2012/08/07 業界コラム 生田 幸士 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977...もっと見る 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977年 大阪大学 工学部 金属材料工学科卒業 1979年 同学 基礎工学部 生物工学科卒業 1981年 同大学院 博士前期課程物理系・生物工学専攻修了 1987年 東京工業大学 大学院 理工学・EE、究科 博士後期課程・制御工学専攻修了 (工学博士) 同年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター 主任研究員 1989年 東京大学 工学部 計数工学科 専任講師 1990年 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 1994年 名古屋大学大学院 工学研究科 マイクロシステム工学専攻 教授 2010年4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 2010年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 (兼務) 2010年秋 紫綬褒章受章 2019年 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 2019年 大阪大学工学研究科栄誉教授 2020年 大阪大学 医学部 招聘教授 1996年-2001年 日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業 複合部門「生命情報」推進委員 「人工細胞デバイスの開発」プロジェクトリーダー 2003年より 21世紀COE研究サブリーダ 2004年より2009年 名古屋大学 高等研究院 研究員併任 2004年より2009年 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ プロジェクトリーダー 所属学会 IEEE,ASME,日本機械学会,日本ロボット学会(理事,会誌編集委員長),日本ME学会(会誌編集委員), 日本コンピュータ外科学会(理事)等会員. 快晴の8月、緑濃い本郷キャンパスに蝉が発する求愛の「音」が響き渡る。ランチタイム、安田講堂直下の地下基地のような中央食堂まで、銀色の陽射しと体温を超えそうな熱気に集中力を失いながら校内を歩く。この時期は試験期間も終わり、校内の学生数は激減する。 反面、高校生と一般見学者が激増。東大は東京の名所であるだけでなく、高校生の見学旅行のメッカになっている。特に、本郷通りに面した加賀前田藩ゆかりの赤門と、時計台のお手本のような安田講堂は2大写真ポイント。普段でも記念写真を撮る姿が絶えない。 本郷キャンパスの夏三四郎池「シャッター押してもらえますか?」と満面の笑顔の女子高生に声を掛けられる。暑さでふらふら歩いていると、暇そうに見えるのだろう。もちろん、断ることはない。最近はデジカメだけでなく、薄いスマートフォンが多いので少し気を使う。電話とカメラを一体化するなら、撮影しやすいデザインにして欲しい。 娘を持つ親として筆者は女性の記念撮影は得意である。夏の日中は顔の陰影が濃くなるため本来ポートレート向けではない。光が優しい日陰に移動させたり、フラッシュを光らせて影を弱くしたり、サービス満点である。背景に赤門の場合は問題ないが、安田講堂は背が高いため、立ち位置が意外と難しい。講堂の前に立つと、近づき過ぎて時計まで入らない。講堂全体をフレームに入れると、今度は人物が豆粒になる、かなり手前の芝生の端に立ってもらうと、両者のバランスが良い。ただし、午後になると銀杏の葉の影が迫るので、これも避ける。 夏の安田講堂 駒場時計台 学問と商魂8月は各大学で高校生向けのオープンキャンパスが盛んである。10年前と違い、東大でも高校生へのサービスは充実している。各大学のホームページを見れば、イベントが容易に見つかる時代である。地方大学も負けていない。 東大では筆者が属する工学部だけでなく、6月には駒場キャンパスの研究所でもオープンラボがあり、最近の見学者は社会人より高校生がメインである。先生がバスで引率してくる。 両方のキャンパスには、多くの研究成果がガラスケースに入れられ屋外で常設展示されている。読者も来校の際には発見して欲しい。筆者が属する計数工学科の工学部6号館前には、糸川博士が開発に成功した日本初のロケット「ペンシルロケット」や「衛星あかつき」の実物大模型が置いてある。中高校生や散歩の年配者は熱心に写真撮影までしているが、肝心の在校生はあまり見ていない。残念である。 工学部6号館前 ペンシルロケット お土産も豊富である。安田講堂の脇にある大学生協でも数十種類の東大グッズがある。赤門の横にも東大の研究から発信された高級商品がある。大賀博士の古代蓮の花から作った香水まである。これは筆者の母のお気に入りである。どの商品も生協や企業と大学とのコラボレーションである。メーカによっては、他大学でも同じ商品が少しデザインを変えるだけで販売されている場合もある。 名古屋大学ではノーベル賞の益川先生の似顔絵を刻印した名大饅頭がマスコミでも騒がれた。名古屋の老舗和菓子屋とのコラボなので、味も評判が良い。このコラムで宣伝するつもりはないが、見ているだけでも結構楽しい。 実は欧米の大学に行けば、大学グッズなんて何十年も前から、当たり前田のクラッカー(古いなあ)。