2019/03/05 業界コラム 小畑 きいち 地域(地方)創生に関する諸視点 ( 2 ) 社会リサーチ・サイエンスト、日本専門家活動協会理事 青山学院大学社会情報学部元客員教授 小畑 きいち 学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工...もっと見る 学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工学を学ぶ、 東京大学大学院で技術管理・MOT を学ぶ 職歴:米国系メーカーで、ソフト製品開発、コンサルタント、マーケティング、国際協働チームマネジメント、 カストマー・サポート統括、産学連携マネジメントを歴任 教育歴:工学院大学、浦和大学、東京大学先端研、早稲田大学(早稲田総研)、青山学院大学、東京電機大学などで非常勤、常勤、特任、客員など講師、研究員、教授などで従事 担当分野:システム工学、E-ビジネス、プロジェクトマネジメント、技術経営、社会情報、ユーザ・リサーチ、AI、空間計画(街づくり)、都市交通、都市社会、起業論など 増田報告は、人口減少による地方社会の収縮・消滅の状況進行に警鐘を鳴らした。人口減少と少子高齢化は、近年、浮上してきた事象でなく、20-30 年前に予測されたことであるが、政府などは、施策を先送りし現在に至る。バブル経済崩壊以降、経済低迷を回復するために経済政策に重心を移し、必要とされた社会構造変革の施策をおろそかにした。日本は「少子高齢化社会で世界における課題先進国」となっている。 このように変化する社会構造変化を悲観的に見るか、新たな社会変革の契機とするか、われわれに課せられている。政府ばかりをたのみにせず、地方自治体、地域住民、民間組織・企業などは停滞を打破し、自から思考し、行動し、創意創造を進めることが必要とされている。 ( 3 ) 市場社会から創造社会へ高度成長期には、日本は「ものづくり」先進国として世界に雄飛し海外市場の旺盛な需要に対応するために製造業はコスト面で有利な地方へ工場等を地方へ移転または設置を促進した。結果として工場誘致に成功した地域は産業振興が促進され就業機会の増加にも恵まれた。 しかしその後、生産の海外移転、産業のサービス化などで、地方圏は、大人口を前提とした大都市圏市場のような需要のある業種が創生しえないため、就業選択が少なくなり、多くの若者が大都市圏に流出し人口減を加速させた。 このような状況変化に対して、旧来型の就業でなく、地域において持続可能で「くらし」と「しごと」を共生させる新たな発想の就業を模索するような地域モデルが必要とされる。 現在の日本社会には、次のような変化が起きている。 少子高齢化による人口動態傾向は市場経済に変化を起こしている コスト競争力の低下による産業空洞化が進んでいる 観光・移住など訪日外国人の増加している。 以上の要素をふまえて、参考として、地域・地方での人口減と産業空洞化により先行している西欧について見る。 世界において工業化で雄飛した西欧において、地域産業空洞化と人口減により衰退に見舞われた地方都市の再生事例についての成功ケースをレビューする。 ( 3-1 ) 英国 バーミンガム市基幹産業であった製造業が衰退し、地域経済が崩壊し、かって栄えた地方工業都市が、観光や科学技術振興で脱工業化し、創造都市として再生した例のひとつがバーミンガム市である。 英国で、蒸気機関を発明したジェームズ・ワットなどが活躍した産業革命発祥都市のひとつイングランドのバーミンガムは、第二次世界大戦後に徐々に衰退し、さらにグローバル化により製造業はコスト安の後進国へと生産移転が進み都市荒廃が進んだ。1990 年代に入り、都市再生が計画され、ビジネス・雇用創出の機会を観光開発に求めその核として「ビジネス・ツーリズム」計画を掲げた。 先ずは、都市空間整備に取り掛かり、「人が通り過ぎる街」から「人が交流し滞留居住する街」とするために、歩行者中心の総合的空間デザイン案を構想した。そのためにクルマ優先の幹線道路の撤去を含む大胆な都市空間と景観の大改造を実施。快適な歩行空間のための街路の拡大や公共空間を改良する都市回遊空間の構築を進めた。商業・業務地を核とするいわゆるシティセンターの再生と「コミュニティ再生」についても力を入れて取り組んだ。その一環として、観光的都市景観として、以前、水運で賑わったキャナル運河周辺を水辺景観空間へと再生させた。 ランドマークとして市中心部に、ショッピングセンター「ブルリング」、シンフォニーホールを併殺した国際会議場など文化施設とイベント・公演などによる集客施設の構築にも力を入れた。 シティセンター再生創生に際して、集客施設の周りには小売店舗、ホテル、レストラン、カフェ、オフィス等などオープンし、訪問者・イベント交流など来街集客を促進し、ビジネス交流の増進に成功した。 この結果による雇用創出効果によって失業率の低減に成功した。バーミンガム市はシティセンターを歩いて楽しめる大きな集客装置として再開発し、来訪者への利便性の拡大を実現し、観光開発、都市再生、ビジネス起業を融合させ「歩いて楽しめる空間」という都市として再興された。 このバーミンガム市の経験は、「ビジネス・ツーリズム」都市としての空間のあり方、そしてまた人が集まるビジネス環境と居住環境の向上によって人々の流入増加を果たし、持続可能な都市のあり方を考える上で多くの示唆を提供した。 ( 3-2 ) ドイツ エッセン市ライン河の支流ルール川流域、ケルンなどを含むノルトライン・ヴェストファーレン州に属したルール地方のエッセン市はクルップ財閥の本拠地として、重工業地帯の核として発展した。