新川センサテクノロジ株式会社

榎木 茂実

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前回は、1977年の渦電流式変位センサの開発・製品化以来、日本のインフラを支え続けてきた新川センサテクノロジ株式会社 (SST) の50年の歩みと、次世代エネルギー・水素社会の展望について触れました。
今回は、「開発の裏話」に迫ります。

4. 渦電流式変位センサの設計 裏話

解析解から各素子の量を求め、等価回路に当てはめて実測前にある程度の特性予測を行い、この解析結果を実設計に活かすという方針で進めてきました。少しずつ理論的に求める手法がプログラム化され、その時々で適用し力を蓄えてきました。最近の状況までを振り返りながら、実測中心の当初の方式から、解析中心で概ね予測がつくまでを、出会いなどを含めてトピックス、裏話を交えて、大雑把に80年代後半からの年表として振り返ってみました。

さて、深く教えていただいた信州大学工学部 名誉教授 故 山田一先生、特任教授 水野勉先生については、敢えてお名前をお出しします。このお二人のお名前をお出ししたことで、開発の「秘話」に少し近づいてきたかもしれません。

4.1 ヒストリ

1987年頃 応用磁気学会 @信州大学 (長野 (工学) キャンパス) :山田一先生を筆者が一方的に知る
信州大学工学部 名誉教授 故 山田一先生との出会いは、印象深い出会いの一つです。出会いといっても、筆者が一方的に知っただけで、先生は私のことなど知る由もなかったはずです。今でも鮮明に頭の片隅に焼き付いています。信州大学工学部 (長野市若里) で日本磁気学会 (旧:応用磁気学会)が開催され、磁気応用センサのセッションの中での出来事でした。突然に山田先生が発表者の資料のグラフを見て一言「縦軸は単位を[N] (ニュートン) とせねばならん ! 」と太い声で指摘されました。当時、MKSA-SI単位系への移行が産業界で本格化しており学会においても同じ動きの中にあったと思います。私も学生時代に習った単位系と産業界で使う単位系の違いに辟易していたところに先生の指摘を心地良く耳に入れたことを覚えています。
1990年頃 渦電流解析に関する先駆的研究であるDoddの理論3)をベースに、変位に対するコイルのインダクタンス変化、抵抗変化を求める解析プログラムをNECのパソコンPC-9801でN88BASICにより解析を開始しました。回数を重ねるうちに、次第に解析ノウハウが蓄積され、一部で適用されていきました。
新川電機グループが大変お世話になっている公益財団法人電磁材料研究所 (旧:電気磁気材料研究所) の紹介を経て東北大学金属材料研究所で、鋼材:S45C、SCM440の熱処理の違いによる抵抗率と透磁率の周波数依存性と温度依存性 (室温~180 ℃) のデータ取得をさせていただきました。これは解析に必須で (金属ターゲットの素性を明らかにする意味) 、このデータをもとに解析を始めました。これらのデータは現在も有効に活用されています。このデータ取りの記憶では、測定原理は当然のこと、珪藻土ブロック、ヒータとコントローラを使った電気炉 (簡易恒温槽) 作り、インピーダンスアナライザによる測定までを、お忙しい中教えていただき深く感謝しています。鋼材の透磁率や抵抗率のデータは広く一般に公開されているように想像されるかもしれませんが、これは真逆で、ほとんど公開されていないのが実情でしたし最近でも同様です。

さてさて、一連の作業が終わり、データ整理も終えて一段落して、お礼のために伺った際、筆者は結石を体内で育てており投薬治療中でしたが、間が悪く、研究室の先生方とお礼の面談中に下腹部に強い違和感を覚え、トイレに駆け込み、なんと、とっても小さな石が飛び出ました。教授の呆れた表情も記憶にあり、この事件も忘れられない裏話です。

