Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表

上島 敬人

【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る
【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。
《商品設計(電気系)》
 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等
 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計
 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策
 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進
《電気系開発技術・システム開発》
 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用
 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策

【取得資格】
 iNARTE EMC Design Engineer

皆様こんにちは、EM上島Lab 上島です。
今回は、聞き慣れない言葉かと思いますが、『インパルスノイズ』について考えてみます。
過渡的な高電圧のサージに対して、インパルスは『衝撃』の意味があり、インパルスノイズは短い時間の大きな振幅の信号に使われます。

インパルスノイズってなに

インパルスノイズ試験はIECで国際基準が制定される以前より、電源系ノイズの耐性試験として1970年代から実施されてきました。
試験方法はリレーなどスイッチングデバイスの接点放電や、モーターから発生するアーク放電など立ち上がりの早い高周波ノイズを模擬的に発生させ、電子機器の耐性を評価します。
そもそも、なぜこのような試験が古くから存在したのか。

発生源を模擬しているのが電子機器ですから、とある電子機器が加害者で別の電子機器が被害者というシチュエーションが多発したという背景が見えてきます。
様々な電子機器や電気製品が世にでるにつれ、それぞれから発生するノイズが無視できなってきたことから、イミュニティとエミッション双方を両立させなければならない、いわゆるEMC (電磁両立性) が定義されることになってきたのです。

お互い様というわけにはいかない

雷や静電気が自然発生的であることに対しインパルスノイズは電子機器発展の結果、意図せず人工的に発生してしまったものと言えます。
電子機器同士の課題ですから、『お互い様にしましょう』という訳にはいきません。
EMC規制により一定以下にエミッション (EMI) レベルを抑えたなら、イミュニティ (EMS) は一定レベルに耐えなければなりません。
インパルスノイズは自分以外の電子機器から発生する高周波ノイズであり、試験は規定の条件で実施されます。

インパルスノイズの侵入

インパルスノイズの侵入は主に二系統あります。
電源ラインからの侵入と、空中放射からの侵入です。
二相交流電源の場合はLive側とNeutral側を周回するノーマルモード。アース機器の場合は加えてラインとアースを周回するコモンモードがあります。
どこかで聞いたシチュエーションですね。
そうですね、雷と侵入経路が同じです。

図1 ノイズの侵入経路

電子機器間の接続経路から侵入するため、対策の経路や考え方は雷と似ています。
但し、ノイズ発生の経歴が異なるため、ノイズの性質は異なります。また、電子機器は連続で動作するため、発生するノイズも連続性です。
ノイズのエネルギーとしては雷に及びませんが、連続でストレスが印加される状態はある意味過酷です。
図1に示す様な電子機器同士 (同じ家の中での出来事だけではなく、ノイズ源は外にもあります) の同士討ちのような感じですが、相手が不特定多数のため自己免疫を高めておく必要があります。
また、双方の位置関係や状態も特定できないため、標準の試験条件が決められており、印加ノイズの連続動作を模擬することから、連続性のパルスノイズ印加試験を行います。

外乱いろいろとあの噂

電子機器が影響を受けるノイズは、その発生源から様々です。
TV局やラジオ局の近傍では、電波を放出する電力がアンテナに印加されていることから、強い電界がかかっています。
高圧電力線には高電流が流れていますから、高圧高架近傍でも強い電界がかかっています。
家の中ではWi-Fiルーターとスマホ間で高周波信号があふれています。

大分前になりますが、高圧線近傍での低周波電界や携帯電話を頭 (耳) に近接させることが人体へ悪影響がある (のではないか) と、新聞記事になったりしました。医学的な追跡や根拠が不十分だからか、はたまた経済や政治的な力が働いた結果なのかはっきりとした結論がないまま都市伝説化してしまったのでしょうか。こわいですねー。
ノイズの世界は目に見えないだけにやっぱりやっかいなものです (怖い物見たさで、なんだか楽しい気も) 。

最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は5月号に掲載予定です。