株式会社 ODR Room Network 代表取締役

万代 栄一郎

1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
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1981年 立教大学経済学部 経営学科卒業
事務計算センター(現日本システムウエア株式会社)入社
イスラエル製品マーケティング担当 副本部長

2004年 株式会社リンクマネージ取締役 経営管理担当

2008年 日本システムウエア株式会社(NSW) 非常勤顧問

2008年 株式会社 ODR Room Network 代表取締役

システムエンジニアとして各種システム設計・開発・運用に従事、
早稲田大学 情報化プロジェクト、杏林大学 総合情報センター技術顧問、
独立後 ODR 専門家として外資系日本法人の IT コンサルティング、弁護士事務所等の IT サポート、総務省のODRプロジェクト、経済産業省 ERIA プロジェクト、経済産業省の国境を越える電子商取引の環境整備プロジェクト、消費者庁越境消費者センター事務局

群馬県出身 / 横浜市在住

(前回から)

「あなたが契約をやぶったのは、彼らが、A、B、C、D、Eなどの契約違反をしたと思ったからですね?」 ( はい。)

ここで、相手の弁護士が書類を見ながらニヤリと笑いました。
(ゲ!? 何かまずいこと言った?)
いったい何を間違えたんだ?

その時は全く気がつきませんでしたが、あとで味方の弁護士からの直接の証人質問で気がつきました。

相手弁護士の質問には、2つの質問が入っていました。

  1. あなたが契約をやぶったのは という質問と
  2. 彼らの違反は A、B、C、D、E だと「思った」のか? という質問。

私はこれに「はい」と答えました。ということは、(1)(2)とも肯定したことになり、「あなたが契約をやぶった」ことも肯定してしまったことになるのです。すなわち、自分が契約違反をしたと肯定してしまったということです。

この件は、なんとか取り返せたのですが、事実のみを伝えているつもりでも、怖い落とし穴があるようです。このあとも、証言にはより慎重になって、なんと私への尋問は3日も続いてしまったのでした。

事実を語り、真実を訴える

裁判での証言は、過去数年に渡る期間に起こったことについて行われます。 準備の段階で弁護士は、「 “事実” を話しなさい」と淡々と聴取をします。

さて、数年以上に渡る長い期間の出来事となると、全部が全部自分に都合がよい事ばかりではありません。普通に、単純に無意識に語ると不利になることが沢山でてくるのは、ごく当たり前のことです。
それに対して弁護士は、「それはまずいね。負けるね」と無表情におっしゃる。こっちは途端に弱気になり「え!? じゃあなんていったらいいんですか?」とすがるのですが、”何といったらいいのか” は、決して教えてくれないのです。「はい!じゃあもう一度ね」と、改めて質問を繰り返すだけ。悪かった証言が何なのかすら教えてくれないのです。

結局数年にわたる仲裁の結果、我々は勝てたのですから私の証言はよかったのでしょう。しかし、どういいなさいと指示されたり、答えるべきはこうだと明示されたことはありませんでした。”教えてくれればいいのに” と、食って掛かったこともあったし、ふて腐れてしまったこともありました。

しかし、今にして思えばそれは非常に正しかったのだと思えます。なぜなら証言すべきは事実・真実であり、勝つためのセリフではないのですから。

もし、事実に基づかないことを証言したり、勝つために本心を捻じ曲げたりした表現を丸覚えしていたりしていて、相手弁護士から論理的矛盾を指摘されたりしたら、あっという間にボロがでていたでしょうし、厳しい追求に窮して、「弁護士さんにこういわれた」などと言おうものなら一貫の終わり。

勿論、中には徹底的に証言を組み立てて、証人を教育する弁護士さんもいるでしょうが、裁判官から見ると、あまりに完璧な証人は “Well-Educated” といって心証が悪くなることもあると聞いています。

弁護士は教えてくれません。事実が悪ければ負けるのです。

弁護士さん、唯一のアドバイスは、

(Don’t loose your temper, Tell the truth, Stick to the fact.)
冷静であれ。真実を語れ。事実に固執せよ。
でした。

心構え (もしも証人になった場合)

一般的には、訴訟も証人となるのも、それどころか弁護士と密に接するのも初めての場合が多いのではないでしょうか。訴訟の様子は TV や映画のシーンで知っている程度でしかなく、訴訟の準備がどのように行われるかも、想像の域を出ないものでしょう。弁護士にできる限り全ての書類を提出し、それをもとに陳述書(Affidavit)を作成したあと、証人喚問の準備を行います。過去数年の書類と言動全てが対象ですから、こちらに不利なことや、感情に任せた荒っぽい発言や表面的には「誠実といえない発言」は、“ある” を前提にしたほうがよいでしょう。それらをもとに、味方弁護士が相手の弁護士の代役をして、準備をすることになります。

更に、重要なことは、本番の尋問になると相手の弁護士は一つ一つの事実関係で、自分側に有利な証言を得ようとしてくるのですが、それ以上に、裁判官に対して「この証人は信頼できない人物だ」との印象を植えつけるべく、証人の感情を乱す質問をしてくることがあるということです。

例えばある事例で、非常に細かい事項もよく覚えている証人に、

弁護士 「あなたは細かいことに自信を持って答えておいでだが、記憶力に自信をお持ちですか?」
証人 (はい! 私は記憶力には自信があります!)
弁護士 「そうですか? ところで、今日、上着はどちらに?」
証人 (ロッカーにおきましたが?)
弁護士 「何番目のロッカーですか?」
証人 (・・・何番目かは覚えていません)
弁護士 「記憶力がいいとおっしゃったじゃないですか? たいした記憶力ではないのではないですか?」
証人 (・・・そんなことありません! 覚えています!)

・・・と、心理的に乱して以降の証言を支離滅裂にしてしまい、結局この問答がきっかけで、矛盾だらけの証言となり、裁判官からも重要な証言までもが採用されなくなってしまったという極端な例もあるそうです。

(Don’t loose your temper, Tell the truth, Stick to the fact.)
冷静であれ。真実を語れ。事実に固執せよ。

弁護士が教えてくれない真意、それは、あなたが事実を語り、真実を訴えられるように、です。正義が果たされるように。