ステータスの高い大学ほど多くのグッズがある。思い起こせば、70年台初頭の高度成長期、日本でも街中のTシャツに「UCLA」のロゴがあふれた。中年以上の読者なら1枚くらい持っておられたのではないだとうか。筆者も着ていたが、UCLAがカリフォルニア大学ロサンゼルス校の略称だと知ったのは後年である。 生協の宣伝旗 8月の東大生協前 オープンキャンパス少しまじめな話に戻そう。最近全国的にオープンキャンパスが盛んな理由は何か?複数の理由がある。第1は、大学間の受験生獲得戦略である。今は少子化で受験生は減り続けている。研究やキャンパス生活を宣伝して少しでも多くの優秀な学生に来て欲しいと考えるのは自然である。昔は、「入れて欲しいなら勉強しろよ。俺は待ってるぜ!」と石原裕次郎か木村拓也的なせりふが似合った。今や「どうぞうちの大学にも来てね。受験勉強は無理しなくても推薦入試もあるからね。綺麗なキャンパスで楽しい青春やりましょうね」と吉永小百合さんか堀北真希さん的かな。 第2の理由は、理学部、工学部の研究者のモチベーションは、理系離れ対策である。東大では夏休みだけでなく年間多くの機会に研究を紹介している。研究所公開まで入れると、10回以上になるはずである。熱心な青少年の姿を見ると嬉しくなる。 しかし先生の見学者は引率者だけである。これが問題である。理科を教えることが苦手な小学校の先生に来て欲しい。自分がサイエンスを楽しめない先生が生徒に理科の楽しさを教えることは不可能である。大学に来れば、直接プロの研究者から楽しさを伝えることができる。東大だけでなく地方大学にも多くの研究者がおられるから、これは可能である。読者の周囲の先生にも伝えて欲しい。 「出前」もあります光電子倍増管昨今、筆者だけでなく多くの研究者が学外まで講義に行く機会が増えた。「出前授業」、「出張授業」といわれている。筆者は都内だけでなく、神奈川、山梨、大阪、和歌山、兵庫、島根など、依頼されたら時間の許す限りボランティア講義をしてきた。動機はもちろん理系離れ対策であるが、特に近くに大きな大学がない地域を気にしている。筆者は、長年お台場の日本科学未来館のマイクロマシンラボのお手伝いをしてきたが、文科省の施策の大半は、東京、関東、都市部に集中している。予算配分もしかりである。確かに人口は関東が多い。しかし、子供は地方にもいる。今は情報化社会であるが、情報格差は拡大している。この点が明示的に議論されてこなかった。たとえ予算が薄くても、知恵を出せば改善できることはある。 地方の高校での講演の後、高校生に涙を浮かべて握手を求められたり、大学生には書けない感動的な感想メールをもらうことがある。地方に行く真の動機は、これなのかもしれない。若いパワーをもらい、初心を思い出す。脳細胞への最高の栄養である。感謝である。 最後にキャンパス公開で気になった点がある、外人、留学生の見学者が少ないことである。秋入学を進めることも大切であるが、外人に魅力的な大学のコンテンツを作ることが、一番の課題ではなかろうか。頑張らないと。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士さんのその他の記事 2021/03/08 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (2) 2021/02/04 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (1) 2020/12/01 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.12宇根さんの虹 2016/07/05 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 2013/11/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.10 不気味の谷に集う人々 2013/09/03 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 2013/05/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.08 作って落として感動しよう 2013/03/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.07 桜の下で馬鹿になれ 2012/12/04 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.06 馬鹿になってノーベル賞 2012/08/07 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 2012/07/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 2012/04/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 2012/02/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.02 パリでの日本再考 2012/01/17 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.01 小さな機械で大きな夢を 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月