社会リサーチ・サイエンスト、日本専門家活動協会理事 青山学院大学社会情報学部元客員教授

小畑 きいち

学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工...もっと見る 学歴:青山学院大学で経営学を学ぶ、東京電機大学大学院で都市工学を学ぶ、
東京大学大学院で技術管理・MOT を学ぶ

職歴:米国系メーカーで、ソフト製品開発、コンサルタント、マーケティング、国際協働チームマネジメント、
カストマー・サポート統括、産学連携マネジメントを歴任

教育歴:工学院大学、浦和大学、東京大学先端研、早稲田大学(早稲田総研)、青山学院大学、東京電機大学などで非常勤、常勤、特任、客員など講師、研究員、教授などで従事

担当分野:システム工学、E-ビジネス、プロジェクトマネジメント、技術経営、社会情報、ユーザ・リサーチ、AI、空間計画(街づくり)、都市交通、都市社会、起業論など

世界的にスマートシティへの関心が高まり、内外でスマートシティ開発が進められている。欧州ではヒューマンスケール重視スマートシティとしてスペインが注目され、特長あるスマートシティへと推進しているが、その代表的な北部3都市を紹介する。

スペイン3都市のスマートシティの取り組み事例

サンタンデール

スペイン北西部・カンタブリア州都(人口約20万)でビスケー湾に望む中都市で人気観光地である。
サンタンデール市はクルマによる交通渋滞と大気汚染、エネルギー消費増加などによる環境関連問題を抱え、ゴミ・廃棄物処理などの公共サービスのコスト増加や観光情報の発信にも課題があった。

改善に向けて個々で対処を行っていたが、対策は連携されず縦割り組織による「部分解決」となっていた。2010年に、サンタデール市はEUへ交通渋滞、大気汚染などへの解決案として「スマートサンタンデール(Smart Santander)」プロジェクトを提示し支援を要請した。公共サービスによって得られるデータを共有活用して、総合的な環境対策により解決するプロジェクトとして、EUに投資対象として初の承認決定がされた。サンタンデール市はIoTプラットフォーム「FIWARE」を導入し、データの共有を行い、市中に設置したセンサーからの情報データ類を活用し、交通渋滞の削減、センサーによる適時収集と最適なルートを算出によりコストを削減した。また実施にあたっては、カンタブリア大学のほか、スペインの大手通信事業者の「Tlefonica」、フランス「Alcatel-Lucent」、スウェーデン「Ericsson」など15の企業・組織が参加するコンソーシアムを結成し推進した。センサーからの情報は、市当局が状況を把握して各種の対策を講じる手段とすると共に、市民やツーリストなどにも情報提供され好評を得ている。このほか、街灯をそれまでのナトリウム灯からLED灯に変えスマートライティング化し、スマートポールとして公園などにおける噴水、散水の給水サービスなどにもスマート化を進めている。

バルセロナ

スペイン・カタルーニャ州都の人口は160万超規模で、スペインではマドリッドに次いで第2位の産業・観光都市である。
バルセロナ市がスマートシティ化への取り組みを始めたのは、1999年にCity Councilの成長戦略で掲げられた“City of Knowledge”まで遡るとされる。2000年ではIT部門が個々に対応処理し、当初は技術中心の構想としたが、新しく就任した市長コウラの提唱で、「市民中心」のシステム構築とすべきであると、理念の導入を決定した。都市機能と市民の動きを「生態(エコロジー)」という概念で考え、あらゆるテーマにおいて「市民の生態と暮らし」を中心としたプロジェクトとすることを基底理念とした。地域内での廃棄物処理、エネルギー供給など循環型経済として自給対処できるものは、できるだけ自前で行うという発想転換をした。

