2024/09/10 業界コラム 上島 敬人 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer 皆様こんにちは、EM上島Lab 上島です。 イミュニティによる商品の誤動作や回路部品の破壊などを『イミュニティ現象』と呼ぶことにします。イミュニティ現象を引き起こすノイズはその発生源により、様々な性質 (特性) を持っています。イミュニティ現象を引き起こすノイズをここでは『イミュニティノイズ』と呼ぶことにします。 イミュニティ対策をしなかったら何が起きるかイミュニティノイズは商品の構成や回路の構成により、電子回路内部深く侵入していくことがあります。そして、イミュニティノイズの性質により結果として様々な状態を起こします。 大きなエネルギーを持ったイミュニティノイズが電子回路に侵入した場合、回路内に意図しない電位差が発生することがあります。この意図しない電位差が特定の回路あるいはデバイスの回路端子に発生するとその部位、機能に応じた挙動を起こします。 例えば、半導体デバイスであるFETのゲート-ソース間にデバイスの動作電位以上の電位が発生すると、デバイスは設計意図に反して動作してしまうかもしれません。 ゲートに絶対最大定格を超える電位が発生した場合は、デバイスの破壊に至ります。 また、意図しない回路の動作は製品の誤動作や故障に繋がります。 意図しない回路の動作 (誤動作) の例を挙げます。誤動作した回路の先に高電力を利用する回路がある場合、高電力回路に設計以上の負荷がかかり、高電力回路の破壊に至る可能性があります。図1 (a) はインバーター回路の事例です。正常な動作時 (b) では6個のデバイスがプログラムされた順序でON/OFFして電流を流し、回転磁界を発生させることでモーターを回します。 イミュニティノイズにより意図しないタイミングでデバイスがONする (c) では、過大電流が流れデバイス破壊をもたらす危険があります。 a) 3相モーター回路 b) 正常な動作 c) 誤動作の瞬間 図1 イミュニティノイズによる誤動作の事例 さらに、誤動作した回路の先に、製品の駆動部分 (ミキサーなどの回転構造を動作させるモーターやヒーターなどの発熱体) がある場合には、最悪お客様に危険が生じるかもしれません。 このように、誤動作した回路そのものではなく、その先にある機能に不具合を生じさせ結果的にお客様に不利益をもたらすことになります。これを『有害』な事象として捉えています。 結局のところ対策は必要でしょお客様に不利益が生じれば、商品の供給 (製造) もとである、皆様メーカー (のエンジニア) もお客様へのフォローや、起きてしまった『有害』事象が再発しないような防止策を求められることもあるでしょう。 最近ではSNSなどで商品やメーカーの評価がすぐに拡散する時代です。もしかしたら、メーカーのシェアに影響するかもしれません。 このように、お客様に不利益な状態を放置することは『有害』なのです。 意図しない挙動により製品が正しく動作しなかったり、デバイスの破壊により製品の故障につながったり、最悪誤動作による発火・発煙などお客様にご迷惑をおかけすることになることを考えると、対策はしておいた方が良いレベルではなく、事前 (設計) 対策は必ず必要な事だと思います。 摩訶不思議なイミュニティ私が現役のエンジニアだった頃のことです。 とあるお客様のところで、商品が誤動作・故障を繰り返す原因不明の出来事がありました。 サービス部門から何度訪問して修理や商品交換しても解決せず、お客様もお怒りの状態でそろそろエンジニアの出番 (当時、サービス部門で解決できないと、開発部門からエンジニアがかり出される習慣?があり、私もよくお客様のお宅にかり出されていました) というころ。 該当の商品だけではなく、他の商品 (他社製) や機械類 (お客様宅は工場併設でした) が誤動作するなど、どうも該当商品の課題ではないのではないかということになり、どこかの大学が調査にのりだすなど、新聞にも載ったほどでした。 結局、原因究明にいたってはないのですが、当時の新聞には『併設工場付近にプラズマが発生し、近傍の電気製品が故障にいたっている』といった記事が載っていたと記憶しています。そのうち現象がなくなったのか話題にならなくなっていました。 ターミネーターでもあらわれたら、ミョーに納得したかもしれませんね。 イミュニティは摩訶不思議な現象でもあります。 次回、第4話ではイミュニティノイズの事例として、雷サージを取り上げます。 最後までお読みいただきありがとうございました。 次回は11月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2025/03/11 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第6話 お互い様ノイズ インパルスノイズ 2025/01/15 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第5話 静電気ってなに 2024/11/12 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第4話 雷によるサージノイズの侵入を考える 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月