社会リサーチ・サイエンスト、日本専門家活動協会理事 青山学院大学社会情報学部元客員教授

小畑 きいち

学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工...もっと見る 学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工学を学ぶ、
東京大学大学院で技術管理・MOT を学ぶ

職歴:米国系メーカーで、ソフト製品開発、コンサルタント、マーケティング、国際協働チームマネジメント、
カストマー・サポート統括、産学連携マネジメントを歴任

教育歴:工学院大学、浦和大学、東京大学先端研、早稲田大学(早稲田総研)、青山学院大学、東京電機大学などで非常勤、常勤、特任、客員など講師、研究員、教授などで従事

担当分野:システム工学、E-ビジネス、プロジェクトマネジメント、技術経営、社会情報、ユーザ・リサーチ、AI、空間計画(街づくり)、都市交通、都市社会、起業論など

デンバーは米国中部山岳地域のコロラド州最大都市で州都である。人口60万人超で都市圏人口は250万人規模となる。ロッキー山脈の麓・標高約1マイル(1.6km)の高原都市で"One Mile High city"とも称されている。デンバーは周辺の鉱山、油田開発などとともに発展してきた。地理的に米国山岳中部に位置することから交通・物流の拠点としても重視され、米国における交通ハブ都市として流通拠点として機能している、最近は通信・ハイテク企業などの集積が進み、地域産業も発展している。周辺にはロッキーマウンテン国立公園、アスペン、ヴェイル、ブリッケンリッジなど有名リゾート地が多くこれら観光スポットへのゲートウェイ拠点でもある。

都市環境悪化による衰退傾向の打破をTOD型再開発で

1950年以降、高度成長期、デンバーは人口急増による自動車交通量増加によって市内を東西に走る高速道路”Ineterstate70”号線沿いなどではひどい交通渋滞が発生し、排気ガスの大量発生によりデンバー上空には黄灰色の排気ガス雲が頻繁に発生し大気汚染が深刻となり環境悪化が進んだ。

1980年頃には、自動車の排気ガスの増加拡大による都市環境の悪化から、より良い住環境を求めて市内居住民の31%が転出し、人々がデンバー市外へ転出し居住する傾向が顕著になった。コロラド州を南北に走る高速道路Interstate25号線沿いの市・周辺郡など郊外の新興地域沿いに大型商業施設、企業施設などの進出展開が進んで、デンバー市内から郊外地域へ賑わいが移り、デンバー中心地区は賑わいを失い空洞化が進んだ。

デンバー市は地域再生のために、都市基盤の整備と人々が住みたくなるような魅力ある都市環境を目標に掲げた。米国内における東海岸と西海岸の中間的地理を活かした交通拠点の強化、都市公害のない都市基盤の整備、「働き盛り・若者など」の世代へ健康的で快適な生活環境の提供によって、「都市における良質なくらし環境」と「ワークライフバランス」を目指すとした。そしてビジネス関係の人々の交流などから新ビジネス創生と先端企業などの誘致によりさらなる活気ある都市を目指すことにした。

空港基盤の拡充整備

デンバー市は米国で都市間競争に勝ち抜くため、空路拠点としてのハブ空港機能拡張を検討した。しかし、滑走路の延長不可などの理由から当時のステープルトン空港は拡張が困難となっていた。そこで、拡張に必要な敷地を確保するためにデンバー中心部から30Km以上離れた広大な空港用地を取得した。新空港として、1985年に計画案が承認され1993年開港へと計画された。しかし、当初17億ドルと見積もられていた建設費は45億ドルにも膨れ上がり、計画の甘さが露呈、さらに業者への利益供与、汚職がらみなどの疑惑が浮上したことで計画は紛糾し、数次にわたる計画見直しや担当者の入れ替えなどがあり計画は迷走した。

