2012/07/10 業界コラム 生田 幸士 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977...もっと見る 1972年 大阪府立住吉高等学校 卒 1977年 大阪大学 工学部 金属材料工学科卒業 1979年 同学 基礎工学部 生物工学科卒業 1981年 同大学院 博士前期課程物理系・生物工学専攻修了 1987年 東京工業大学 大学院 理工学・EE、究科 博士後期課程・制御工学専攻修了 (工学博士) 同年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター 主任研究員 1989年 東京大学 工学部 計数工学科 専任講師 1990年 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 1994年 名古屋大学大学院 工学研究科 マイクロシステム工学専攻 教授 2010年4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 2010年10月 東京大学 先端科学技術研究センター 教授 (兼務) 2010年秋 紫綬褒章受章 2019年 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 2019年 大阪大学工学研究科栄誉教授 2020年 大阪大学 医学部 招聘教授 1996年-2001年 日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業 複合部門「生命情報」推進委員 「人工細胞デバイスの開発」プロジェクトリーダー 2003年より 21世紀COE研究サブリーダ 2004年より2009年 名古屋大学 高等研究院 研究員併任 2004年より2009年 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ プロジェクトリーダー 所属学会 IEEE,ASME,日本機械学会,日本ロボット学会(理事,会誌編集委員長),日本ME学会(会誌編集委員), 日本コンピュータ外科学会(理事)等会員. ジェット機の窓から見る成層圏は、濃い藍色から淡い青色まで正確に並べられた色見本を思い出させる。透き通ったこの碧い空間には、艶かしい羽衣の天女よりも白い羽根の天使が似合うと感じるのは、フライトがすでにヨーロッパ上空まで来たせいかもしれない。今回の出張は 3泊5日のロンドン出張ジェット機の窓から見る成層圏は、濃い藍色から淡い青色まで正確に並べられた色見本を思い出させる。透き通ったこの碧い空間には、艶かしい羽衣の天女よりも白い羽根の天使が似合うと感じるのは、フライトがすでにヨーロッパ上空まで来たせいかもしれない。 探検家リビングストンの像今回の出張はオリンピック直前のロンドンである。手術ロボットに的を絞った中規模の国際会議がテムズ河の北、インペリアルカレッジで開催された。正確には王立地理学協会(勝手な和訳)が会場である。世界的探検家のリビングストンを記念して創立された組織である。赤レンガの古風な建物の内部には登壇者と観客が一体感を持てる広さの円形ホールや会議室がある。高い天井の会議室や廊下の壁には、多くの肖像画が掛けられている。学会中、庭園では写真展が開催され、市民が自由に出入りして楽しんでいた。 西隣には有名なロイヤルアルバートホールがあり、南側には、巨大なフロンドザウルスの化石とダーウインで有名な自然史博物館や、ワットの蒸気機関からトヨタ織機まで展示されている科学博物館など文化の中心である。目の前は市民の憩いの場、ケンジントンパーク。日本なら皇居前広場か日比谷公園周辺のようだと言いたいが、規模を比べると英国に失礼であろう。 王立地理学協会(学会会場) 学会ホール ロイヤルアルバートホール ダーウインの自然史博物館 ロボットは人を助けるか?手術ロボットといえば、近年、米国のダビンチが日本でも認可され導入が進められている。1台2億円以上の超高額医療機器であるが、世界ではすでに何百台も稼動している。お腹を大きく切り開かないで、体表に開けた1センチ程度の穴から内視鏡と棒状の鉗子を入れ、外から操作して手術をする低侵襲手術用の遠隔操作ロボットである、誤解の無いように説明しておくが、あくまでの手術をするのは外科医であり、まだロボットが自動で手術することはできない。ロボットは人間の手の拡張なのである。 筆者は、手術ロボットとは本来どんな名医でも不可能な手術を可能にするのが最重要だと思って研究をしてきたが、ダビンチはまだそこまで到達していない。日本では名医が多いため、人間の方が早く安全にできる手術が多い。欧米では少し事情が違い、日本人ほど器用な外科医は多くないため、手術レベル全体の向上に貢献していると言われている。 現在、世界で認可を受けた商用遠隔手術ロボットはダビンチだけである、そのためサイズも大きく、可能な作業も限定されまだ発途上である。最近では、筆者らが10年前に提案開発した直径2、3ミリで柔軟なヘビ型(正解にはミミズ型)ロボットの研究開発が活発化してきた。今回の国際会議でもこのカテゴリーが主要であった。そのため、医療用ではないがヘビ型ロボットの世界のパイオニアとして著名な広瀬茂男東工大教授が基調講演に招待され、すばらしい講演をされた、医療ロボットの最新成果に関しては、別の機会に詳細を紹介したい。 ハムリンセンターの衝撃学会のランチタイム、筆者と広瀬先生は、インペリアルカレッジ内の「ハムリン研究センター」を案内してもらった。