かつてはドイツの発展を支えた大工業地帯の一翼を担った。しかし、1970 年以降は石油などによるエネルギー転換で石炭需要減少と安い外国製品の流入などで工場の外国移転などで地域製造業が衰退し、失業者があふれ、人口流出などが続き、都市中心部が荒廃し、工場、住宅などの廃墟が目立った。 このような状況に州政府などは産学連携などによる新産業の振興を目指し都市再生・地域再生計画として「エムシャー・ランドシャフトパーク構想」など都市再生プログラムが提案された。「鉄鋼と炭鉱の街」から「商業と学術探求の街」への転換脱却を目指した。そのような趣旨に沿い、芸術活動においては、「ルール・トリエンナーレ」開催、スポーツ活動ではワールドカップドイツ大会などルール地方への誘致し、魅力あふれた再生地域として人々に訴えた。そして新産業の誕生にも力を入れた。 集客装置としてかって繁栄した生産拠点跡への産業遺産ツアー、跡地施設などリノベーションによって構築された文化施設の観光資源化、「ツォルフェライン炭鉱業遺産」は産業歴史学習の場として産業ガイトツーリズム、また旧施設跡などリノベーションし、デザイン学校や上質なレストラン、コンサートやイベントなど文化活動の場としての利活用、さらに市内のクルップ財閥邸宅跡、クルップ社によるアルバイター・ジードルンク(労働市民のための集合住宅)やアールト劇場などを見どころとした建築物見学などの観光コースなどを提供し地域観光の柱のひとつとして PR 推進した。 ルール地方の他都市ドルトムントやデュイスブルクなどと連携して回遊ツーリズムも提供し、人々が参集し、起業、快適な住居境提供で、人々の流入促進と起業促進により持続的な都市再生を継続している。またルール地域連合の本部はエッセン市に置かれて、中心地としての地位を得ている。 ( 3-3 ) フランス ナント市フランス大西洋岸・ブルターニュ半島南東部に位置しロワール川河畔のナント市は、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏の中心都市で、歴史的にはアンリ 4 世によりナントの勅令が出された都市として有名である。 古くからの貿易港として発展し、造船業を基幹とした工業都市として栄えたが、発展途上であった日本などとの競争に負け工業が衰退し、工場の閉鎖が相次ぎ、地域経済が疲弊した。1989 年に登場したジャン・マルク・エロー市長は、文化・芸術による市の振興策を掲げた。先ずは、ブルターニュ大公城や サン・ピエール・サン・ポール大聖堂、歴史的商店街「パッサージュ・ポムレイ」、ナント美術館、ジュール・ヴェルヌ博物館など歴史文化遺産を蘇らせ観光客誘致策定、次に内外のアーティストの交流振興のために市内の荒廃した工場跡地や古くからある有名建築物・施設を活かして多くのアーティストの招致と景観修景により文化、産業、自然の豊かさによる見どころに対して回遊環境の整備を行った。また現代アートを街中に多く取り入れパブリックアートも多くし、巨大な動物たちが動く新しいアトラクション「レ・マシーン・ド・ リル」など、新奇な取り組みにも力を入れて楽しい街を目指した。そのして、「ナントへの旅」としてディスティネーション・タイトルとしてブランド化し、「現代アートの町」としてイベントや展覧会を集中的に開催し、ホテル、レストラン、交通機関とも連携した大きな経済再生を果たした。現在、フランス国内で、住みたいまち上位にランクされるようになり、見事都市再生を果たした。 以上の例から、地域再生のための主項目を次にように表せる。 地域におけるビジョン企画、構想性による提案力 地域計画提案に対する実施協働運営能力と自主創造性を持ったリーダー 地域リソースの現状解析とマーケティング力 ブランド化と認知度アップの向上と外部への発信力 ビジネス・ツーリズム手法による人々の流入・交流の促進活動 もちろん、国情、地域規模、人材集積、地域リソース、地域産業構造、協働運営組織などいろいろな条件による地域差があるが、上記の 5 項目が地域再生に求められる基本となると考えられる。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 社会リサーチ・サイエンスト、日本専門家活動協会理事 青山学院大学社会情報学部元客員教授 小畑 きいちさんのその他の記事 2024/03/12 業界コラム 都市を巡る『北スペインにおけるスマートシティ』 2023/05/09 業界コラム 海外都市を巡り『キーウ (キエフ)』歴史に翻弄されてきた千古の歴史都市 2022/09/13 業界コラム 都市を巡る『中国・重慶 Chongqing』退潮工業都市から先端スマートシティへ 2022/02/08 業界コラム 都市を巡る『米国・デンバー Denver, Colorado』公共交通基盤整備による地区再開発と地域再生・ビジネス振興の仕組みづくり 2021/04/12 業界コラム 都市と地域創生 / 再生都市巡り『イタリア・ボローニャ(Bologna)』 2019/04/02 業界コラム 地域(地方)創生に関する諸視点 つづき( 3 ) 2019/03/05 業界コラム 地域(地方)創生に関する諸視点 ( 2 ) 2019/02/05 業界コラム 地域(地方)創生に関する諸視点 ( 1 ) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月