2015/02/12 業界コラム 牧 昌次郎 ホタルの光を科学する No.3 ホタルの光の将来展望 電気通信大学大学院 情報理工学系研究科 助教 牧 昌次郎 1989年03月 慶應義塾大学 理工学部 化学科 卒業...もっと見る 1989年03月 慶應義塾大学 理工学部 化学科 卒業 1994年03月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 化学専攻博士課程修了(博士(理学)取得) 1992年11月~1993年01月 独国 Max Planck 生物化学研究所 研究員(細胞生物学研究室で mRNA の ラベル化材料の合成・開発と生細胞内動態の可視化研究) 1993年04月~1994年03月 日本学術振興会 特別研究員 1994年04月~1996年09月 帝京大学薬学部助手 1996年07月~1996年08月 独国 Max Planck 生物化学研究所 客員研究員(細胞生物学研究室で mRNA の ラベル化と生細胞内動態の可視化研究) 1996年10月~現在 電気通信大学電気通信学部 助手(助教、職名変更) 1999年05月~2000年01月 Columbia 大学化学科 博士研究員(視覚の分子機構解明研究) 2005年06月 有機電子移動化学奨励賞 受賞講演題目:「ホタル発光系をモデルとした人工発光標識系創製へのアプローチ」 2012年01月 優秀教員賞(電気通信大学) ホタルの生物発光技術が癌研究や再生医療研究に有効なツールとなることは前述のとおりであるが、それだけでは現実問題として、不十分であることがわかってきた。 現在の光インビボイメージングの測定機器は、マウス/ラット程度の大きさの動物の測定が限界である。しかし、ネズミのデータを外挿してヒトの状態を見積もることには、およそ無理があろう。この間を埋めるような中間的なモデル動物が必要と考えられる1)。 3-1. ホタルの光で先端医療技術を切り拓くマウス/ラットの研究データをヒトに活用するためにたとえば、脊椎損傷の動物実験であるが、人間のように高次運動機能を有する動物、たとえば、コモンマーモセットのような霊長類でのイメージング技術が必要であることは、理解できよう。iPS の技術で、個別(免疫の問題が生じないよう)にヒトの臓器を動物で成熟させ、患者の方へ移植するような場合、人間と同じくらいの大きさの動物(例えばミニブタなど)が必要であろう。拒絶反応も考慮すれば、免疫学的な条件も重要である。将来的に人工的(工学的)に臓器を生長・成熟させる技術を開発するためには、その端緒としてこの技術は必要であろう。現実的な移植治療を考えれば、動物の成長の早さも重要である。 また、これらの先駆的な研究段階では、光イメージングのように空間分解能が高く、精密な測定ができる技術が必要であることは、専門家でなくても理解は容易であろう。 このために必要な技術は何か、以下にまとめてみた。 <標識材料> 生体の窓領域に発光する材料(生体透過性に優れた波長域)。 輝度は天然の発光基質と同等程度が望ましい(高輝度)。 生体機能測定なので、生体に投与しやすい水溶性が必要であろう。 <モデル動物> ターゲットとなる臓器・器官で十分な酵素が発現できている。 飼育段階で、測定を妨害するような代謝物や生体物質を産生しないこと。 飼育段階で、感染症など研究に影響する要因を持たないこと。 <測定機器> 微弱かつ長波長光(近赤外領域:生体の窓領域)を高感度に受光できること。 受光データから、3 次元画像など深さ方向の情報が得られること(画像処理技術)。 マウス/ラットよりも大きな動物を測定できる測定室を有すること。 このように、動物、機器、材料それぞれで課題があるが、これらをクリアすることで全人類的課題に立ち向かう技術ができると考えられる。またこれらの技術は互いにかかわりがある。例えば、材料の輝度向上は、機器の感度向上で補うことができるかもしれない。これは動物体内での酵素発現量が少なくても、微弱光を高感度で測定できれば互いに技術を補うことができる。深さ方向の情報は、生体の窓領域で異なった波長を呈する標識材料を創製することで、技術の難易度が下がる可能性があろう。免疫不全ではない体毛のないモデル動物が開発されることで、透過光の妨害も大きく軽減されるであろう。 技術に技術が重なることで、より高度かつ実用的な技術になることは明白である。 3-2. 技術が重なることで開かれる新技術生物発光技術が目指すところは、医療だけではない。植物細胞に発光酵素を発現2) する技術があるので、ホタルの発光酵素を発現する樹木を植え、発光基質を水とともに与えることで、無電源発光が可能になるかもしれない。ホタルの体内で発光基質が生合成されているのだから、このメカニズムを人工化できれば、街灯のない山道で樹木が光って道を示してくれるということも技術的に可能になるかもしれない。 ホタルの発光は酵素反応なので、発光シールや発光塗料などにしても安全であろう。しかしこれらの技術を実現するには、いくつもの実用性を高めるための技術ハードルを越える必要があろう。しかし、そのハードルはもはや明確であり、筆者はその基盤となる技術のいくつかを人類は既に手にしていると考えている。 日本の科学技術政策では、未来はわからないものではなく、理想の未来に向かって、自らの手で創るものだと考えている3)。日本が創るべき未来にはどのような技術が必要で、その技術を実現させるためにはどのような技術が必要なのだろうか。 筆者は、「環境エネルギー」、「医療」、「格差」の3つを重要課題と考えており、このうちの「医療」に貢献すべく技術開発を行っている。技術に技術が重なって、より高く、より希望や理想に近い技術になるのであろう。単一技術の専門家が解決できる問題はもはや少ないのではないか。それぞれの技術の専門家が複合技術を作り上げ、現実の課題に対峙してゆく時代になっているのではないか。筆者はライフサイエンスや機械・電子の専門家と共同してインビボイメーイングの新技術を創製し、未来の医療技術に貢献すべく研究を行う予定である。今後の電気通信大学の技術にご注視いただければ幸甚である。 文献 監修:梶谷 誠 編集:田中 繁 ユニーク&エキサイティングサイエンスII (近代科学社)p.136-158 (2013) Eco Rick通信 植物活性化剤の探索と創製―遺伝子組換え植物を利用した低環境負荷型植物保護資材の開発(平塚 和之)―横浜国立大学2011年10月 科学技術イノベーション総合戦略2014 ~未来創造に向けたイノベーションの懸け橋~(内閣府) http://www8.cao.go.jp/cstp/sogosenryaku/ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 電気通信大学大学院 情報理工学系研究科 助教 牧 昌次郎さんのその他の記事 2015/02/12 業界コラム ホタルの光を科学する No.3 ホタルの光の将来展望 2015/01/14 業界コラム ホタルの光を科学する No.2 ホタルの光とライフサイエンス 2014/12/09 業界コラム ホタルの光を科学する No.1 ホタルの光と化学 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月