2012/04/10 業界コラム 生田 幸士 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977...もっと見る 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977年 大阪大学 工学部 金属材料工学科卒業 1979年 同学 基礎工学部 生物工学科卒業 1981年 同大学院 博士前期課程物理系・生物工学専攻修了 1987年 東京工業大学 大学院 理工学・EE、究科 博士後期課程・制御工学専攻修了 (工学博士) 同年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター 主任研究員 1989年 東京大学 工学部 計数工学科 専任講師 1990年 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 1994年 名古屋大学大学院 工学研究科 マイクロシステム工学専攻 教授 2010年4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 2010年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 (兼務) 2010年秋 紫綬褒章受章 2019年 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 2019年 大阪大学工学研究科栄誉教授 2020年 大阪大学 医学部 招聘教授 1996年-2001年 日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業 複合部門「生命情報」推進委員 「人工細胞デバイスの開発」プロジェクトリーダー 2003年より 21世紀COE研究サブリーダ 2004年より2009年 名古屋大学 高等研究院 研究員併任 2004年より2009年 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ プロジェクトリーダー 所属学会 IEEE,ASME,日本機械学会,日本ロボット学会(理事,会誌編集委員長),日本ME学会(会誌編集委員), 日本コンピュータ外科学会(理事)等会員. たまごは食べなくても栄養になる。それも頭脳を鍛えることができると書くと、読者を混乱させるかもしれない。しかし、本当のことである。 たまごで鍛えろあっさり種明かしをしよう。限定されたサイズのボール紙(現在はB5サイズ)と、ボンドだけを使い、生たまごを30mの高さから落しても割れない工夫をする「たまご落とし」コンテストが今回のテーマである。 筆者が20年近く大学で実施している授業の一こまである。約20年前、九州工業大学情報工学部機械機システム工学科の助教授をしていた時に始めたもの。その後筆者の転任に伴い、名古屋大学、東京大学だけでなく、NHK「課外授業・ようこそ先輩」で大阪の母校の小学6年生や、フィールズ賞数学者の広中平祐先生主催の「数理の翼セミナー」では全国から来た理系高校生にもトライしてもらっている。 成功するのか?結果は、小学生は大学生の10%前後を大幅に上回る25%が成功。これまで見たこともない新しいアイデアもあった。小学生の柔軟な思考と高い作製能力に驚愕した。まだ小学校での実施回数は少ないので、一般化は危険だが、小学生の全作品が持つ豊かな発想と個性的デザイン、さらに、頼んでもないのに勝手にぺたぺたと塗った作品の彩色を見て、彼らの発想は無味乾燥な作品群を作る大学生を遥かに超えていることは明白であった。 数理の翼セミナーの高校生も20%が成功。昨夏、炎天下島根県益田市で実施したスーパーサイエンス高校の場合は30%を超えていた。 他方、大学での成功率は年々下がっている。昨年度の名古屋大学機械系では従来の12%から8%まで下落。さらに作品群にも工夫が少ない。これには驚いた。コンテスト直後、参加学生達と原因を分析した。 「今年はどうして、出来が悪いのかな?」 「先生、だって僕ら、ゆとり教育真っ只中の世代やから!」 「・・・・・」 たまご落としの意義このたまご落としコンテストを見た研究者の中から受ける典型的な質問は下記である。 「たまご落としをすると、学生の創造力は増強されるか?」 「創造力の改善度を評価せよ。できれば定量的に示せ」 「小学生でもできる課題を、大学生や大学院でやる意味は?」 これらの質問の創造性の無さには目をつぶるとして、たまご落としをすれば即座に創造力が増すことはない。成否の理由を深く考え、「イマジネーション」(想像力)が重要であることを「気づかせる」ことができる。これだけである。研究や仕事におき、イマジネーションを発揮しつくして解決策を編み出す「深い思考と観察のくせ」をつけることが、最大のねらいなのである。 イマジネーションがすべて筆者の夢は、工学者の立場で医療に改革をもたらすことである。改革の起爆剤として「新原理と新発想」にこだわった医用ロボティクスとバイオマイクロマシンを研究してきた。幸い金属工学と生物工学の2つの学科を卒業し、ロボット工学で博士を取得したこともあり、この未踏学際分野を産みの苦しみどころか、ルンルン気分で歩いてきた。 マイクロマシンは肉眼で見ることも、触ることもできない。筆者のマイクロマシンが扱う対象は、柔軟でデリケートな臓器や、細胞、DNA、蛋白である。高度なイマジネーションがなければ研究ができないだけでなく、医学者の嘲笑を買う陳腐な機械を具現化することになる。 日本に新産業を待望するなら、ベンチャーや企業への予算手当てよりも、教育システムへの予算配分が鍵になる。中でも、生徒学生の自主的な取り組みが必要な「創造性教育」の構築が急務である。一方的に教える「教育」から、教師と学生が共に学び育つ「共育」の時代に戻すことが目下の目的である。 腐ったたまごも、脳には効くのである。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士さんのその他の記事 2021/03/08 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (2) 2021/02/04 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (1) 2020/12/01 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.12宇根さんの虹 2016/07/05 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 2013/11/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.10 不気味の谷に集う人々 2013/09/03 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 2013/05/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.08 作って落として感動しよう 2013/03/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.07 桜の下で馬鹿になれ 2012/12/04 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.06 馬鹿になってノーベル賞 2012/08/07 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 2012/07/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 2012/04/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 2012/02/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.02 パリでの日本再考 2012/01/17 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.01 小さな機械で大きな夢を 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月