そして関連プロジェクトの構想を、IT部門と都市生態部門で連携して強化し全市を挙げて推進することとした。
2006年から2008年にかけて、市内にセンサー類の設置を進め、パーキング情報、街灯、公共交通、廃棄物収集、シェアサイクルサービスなど行政サービスを含めデータ情報の共有を徹底し、さらに大気、騒音、水質、気温といった生活生態環境の情報を人々に提供した。その結果、都市生態・環境情報などセンサーからネットワーク経由でデータを収集、集約し「センティーロ(Sentilo)」と称する統合システムを稼働させた。
さらに2011年からは世界的規模のスマートシティ国際会議(Smart City Expo World Congress)も開催した。

このような積極的なバルセロナ市の活動に対して、2014年に「欧州イノベーション首都(European Capital of Innovation)」として選出された。そして2015年には、技術中心から市民中心へと進化、データ独占の抑止、民主的な「City OS」の整備による「オープンデータ・ガバナンス(Free Open-Source Democracy)」を目指して、デシディム(Decidim)という組織を形成し市民参加を呼びかけ、民主的かつ未来型先進都市として持続可能都市を目指した。さらに、快適な都市空間を目指し、近隣区域市民へ公共スペースを提供する「Super Block」計画も決定した。グリッド状の9街区をひとつのスーパーブロックと指定し、歩行優先地区として自動車の進入を制限することで、スペースを市民に開放した。その利用方法は近隣市民に委ね、市民同士のコミュニケーションを深め、近隣の地域市民活動を活性化し、持続的な都市の進展を目指すとした。
それらスペースは近隣公園、児童公園、休憩ベンチ・ピクニックテーブルなどの設置、緑地など種々な用途に適用されている。その結果、自動車通行量が80%減、C02排気ガスは32%減、そして歩行通行量が増えたことで近隣のカフェやショップへの来客も増加し、周辺は賑わいを取り戻し住民同士の連携も多くなり好評を得た。

ビルバオ

人口約35万人、バスク自治地方では第1位でスペイン全体でも第10位の都市である。かつては製鉄、造船などで栄えた工業都市であった。しかし、1980年代に新興国などとの競合が熾烈となり競争力が低下衰退し、さらに公害などの問題を抱えていた。1986年のスペインEU加盟などにより、工場・造船業などの閉鎖が続き、衰退する産業構造の転換が避けらない状況となった。そしてサービス・文化創造など第三次産業への転換構想が模索された。その象徴がビルバオ・グッゲンハイム美術館招致で1997年に建造竣工された。その影響でビルバオは、文化創造都市としての足掛かりを得て有名となった。
さらに、都市再生整備が行われ、美術館周辺には磯崎新の設計によるツインタワーなどの斬新な建造物が続き、交通網の空白地帯にトラム路線を設けるなど市内外の周遊者にアクセス手段を提供することで、古くからの街並みが残される旧市街に調和した文化・芸術を活かす創造的な街づくりに取り組んでいる。そのような努力によりビルバオはUNESCO創造都市ネットワークのデザイン都市に認定された。この斬新な都市再生整備の成功は、人々から「ビルバオ効果」と称賛されている。

次にEUにおいてスマートシティと認知されたビルバオは、新たにサービスビジネス関連の革新都市としての成長を目指し、国際競争力を維持強化するため技術知識を向上させ、世界に開かれた都市となるよう目標を定めた。それによりビルバオは、環境・技術・社会・経済の分野を合わせ持ったスマートな成長を進め、高度な雇用と市民中心ベースとしたQOL向上と経済活動を継続的に生み出すことを決めた。

ビルバオは、市民中心ベースという基本理念をもつ特色あるスマートシティとして以下の4つを掲げた。

  • スマートガバナンス
  • 才能とテクノロジーによる起業家精神の発揚
  • テクノロジーと情報への容易なアクセス
  • デジタルインフラストラクチャの充実

また、ヒューマンスケール・シティとしてテクノロジー編重とせず、人間と技術のバランスがとれた都市を目指すこととした。この目標のためビルバオは「In Focus Network」を立ち上げた。重要課題がある時は域内の各スマート専門化戦略と連携して、総合的な都市開発によって各地の専門性と特長を促すこととした。専門分野に応じて変化著しい経済情勢に対応することで、競争力と雇用創出能力を強化し域内の10市・町で連携した活動ネットワークを構築し、スマートシティを目指すとした。

