一連の東芝報道を見るに経営層の責任は重いものであります。が、阻止できなかった他役員だけでなく、一般社員の方々にもこのような機会だからこそ重く受け止め “自ら省みる” 事は先々の為にとても大切なことではないかと感じます。
日本企業の場合、最も恐ろしいのが “空気” 、 “雰囲気” といったまさに所在のはっきりしない魔物の存在です。この魔物は経営層だけでなく、上司部下先輩後輩と言った上下の関係にも、支店や営業所と言った面の関係にも遠慮なく現れ蔓延します。
単に正しい事が言い難い…だけに留まらず “赤信号みんなで渡れば怖くない” といった困った風土醸成に繋がります。結果、自らの力で事実把握が出来ず “第三者の力=第三者委員会” に調査・報告を委ねざるをえなかったという例は東芝だけに限られた事ではありません。

これが IT になると “専門性が求められる=解り難い” ために更に厄介な状況を招きます。
とある急成長ベンチャーでは半年以上に渡り基幹系データのバックアップが取られていませんでした。関係者の間ではその事実に触れてはいけない “空気”、“雰囲気” に。 その事実を知った経営トップは当然烈火のごとく激怒します。まさに経営上の生命線と言われる重要データが全くバックアップされてなかったわけですから経営層も背筋が凍りついたことでしょう。 何故発覚したのか…実はその事実を社内で公表・報告したのは当の情報システム部門責任者でした。一連の顛末に “空気”、“雰囲気” に対する牽制機能、自浄機能が働いた一面に目が留まります。 |
更なる成長に備え経営層は中長期 IT 投資戦略を策定しようと考えベンダーロックインを避けるがため、第三者としてのシステムコンサルタントに声を掛けたことが、情報システム部門責任者にバックアップトラブルをこのまま隠蔽したままではいられないと自ら経営層への公表・報告を決断させました。
そもそもの原因はバックアップすべきデータ量が業績急伸の余波で急激にサイズが大きくなり、バックアップ先の容量を超えたためにバックアップが出来なかったといったという初歩的なミスでしたが、情報システム部門の現状の人数では余力が無く、日々の急ぎの作業・対応で後回しにされ何カ月か経過すると誰もがそのことについて触れられない “空気”、“雰囲気” が出来あがってしまっていました。ある意味、第三者であり、且つシステムと経営の専門家であるシステムコンサルタントの登場が牽制機能・自浄機能として想定外の効果をもたらしたわけです。
システムコンサルタントも先々のシステム投資計画策定の際に情報システム部門のリソース不足が事実であるなら経営層対しに第三者であり、且つシステムと経営の専門家として改善を指摘するわけですから情報システム部門責任者にとっても経営層に言いにくい点を肩代わりしてもらえ、経営層とのコミュニケーションギャップを埋め、先々のリスク回避の効果に繋がります。
実はこの話は僅か 1 年ほど前の実話です。
従業員数 200 名ほどの通信機器販売・通信設備設計施工で年商 300 億円程の中堅企業では、内部統制面も充実し上場にも値する優良企業でしたが、月次締め処理の完了が翌月 20 日過ぎになってしまうといった実態が有りました。IT システムにはいわゆる汎用機と呼ばれる大変高価なシステムが億単位の予算を投じ導入されています。
『情報システム部門がダメだ』『システムが使えない』と言った声が聞こえる反面、情報システム部門は『システム改修やら各部門からの要求には対応できている。』と主張しています。経営層と事業現場部門と情報システム部門の 3 者のコミュニケーション乖離は危機的な状況に。 |
当時監査を依頼していた監査法人のシステム子会社から勧められたパッケージシステムが自社の業務の流れにマッチしてない点に気付かず導入してしまった点に原因の根本がありました。現場部門も情報システム部門もマッチしてない点を何とか穴埋めするための工夫(全体を考えず部分最適)を凝らし、結果的にそれらが複雑に絡み合い月次決算処理そのものを大幅に遅らせる原因となっていました。
実業務にマッチしない億単位の IT 投資を決定したのはまさに“経営層の判断”によるものですが、やはり会長・社長、役員会の経営判断に誤りがあったことには触れてはいけない “空気”、“雰囲気” が形を変え、情報システム部門/担当へのはけ口として姿を現していました。これではコミュニケーションの乖離は避けられるはずもありません。
