2022/06/14 業界コラム 上島 敬人 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer 前回に続いてノイズまみれの配線の話題です。電子制御基板を中心に電力の流れを見ると、入り口である電源線、負荷への出力線、様々なセンサー、ものによっては表示装置との接続といったように大抵の機器には配線があります。 配線には目的(接続先の負荷)により、主たる信号以外に信号をとりまく歪み成分(ノイズ)を含んでいます。この歪みがなぜ起きるのかについては別の機会に論じてみようと思います。 第1話ではノイズを含んだ主信号を伝達する配線が、SN比の小さい(ノイズに弱い)信号線に近接すると影響を受けるということを、クーロン力で表現してみました。クーロン力を小さくするにはクーロン力が距離の2乗に反比例する理論式から、距離をとればいいことがわかります。しかしながら、機器のサイズには種々の理由で制限があるため、クーロン力が十分弱められる距離をとることができない場合があります。では、こんな時にはどうすればいいのか、その解決方法の一つとして、シールドが挙げられます。 シールドの原理シールドというのは信号線などを、ノイズ発生源から導体で遮蔽する状態を言います。では、シールドするとなぜノイズを遮断できるのか。この現象を電気磁気学の基本理論のひとつであるガウスの法則から論じてみます。 ガウスの法則は次のように表現されます。 ガウスの法則 電場(=電界)の強さEはCoulombの法則よりJohann Carl Friedrich Gaussが1835年に発見し、1867年に発表した「電荷と電場の関係」を表す方程式。ある閉曲面を貫く電気力線の総本数\(N[本]\)は、閉曲面内部に存在する電荷の電気量を\(Q[C]\)とすると、下記方程式になるという法則。 \[ N=4\pi kQ=\frac{Q}{\varepsilon _{0}} [本] \] はっきり言って、これがシールドとどういう関係にあるのか、読んだだけではよくわかりませんよね。図に現してみると次のようになります。 ガウスの法則クーロン力がまた出てきて、ますますシールドとどういう関係にあるのか???ですね。ガウスの法則を単位面積で見てみます。 単位面積でみた電気力線つまり、電荷から発せられた電場のベクトル量(大きさ)はクーロン力に比例し、真空の誘電率で決定される電気力線の総本数であると論じているということです。 配線に戻ります。負荷に接続されノイズを含んだパワー線を電荷とみると、信号線に到達する電荷からの電気力線を減少させることがその影響を最小にするということが想像できると思います。パワー線と信号線の間に電位ゼロの導体が挿入されると、電気力線は電位ゼロの導体で終了し、導体の向こうにある信号線には到達しません。どうやらシールドとガウスは旧知の仲のようですが、電位がゼロではない導体など、不十分なシールドでは電気力線の一部が信号線に到達してしまい、少なからず影響を受けることになり親友ではなさそうです。 商品開発での配線あれこれ商品の開発を進めるなかで、電気設計者と構造設計者の火花が散る要因の一つが配線処理です。例えば、プリント基板を収納するケースのあちこちに配線用の穴を開けるのは金型が複雑になるなど構造上の制約があるため配線はまとめたいと考えます。一方、電気設計者としては配線の意味毎に分離したいと考えます。実際、私も商品設計時代に妥協したためにエミッションで課題になり四苦八苦したあげく対策できず、構造設計と製造部門と押し問答となりながらも配線をまとめてきたことがあります。 配線をシールドするには、シールド線を利用したり、導体で囲ったり方法は様々です。ところがシールド線はコストが高く、導体で囲むといってもそう簡単ではありません。たどり着いた施策は、SN比の小さい信号線は『束にしてひねる』でした。ツィストペアーという手法があります。ツイストペアーケーブルというのは信号線とGND線を撚り合わせることでシールド効果を発生させるものですが、プリント基板から引き出される信号線にはGND線も含まれ、またワイヤーは導体ですからこれらを束ねて撚るのは相対的にツイストペアーと同等の効果となったわけです。 ツイストペアーの原理この状態は美しく配線処理をして組み立てしやすくしたい製造部門にも共感を得ることができ、製造のスタンダードにもなりました。束ねると逆効果になる信号を設計視点で見極めておく必要がありますが、意味のある構成を指示するのは設計者の責任でもあると思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。 次回は『アンペールの法則』を考えていきたいと思います。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2024/11/12 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第4話 雷によるサージノイズの侵入を考える 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月