1996、7年頃 山田先生との再会
偶然で経緯はわからずじまいですが、当社初代社長 故 長安洋治氏とともに当社広島工場に山田先生と水野先生が来社されました。再会は大いに盛り上がりました。以降、山田先生が代表をされていた電磁センサ研究会に当社もメンバーとして参加しました。1980年代から続いている電磁式センサによる軌道検測に関する議論の場から始まった、関係者の自発的な独立系研究会でした。この研究会では、分野を問わず各自一編のレポート提示をし、電磁センサに限定せず、社会全般についても議論されました。場所は東京恵比寿・ニッセイビルや、鉄道会館 (八重洲) で2008年頃まで続き、月1回は山田・水野両先生とお目にかかっていました。長野、広島では各年1回か2回、東京では10回程度開催されました。2010年に約30年間の活動が終わりました。再会によって、解析・設計技術の向上が加速されたことは間違いありません。
2000年代 医工学、射出成形関係、運輸では軌道検測の新幹線East-i用搭載稼働4)、NC加工機筐体変形測定5)、愛知高速交通リニモHSST (High Speed Surface Transport) 浮上制御用に実装稼働6)等々、回転機械以外でも種々の分野に適用されました。
2000年代後半 ターゲットの物性値の影響 (ERO:Electrical Run Out、表面の電磁気的な状態変化の影響)7)
この研究は2020年代に蘇ります。 (金属表層状態のセンサ出力への影響を定量化する基本的な考え方が与えられました)
渦電流式変位センサのコイルの交流抵抗を定式化
コイル線の材料と多層構造を考慮した抵抗 \(R\) の解析と感度向上策8)
2010年代後半 浮遊容量を考慮したコイルの設計 (コイルの共振特性) 定式化に挑戦
2020年代 測定レンジ伸長
レール変位センサのリフトオフ伸長に目途9) 10) 11)
シミュレーション手法
一意的に4素子モデルのパラメータ解析を可能にしたシミュレーション手法の完成12) 13)
2023年 実際に水素利用の現場用に設計してみた。
2020年代に入って、水素利用に関する機運が高まり、実用化するための各機器の要素研究が活発となりました。その中で、当社のセンサがお手伝いしています。前置きが相当長かったですが、ここにきてようやく主題のお話ができました。

  • 液体水素LH2 (-253 ℃) 輸送ポンプ軸振動測定用変位センサを開発し納品 (写真A)
  • センサの各構成材料の水素脆性、低温脆性の確認試験実施
  • 極低温下 (常温→液体窒素LN2:-196 ℃、液体水素LH2:-253 ℃、液体ヘリウムLHe:-269 ℃) での特定の強磁性材料の透磁率と抵抗率を広島大学で学術指導を受けながらデータ取得し設計計算に適用
    民間の試験場も含めた諸設備を利用し極低温下での材料の電気磁気的なデータ取り蓄積
  • H3ロケット試験機2号機打ち上げ成功に伴い、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 (以下JAXA) から表彰を拝受 (写真B)
    長年の液体水素・液体酸素ポンプの軸振動測定用センサを納入し成功に寄与

写真A 液体水素輸送ポンプ用渦電流式変位センサ

写真B JAXAからの感謝状拝受

4.2 ロケットエンジン用変位センサと液体水素ポンプ用変位センサ

このコラムは水素が主テーマですので、水素に関係したセンサでの裏話をします。
直接の液体水素利用関連のセンサとして、ロケットエンジン用と水素ステーション等で活躍する液体水素 (LH2) 輸送ポンプ用の2種類があります。ここで、この2種類の違いについてお話しします。

Fig. 4.3 (a) がロケットエンジン用のSST製渦電流式軸振動センサの設置イメージ図です。
このセンサは、

  1. センサトップ部のみが液体水素に水没
  2. 温度・圧力サイクル:短時間使用の繰り返しの環境下

で使用されます。

フライト直前の地上でのエンジンの調子を確認するための試験で使用され、センサ出力によりエンジンを打ち上げに供するか否かの判断材料とされる重要なセンサです。このセンサは国産ロケットの実現に向けて1979年の完成から、日本主力商用ロケットH2、H2A、H2B用への展開、最近のH3形へ変遷する中でエンジンもLE5、LE7、LE9へと開発が進み、センサもJAXA、エンジン開発メーカの協力をいただきながら改良が加えられており、2024年2月17日のH3実験2号機の打ち上げ成功に貢献することができました。JAXAより2024年5月に感謝状をいただきました。新川電機グループで部署関係なく喜びを分かち合いました。

Fig. 4.3 (b) 図が今後水素ステーションでの活躍が期待される液体水素輸送ポンプ用変位センサの取り付けイメージ図です。2022年に、数社のお客様から液体水素油輸送ポンプ用の軸振動センサについての問い合わせが入りました。お応えすべく2023年早くに設計に入りました。これを機に、最新のシミュレーション技術を試す意味も込めて実設計に適用し、2023年10月にお客様に納入しました。回転軸の上部と下部にセンサが2個ずつ (直交2方向) 取り付けられ、軸振動を監視します。

(a) ロケットエンジン用
センサトップ部のみが液体水素に水没

(b) 液体水素輸送ポンプ用変位センサ
センサトップ及び、伝送ケーブルが部分的に液体窒素に水没

Fig. 4.3 ロケットエンジン用変位センサと液体水素輸送ポンプ用変位センサ 設置イメージ図

液体水素の流入・流出条件でセンサ系の水没状態が逐次変化する条件があります。センサの構成材料について水素加圧注入による水素脆化の有無確認に加え、低温脆化等の確認を液体ヘリウム温度4 K (-269 ℃) までの試験で確認するなどし、温度ドリフトを極小化する回路構成としている特徴を持っています。設計スタッフ、製造スタッフの奮闘もあって出来上がりました。センサを納入し要素技術開発での軸振動の測定実績が出始めました。この実績の裏にあるエンジニア気質を強く感じています。