この期に及んでは、一番大事で、なお且つ一番大変で、更に誰しもが避けたがり、失敗するととんでもない返り血を浴びてしまうであろうアクションはまさに経営者に誤った経営判断を認めさせる事です。
表現は悪いですが “経営層の首に鈴をつける” つまり問題の根本を明確にし、責任所在を明白にさせ、あるべき姿を明示し、それに向かって舵を切る経営判断を迫らなくてはなりません。
このような社員では荷の重いアクションを起こさねばならぬ時には “第三者委員会” のような社外機関に力を借りることも活路を開く上で重要な選択肢です。
結果的にこちらの企業も第三者機関として特定の製品やサービスを担がないシステムコンサルタントに依頼し中長期視点で IT システムの投資計画を策定し難局を乗り切られました。
この例は 10 年以上前の実話です。
1 年前と 10 年前。極端な例を示しましたが企業における IT とはこのようなことがいつの時代でも起きうると言えるのです。
特にクラウドやスマートフォン・タブレットといった IT トレンドの大きな曲がり角にある昨今こそ解り難い時代ゆえに経営層の方々には一歩踏み込んで裸の王様にならないためのアンテナを張っておいて頂くべき時機ではないかと感じます。経営者の方々に無理して IT 知識を身に着けるいただく必要はありません。適宜、外部識者=公平中立な視点で自分たちの IT 投資戦略の妥当性、適合性を相談できるパスをお持ちになることが、クラウド時代の経営者としての大事な引き出しの一つになるのではないかと感じます。
もう一つ、経営トップと出入りの IT 業者とのコミュニケーションギャップ…というちょっとユニークな例をご紹介しておこうと思います。
とかく経営トップは孤独で人の話を聞かない…といった性格の方も多いのではないでしょうか?
OS、ハード、回線に留まらず “スマタブクラウド” と IT の世界も大きく様変わりする中で、今は動いているが専門家の目で見れば近い将来破たんすることが想定できる IT システムも実は多々存在します。
日頃から出入りしている IT 業者の方が経営トップにその警鐘を鳴らしても聞き入れないケースもままあります。『今ちゃんと動いているのにさては儲けようとしているな!』といった事を言いたくなる経営トップのお気持ちも解らなくは有りませんがそれが第三者的に見ても想定されるリスクであれば聞かない事が経営リスクそのものにつながります。
出入りの IT 業者も人の子です。IT の専門家としてまじめに提言しておきながら全く話しを聞かない “空気”、“雰囲気” が経営層、情報システム部門に蔓延していれば、将来的なリスクを鑑みこの先取引を遠慮させて頂くべきか…と言ったところまで思い詰めてしまうこともあり得ます。“出入り” といった長年の慣れ親しんだ立ち位置の辛い所なのでしょうね。
部下や出入り業者の話は聞かない経営トップでも、意外にシステムコンサルタントの話しには耳を傾けるケースが目につきます。ある意味、第三者・公平中立という立ち位置が、経営トップからすると同じようなリズム、似たような匂いを感じ受け入れて頂けるのかもしれません。
このケースでは結果的にシステムコンサルタントが構築・受託開発・製品販売の一切行わない公平中立の立場からIT業者の提言には妥当性があり現状の IT システムが将来的なリスクという爆弾を抱えている点を経営トップに認識させました。
構築・受託開発・製品販売を一切行わないがゆえに、この先商売を取られる心配の無い出入りの IT 業者からシステムコンサルタントが厚く感謝をされるといった笑い話がオチになります。

さて、こんなことが起きたらどこに相談されますか…?という問いから始まりました私のコラムでしたが、システムコンサルタントという IT と経営の専門家の上手な活用が『 IT 担当不足に悩む中堅中小企業におけるクラウド時代の経営のコツ』であるという点と『 “空気” 、 “雰囲気” といった魔物を払い経営と IT の風通しを良くしリスクを未然に防ぐコツ』であるという二点の気づきにつながれば幸いに思います。
第三話は、『SHINKAWA Times』事務局からのご要望も有り、私自身 16 年ほど継続しているメルマガを通じた縁尋機妙・多逢聖因についてご紹介させて頂こうと思っております。
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