株式会社 蔭山晶久アーキテクツ 代表取締役

䕃山 晶久

株式会社 蔭山晶久アーキテクツ 代表取締役
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株式会社 蔭山晶久アーキテクツ 代表取締役
Akihisa Kageyama Architects, Limited. Managing Director / Principal
http://www.akik-a.com/

1969年 兵庫県生まれ
1992年 広島大学卒業
1994年 北海道大学大学院修了

英国を代表する建築家 Richard Rogers によって設立された、Rogers Stirk Harbour + Partners ( https://www.rsh-p.com/ )にて、20 年間勤務後独立、英国の EU 離脱国民投票結果を機に帰国し、蔭山晶久アーキテクツを主宰。

代表作として、VRテクノプラザ(岐阜)、天野製薬研究所(岐阜)、新風館(京都)、南山城小学校(京都)、日テレタワー(東京)、政策研究大学院大学(東京)、Ching-Fu HQ(台北)、Chifley Sq(シドニー)、Lok Wo Sha(香港)、The International Quarter(ロンドン)などを担当。
英国建築家協会(RIBA)より World Wide Award、International Award、オーストラリア建築家協会(AIA)より Sir Arthur G Stephenson Award、The National Award for Commercial Architecture ほか、The Hong Kong National Property Awards(香港)、日本優秀建築選(3件)、公立学校優良施設文部科学大臣奨励賞、グッドデザイン賞(建築・環境部門)、日経ニューオフィス賞(2件)など受賞。

前回は、オフィスを事例に生産効率を上げるために、適正なスペース(一人あたりの専有面積)の話をしました。

今回は、共有スペース(賃貸が可能な収益部分に含まれない共用部分)に焦点を当てたいと思います。

この場合、共有スペースは、英国では Back of House(BOH)と呼ばれるものにあたり、具体的には、エントランス、エレベーター・階段・廊下・トイレ・機械室・倉庫などの空間を指します。(なお、サポートスペースとは、賃貸が可能な収益部分のうち、業務を支援するスペースとして、コピー室、会議室、ダイニング、給湯、倉庫などを指します。)エレベーターの数や階段は、災害時の想定最多収容人数より計画を建てますので、海外のものと比べても、遜色はありません。ただ、機械室などは、気候負荷に左右される空調設備機械の他、オフィスの事業内容によって、面積与件の地域差が大きく異なるため、ここでは考察の対象外とします。

 

話が少しそれますが、日本で働いていた頃は、慣れた日常の風景として、こんなものかと思っていましたが、帰国する度に悩まされたことがあります。それは、人が多く集まる所に出かけると、きまってトイレの前に列ができています。よほどのことがない限り、ヨーロッパではこのような異常事態を見ることはありません。想定以上の来場者があり、短期的にトイレの許容量を超えてしまうことは、理解できます。ある程度切符等の販売で利用者数を想定できる駅や、入場者数が決まっている施設で、どうして長蛇の列ができるのでしょう。さらに不思議なのは、改築・新築後も、その状況が改善することがない場合が多いことです。これは、利用者の想定方法が実態と合っていないのか、そもそもトイレの設置基準が問題なのではと首を傾げてしまいます。

 

そこで、日本と海外のトイレ事例を通じてオフィスにおける共有スペースを再考したいと思います。

日本におけるトイレの設置数は、建築基準法等の建築関連法(地方自治体等が定める条例を除く)では定められないため、他の法律をあたってみると、厚生労働省の事務所衛生基準規則、第三章第十七条に、次のように記載されています。

一  男性用と女性用に区別すること。

二  男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者六十人以内ごとに一個以上とすること。

三  男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者三十人以内ごとに一個以上とすること。

四  女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者二十人以内ごとに一個以上とすること。

 

(注)長蛇の列に我慢できず、男性のトイレに駆け込んでくる方をよく見ますが、この法律によると、

日本では基本的に男女兼用のトイレは設置できません。

その他の指針として、通常、空気調和・衛生工学会による衛生器具の適正個数算定法(1)~(8)」による算定方法が用いられます。

 

そして、海外の基準につきましては、British Standard (BS 6465 – Sanitary installations)を用いて比較してみましょう。

 

