの電磁波の存在証明、Voltaの電池の発明等々重要です。これらは、概ね19世紀以降 (江戸時代末期から明治時代) の発見・発明です。ちなみに、これら巨頭達は、フーリエ解析、ラプラス解析で有名なFourierやLaplace、蒸気機関のWatt、蔦重でおなじみの馬琴、北斎、交響曲5番「運命」のBeethovenなどと活躍が重なる時期がありました。これら全てを文化・芸術とすると、どこかで聞いたことがありますが、正に世界的な「文化・芸術の爆発」によって、生活面で大きな変革が起こった時期です。発電、電気・ハイブリッド自動車、無線通信技術、インターネット等々、MaxwellとNewtonがまとめた世界観によって、一般的な我々の身の回りの生活空間は概ね説明ができています。今の便利さはここ150年の間での出来事です。

3.2 渦電流式変位センサ

渦電流を使って変位を測定するセンサの話です。
当社は、SEC時代から諸先輩の奮闘努力で開発した製品を引き継いだ企業です。特に渦電流式変位センサについては、素晴らしいセンサがあります。そこで、「設計変更するにはどうしたらよい ? 」との疑問が浮かびます。少しの間、センサを設計するという視点でお話をしてみようと思います。

3.2.1 お客様からのご要望

お客様で設備の新規導入、或いは改修等の計画が進み、新たに計ってみたい項目が出て、センサの引き合いをいただいたとき、お客様からは次のように問われることがしばしばです。
「レンジを変更してほしい」「センサの径を変更したい」「このターゲットの場合はどんな特性 ? 」「ケーブルを変更したい」等々いろいろなご質問・ご要求にどう対応すればよいのだろうか ? ? ?
これらの問い合わせに対しては、1980年代後半から1990年代前半くらいまでは、まず「計ってみる」という直接方法が主で、過去の同様な事例のデータを見て予測するという方法でした。当然今も案件の内容によっては有効で、この手法を使っています。

お客様からの問い合わせに対して、実現性の可否の一次回答を素早くするには、机上検討できる簡便なシミュレーションツールが必須でした。2021年にご相談いただいた液体水素ポンプ用の軸振動センサにおいても同様で、最新の当社独自の解析ツールにより設計がなされました。このためには先に少しお話ししたMaxwellの方程式の解法が必須です。

1990年代に入り、パーソナルコンピュータ (PC) のハード面の能力向上とともに、Windowsに代表されるようにOSの大きな機能向上もあいまって、有限要素法 (FEM:Finite Element Method) による、渦電流解析のパッケージソフトが発売され始めました。筆者も手を出してみましたが、要素分割等の前準備に、ある程度強力なソフトウェア補助機能を使っても、思ったような結果が出せませんでした。これは当然で、当社のセンサを解析する場合、目に見える空間スケール (mm~cm~m) に対して、ターゲット金属の表面を少なくとも (サブ) ミクロン (µm~0.1 µm) のオーダでの要素分割が適切で、FEMによる渦電流解析は簡便なという点では、あまり適さないと感じました。誤解があってはいけないので補足しますが、FEMは、手間暇を惜しまなければ、精度よく計算できます。この手間暇とは、準備と計算時間のことです。当社の代表的なセンサに対して、計算方法を工夫して、要素数まで記憶がはっきりしませんが、計算時間は数時間 / [1 gap・1周波数] (某大学の中型コンピュータ、1990年頃) 程度かかっていました。ここで、計算条件や内容、及び結果について議論する気は全くありませんが、良く実験値を再現していました2)
当時、短気な筆者は、まずは特性予測をするために対称性を使ったMaxwellの方程式の解析解を使い3) 、1時間程度で全体 (励磁周波数:200点×ギャップ25点=5000点程度) の特性予測をする方向に考えを改め、FEM等の詳細は、時間があればやってみれば良いとの考えになりました。このような考えから始まり、空いた時間を使って試行錯誤・改良を進めてきました。ここに来て渦電流式変位センサ設計に必要な解析ができるレベルになりました。2023年時点で概ね目標は達成でき、実設計に適用をしています。

3.2.2 測定原理

測定原理については、「渦電流式変位センサとは」で詳しく解説していますので、参照ください。

3.2.3 モデル化:等価回路

渦電流式変位センサは基本受動素子のインダクタ、抵抗、コンデンサで等価回路にモデル化されます。等価回路として、よく3素子モデルや4素子モデルが提案されています。Fig. 3.2は各素子の物理量のJIS記図です。Fig. 3.3に当社で良く使われる等価回路を示しました。

Fig. 3.2 基本素子の記号 (JIS C 0617 電気部品の図記号 第4部 基礎受動部品)

渦電流解析とは即ちMaxwellの方程式を解法:磁場解析を行うことです。より具体的には、渦電流式変位センサの設計をするとは、磁場解析から \(L\) 、 \(C\) 、 \(R\) 、 \(Rp\) を求めることです。以下の多種の条件が挙げられ完全な予測結果が得られるわけではありませんが、環境面では最低限、常温常圧下で変位対インピーダンス変化を計算することで、測定の可能性が推察されます。

センサ : 線材種、線材形状、コイル成形形状、接続ケーブル仕様、励磁周波数…
ターゲット : 金属材料種類、導電性、磁性、形状、厚さ…
環境 : 極低温・高温域等の周囲温度、圧力、危険ガス雰囲気下…

Fig. 3.3に、コイルの3素子モデルと4素子モデルを紹介しました。当社では3素子モデルで解析を続けていましたが、4素子モデルの各素子の量をここ数年で予測計算ができるようになり、 (b) 図の4素子モデルが最近では用いられるようになりました。金属ターゲットが近づくと、 \(L\) 、 \(C\) 、 \(R\) 、 \(Rp\) に変化が生じます。これをインピーダンスがターゲットとの距離 \(x\) に依存して変化すると言っています。例えば \(L \rightarrow L_0 + \Delta L(x)\) や、 \(R \rightarrow R_0 + \Delta R(x)\) のように変化します。ここで、 \(L_0\) と \(R_0\) は各々金属ターゲットがない時 \((x \to \infty)\) の \(L\) 、と \(R\) の値です。逆にこれらの変化を測定できれば、距離 \(x\) を測定できたことになります。

Fig. 3.3 コイルの等価回路 (3素子モデルと4素子モデル例)

ここまで、1977年の誕生から約50年にわたり、鉄道や磁気浮上式リニアなど多岐にわたる分野で研鑽を積んできた当社の製品開発の歩み、そして150年の歴史を持つ電磁気学がいかにして現在の精密な設計理論 (等価回路モデル) へと落とし込まれてきたかを紐解いてきました。
次回は、この理論が現実の過酷な環境下でいかに真価を発揮したのか、解析に明け暮れた日々や恩師との出会い、そしてH3ロケット打ち上げ成功の舞台裏など、JAXAと共に歩んだ熱きエンジニアたちの『開発秘話』をお届けします。

次回は9月号に掲載予定です。

参考文献

1) “水素を巡る最近の動きについて”,資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 (2024年6月26日)
2) 野崎 晴司,山下 英夫,中前 栄八郎,榎木 茂実:渦電流式距離センサの最適コイル形状の決定法,平成2年度電気関係学会中国支部連合大会講演論文集,No. 020518,p. 46,1990.
3) C. V. Dodd and W. E. Deeds: Analytical Solutions to Eddy Current Probe Problem, Journal of Applied Physics, vol. 39, No. 6, pp.2829-2838, 1968.

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