Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表

上島 敬人

【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る
【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。
《商品設計(電気系)》
 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等
 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計
 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策
 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進
《電気系開発技術・システム開発》
 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用
 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策

【取得資格】
 iNARTE EMC Design Engineer

コラム執筆にあたって

皆様はじめまして、EM上島Labの上島と申します。EMC設計を中心とした設計コンサルティングを生業としております。
私は約40年、総合家電メーカーで白物家電の設計に従事してまいりました。長年開発に携わっていると、いろいろな事象に遭遇します。本コラムでは、私の経験をもとに開発の過程で起きる、ノイズに関わる特徴的な事象をピックアップして、理論的な思考で解釈し直し、皆様がイメージしやすいようにお話していこうと考えています。身近にある家電がお客様の手にとどくまで、担当設計者の紆余曲折のストーリーです。

ノイズというと、その基礎理論の一つとして電気磁気学が挙げられます。私は、この電気磁気学なるものが学生時代、大の苦手でした。教授の講義がちんぷんかんぷん、まず教科書のはじめに出てくるクーロン力のイメージができなかったことが躓きの始まりかもしれません。
ついでに書き足しますと、数学と科学もどちらかというと苦手な部類で、つまるところ理系の頭ではなかったということでしょうか(かといって、語学や古文が好きとかの文系の頭でもなかったような…)。それなのに、家電メーカーで電気設計にどっぷりとつかり、現在は電気磁気学を生業とするといったなんとも摩訶不思議な状態ではあります。

電気磁気学って

ノイズとの初対面

さて、本題に入りたいと思います。今回は、ノイズとの初めての遭遇というお話です。前職の家電メーカーに入社して初めての仕事は、商品用プリント基板の量産工程で使用する検査装置の開発でした。部品が実装されたプリント基板が仕様通りに動作するかどうかを検査するものですが、検査装置内部は電源、検査基板、(結構な量の)配線が詰まっている状態です。設計→装置の制作→動作確認→検査トライ→量産工程インプットと作業を進めますが、お決まり通り動作確認で躓きました。動かないのです。何度も設計を見直し、配線を見直すのですが動かない。先輩の助言や専門書を読んでも『??』。ようやくたどり着いた結論は、自己ノイズによる誤動作が原因ということでした。前述した様に、装置の内部配線は電源線も信号線もまぜこぜ状態だったのです。

さて、対策をしなければなりません。ものの本によると、配線は①太く短く、②パワー回路と小信号回路を分離、③高周波信号はシールド線を使うまたはツイストペアーにすると書かれていました。
ポイントはノイズ源の配線と小信号配線は分離、またはシールドにより隔離するということです。まず、最初に配線を分離するということを行いました。配線の分離は信号の種別、大きくはパワー線、高周波、低周波に分け一定の距離をとることです。装置内部空間は有限なので無限に分離することはできません。そもそも、配線の距離とノイズはどういう関係にあるのか、どの程度の距離をとればいいのかという疑問が残ります。

電気磁気学との再会

このヒントは電気磁気学の基本的な原理であるクーロンの法則にあります。
クーロンの法則は、電荷間に働く力(反発または引き合う力)は電荷の積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例するという解説をしています。

クーロンの法則の説明

\(Q\)1がノイズの電荷、\(Q\)2が小信号の電荷とすると双方にはそれぞれの電荷量に比例し、距離の2乗に反比例する力が働きます。電荷の小さい方が相対的に受ける影響は大きくなるため、ノイズ\(Q\)1電荷が大きければ必然的に小信号電荷\(Q\)2が影響を受けることになります。

理論式の説明

ノイズによる影響の表現は種々ありますが、電気磁気学で解釈すると、相互関係とどうすれば良いかが見えてきます。ここでは\(Q\)1が一定、つまりノイズ源への対策をしない場合、最も効果がある距離に着目することにより、\(Q\)2にかかる力\(F\)が大きく減衰させることが可能であることを意味します。どれだけの距離をとれば\(Q\)2から見たノイズが十分減衰できるかというのは\(Q\)2設計上のSN比により決定されます。
また、理論式を見ると\(F\)は比例定数\(k\)に比例して変化することがわかります。つまり\(Q\)1、\(Q\)2間に誘電体を挿入すると\(F\)が変化することをあわらしています。

商品開発での出来事

配線の課題は、商品の量産開発でもよく起きます。設計したプリント基板が構造に配置され、プリント基板から各アクチュエーターやセンサー、電源などに伸びる配線の処理の課題です。配線ははっきり言って構造上の邪魔者ですので、いかに整然と引き回すか、というのが構造設計者の腕の見せ所なのですが、前述したようにノイズをふんだんに含んだパワー線と繊細な信号線が一緒くたになっているとノイズによる不具合が発生します。ノイズをコントロールするにはどうしてほしいかを根拠をもって構造設計にコミュニケーションをとることと、プリント基板の実装設計時に接続先と接続元のレイアウトを配慮することで必然の配線にコントロールすることが可能になってきます。私の失敗は、配線は構造設計の仕事と思い込んでいたところです、何度も失敗がありましたが、配線を頭に描きながら設計すると同時に、構造設計者との密連携をするようになってからは設計意図をしっかり伝達できるようになりました。

いかがでしたでしょうか ? 最も苦手だった、電気磁気学という小難しい学問でノイズを語っていくというコラムです。
次回はガウスの法則をできるだけわかりやすいストーリーにしていく予定です。