ビルバオは「Smart Specialisation Approach」、「The Advanced Business Services(Knowledge Intensive Business Services – KIBS)」、「the Cultural and Creative Industries (CCI)」と「the Digital Economy」の各分野の組織が連携して都市戦略を進め、プロジェクトにおいて各特長を活かした戦略とした。ビルバオ市議会(Bilbao Ekintza)、ビスカヤ州議会、地域のスマート専門域を担当するバスク自治政府から、研究センター、大学、商工会議所まで、地元の関係者とEUが掲げるURBACTプロジェクトに対応したグループ「URBACT Local Group」をも立ち上げた。さらに、先端クリエイト産業、関連企業となる組織EIKENと電子情報技術協会により「クラスターGAIA」も参加。「URBACT Local Group」は、公共および民間の人々のグループがアイデアと潜在的な技量を共有し、ビルバオ市の戦略計画に役立て、優先分野の専門性を深める働きをしている。URBACTによって奨励された地域および国境を越えた交流と活動が、都市の分野解決策へと実施するための地域チームのスキルを強化し寄与し、相互に影響を与えている。
このように「ビルバオ市議会(Bilbao Ekintza)」などの活動によって都市再生と産業振興のバランスのある都市再生が続けられている。

ビルバオは具体的な対象として以下のような施策を決めている。

  • Smart Economyスマート経済(ビジネス、金融の IT化、高度化、起業促進)
  • Smart Peopleスマートヒューマン(e-教育、高度教育、生涯教育、大学との連携)
  • Smart People Buildingsスマートビル(スマート公共施設、ビル施設のスマート化)
  • Smart People Livingスマートリビング(QOL向上、ヘルスケア、ソーシャールケア)
  • Smart Mobilityスマートモビリティー(インターネット活用のモビリティ、容易アクセス)
  • Smart Governanceスマートガバナンス(e-ガバナンス、ITインフラ整備)
  • Smart Environmentスマート環境(都市・自然環境の保全、安全・保護)

そして、インフラ基盤への投資も進められ現在も再開発計画が継続進行されており、世界各地の創造都市プロジェクトの中でもっとも成功した事例のひとつとされている。2019年にはIMDなどによる世界スマートシティ評価で10位にランクインされた。そして、市内をスマート化する面でも工夫が見られる。快適な都市空間としての調整もあり、歩行者が自由にスムーズに移動できるような遊歩路とトラムの組み合わせへも工夫があり、市民を含め外来者にも優しいヒューマンスケールの移動空間も提供している。

※ URBACT;2002年からEUで実施されてきた都市政策プログラム。その前身でもあるURBANで得られた都市再生の知識や経験を、より多くの都市に提供するために、複数の都市で政策ネットワークを形成し、情報交換や経験共有を行うプラットフォームである。

ビルバオのデジタルトランスフォーメーション戦略

ビルバオ市民の生活、仕事、移動の方法がテクノロジーによってますます変化する中、地方自治体は市のデジタル変革に向けて、すべての地元の利害関係者を動員し、ヒューマンスケールのデジタル戦略を作成することを決定。このビルバオが行っている、関連する国際的なベストプラクティスを都市の経済的、社会的、文化的な特性に適応させた持続可能なデジタルアプローチは実を結び始めている。

【参考・引用】
藤堂安人:スペイン・サンタンデール日経BP総研クリーンテックラボ2019
小林巌生:「スマートシティ先進都市バルセロナ市の取り組み」可視化情報2018
和泉汐里:EUの都市再生ネットワーク・URBACTにおける政策形成プロセスと成果に関する研究、科学技術振興機構
阿部大輔:URBACTのテーマの変遷に見る衰退コミュニティ再生の特徴2023
Bilbao(ES),Smart specialisation in a post-industrial city 2019