当初の計画から遅れ10年後の1995年に空港がようやく竣工したが、さらに手荷物処理システム開発の遅延などで遅れに遅れた苦しみの開港であった。斬新なデザインは高評価であったが、デンバー中心より離れたアクセス課題、広大な敷地ゆえに駐車場など空港ターミナルより離れている、建設コスト高騰で建設費償還のために空港着陸料も高くなったなどの課題も残した。それらの課題にも拘らず成田空港の約10倍(13570 ヘクタール=33531エーカー)の広大な空港は現在6本の滑走路を有し、広さ全米トップクラスの拠点空港として同時離着陸などが可能の安全な空港として生まれ変わり、山岳中部の拠点空港としての地域を獲得した。

市内公共交通整備とショッピングモール再生

デンバー市は標高1マイル(約 1.6Km)という高地で、自動車排気カスの大気圏の飛散か大きく、さらにロッキー山脈が西風を遮ることで気流が停滞をする。このような地理・気候的特徴がよりさらなる環境汚染悪化の要因ともなった。こうした排気ガスによる環境悪化か生活にも影響を与えることとなり、自然環境良好とされたデンバー市の都市の魅力を低下させた。

排気ガスを低減し自動車に過剰に依存しない魅力ある都市の形成と将来的な都市発展を目指すために市内おける公共交通整備による地域開発が必須と考えた。そのためにデンバー市を中心とした周辺自治体と協働連携し、デンバー都市圏地域協議体“Denver Regional Council of Governments”を組織化し、公共交通整備の合意が自治体でなされた。その公共交通整備・運営のために破綻した市による経営体であった「Denver Metro Transit」を改組し、柔軟な組織の活性化と整備・運用の実施推進のために運営団体としてRTD(Regional Transportation District)を新設した。
RTDにより都市再開発と公共交通基盤整備計画を推進することとした。その建設費用として、地元による建設資金を調達し、さらに連邦政府の補助金と州政府の支援金を当てたが、運営のための資金不足が明らかになった。そこで住民に一部負担を呼びかけを提案し、住民に訴え協議を起こした。提案としては公共交通整備運営の一部として、売上税の0.5%を運用費用として充てることを住民投票で問い多数の賛成を得て承認された。その結果、1973年に敷設整備計画にたどり着いた。また地域再生計画としてダウンタウン中心街の16番ストリートをショッピング・モールとして再生整備し、バス路線を統合整理しなからトランジットモール化して歩行移動環境整備も進める計画を示し、快適な遊歩路整備とファミリー世代・若者など含む全世代の移動交通手段としての便を供するために、長さ1マイルのモールを往復する“Mall Ride”(無料シャトルバス)による運行運用を開始し、街路周辺のカー・パーキングとの接続による“パーク・ライド”環境の提供も併せて、郊外からのアクセスを向上させたことで好評を得てた。

16番ストリートにおける公共交通基盤とショッピング街の再生はトランジットモールとして成功した。この成果により街の再生、賑わいをもたらした。さらに、1994年に最初のLRT(軽快路面電車)かダウンタウン中心部30th&DowningからBroadwayまで5.3マイルを開通させ車両11両で運行開始し利便性を高めた。1日の利用者か1万6千人となり市内外の住民の高評価を得た。すでに運行していた“Mall Ride”(無料シャトルバス)と共にダウンタウンの交通基盤として根付き、この路線は乗降客か多く路線として成長した。人の行き交いが増加して、賑わいを街にもたらし、空洞化していたしていた地域の再生を劇的に果たした。16番ストリートにおける公共交通基盤とショッピング街の再生はトランジットモールの成功例として住民に高い評価を得て、さらなる公共交通の整備拡充が住民から要請されるようになり、全世代層への快適な移動交通手段のひとつとして定着している。

デンバー市は、このような米国では珍しい歩行環境の良さを“A WALKABLE CITY”として喧伝している。1994年に開始されたLRT(路面電車)/鉄道は路線延長を重ねて、2019年に運行開通の路線を含め現在約200Kmに延長され、欠かせない都市基盤となっている。

