2013/09/03 業界コラム 生田 幸士 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977...もっと見る 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977年 大阪大学 工学部 金属材料工学科卒業 1979年 同学 基礎工学部 生物工学科卒業 1981年 同大学院 博士前期課程物理系・生物工学専攻修了 1987年 東京工業大学 大学院 理工学・EE、究科 博士後期課程・制御工学専攻修了 (工学博士) 同年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター 主任研究員 1989年 東京大学 工学部 計数工学科 専任講師 1990年 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 1994年 名古屋大学大学院 工学研究科 マイクロシステム工学専攻 教授 2010年4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 2010年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 (兼務) 2010年秋 紫綬褒章受章 2019年 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 2019年 大阪大学工学研究科栄誉教授 2020年 大阪大学 医学部 招聘教授 1996年-2001年 日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業 複合部門「生命情報」推進委員 「人工細胞デバイスの開発」プロジェクトリーダー 2003年より 21世紀COE研究サブリーダ 2004年より2009年 名古屋大学 高等研究院 研究員併任 2004年より2009年 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ プロジェクトリーダー 所属学会 IEEE,ASME,日本機械学会,日本ロボット学会(理事,会誌編集委員長),日本ME学会(会誌編集委員), 日本コンピュータ外科学会(理事)等会員. 前回のコラムで紹介した6月1日(土)の東大先端科学技術研究センター公開日の目玉イベント「たまご落とし」は、大声援の観客の中で実施された。広大な駒場リサーチキャンパスだが、通行の邪魔にならず安全に落下実験ができ、さらに多くの観客から見えやすいなどの条件を満たす場所は意外と限られる。また学内での使用許可など多くの制限があった。最終的には落下高度が20mと、本来の30mよりかなり低くなってしまったが、まあそれは由としよう。 親子チャレンジャー来る先端研たまご落としコンテストは午前、午後の2回実施した。どちらも、早くから小学生の親子連れや、中学生の集団などが湧き出すように集まり、製作場所に充てた先端研4号館2階の大講堂は、熱気ムンムン、歓声ガヤガヤ。急遽、廊下から大型ファンを回したり、生田研究室と竹内研究室の学生、スタッフは大奮闘してくれた。若さはありがたいものである。 結局、150以上の作品が。あっと言う間にできあがった。製作時間は1時間程度なので、ボンドが乾かず接着不十分の作品もあったが、とにかく落下実験に突入。 落下実験の成果はいかに?新賞状作品が落下するごとに、自然と大歓声が上がる。これでなきゃ。本郷での実施時は、結果も惨憺たるものであったが、静かなもの。熱気の差はやる気の差と痛感。 結局、成功率は10%を超えた。大半が小中学生。先端研の教員も果敢に挑戦してくれたが、結果は残念であった。 成功者全員に「成功の秘訣」をインタビューしたが、みんな照れながらも嬉しそうに話してくれた。構造や糊付け方法、落下速度を遅くするための工夫など、長年このコンテストをお世話している筆者には特に目新しくも無いコメントが多いと感じていた矢先、すごいのが出てきた。 この成功作品は、たまごが糊付けされておらず、箱の中でころころ動く。さらに外から見える隙間があいていた。普通なら割れてしまうと予測される。それが大成功。小学3年の製作者に聞いてみた。 「あれっ、これって中のたまごが見えてるけど、よく成功したね。どんな工夫したの?」 「僕はねー。たまごに『ぜったいに割れないぞ!』って書いたから」 「えっ!?・・・・・」 注意深く箱の中のたまごを見ると、確かに鉛筆で小さい文字が書いてある。小学生の字である。20年以上のたまご落としコンテストで、鳥かごのような中が見える構造も初めてだが、中のたまごに決意を書いたものは無かった。 彼は、「執念」を持って考え、製作したのである。 今回、東大生からは10名以上の参加者がいたが4年が1名、修士課程の院生が1名成功した。大半は割れたのだが、彼らも、このちびっ子成功者には驚愕であった。 午後の試行では、成功者の一人の女性が、「私もたまごに『絶対に割れないぞ』と4回書きました」と応えた。 https://www.shinkawa.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/vol005_no09_col01_05.mp4たまご落とし(約27秒)今回、東大生からは10名以上の参加者がいたが4年が1名、修士課程の院生が1名成功した。