2016/07/05 業界コラム 生田 幸士 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977...もっと見る 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977年 大阪大学 工学部 金属材料工学科卒業 1979年 同学 基礎工学部 生物工学科卒業 1981年 同大学院 博士前期課程物理系・生物工学専攻修了 1987年 東京工業大学 大学院 理工学・EE、究科 博士後期課程・制御工学専攻修了 (工学博士) 同年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター 主任研究員 1989年 東京大学 工学部 計数工学科 専任講師 1990年 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 1994年 名古屋大学大学院 工学研究科 マイクロシステム工学専攻 教授 2010年4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 2010年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 (兼務) 2010年秋 紫綬褒章受章 2019年 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 2019年 大阪大学工学研究科栄誉教授 2020年 大阪大学 医学部 招聘教授 1996年-2001年 日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業 複合部門「生命情報」推進委員 「人工細胞デバイスの開発」プロジェクトリーダー 2003年より 21世紀COE研究サブリーダ 2004年より2009年 名古屋大学 高等研究院 研究員併任 2004年より2009年 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ プロジェクトリーダー 所属学会 IEEE,ASME,日本機械学会,日本ロボット学会(理事,会誌編集委員長),日本ME学会(会誌編集委員), 日本コンピュータ外科学会(理事)等会員. 今年の 3 月下旬、ワシントン DC にある学術雑誌サイエンスの本部 AAAS に、世界から 20 名近い研究者が招聘された。これが「サイエンスロボティクス」の初の編集会議である。しかし、筆者だけでなく他の研究者たちにも、サイエンスの目指す方向は不明であった。 まず人ありき 初日、会議室に現れた顔ぶれは意外であった。現在のロボティクス分野の学会や学術誌の中心メンバーも数名いたが、大半が SF に負けない未来的なロボットを研究してきた研究者たちであった。具体的には、手術ロボット、マイクロロボット、ナノロボット、バイオロボット、細胞ロボット、海洋ロボットなどの未踏分野である。 冒頭、編集長(Editor in chief)のインペリアルカレッジの Yang 教授(本コラム No.4 参照)と事務長から、新ジャーナル発刊の主旨説明があった。面白いことに今秋に発刊が決まっているにもかかわらず編集方針を決めることが今回の会議の目的であった。 市場は創るもの? 各自に与えられた課題は、サイエンスロボティクスで扱うべき研究分野と編集方針である。筆者は、将来出現するロボットや分野の定義を現時点で行うことはあまり意味がないと考え、「今、定義を決められるなら新規性は薄い。真に重要なことはイノベーションであると」話した。さらに「編集方針は従来の学会誌のように論文が並ぶだけの体裁より、サイエンスの体裁がベター」であるとも。 サイエンスには査読された論文やレビューも掲載されるが、Editor’s Choice 欄がある。これは編集者らが他の学術誌に掲載された論文から、サイエンスの読者に興味があるネタを紹介するユニークなコーナである。 このコーナの貢献のひとつは、旧来の学会では十分理解されず高い評価が得にくい斬新な学際研究を世界的に有名にし、激励することになっている点である。ここに掲載された後、大型予算が付いたり、その研究者が認められるケースが多々ある。編集者の方向付けで新しい研究分野が構築されて行くわけである。そして大きくなった新規研究分野の成果がサイエンスの論文として投稿、掲載されるサイクルができる。研究論文における市場形成とも言える。 最終結論は進行形 2日間の討論の結果、多くの賛同を得た内容とは、医療福祉、バイオ、マイクロナノ、AI などと学際研究は当然であるが、心理学、倫理学、社会学、哲学、法律学など社会科学と連携するテーマ群にも焦点を当てることであった。筆者はロボット倫理学、ロボット法律学などは早急に構築すべき課題として強調し、現在のロボットとは異なる形態の広義の知能機械システムや、再生医療を加速する自動機械などの分野を強調する提言をした。 高度なセンサーや新原理メカトロニクスなど最先端の「部品」はどうするのかとの意見もあったが、革新的であれば大歓迎とされた。 20 人に満たない編集顧問委員の増員も検討されたが、集まる論文の分野に応じて追加すればよく、先走っての増員は控えることになった。結論は、すべて「進行形」なのである。悪く言えば「不確定なジャーナル」であるが、実際は「動的に成長するジャーナル」となった。トップダウンのスタートでありながら、内容は曖昧さを持つ進行形。いかにも米国流である。日本では難しい。 投稿のポイントは サイエンスの姉妹ジャーナルとしての効果は未知であるが、上記の主旨を理解し、論文を書けば分野違いの研究者も理解されるはずである。たとえば森政弘東工大名誉教授が 1970 年台に発想された「不気味の谷」(本コラム、No.10 参照)は、ロボットと心理学を結ぶ重要な示唆を持った内容であった。当時は学会誌ではなく一般誌に掲載された。現在でも哲学的な内容の論文は理工系の学会誌では掲載されにくい。もし当時サイエンスロボティクスが存在すれば歓迎されたはずである。 もし読者が的確な学会が存在しないほど新規性が高い研究成果を得たなら、それはサイエンスロボティクスに投稿する意味がある。広い世界に論文を泳がせば、思わぬ分野からの評価と餌をもらえるに違いない。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士さんのその他の記事 2021/03/08 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (2) 2021/02/04 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (1) 2020/12/01 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.12宇根さんの虹 2016/07/05 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 2013/11/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.10 不気味の谷に集う人々 2013/09/03 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 2013/05/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.08 作って落として感動しよう 2013/03/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.07 桜の下で馬鹿になれ 2012/12/04 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.06 馬鹿になってノーベル賞 2012/08/07 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 2012/07/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 2012/04/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 2012/02/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.02 パリでの日本再考 2012/01/17 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.01 小さな機械で大きな夢を 関連情報 その他 バックナンバーはこちら 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月