2025/09/09 業界コラム 上島 敬人 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第9話 ノイズは侵入するものと考える Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer 皆様こんにちは、EM上島Lab 上島です。 題名にもありますがノイズはどちらかというと『迷惑』ですから、自分の方には向かってきてほしくないものです。とはいうものの、そのようなものに限って近づいてくるのが迷惑なところかもしれません。今回は、ノイズは好むと好まざるに関わらずそこにあるとして、侵入してくるノイズにどのように相対するかを考えます。 外部で発生したノイズはなぜ侵入するのかノイズには様々な形があります。また、その発生原因により様々な性格を持ちうることはこれまでお話ししてきました。そして、その性格により侵入経路も様々です。言い換えるとノイズの性格を知ることにより侵入経路もある程度推定できるとも言えます。 侵入経路と性格がわかっていれば、そのノイズを完全に遮断することは困難でも、ある程度減衰することは可能です。 第8話でノイズを減衰させるためのポイントを以下としました。 ノイズの周波数の見極めることが重要 オームの法則、キルヒホッフの法則という電気の大原則で論じることができる ノイズが持っている性格の一部は周波数に依存して現われます。例えば方形波のノイズなら奇数次高調波が強調されるなどです。 インピーダンス分圧により、回路に侵入するノイズを減衰させるにあたって、得たい信号は減衰させることなく通過させ、特定の周波数成分で構成されたノイズだけを減衰させるには、その周波数成分だけにインピーダンスを生じさせる工夫が必要です。 フィルタリング技術 そのような便利なモノがあるのか。 ・・ですよね。 周波数特性をもつ素子としてはインダクタンス \(L\) やキャパシタ \(C\) があります。 周波数 \(f\) と各素子によるインピーダンスの関係はそれぞれ以下となります。 \begin{aligned} \text{インダクタンスによるインピーダンス:}Z_{L} &=\omega L \\ \text{キャパシタンスによるインピーダンス:}Z_{C} &=1\,/\,\omega C \\ \omega &=2\pi f \end{aligned} これらの素子と抵抗を組み合わせることで特定の周波数 (帯) あるいは特定の周波数以上 (以下) の周波数に対してインピーダンスを発生することが可能となります。 これらの特徴を組み合わせて、ノイズの侵入経路にセットすることで特定の周波数の信号に対してその侵入レベルを減衰させることができます。 一般にノイズフィルターと呼んでいますが、高周波数成分を通過させるハイパスフィルター、低周波数成分を通過させるローパスフィルタ、特定の周波数帯域を通過させるバンドパスフィルターと区別されます。フィルタリング技術は不要なノイズを減衰させるためのRLCの組み合わせ技術といえますが、不要なノイズ、通過させたい信号両方の周波数特性を正しく把握することが必要です。 図1 バンドパスフィルターの特性例但し実際には、部品を構成する材料や構造により余分な抵抗成分やインダクタンス成分を持つため、例えばキャパシタの場合理想的な容量成分だけを持ったキャパシタ特性ではありません。インダクタンスも同様に巻き線間の容量成分が特性に影響を及ぼします。 フィルタリング技術は、単純な組み合わせだけではなく、素子を構成する材料特性や構造も加味することが重要です。 世の中の話の続き世の中には情報があふれている・・・という言葉はずいぶん前から聞きますが、情報が伝わる過程で様々なフィルターがかかり、発信元の情報から変容していることも多くあるのではないでしょうか。何より、自分自身が聞きたい情報だけをより分け、さらに都合の良いように解釈すると言った、多段階のフィルターが入っていることもあるかもしれません。 図2 情報過多の世界テレビや新聞、最近ではSNSなどで情報は入ってきます。 正しい情報を見分け、正しく解釈し正しい行動に移らなければなりませんが、意図に反して事態の緊急性や自分の都合 (自分にとっての正当性) で行動してしまうこともあるかもしれません。 最近見た震災のドキュメンタリーで、ディジタル回線がダウンするなか、消防の緊急用に確保されていたアナログ回線の電話が繋がるという情報が拡散され全国から自分の家族を心配する問い合わせが入り、災害緊急の情報網がダウンしてしまったという事例がありました、拡散した人はよかれと思ったのかもしれませんが、緊急回線をダウンさせてしまうという最悪の状態を招いてしまったのです。 情報のフィルタリングとともに行動の前に、その行動どのような状況を招きそうなのかという想像力が大切ではないかとおもいます。 次回はノイズと電磁界の関わりを考察します。 最後までお読みいただきありがとうございました。 次回は11月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2025/09/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第9話 ノイズは侵入するものと考える 2025/07/08 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第8話 外部ノイズはなぜ侵入するのか 2025/05/13 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題 第7話 自己ノイズで自滅 ? 2025/03/11 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第6話 お互い様ノイズ インパルスノイズ 2025/01/15 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第5話 静電気ってなに 2024/11/12 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第4話 雷によるサージノイズの侵入を考える 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年9月2025年8月2025年7月2025年6月2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月