なお、この 3 つの異なる算定方法を比較するため、同一条件として執務空間の大きさを 1500m2

1500m2

、収容人数は、The British Council for Offices(以下 BCO)のトイレ計算用収容人数基準、一人あたりの専有面積を 10m2

10m2

 として用います。また、身障者用のトイレの数は、同一条件で比較するため対象外とします。

- ①

オフィス規模:1500m2
収容人数:1500m2/10=150 人

(男:女=6:4 として、男子 90 名、女子 60 名)

男子大便器:150×60%/60=1.5 → 2 個

男子小便器:150×60%/30=3.0 → 3個

男子洗面器:規定なし

女子大便器:150×40%/20=3.0 → 3 個

女子洗面器:規定なし

- ②

オフィス規模:1500m2
収容人数:1500m2/10=150 人

(男:女=6:4 として、男子 90 名、女子 60 名)

男子大便器:3 個

男子小便器:3 個

男子洗面器:2 個

女子大便器:3 個

女子洗面器:3 個

サービスレベルはレベル 2・・・標準的な待ち時間の器具数(平均値、標準的な器具数)

なお、サービスレベルとは、待ち時間に対する利用者の意識、評価などから 3 段階のレベルを設定したもの。

空気調和・衛生工学会による衛生器具の適正個算定(出典:(c)空気調和・衛生工学会)

- ③

オフィス規模:1500m2
収容人数:1500m2/10=150 人(BCO より男女同数、ともに収容人数の 60%。それぞれ 90 名)

男子大便器:4 個

男子小便器:3 個

男子洗面器:4 個

女子大便器:7 個

女子洗面器:7 個

(c) British Standards Institution:BS 6465, 6.4 Workplaces, 6.4.1 General, Table 4 (男子用衛生器具の適正個数表)
(c) British Standards Institution:BS 6465, 6.4 Workplaces, 6.4.1 General, Table 3 (女子用衛生器具の適正個数表)

適正な個数としても求められた値は、その項目もほぼ共通して、①<②<③ という結果になります。

なお、英国基準は最低数に対し、空気調和・衛生工学会のものは標準推奨数です。

(必要最低限の器具数は、サービスレベルはレベル 3 として設定され、更に数が少なくなります。)

そもそも、英国では将来対応を踏まえ 20% の余剰人員を見越したうえ、便器・洗面器の設定数も日本の基準よりも多めにとってありますが、日本のものは、将来対応や余剰人数を考慮せず、少なめに想定されているようです。

 

共有スペースについて、日本の法律レベルでは特別な規定がありませんが、BCO には続きがあります。ロンドンでは、車で通勤することを抑制するために、市内中心部を通過する時には、コンジェッション・チャージなる通過料金(1 日の使用で £11.50)を強制的に支払うようになりました。*1

オレンジに塗られた部分が 現在のコンジェッション・チャージの対象エリア。 注)ハッチ部分は自転車通勤利用者の増加に伴い、 現在対象外になったエリア。 (出典:(c) Transport for London)
この看板を超えると課金されます。 (c) AKIKA*2

また、自転車通勤を増やすために、自転車購入額の 1000 ポンドまで、最大 40% を所得税から控除できるようになり、市内では自転車通勤が増加しました。

そこで、サポートスペースには、次のようなものが追加されます。

駐輪場:従業員 10 人あたりに 1 台

シャワーブース:従業員 100 人あたりに 1 個

(ただし男女比は、男:女=6:4)

ロッカー:駐輪数と同数

古い建物をコンバージョンすることもあり、既存の建物内で駐輪場を確保できなくなると、 路上にてスペースを確保しています。(c) AKIKA*2

今後、海外から企業・スタッフを招くことが多くなると予想されますが、現在設計中あるいは建設中の建物は、原則日本の基準に準拠していますので、サポートスペースが不足する可能性は高いと言わざるをえません。実態調査の外資系テナント面積に現れているように、現在は収容人員を減らして、対応しているようにも考えられます。もし、オフィスビルの改築や新築をお考えの方は、日本の基準を満たすだけでなく、少し余裕を持った条件で設計を進めてくことをお勧めます。

最終回では、私達が設計するにあたり重視しているポイントを通し「ワークプレイスの動向とそのデザインに向けて」についてお話しをしたいと思います。

 

*1:Transport for London, The Congestion Charge, https://tfl.gov.uk/modes/driving/congestion-charge

*2:Akihisa Kageyama Architects, Limited (= AKIKA), http://www.akik-a.com/