株式会社 ODR Room Network 代表取締役

万代 栄一郎

1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
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1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
事務計算センター(現日本システムウエア株式会社)入社
イスラエル製品マーケティング担当 副本部長

2004年 株式会社リンクマネージ取締役 経営管理担当

2008年 日本システムウエア株式会社(NSW) 非常勤顧問

2008年 株式会社 ODR Room Network 代表取締役

システムエンジニアとして各種システム設計・開発・運用に従事、
早稲田大学 情報化プロジェクト、杏林大学 総合情報センター技術顧問、
独立後 ODR 専門家として外資系日本法人の IT コンサルティング、弁護士事務所等の IT サポート、総務省のODRプロジェクト、経済産業省 ERIA プロジェクト、経済産業省の国境を越える電子商取引の環境整備プロジェクト、消費者庁越境消費者センター事務局

群馬県出身 / 横浜市在住

日本で今一番 IT 化に遠いのは、司法分野だといってもいいだろう。しかし、満を持して、その IT 化が進み始めた。世界的にみれば遅いほうだが、うさぎとかめのように追い抜いていくかもしれない。司法の IT 化も、他の分野の IT 化と同じようなシナリオで進んでいくだろうか。

仮説 司法 IT 化の意外なハードル

これはあくまで仮説である。仮説であり、さらに、置いている仮条件の検証も不十分。つまり思いつきの延長だと割り引いていただきたい。笑

その昔、オフィスの仕組みの IT 化が開始されたころ、例えば給与計算がシステム化されたころ

  • 給与計算は、人事部や経理部がプロだ。プロは業務の手順を知っている。
  • 手順をシステムエンジニアに説明し、このように動くようにしてくれと依頼しただろう。
  • システムエンジニアは、言われたように作っただろう。
  • あるいは、気の利いたシステムエンジニアなら、ここはこのようにしても同じではないか?  これを省いてこうしたらどうか?  等々の提案をしたに違いない。
  • 人事や経理のプロは、それを受け入れて業務改善を果たしていったことだろう。
  • やがて、業務をどのようにシステム化するかというノウハウを持ったシステムエンジニアが現れ、
  • パッケージ的なシステムが提供され、
  • それを導入すれば給与システムが導入できるようになっていった。

業務をシステム化し、システムは独自に改善され、業務を変えていった。ビジネスプロセス・リエンジニアリングだ。

司法の IT 化もこれと同じようなプロセスを踏むだろう。

  • 司法は、法曹がプロだ。プロは業務の手順を知っている。
  • 手順をシステムエンジニアに説明し、このように動くようにしてくれと依頼するだろう。
  • システムエンジニアは、言われたように作るだろう。
  • あるいは、気の利いたシステムエンジニアなら、ここはこのようにしても同じではないか?  これを省いてこうしたらどうか?  等々の提案をするに違いない。
  • 司法のプロは、それをそのまま受け入れて業務を改善を果たしていくことだろう。。。。

いや、ちょっと待って。

司法の手順は、手続法で厳格に定められている。

単純に改善してしまうわけにはいかない。

結果的に素晴らしい手順だとしても、手続法にそぐわなければ、システム化の前に、手続法を変更しなければいけない。変更しないまでも、解釈の議論をして合意形成しなければならない。

ほかのシステムが辿ってきたように、司法業務をどのようにシステム化するかというノウハウを持ったシステムエンジニアが現れ、パッケージ的なシステムが提供され、それを導入すれば司法システムが導入できるようになっていくまでには、まだまだ長い道のりがありそうだ。

さて、IT 化に対して、ODR について、世界はどう動いていく?