5.まとめ

掲題から少し外れたかもしれませんが、Carbon Neutral (CN) 社会実現に向けて筆者が関わった当社センサの技術開発の一端をお伝えしました。安定した電源供給がなされ、新幹線が走り、燃費効率のよい船舶が航海して物流を支え、ロケットが飛び、陸・海・空での生活の場を広げ、水素利用も含めたCN社会の実現に新川電機グループは微力ですが社会貢献し社業発展を叶えられると信じています。
重要なセンサを実現するプロセスは、お客様との会話による営業活動から始まり、当社でのモノづくりを経てお客様のお手元までお届けし、製品が機能を発揮することです。お客様と新川電機グループ皆の力の結集で成り立っています。新川電機グループとして、よりよいモノづくりを継続していきます。この企画はお客様・関係諸氏への感謝とともに、新川電機グループ社員への激励になると信じます。

最後に、本稿の冒頭にも述べましたが、お約束等により組織やお名前等を極力控えました。関係各位に敬意を表しますとともに御礼申し上げます。

PS. “エンジニア気質” ∋ “いい感じ”

あるお客様の要素技術開発の実証実験の現場に立ち会うチャンスがありました。時は年末・クリスマス、実証実験が終わってそのまま年越しに突入しました。実証実験の成功は、クリスマスプレゼントとお年玉を同時にゲットしたような気分で、実験中のスタッフ全員の一体感を思い出しつつ、何とも言えない“ いい感じ ”でした。エンジニアはこの感じを求めて日々奮闘していることがよくわかる年越しでした。
この感じを味わった後に「さて、次は…」との思いが浮かんだ瞬間から、戦闘モードに突入です。

参考文献

3) C. V. Dodd and W. E. Deeds: Analytical Solutions to Eddy Current Probe Problem, Journal of Applied Physics, vol. 39, No. 6, pp.2829-2838, 1968.
4) S. Enoki、 T. Asahi、 S. Watanabe、 T. Mizuno and K. Takeshita: Electromagnetic Measurement of the Rail Displacement by the Two Triangular Coils、 IEEE Transactions on Magnetics、 Vol. 38、 No. 5、 pp. 3303-3305、 2002. 
5) 花山 良平、田中 康好、奥村 務、光石 衛:高速マシニングセンタの能動熱変形補償の試み、日本機械学会 1999年度年次大会講演論文集、2001(V)、pp. 187-188、2001.
6) 藤野 政明、田中 正夫、安藤 直樹、長野 秀洋:HSSTシステムの最近の動向について -走行試験結果と東部丘陵線向け車輌-、名古屋鉄道株式会社研究報告、No. 46、pp.5-1-5-6、2001.
7) Mizuno T.、 Enoki S. Asahina T.、 Komeno F.、 Hayashi T.、 Yamada H.、 Maeda H.、 Asahi T.、 Shinagawa H:Estimation of electrical runout of an eddy current displacement sensor、 SICE annual conference 2005、 pp. 3378 – 3381、 2005.
8) Hiroki Shinagawa、 Takayuki Suzuki、 Masahiro Noda、 Yusuke Shimura、 Shigemi Enoki、 and Tsutomu Mizuno: Theoretical Analysis of AC Resistance in Coil Using Magnetoplated Wire、 IEEE Transactions on Magnetics、 Vol. 45、 No. 9、 pp. 3251-3259、 2009.
9) 近松 具樹、佐野 太輝、佐藤 光秀、水野 勉、榎木 茂実、旭 尊史、松浦史明:高Q値化による渦電流形レール変位センサの高リフトオフ化の検討、日本AEM学会誌、Vol. 29、 No. 1、 pp. 149-154、 2021.
10) 二木 宥樹、大森 湧也、佐藤 光秀、水野 勉、榎木 茂実、松浦 史明:渦電流形レール変位センサにおける水の影響を軽減するコイル構造の検討、日本AEM学会誌、Vol. 32、 No. 1、pp. 107 – 112、 2024.
11) 竹下 邦夫、城田 靖、成田 嘉衛:東北・上越新幹線用電磁式軌道検測装置の開発、鉄道技術報告、1352、pp.1-85、1987.
12) Fumiaki Matsuura、 Yuki Futatsugi、 Mitsuhide Sato、 Shigemi Enoki、 Tsutomu Mizuno Fellow: Theoretical Impedance Calculation Method for Air-core Coils、 IEEJ TRANSACTION ON ELECTRICAL AND ELECTRONIC ENGINEERING、 TEE A、Vol. 19、 No. 7、 2024.
13) 松浦 史明、 榎木 茂実、佐藤 光秀、水野 勉、 “強磁性金属素地上に形成された非磁性金属薄膜のサブミクロンオーダの膜厚測定”、電気学会論文誌A、 IEEJ Vol. 146、 No. 2、 2026.

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