大半は割れたのだが、彼らも、このちびっ子成功者には驚愕であった。 午後の試行では、成功者の一人の女性が、「私もたまごに『絶対に割れないぞ』と4回書きました」と応えた。 成功への王道夕方、研究室の院生、スタッフらとたまご落としの片づけをしながら、今日の楽しいイベントを思い起こしていた。 今回、割れた作品も含め、多くの工夫点が見られた。東大生の作品群よりも、創意工夫の点で明らかに優れている。確かに親子作品も多いのだが、それは東大生も同じ。たった1時間程度でよくできている。東大や名古屋大では学生に1週間の製作時間を与えてきた。製作時間の短さは大きなハンディになる。さらに今回、ボンドの乾き具合も、十分ではなかった。それでも、10%以上の成功率である。 成功の秘密は、参加者の「執念」にまで至る「熱意」だと感じた。やったことも無いことへのチャレンジ精神の高さである。 筆者は3月、博多での学会出張の折、大宰府天満宮に参拝した際、手のひらサイズの瓢箪をもらった。10cm程度の白い短冊も付いており、巫女さんから、「短冊に願い事を書いて、瓢箪の中に入れて下さい。1年間、部屋の壁に掛けて置いて、来年またお持ち下さい」と言われた。 大宰府の宮内には何百もの瓢箪が吊るされた掲示板のようなものがある。以前から何だろうと思っていたが、意味を納得した。 「能動的な願いを書く」ことは、自分への誓いでもある。迷ったときや、気持ちが折れそうになったときに、自分の初心を思い起こすわけである。心理学でも説明できるかもしれないが、素人心理学者の筆者にも、理解できる。 東大のオープンキャンパスで初めて実施したたまご落としで、今の日本や若者に足らないものを、小学生が教えてくれた。 ちびっ子成功者から学んだこと本郷三丁目から東大病院に行く道に和菓子店「壺屋」がある。寛永年間から続く本物の老舗で、つぼ最中が有名だが、店内には勝海舟直筆の額がある。「神逸気旺」(かみいつにしてきさかん)と読める。物事は神頼みしないで自分の気力で成し遂げろとの意味だと聞いた。 たまごに書かれた文章は、「神様、たまごが割れませんように」ではなく、「絶対に割れないぞ!」であった。勝海舟の「神逸気旺」なのである。誰かに教わったわけでもないであろう小学生が、この精神でチャンレンジしていたのである。 筆者が中国、台湾、韓国などに学会出張した際、現地の学生やお店で働く若者と話すことがある。彼らの前向きで熱い志を知り、眼が潤むことがある。そこには東京オリンピック前の日本が見える気がする。今の日本にも、まだハングリーで執念深い子供たちがたくさん存在する。記憶能力に高く依存する日本の入試に適合した学生より、このタイプの子達を育てることが、現代の東大や高等教育機関の最大の使命なのではないだろうか。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士さんのその他の記事 2021/03/08 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (2) 2021/02/04 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (1) 2020/12/01 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.12宇根さんの虹 2016/07/05 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 2013/11/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.10 不気味の谷に集う人々 2013/09/03 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 2013/05/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.08 作って落として感動しよう 2013/03/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.07 桜の下で馬鹿になれ 2012/12/04 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.06 馬鹿になってノーベル賞 2012/08/07 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 2012/07/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 2012/04/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 2012/02/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.02 パリでの日本再考 2012/01/17 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.01 小さな機械で大きな夢を 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月