2016/02/09 業界コラム 万代 栄一郎 弁護士は教えてくれない その 2 株式会社 ODR Room Network 代表取締役 万代 栄一郎 1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業 事...もっと見る 1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業 事務計算センター(現日本システムウエア株式会社)入社 イスラエル製品マーケティング担当 副本部長 2004年 株式会社リンクマネージ取締役 経営管理担当 2008年 日本システムウエア株式会社(NSW) 非常勤顧問 2008年 株式会社 ODR Room Network 代表取締役 システムエンジニアとして各種システム設計・開発・運用に従事、 早稲田大学 情報化プロジェクト、杏林大学 総合情報センター技術顧問、 独立後 ODR 専門家として外資系日本法人の IT コンサルティング、弁護士事務所等の IT サポート、総務省のODRプロジェクト、経済産業省 ERIA プロジェクト、経済産業省の国境を越える電子商取引の環境整備プロジェクト、消費者庁越境消費者センター事務局 群馬県出身 / 横浜市在住 (前回から) 「あなたが契約をやぶったのは、彼らが、A、B、C、D、Eなどの契約違反をしたと思ったからですね?」 ( はい。) ここで、相手の弁護士が書類を見ながらニヤリと笑いました。 (ゲ!? 何かまずいこと言った?) いったい何を間違えたんだ? その時は全く気がつきませんでしたが、あとで味方の弁護士からの直接の証人質問で気がつきました。 相手弁護士の質問には、2つの質問が入っていました。 あなたが契約をやぶったのは という質問と 彼らの違反は A、B、C、D、E だと「思った」のか? という質問。 私はこれに「はい」と答えました。ということは、(1)(2)とも肯定したことになり、「あなたが契約をやぶった」ことも肯定してしまったことになるのです。すなわち、自分が契約違反をしたと肯定してしまったということです。 この件は、なんとか取り返せたのですが、事実のみを伝えているつもりでも、怖い落とし穴があるようです。このあとも、証言にはより慎重になって、なんと私への尋問は3日も続いてしまったのでした。 事実を語り、真実を訴える裁判での証言は、過去数年に渡る期間に起こったことについて行われます。 準備の段階で弁護士は、「 “事実” を話しなさい」と淡々と聴取をします。 さて、数年以上に渡る長い期間の出来事となると、全部が全部自分に都合がよい事ばかりではありません。普通に、単純に無意識に語ると不利になることが沢山でてくるのは、ごく当たり前のことです。 それに対して弁護士は、「それはまずいね。負けるね」と無表情におっしゃる。こっちは途端に弱気になり「え!? じゃあなんていったらいいんですか?」とすがるのですが、”何といったらいいのか” は、決して教えてくれないのです。「はい!じゃあもう一度ね」と、改めて質問を繰り返すだけ。悪かった証言が何なのかすら教えてくれないのです。 結局数年にわたる仲裁の結果、我々は勝てたのですから私の証言はよかったのでしょう。しかし、どういいなさいと指示されたり、答えるべきはこうだと明示されたことはありませんでした。”教えてくれればいいのに” と、食って掛かったこともあったし、ふて腐れてしまったこともありました。 しかし、今にして思えばそれは非常に正しかったのだと思えます。なぜなら証言すべきは事実・真実であり、勝つためのセリフではないのですから。 もし、事実に基づかないことを証言したり、勝つために本心を捻じ曲げたりした表現を丸覚えしていたりしていて、相手弁護士から論理的矛盾を指摘されたりしたら、あっという間にボロがでていたでしょうし、厳しい追求に窮して、「弁護士さんにこういわれた」などと言おうものなら一貫の終わり。 勿論、中には徹底的に証言を組み立てて、証人を教育する弁護士さんもいるでしょうが、裁判官から見ると、あまりに完璧な証人は “Well-Educated” といって心証が悪くなることもあると聞いています。 弁護士は教えてくれません。事実が悪ければ負けるのです。 弁護士さん、唯一のアドバイスは、 (Don’t loose your temper, Tell the truth, Stick to the fact.) 冷静であれ。真実を語れ。事実に固執せよ。 でした。 心構え (もしも証人になった場合)一般的には、訴訟も証人となるのも、それどころか弁護士と密に接するのも初めての場合が多いのではないでしょうか。訴訟の様子は TV や映画のシーンで知っている程度でしかなく、訴訟の準備がどのように行われるかも、想像の域を出ないものでしょう。弁護士にできる限り全ての書類を提出し、それをもとに陳述書(Affidavit)を作成したあと、証人喚問の準備を行います。過去数年の書類と言動全てが対象ですから、こちらに不利なことや、感情に任せた荒っぽい発言や表面的には「誠実といえない発言」は、“ある” を前提にしたほうがよいでしょう。それらをもとに、味方弁護士が相手の弁護士の代役をして、準備をすることになります。 更に、重要なことは、本番の尋問になると相手の弁護士は一つ一つの事実関係で、自分側に有利な証言を得ようとしてくるのですが、それ以上に、裁判官に対して「この証人は信頼できない人物だ」との印象を植えつけるべく、証人の感情を乱す質問をしてくることがあるということです。 例えばある事例で、非常に細かい事項もよく覚えている証人に、 弁護士 「あなたは細かいことに自信を持って答えておいでだが、記憶力に自信をお持ちですか?」 証人 (はい! 私は記憶力には自信があります!) 弁護士 「そうですか? ところで、今日、上着はどちらに?」 証人 (ロッカーにおきましたが?) 弁護士 「何番目のロッカーですか?」 証人 (・・・何番目かは覚えていません) 弁護士 「記憶力がいいとおっしゃったじゃないですか? たいした記憶力ではないのではないですか?」 証人 (・・・そんなことありません! 覚えています!) ・・・と、心理的に乱して以降の証言を支離滅裂にしてしまい、結局この問答がきっかけで、矛盾だらけの証言となり、裁判官からも重要な証言までもが採用されなくなってしまったという極端な例もあるそうです。 (Don’t loose your temper, Tell the truth, Stick to the fact.) 冷静であれ。真実を語れ。事実に固執せよ。 弁護士が教えてくれない真意、それは、あなたが事実を語り、真実を訴えられるように、です。正義が果たされるように。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 ODR Room Network 代表取締役 万代 栄一郎さんのその他の記事 2020/09/10 業界コラム ITエンジニアが法律に影響している 2020/08/18 業界コラム 「弁護士費用立て替え」という訴訟投資ファンド 2020/08/04 業界コラム 司法IT化は日本でも進むか、その後のステージ 2019/08/06 業界コラム 司法 IT 化は日本でも進むか 2019/07/02 業界コラム オフィスハック -オフィスで役立つ様々な考え方- 2019/06/04 業界コラム テクノロジーは答えか? 2018/08/07 業界コラム 働き方改革 No.3 『散歩ミーティング実践』 2018/07/03 業界コラム 働き方改革 No.2 『議事録 2.0 またはそれ以上』 2018/06/05 業界コラム 働き方改革 No.1 『3 つの IT ツール』 2017/06/06 業界コラム ” 秘密情報 ” の秘密 2017/05/10 業界コラム あ! それは証拠隠滅!!? 2017/04/04 業界コラム 思わぬ漏洩 – 街中の PC は覗かれている – 2016/04/05 業界コラム ナイーブでは困るのです 2016/03/08 業界コラム 謝罪の文化と文法 2016/02/09 業界コラム 弁護士は教えてくれない その 2 2016/01/13 業界コラム 弁護士は教えてくれない その1 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月