株式会社 ODR Room Network 代表取締役

万代 栄一郎

1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
...もっと見る
1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
事務計算センター(現日本システムウエア株式会社)入社
イスラエル製品マーケティング担当 副本部長

2004年 株式会社リンクマネージ取締役 経営管理担当

2008年 日本システムウエア株式会社(NSW) 非常勤顧問

2008年 株式会社 ODR Room Network 代表取締役

システムエンジニアとして各種システム設計・開発・運用に従事、
早稲田大学 情報化プロジェクト、杏林大学 総合情報センター技術顧問、
独立後 ODR 専門家として外資系日本法人の IT コンサルティング、弁護士事務所等の IT サポート、総務省のODRプロジェクト、経済産業省 ERIA プロジェクト、経済産業省の国境を越える電子商取引の環境整備プロジェクト、消費者庁越境消費者センター事務局

群馬県出身 / 横浜市在住

当社の社名にある ODR は、殆どの方が聞き慣れないのではないかと推察します。ODA と間違える方も多い。

ODR は、Online Dispute Resolution の頭文字で、オンライン技術を活用して紛争を解決する考え方です。イメージしやすいのは、TV 会議を使った遠隔地間の裁判や証言ですが、国内でも時差のある米国や、統合された欧州など複数の国にまたがる取引が多い地域では既に多くの活用事例があります。残念ながら日本では、まだ認知されるに至っていませんが、今後越境の取引が増えてくるに従って活用事例も増えてくるのではと期待されています。部分的には、海外から電子商取引で物品を購入した場合のトラブル解決に、国民生活センターが提供する「越境消費者センター」が ODR 的なサービスを提供しており、弊社も事務局を務めています。

そもそも私が現在の会社を立ち上げるきっかけになったのは、イスラエル企業との仲裁訴訟でした。

前職の中堅上場 IT 企業で新規事業などの開発を担当していた私はあるイスラエル製品の主担当となり、製品開発や市場開拓を進めていましたが、その製品の開発が頓挫し、最終的には開発元企業が倒産、日本国内で進めていたプロジェクトもストップし、更には、倒産の原因はこちらにあるという仲裁訴訟が起こされ、こちらも反訴、仲裁地イスラエルでの 8 年に渡る仲裁に関わりました。最後の重要な証人喚問に訪れたベングリオン空港に迎えにきた現地の弁護士から告げられたのは、

「相手の作戦にあなたの暗殺がある(可能性がある。だから充分に用心しろ)」

今でこそ海外での勤務はテロや誘拐などの危険を伴う時代になっていることが実感されていますが、当時は、(冗談だろう)と思いました。
結果的には、ドラマのような事実が次々と明るみに出て、劇的な幕切れを迎えました。

この仲裁をきっかけに、オンライン技術を活用して紛争解決に貢献したいと考え ODR(Online Dispute Resolution) Room Network を設立しました。テロの危険のある国で海外企業との紛争に長年関わり、ODR の必要性と有用性を確信したからです。グローバル化の進展は、距離を隔てた国際間の商事紛争も増加させていくでしょう。 どこにいても事故やテロの危険のある現代においては、紛争解決のための移動時間、移動コストだけでなく、企業にとって重要な人物へのリスクを低減することは重要課題となっています。ブロードバンドが発達した現在では、オンラインを活用した紛争解決手段がもっと活かされるべきです。

前置きが長くなりました。さて、裁判や仲裁の当事者になる方はそれほど多くはないと思いますが、万が一そのような場合の「心構え」として、国際仲裁の証人となった私の体験をお話させていただきます。

弁護士は教えてくれない その 1

1. 偽証できるのか

訴訟というとドラマでしか見た事ないという場合が殆どでしょう。そこでよく出てくるのは偽証のシーンです。

TV ドラマなどの法廷での弁護士による尋問のシーン。ドラマでは被告側が口裏を合わせて偽証するのですが、「偽証」をするのは経験上、ものすごく難しいと思っています。 いや実は・・・実際に証人となるまでは、できると思っていたのですが。。。。現実にも、国会議員が偽証罪に問われることがありますが、「なぜ、偽証がばれるのかな」とも思っていました。「自分ならうまくウソ突き通せるのに」と。 ところが。

