第1回、第2回とSCADAの歴史を軸として、現在のIIoTに至るまでの道筋を技術的な視点から概観しました。
第3回は、具体的なIIoTの利点や活用事例にはどういったものがあり、それを実現するためにどのような機能が必要なのかを解説していきます。
IIoTによって何が変わるのか?
第2回でも簡単に触れていますが、IIoTの本質は大量のデータを安価に収集できるようになったこと・それを扱えるデータ処理技術の進歩が、人手では処理し切れなかったデータを扱えるようになり、これまで見えなかったものが見える様になったところにあります。
具体的な例をひとつ挙げると、工場内に工作機械が多数存在し、その工作精度にばらつきが出た際の原因がどこにあるのかを切り分けたいとき、それぞれの工作機械近傍に温度センサを設置して、これの温度を収集することで室温分布がリアルタイムに把握出来るようになります。
これと工作機械が加工した部材の工作精度の相関を見ることにより、工作機械の設置場所によって生じる温度差がワークの熱膨張のばらつきを生み、工作精度にも影響を及ぼすことが可視化出来ます。このデータを元に設置環境の改善や温度による加工の補正をおこなえば、製品の歩留まりを向上させることが可能になります。
これらは多くの場合、長い時間をかけて試行錯誤しながら培った職人の経験と勘に頼っていた部分ですが、データや理論的な裏付けを取ることで、技術の継承や属人化の解消に繋がります。また、こういったアプローチを人力で行なうことも可能ですが、IIoTによってそのスピードを加速することができます。今風に言えばOODAループの実現といったことでしょうか?

この究極の姿が、現実世界を全てデータ化してリアルタイムに計算機の中に取り込み、現実世界の複製を作り、その中で分析やシミュレートした結果を元に現実世界の制御にフィードバックして最適化を図る、いわゆるデジタルツインと呼ばれるものになります。
その中で、IIoTはデジタルツインの第一歩・現実世界と計算機の橋渡しをおこない、見える化を実現するものであるという位置づけになります。
IIoTの利用シーン
IIoTの利用シーンですが、既に製造現場において、主要な生産設備に対してはSCADAやDCSといった監視/制御システムが普及しており、この手のシステムが全く存在しないということは無いと思われます。あるいは、比較的最近の生産設備であれば、高性能化したタッチパネルがSCADAの代替となっていたり、ユーザーインターフェースを必要としない設備の場合、高機能化したPLCでデータ処理までおこなっている事もあると思われます。こういった場合であれば、データ収集・処理を行っているSCADAサーバ等からデータを得ることができるので新たに何かを追加することは無いと思われます。
しかし、生産設備に付帯する設備、例えばプロセス系の場合は製造工程の環境条件(温度・湿度分布など)が製品品質にどのように影響を及ぼしているか調べたいであるとか、ディスクリート系であれば、工作機械そのものの動作については機械のモニタで確認できるが、工場内の工作機械全ての稼働状況を集中的にモニタしたいといった場合、機械側のインターフェース仕様が不統一である・仕様が公開されていないなどの問題があり、意外と実現のハードルは高くなります。
また、広域に分散している設備、例えばコジェネレーションの発電設備やLNGサテライト設備、簡易水道のポンプ場や山間部の小水力発電所などといった設備は遠隔監視やデータ収集のニーズはあるものの、設備規模に見合った規模のプロダクトがない、ネットワーク敷設コストが高いなど主に経済的な理由により監視を断念しているケースもあります。
もちろん、これらは従来のDCSやSCADAでも技術的には構築可能ですが導入コストが高すぎて折り合わない・システムの柔軟性が足りないといった問題があります。これらがIIoTでカバーすべき領域であると考えられます。

IIoTに求められる機能
こういった分野に適合するプロダクトに求められるものとしては、何よりもコストが安いことが求められます。コストは単純に製品価格だけではなく、施工の容易さやエンジニアリング費用、さらには運用コスト含むライフサイクルコスト全てを指します。
次いで、施工の容易さとも関連しますが、広域・分散した場所からデータを容易に収集できるようにするためには、強力なネットワーク機能・具体的には無線通信機能を持っている必要があります。先述の例で言えば工場内の温度分布の場合はセンサ間の近距離無線ネットワーク、簡易水道のポンプ場のようなケースではLTEやLoRaWANなどの広域通信能力が必要になります。
これら、現場に広く分散したデータを収集したのち、何らかの形で集約する必要があることから、上位システムとの連携がシームレスに行えることが求められます。従来からのパターンで、サーバへデータを転送する場合もあれば、近年であればクラウドサービスと接続することもあると思われます。こういった現場の取り纏めを行なうコンピュータをエッジコンピュータ・エッジサーバなどと呼びます。
そして、IIoTに限ったことではなく、近年ではDSCやSCADA含む産業系システム全般に求められる機能となってきましたが、セキュリティに配慮されている必要があります。その一方で広域に分散した大量のデバイスを保守することを考えた場合、遠隔保守が出来ることも運用コストを考える上で重要になります。

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