学会の主催者である盟友ヤン教授が開設したこのセンターは3つの組織から成り立っている。開発部門と動物実験部門に、患者に適用する臨床部門である。近代的な5階建ての2、3階が中枢の開発部門である。内部はSF映画か007映画の首領の基地のような超モダン。廊下と研究室はガラスの壁で仕切られ、ガラスにはインペリアルカレッジの学色で明るいブルー基調としたデザインが施されている。LEDによる間接照明も巧みである。 ダビンチやゼウス、イソップなど米国ベンチャーの手術ロボットが稼動状態で置かれ、湾曲した壁一面がスクリーンになった部屋に案内された。まるでシアターである。ヤン教授も医療シアターのつもりだと話していた。驚くことに、すべてヤン教授のデザインとのこと、以前から彼は建築デザインを趣味としていると話していたが、プロ以上である。 全面ガラス窓に面した別の研究室には開発中の手術ロボットがあり、イタリア出身の若い女性研究者が説明をしてくれた。EUはもともと各国の研究者が融合しているが、ここも同様。 ヤン教授の部屋はペーパーレスで、巨大なマッキントッシュの液晶ディスプレーを中心に、ガラス製のテーブルなどすべて、クリーンなクリスタル系でこれまた映画のよう。「僕は、仕事場は研究者の頭の中を現すと思うんだよね」と言われ、一瞬英語が出なくなった。筆者の教授室を知る広瀬先生は、隣で爆笑であった。 読者もぜひ、リンク先をクリックして、ハムリンセンターのホームページを覗いてほしい。私が興奮したモダンなインテリアと、最先端研究の場を感じれるはずである。 ハムリンセンター誕生秘話見学も終盤になり、同業者としてもこのセンターの設立経緯と予算の出所を知りたくなくなるのは人情。 「大型予算に申請して、うまく当てたんだよね?」 「ノーノー!クリスマスプレゼントだよ」 彼は満面の笑顔である。またまた英語が出なくなった。今回は広瀬先生も顔全体が?マークで埋まった。以下がヤン教授の説明の概略である。 実は数年前、名門ハムリン家のクリスマスパーティーに招待された。宴の終盤、招待客全員に恒例のプレゼントが渡された。大半は価値のある趣味的な品々であった。ヤン教授は自分の名前の箱を開けたら、それが、「莫大な先端研究予算」であった。89年に中国から夫婦で留学に来た彼にである。日本ではあり得ない話である。彼は全力で、医療ロボットの研究開発センターを構築し、順調に成果を揚げている。最近はエリザベス女王らの訪問も受けた。「やっぱりここには天使が降りている!」 天使を呼ぼう一般の理工学の研究分野と比べ、より国民生活に密着する医療ロボットでは、お国の違い、文化の違い、国民性の違いが大きな影響を及ぼしている。帰途、機上から朝日に染まる赤富士に向かい日本での天使の出現を願ったが、天女も降りてくれるか怪しい。さらに研鑽を深めて、奇跡を待ち構えよう。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学 名誉教授 / 名古屋大学 名誉教授 / 大阪大学 医学部 招聘教授 / 立命館大学研究教授 生田 幸士さんのその他の記事 2021/03/08 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (2) 2021/02/04 業界コラム 人間力の鍛え方教えます - 教育から共育へ - (1) 2020/12/01 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.12宇根さんの虹 2016/07/05 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.11 「サイエンスがロボティクス?!」 2013/11/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.10 不気味の谷に集う人々 2013/09/03 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.09 先端研たまご落としで学んだこと 2013/05/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.08 作って落として感動しよう 2013/03/12 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.07 桜の下で馬鹿になれ 2012/12/04 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.06 馬鹿になってノーベル賞 2012/08/07 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.05 キャンパス夏事情 2012/07/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.04 女王陛下の手術ロボット 2012/04/10 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.03 たまごが割れたらブレイクスルー! 2012/02/14 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.02 パリでの日本再考 2012/01/17 業界コラム 創造のなぎさに遊ぶ No.01 小さな機械で大きな夢を 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月