伝統的建造物Union Stationリノベーション・
地区再開発と交通基軸網整備

デンバーはかっていくつかの鉄道路線が通り、それぞれが異なる駅で発着して不便であった。これらのバラバラな路線を結節し中央駅をつくり1881年に開設されたのがユニオン・ステーション(Union Station)である。その後一時焼失もあったが、1914年にボザール様式で再び駅舎が建設され現在の駅の原型となった。だが1960年代以降にクルマ社会の到来と航空便利用増加により鉄道が利用者急減で衰退し周辺地区は寂れ荒廃した。しかし1990年頃から過剰なクルマの依存とクルマの排気ガスで大気汚染による環境悪化した都市のあり方を見直す傾向が高まった。このような状況変化に連邦政府も支援に乗り出し、全米で都市公共交通整備の要望が高まり都市交通の整備促進の法制化された。デンバー市はここに注目し交通と市街再生一体化事業の一環として、市内交通の軸とすべく設駅舎改修を含む事業計画が検討された。その改修実施案として2012年にユニオン・ステーション連合(Union Station Alliance)による提案が採択された。駅舎修築ではホテル、商業施設、交通施設と公共施設が内包され、駅舎自体は2012年から改修工事に入り2014年に竣工した。デンバーにおける記念碑的なボザール様式建築物(National Register of Historic Placeに認定)はシンボル性を取り戻すこととなった。そしてヤード跡地の駅前周辺地区再開発は、ビジネスオフィス、商業施設、集合住宅など織り交ぜて再開発され、新商業施設、起業などへのオフィス群、住宅群などによりデンバーの商業/職住混合の新拠点として生まれ変わり、新たな公共交通拠点としてユニオンステーションを核として、長年の課題であった中心街とデンバー空港間を直結させる鉄道(Commuter Rail)路線新設による空港アクセスの改善を図るとした、このデンバーユニオン地区は若者に人気のある歴史的街並みのラリマースクエアを含むLoDo(Lower Downtown)に隣接という利点を活かして賑わいを増し、さらに既設の公共交通移動手段であるLRTと無料シャトルバスによって中心繁華街である16th Streetへと接続され賑わいが線的にも連携拡張が期待されビジネスコンベンション・シティーとしての強化を目指した。

デンバーにおける「賑わい」と「ビジネス拠点」への仕組みづくり

デンバーの交通移動手段が整ったこととダウンタウンのトランジットモール化で買い物、歩行回遊を楽しみ、さらにコンベンション施設などにおいて催されるイベントなど、LoDoにおいては飲食・エンターテインメントなど活気あるダウンタウン地域、またスポーツイベントの場もCoors球場(2021年度の大谷翔平選手が活躍したMLBオールスター戦の開催球場)、Ballアリーナなどの施設地区が公共交通路線で結ばれ行き交いが容易で至便な箇所となり人々を街に吸引した。コロラドは冬以外快晴に恵まれることが多く、四季に合わせた市内外でのイベントも多く開催され、賑わいと楽しみが市民またが団体などが提供企画されている。

LoDoラリマー広場

さくらフェティバル

葛飾北斎風なストリートアート

デンバーでは年中イベントが開催されている。主なイベントとして、コロラドガーデンショー、聖パトリックパレード、デンバー・フェスティバル、日系サクラ・フェスティバル、デンバー黒人アートフェスティバル、独立記念フェスティバル、スコットランド系フェスティバル、オクトバーフェスト(ドイツ系)、クリスマス、ライト・パレードなど1年中行事イベントが絶え間なく開催される。さらに博物館、美術館などの見どころもある。日常市民の潤いと楽しみへの仕組みも演出し、街路アートとして、ストリート・ファニチャ、アートオブジェなどを設け、そして、英国などで人気を博しているストリートピアノも16th Streetに複数台設置し市民が楽しんで弾き、市民同士の交流の場ともなり好評となっている。

