何年前になるか…。最初に手にした観音経関連の書は『マンガで読む観音経①～④』。処々下ネタも目に付く煩悩に蓋も絹も被せない書き口にふと著者名に目をやれば…桑田二郎。

私と同年代の男子なら知らぬ者はいないであろう、あの『エイトマン』の作者。若いながら一世を風靡し手塚治虫にも並ぶと評されるような作家も若気の至りか色々と有られたようで作品を目にしなくなってウン十年。まさかこのような作品を手掛けられておられようとは。また、このような作品を描かれるようになられた動機を知るに大酒飲みでチェーンスモーカーで自ら煩悩の塊のような表現を通じての一灯照隅萬灯照國の魂をひしと感じえたのもまた機縁かと。確か御年 84 歳。

偈文 600 文字の内、半分近くを占める “念彼観音力” を復唱する 260 文字。暗唱するに最も高い障壁部分を『マンガで読む観音経①～④』の力も借りつ 3 回に分けて味わってみたいと思います。

　まさに吹き出してしまいそうなバカバカしい例え話の連続ですが、今の世相話等も引き合いに味わってみると…。

假使興害意～の意するところは三毒の “瞋”。つまり怒りの火を例えています。自らが怒りの炎にまみれれ怒りの火の坑（穴）に落ち全身業火で焼き尽くされる。しかしそうなるまいとの “気づき” は自らを救います。例えば “あおり運転” の加害者となる瞬間に…気づけわが身に！が観音の心・教え、つまり現世ご利益という所ではないかと思う所。些細なことから怒りの業火に我を失い、たいへんな事故を引き起こし自身もその後の人生を台無しにしてしまう姿はまさに三毒の “瞋” の恐ろしさ。

ちなみに観音経の教えでは全ての人の中に観音様は元々存在していると説いてます。それに気づけよ…というのが観音経に織り込まれている釈尊の願いであり教えなのです。

或漂流巨海～の意する水難は、やはり三毒の “貪” つまり “むさぼり” の心に気づけよといった例えになります。わが身の欲にわが身自身が押し流される…。私なぞ若かりし頃、欲の皮の突っ張った歩合営業の頃を思い出すといまでも冷や汗が…。また巷間では仲間内の「いいね！」欲しさに SNS に不適切動画、オバカ動画を投稿しお灸をすえられる若者もこれまた然りかと。

或在須弥峯～の須弥峯はスメール山を意します　。仏教の世界における架空の山ですがその頂は天界を指しその麓は地獄。そこから堕ちる…要は堕落を意図します。これも三毒の “痴” に当てはまる例えなのではないでしょうか。天界の崖から地獄＝堕落に転がり落ちそうになってもすべての衆生は観音性を持っているのだからそこに気づけ…の願いが織り込まれています。知と病だれ（疒）が合わさり、理知が病気に罹った状態を記した “痴” の字はまさに言い得て妙といったところです。

或被悪人逐～の金剛山つまりダイヤモンドのように硬く山のように大きな岩…は他の人から向けられる悪意の例えになってます。三毒を秘めた悪意の塊をぶつけられ、体調を崩したりノイローゼに追い込まれたり最悪の場合は…。社会生活の中でも会社の中で其処此処で見られる不幸な現実。巷間で話題の「働き方改革」の笊の目には引っかかり難いのが恐ろしいところです。ただ、他人からの悪意も存在しますが他の人からの好意、厚誼が存在することも間違いない世の理。この経文を噛みしめるに私も多くのご好意、ご厚誼で親子三人猫八匹ここまでやってこれました。悪意に対し怒りの反撃で返すことで身を守るのははたしてどうなのかと…ふと止まって心落ち着けるところがこの偈の教えで、ようやくその現世ご利益の意するところもわかってきた還暦のわが身。この偈について調べていたらこんな一文を目にしました。『ほめられても　そしられても　失意のときも　得意の時も　心動かさず　虚空にあそぶが如くあれ』。人の悪意は自分の怒りが招く…空を知るの心ですね。

馬鹿にしてしまいそうな内容ながら “念彼観音力” の部分で上の文言と下の文言がすり替わってしまい正確に覚えるはかなりの苦労を要しました。これも人間心理を深く読んだうえで飽きさせないための一つの仕掛け、一つの方便なのでしょう。表層だけを読むか、更に一歩踏み込んで自ら振り返られるかも読む人自身の力量を試されているような感じがしませんか？

　さて、次号五月号が配信される頃は既に新しい元号をお迎えしているわけですね。

読者の皆様がご家族様と共に新たな元号、善き時代をお迎え頂けます様祈念致しております。