※ODR(Online Dispute Resolution):

オンライン技術を活用した紛争解決の仕組み

APEC が ODR を推進する

2018 年は、ODR が動き出した記憶に残る年になった。

まず、日本 ADR 協会が、「IT が ADR を活性化するか」というテーマでシンポジウムを開催。

ODR Pickups/半蔵門御散歩雑談

ADRにオンライン技術を(デモ )2018 年 7 月 13 日

続いて、10 月に一橋大学で日本では初めてとなる国際的な ODR シンポジウムが開催され、

ODR Pickups/半蔵門御散歩雑談

日本で開催された ODR 国際シンポジウム

さらに続いて、APEC が共通の ODR のフレームワークを作り、パイロットプロジェクトを開始することになった。その作業部会が、大阪の日本国際紛争解決センター(http://www.idrc.jp)で開催されたワークショップ = APEC Workshop for developing a Collaborative Framework for ODR だ。同会議では、そのフレームワークのドラフトについて議論された。

当社も「Practical and Institutional Perspective of ODR」のセッションにて発表。

さらに、最終日の最後のセッションで、全体の議論から特に議論されるべき点や、漏れている点を指摘するセッションのパネリストにもなったので、途中のセッションを今までになく真剣に聴講。

このフレームワークは、UNCITRAL の ODR ワーキンググループの結果である「テクニカルノート」をベースにしている。

以下、その概要。

  • APEC のメンバー国の小企業から中小企業を対象に、
  • 法律や言語が異なる国境を超えた企業間取引(B2B)で生じた紛争を、
  • オンライン上の紛争解決手段で解決する。
  • 消費者の紛争(B2C)は扱わない。
  • ODR は、APEC のフレームワークのルールに乗っ取って APEC のパートナー ODR プロバイダーが担当する。APEC はこれら ODR プロバイダーをパートナーとしてメンバー国の企業に利用を促進する。
  • ODR プロバイダーは、個人情報や機密情報に配慮・注意しつつ毎年の ODR の状況を報告する。
  • メインのモデルルールは、分析、直接交渉、調停、仲裁のフェーズの順にすすむ。
  • それぞれのフェーズには一定の合理的期間があり、各フェーズで合理的な期間内に解決できない場合には、双方の合意のもとで次のフェーズに移行する。
  • 最初は当事者間での直接交渉が ODR プラットフォーム上で行われる。解決に至らない場合は調停フェーズに移行する。
  • 調停フェーズでは、ODR 管理者は、調停人を割り当て、当事者双方が合意すればその調停人を介して調停が行われる。調停が合理的な期間で解決できなかった場合は、仲裁フェーズに移行する。仲裁の結果には拘束され適用準拠法により執行される。
  • プロセスの進行過程で双方から ODR プラットフォームに書き込んだ内容は書き込まれると同時に相手方と ODR 管理者に通知される。通知後 7 日以内に返信をしなければならない。
  • 各国は ODR プラットホームを用意する。
    (すでに独自に運用開始している国もある。ちなみに日本はまだ。)
  • パイロットプログラムに参加する ODR プロバイダーは扱った案件の状況を APEC に報告する。しかし、情報は秘匿しなければならない。

ODR に限らず、ADR でも難しいのは、相手がこの紛争解決プロセスに同意して参加することだ。取引の前に紛争は ODR で解決することに合意することが前提になる。そのためには、裁判より ODR がよいことを周知していくことがとても重要だ。

小企業にとって、ODR は裁判よりよいだろうが、それ以上に泣き寝入りよりましかどうかがポイント。いかに ODR を使うように持っていけるか、が課題となる。

また、ODR プロセスの開始後は、ODR プラットフォームでのやりとりが相手へ通知され、相手がそれを見たことがわかるようになっていることが望ましい。メールではそれがわからない場合があるので、メッセージングツールなどの既読機能的なものが有効だ。

  • また、最終的には大量のデータが蓄積され、AI 的な機能も含まれて来るだろう。

等々が、話し合われ、今後の方向性が合意された。

ひとつだけ議論が紛糾しかけたのは、「ODR で扱った紛争の統計で、地理的データを出そう」という提案に対して、中国が強固に反対したこと。意味があるのかどうか? という反論だったが、おそらく、取引の紛争が中国で多くなるおそれを見越したのではないだろうか。現実的には消費者紛争件数では圧倒的に中国が多い。

という流れで、無事にまとめのセッションも終了。非常に充実した会議であった。私の指摘した意見も取り上げられ役目も果たせた。個人的には少しホッとしている。

国内問題で手を拱いている間に、国際的な枠組みはこのように進んで行く。その結果、またも外圧的にそれに従っていかなければならなくなるのではないか?  今ならまだ遅くない。決まった国際的枠組みに渋々従うのではなく、ルールメイキングから主導的に動いていくべきなのだ。