またLoDoのSakura広場における「さくら祭り」も日本への関心が高まる中、盆踊りなど市民の多くが楽しみ人気を博している。公共交通基盤整備からはじまり「しごと」と「くらし」などへとデンバーの再生は、交通整備とスクラップビルドよらない既存建物リノベーションと街区再生による都市生活の快適実現を重視した都市整備を促進した。

一方ビジネス振興においても活気あるビジネス拠点となる活動仕組みとして、コンベンションセンター、劇場、広場やオフィスなどで起業、イノベーション、ビジネス・コミュニティに関するセミナーやミーティング、イベントを集中開催し、街ごとビジネスウィーク化として大規模に開催。企業のみならず市民向けに起業や先端技術・革新的商品紹介・経営手法などに関した多彩な交流も行っている。さらに広く企業家や専門家へもオープンな場として交流ネットワークを構築し、同時にJob Fairも開催されビジネスウィークの魅力を高める工夫をしている。米国だけに留まらず、世界にも広げることを目指して多様なイベントプログラムを提供している。それらの仕組みを実行運営するために “Downtown Denver Partnership”なる組織団体が設置されて、”Denver Startup Week”として定期的に広範なビジネス交流イベントを協働開催で行うことで、デンバーにおける起業機会の創生と新規起業などビジネス交流環境整備と地域ビジネスの好循環を目指している。

まとめ

デンバー市の公共交通整備による地域再生は、鉄道ゼロからのLRT、鉄道網が200Kmとの拡充は全米において、目を見張るような成功例として評価されている。このような都市環境の社会基盤整備と住民志向の仕組みづくりにより人々を集め、進出ビジネスによる事業所開設、スタートアップ企業などによる起業が盛んとなり、地域経済の発展成長を支えている。  

しかし、2019年のコロナウイルス感染症によるパンデミックはデンバー市も例外に漏れず、経済、生活に大きな影響を与えている。公共交通機関の利用者が激減し、運営赤字に陥り、RTD組織の収縮が避けられず、列車の運用本数を低減、職員のダウンサイズを迎えている。しかしデンバー市は、将来に向けてさらなる環境重視のSDGsに対応する都市整備を計画を推進し、今後は地球温暖化に対処した環境都市構想を掲げている。

閑話休題

デンバーRTD路線距離は約200kmとして、デンバー都市圏における公共交通基盤として欠かせない都市基盤となっている。日本国内で最長となる広島市における路面線、鉄道線が約35Kmに比べ、その路線距離は大規模である。交通運営コストは負担が大きく、連邦政府、州政府の支援のみでは資金が不足し、それを売上税の0.5%と住民の負担を得ての運用は、住民の環境保全の希求と自治体の自立決断性があってこそ可能となったとされる。しかしデンバー市は、それ以上に都市環境の改善に多くの住民の賛同得て、さらに街づくりへ協働することにより、人々の交わりを高め、地域ビジネスの振興に結び付けることが都市の生き残る要因と考えたとされる。

国内では、路面電車による公共交通基盤の整備は、最大の広島市以外にも富山市におけるLRT交通整備による中心街の再生計画、現在進行中の宇都宮市による路面電車LRT路線の新設が注目される。しかしこのような例は、国内で少ない。日本の現状に比べて環境重視の欧米などの都市においては、多くのLRT基盤整備による移動手段の提供を起爆剤に市街地再生を目指している。単なる交通基盤整備とせず都市社会基盤整備再生といった考え方が理念としてある。この点では、日本は欧米諸都市と比べて遅れている。SDGs(地球環境保全のための持続可能な17の目標)を目指すためには、日本は社会整備の一環として再考が必要だと考える。海外とは諸条件の相違があるが、デンバー市の成功例はひとつのヒントとなるかもしれない。

≪ 参考 ≫
(1) Union station TOD Project 2014 RTD
(2) Denver Union Station Master Plan 2004.
(3) 2020 TOD Status Report RTD