2022/04/12 業界コラム 上島 敬人 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer コラム執筆にあたって 皆様はじめまして、EM上島Labの上島と申します。EMC設計を中心とした設計コンサルティングを生業としております。 私は約40年、総合家電メーカーで白物家電の設計に従事してまいりました。長年開発に携わっていると、いろいろな事象に遭遇します。本コラムでは、私の経験をもとに開発の過程で起きる、ノイズに関わる特徴的な事象をピックアップして、理論的な思考で解釈し直し、皆様がイメージしやすいようにお話していこうと考えています。身近にある家電がお客様の手にとどくまで、担当設計者の紆余曲折のストーリーです。 ノイズというと、その基礎理論の一つとして電気磁気学が挙げられます。私は、この電気磁気学なるものが学生時代、大の苦手でした。教授の講義がちんぷんかんぷん、まず教科書のはじめに出てくるクーロン力のイメージができなかったことが躓きの始まりかもしれません。 ついでに書き足しますと、数学と科学もどちらかというと苦手な部類で、つまるところ理系の頭ではなかったということでしょうか(かといって、語学や古文が好きとかの文系の頭でもなかったような…)。それなのに、家電メーカーで電気設計にどっぷりとつかり、現在は電気磁気学を生業とするといったなんとも摩訶不思議な状態ではあります。 電気磁気学ってノイズとの初対面 さて、本題に入りたいと思います。今回は、ノイズとの初めての遭遇というお話です。前職の家電メーカーに入社して初めての仕事は、商品用プリント基板の量産工程で使用する検査装置の開発でした。部品が実装されたプリント基板が仕様通りに動作するかどうかを検査するものですが、検査装置内部は電源、検査基板、(結構な量の)配線が詰まっている状態です。設計→装置の制作→動作確認→検査トライ→量産工程インプットと作業を進めますが、お決まり通り動作確認で躓きました。動かないのです。何度も設計を見直し、配線を見直すのですが動かない。先輩の助言や専門書を読んでも『??』。ようやくたどり着いた結論は、自己ノイズによる誤動作が原因ということでした。前述した様に、装置の内部配線は電源線も信号線もまぜこぜ状態だったのです。 さて、対策をしなければなりません。ものの本によると、配線は①太く短く、②パワー回路と小信号回路を分離、③高周波信号はシールド線を使うまたはツイストペアーにすると書かれていました。 ポイントはノイズ源の配線と小信号配線は分離、またはシールドにより隔離するということです。まず、最初に配線を分離するということを行いました。配線の分離は信号の種別、大きくはパワー線、高周波、低周波に分け一定の距離をとることです。装置内部空間は有限なので無限に分離することはできません。そもそも、配線の距離とノイズはどういう関係にあるのか、どの程度の距離をとればいいのかという疑問が残ります。 電気磁気学との再会このヒントは電気磁気学の基本的な原理であるクーロンの法則にあります。 クーロンの法則は、電荷間に働く力(反発または引き合う力)は電荷の積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例するという解説をしています。 クーロンの法則の説明\(Q\)1がノイズの電荷、\(Q\)2が小信号の電荷とすると双方にはそれぞれの電荷量に比例し、距離の2乗に反比例する力が働きます。電荷の小さい方が相対的に受ける影響は大きくなるため、ノイズ\(Q\)1電荷が大きければ必然的に小信号電荷\(Q\)2が影響を受けることになります。 理論式の説明ノイズによる影響の表現は種々ありますが、電気磁気学で解釈すると、相互関係とどうすれば良いかが見えてきます。ここでは\(Q\)1が一定、つまりノイズ源への対策をしない場合、最も効果がある距離に着目することにより、\(Q\)2にかかる力\(F\)が大きく減衰させることが可能であることを意味します。どれだけの距離をとれば\(Q\)2から見たノイズが十分減衰できるかというのは\(Q\)2設計上のSN比により決定されます。 また、理論式を見ると\(F\)は比例定数\(k\)に比例して変化することがわかります。つまり\(Q\)1、\(Q\)2間に誘電体を挿入すると\(F\)が変化することをあわらしています。 商品開発での出来事配線の課題は、商品の量産開発でもよく起きます。設計したプリント基板が構造に配置され、プリント基板から各アクチュエーターやセンサー、電源などに伸びる配線の処理の課題です。配線ははっきり言って構造上の邪魔者ですので、いかに整然と引き回すか、というのが構造設計者の腕の見せ所なのですが、前述したようにノイズをふんだんに含んだパワー線と繊細な信号線が一緒くたになっているとノイズによる不具合が発生します。ノイズをコントロールするにはどうしてほしいかを根拠をもって構造設計にコミュニケーションをとることと、プリント基板の実装設計時に接続先と接続元のレイアウトを配慮することで必然の配線にコントロールすることが可能になってきます。私の失敗は、配線は構造設計の仕事と思い込んでいたところです、何度も失敗がありましたが、配線を頭に描きながら設計すると同時に、構造設計者との密連携をするようになってからは設計意図をしっかり伝達できるようになりました。 いかがでしたでしょうか ? 最も苦手だった、電気磁気学という小難しい学問でノイズを語っていくというコラムです。 次回はガウスの法則をできるだけわかりやすいストーリーにしていく予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2025/03/11 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第6話 お互い様ノイズ インパルスノイズ 2025/01/15 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第5話 静電気ってなに 2024/11/12 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第4話 雷によるサージノイズの侵入を考える 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月