法廷では、最初に宣誓をします。イスラエルでは「神の名において」、日本では「良心に基づいてウソをつかない」ことを誓います。形式的なものだと思っていましたが、これが意外と心に重くのしかかるのです。 ウソをついたら罰せられることにも同意します。(海外の場合、その国の法律で罰せられるし、そこで禁固刑にでもなったらどうなるかわからないので怖さが増します。)

いずれにしても、改めて「宣誓」することで普通の精神ならウソがつきにくくなるのです。「宣誓」は予想以上に重いのです。 さらに、弁護士はその道のプロですから、よく人間心理も読んでいます。事実関係を 洗い出す過程で、証人たちの心の葛藤を推測し、質問の順番をよく考えているのですね。聞かれた順番に答えていくと矛盾が出てくるようになっているような気さえします。例えば、

弁護士 「あなたは全力を尽くしましたか?」
証人 (もちろん全力を尽くしました)
弁護士 「それを示す証拠はありますか?」
証人 (毎日 10 時過ぎまで勤務しました。タイムカードがあります)
弁護士 「なるほど。ここに一通のメールのコピーがあります。証人はこれを見てください。これは誰に誰が送ったものですか」
証人 (これは私が友人に送ったものです)
弁護士 「時刻を見てください。これは勤務時間中ではありませんか」
「あなたは全力を尽くしたといいましたが、勤務中に私用メールを書いている。 全力を尽くしたというのはウソですね!」
「あなたは私用メールを時々送りましたね!」

もちろん私用メールの一通や二通は現実的にはあるでしょう。ここでの本質は、「業務に差し障ったかどうか」なのですが、弁護士に、

「あなたは一度も私用メールを送ったことがないのですか?」
「私用メールは業務ですか?」
「全力とはどういうことですか? 全部の力ではないのですか?」
「私用メールを書いた時間は業務でしたか?」。。。

と畳み掛けられると、 段々おかしくなってきます。

一度でもこんな場面があると、証言が極端に慎重になってしまいます。 自信のない証言をすると弁護士に見抜かれる。 そこをつかれて核心に迫る質問でドキっとする。
経験からいうならば、偽証することは実際には難しいし、すぐに暴かれるだろうと思うのです。

2. 質問には罠がある

証人を召喚して質問するのは、それぞれの主張を裏付け、自分を有利に導いていくために証言をしてもらうためですが、相手から見ると、有利な証言をさせないようにすることが必要で、そこにせめぎ合いが出てきます。

証人の証言は、1)事実を正確に証言する、2)ウソや不確かなことを言わない、3)事実に(いい意味で)固執する、ことに尽きるのですが、難しい面があるのです。

それは、複合尋問や誘導尋問といわれているものです。質問の順序や聞き方によって、事実をいっているにもかかわらず相手に有利な証言になってしまうことがあるのです。たとえば・・・ 私が証人だった時のことです。

そのケースでは、お互いがお互いを訴えていました。相手は、
「自分の経営が破綻したのは、お前が支払いを遅らせたからだ。契約違反だ」という主張。こちらは
「破綻は経営の失敗だ。ちゃんとした製品がないから支払おうにも購入できないだろう。契約違反はそっちだ。」
という主張。

ここで彼らが私にした尋問は以下でした。(※()内が応えです)

  • 「あなたは “彼らが” 契約違反をしたといっていますね?」
    (はい)
  • 「その理由は A と B だといっていますね?」
    (はい)
  • 「ほかにはありませんか?」
    (ほかにもあります)
    (ここで私の注意力は、他の理由を探すことに逸れてしまった)
  • 「ほかはなんですか?」  
    (C と D と E です。)
  • 「ほうほう、C と D と E。詳しく聞かせてください・・・」
    (詳しく話す)
  • 「ところで、もう一度、確認のためにききます」
  • 「あなたが契約をやぶったのは、彼らが、A, B, C, D, Eなどの契約違反をしたと思ったからですね?」
    ( はい。)

続く