前回は、西欧における大都市と中都市における再活性化事例について述べた。かつて工業都市として繁栄を極めた都市が製造業などの海外への生産移転で空洞化が進み、コスト競争力低下による工場閉鎖などにより地域産業が衰退し、人口減に見舞われた工業都市の衰退した例が先進国で多くみられる。
先進国ではコスト重視の製造分野から、より高付加価値産業への転換を目指すようになり、コスト中心から、より先端的かつ複合的でクリエティブな業務分野への産業移行を進めるようになった。
事例にあるように文化複合を含めた分野と街への人々の流入・交流促進を目的としたビジネス・ツーリズムを促進する都市再生方策が注目されようになった。さらに街の魅力を強化し、人々が住みたいと思う街、「働く」意欲をかき立てるような都市環境、職住接近による良好な地域整備による市街地創生を目指す傾向がうかがえる。人の交流による複合型産業創生と起業など社会的な好循環とするために地域が人材のハブとなる人集めとしてのツーリズム手法と快適な都市整備によってさらに「働く意欲」、「楽しみ・気晴らし」、「過ごし易い生活環境」などを叶える市街地整備と地域環境プロデュースにより地域環境の向上により人々が流入する創造文化的な都市とすることが持続可能な地域・都市であろう。
先端情報技術の導入による産業構造変化に対応したビジネス環境へ転換によって需要創出サービス型産業と雇用創出を可能とする計画が活性化ケースとする事例が増加している。
人が行き交い、人を呼び込み、就業ができ、快適な街にするには、
・創造と継承できる街の魅力づくり
・地域支える産業育成クラスター化と地域のブランド化
・協働活動・共生を活かせる地域組織化
・快適な地域社会環境と多くの人を集める文化
・集客施設整備
・環境保全と災害に強い街づくり
・複合的で持続可能な創造の地域づくり
地域・街づくりは、数年では達成困難で長期的な視野が必須である。
しかし、日本では、多くの地域は、政府の指示待ち、平均的な対応に終始、個性のない地域活性化に奔走している。故堺屋太一は、著書「平成 30 年」で指摘するように、「何もしなかった日本」に記すように、改革を先送りする日本型統治組織への警告している。地域活性化においても、現状を変えずにいる自治体がまだ多い。
ここで、地方の活性化と中小企業などによる地方(地域)活性化創生事例を外国に見てみる。
前回、英国、ドイツ、フランスの事例を説明したが、今回は、政府に対して圧倒的に自立性が強い自治体が多い、EU4 位の国イタリアについて見てみる(一部筆者が、訪問時の主観が含まれるのでお許しください)。
イタリアは南北格差が大きい、これは歴史的経緯に基ずくものと考えられる。北部はミラノ、ベネツィア、ジェノバなど都市国家として、中部は教皇領として、南部は両シシリーなど王国として、それぞれ歩み。日本の明治維新前の 1861 年にイタリア王国として統一された経緯があり、日本のように強引に中央集権された統治体制と異なる。北部はハプスブルグ帝国、フランスなどの侵攻による文化産業的な影響も色濃く地方の独自性が残されている。
事例では主にイタリア中北部について見ることにする。イタリア商品で思い浮かべると、「Gucci」(トスカーナ州フィレンツェ)、「Tods」(マルケ州)、「Lamborghini」(エミリア・ロマーニャ州ボローニュヤ)、「BACAROFERRO」(ヴェネト州ヴィチェンツァ)、「Rossimoda」(ヴェネト州ストラ)、「Luxottica」(ヴェネト州ベッルーノ)、「GEOX」(ヴェネト州モンテベッルーナ)、「Ferrari」(エミリア・ロマーニャ州モデナ)、「Kappa」(ピエモンテ州トリノ)など世界的商品ブランドがある。都市発のブランドもあるが、多い地方発ブランドに注目したい。
イタリアの地方発ブランドの多くは、トスカーナ州以北のロンバルディア周辺、ベネツィア北周辺に存在する。
その主因と考えられるのは、コムーネと呼ばれる自治組織と都市国家として歴史的に旧領主・住民によ自立的に組織された構成された自治意識、政権・行政に依存しない組合運営体制などによる自立運営体制によるものと思われる。
その特徴としては、
コムーネ・都市国家以来の伝統を活かす産業から国際市場へ地場産業を飛躍させ自立した地方創生に成功して例がある。その要因とは、
・地域における自立協働体制の強化
・中小企業の高い企業性(協働組合による後継者育成、デザイナー・技術者育成、専門職訓練
施設設置、国外にも開かれた専門人材の招き入れ登用なども含まれる)
・エンドユーザー向けの事業に重心(下請け受注は回避、垂直型契約の回避)
・強力なリーダー・コーディネターの存在育成
・個人中小など地場産業による協働企業組合・クラスター形成
(政府による保護支援政策が期待できない、協同組合またが自治体による協働創生)
・国際市場に向けたデザイン・ブランド指向に重視(積極的に国際市場に進出)
・商品価格支配力の確保維持(低コスト競争を回避)
・多種少量上質指向の商品販売
・最終工程は国内を基本としブランド力保持
以上のように、主として地場産業を持続発展するために国内に留まらず、常に情報視点を国際的に広げ、地方においても国際的であり続け、都市・地域での各種国際見本市の開催により人々を呼び込み街の賑わいを演出し、ユニークな地方・地域の特質を生かしたコンセプト概念を設定している。このような地域・都市・街とビジネス・ツーリズムを巧みに結びつけている事例はわが国における良い参考となりえる。
国内においても、新潟県燕三条(食器金属加工)、岐阜県関(刃物加工)、広島県熊野(高級筆製作)、福井県鯖江(眼鏡フレーム)、愛媛県今治(高級タオル)など地場産業を地域の活性化のためにツーリズムとの共生を促進しているが、まだまだ国際化の可能性を充分活かしていない。
地方中小都市・地域は、収縮化する国内市場から、外に向けて視点変更する動きにイタリアの事例が地域持続的発展の参考になるではと考える次第である。
社会リサーチ・サイエンスト、日本専門家活動協会理事 青山学院大学社会情報学部元客員教授 小畑 きいちさんのその他の記事
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