Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表

上島 敬人

【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る
【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。
《商品設計(電気系)》
 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等
 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計
 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策
 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進
《電気系開発技術・システム開発》
 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用
 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策

【取得資格】
 iNARTE EMC Design Engineer

皆様こんにちは、EM上島Lab 上島です。
これまで、製品の外部から侵入するノイズについて考察してきました。
今回は外部からの因子がなさそうなのに、製品に不具合が起きてしまう一つの要因について考えます。新品を購入して間もないのに『あれ ? 動かなくなってしまった』・・みたいなです。

製品の中はノイズがいっぱい

コラム『身近にある家電withノイズのストーリー』でも考察してきたように、ノイズはスイッチングさえすれば発生します。その周波数やエネルギーは、駆動負荷やスイッチングデバイスの種類により多種多様です。方形波信号には奇数次高調波が含まれ、高速のdv / dtスイッチングは回路パターンのインピーダンスの影響を受け歪みます。
商品の中ではこのように多種多様な信号≒ノイズがいっぱいなのです。

SN比

SN比という言葉を聞いたことがあると思います。
文字通りS:信号とN:ノイズ (雑音) の量を対数で表わしたもので、数値が高いほど信号品質が良いことを表わしています。
SN比が悪い (小さい) と何が起きるのでしょうか。
信号Sによって伝達しようとしたデータがノイズNで意図しない変化が起きます。

  • 伝達すべきデータが意図に反してかわってしまう。
  • 信号で動作させようとした負荷が意図通りの挙動をしない。

要するに意図に反して想定通りの動作をしない『誤動作』に至ることになります。

図1 SN比 基本波と全高調波総和の比率

ちなみに、S / Nの『/』は『比』を表わす記号であり、『S / N比』は比が多重になっており間違いだそうです (どうでもいい話でした) 。

自滅しない設計とは

商品に搭載される制御基板にはセンサー回路や信号制御回路、負荷の駆動回路など様々な回路が一つあるいは複数のプリント基板に集約されていることが多いですね。小信号回路や高電力回路が混在した制御基板を『自分』とすると、自分のなかで生じたノイズで自分が誤動作してしまうことがあり得ます。これをいろいろ方言がありますが『自滅』とか『自家中毒』とか呼んだりします。
雷のような自然災害のせいにはできませんので、自滅しないような回路設計、実装設計をしなければなりません。
こうすれば自滅しないという確定的なものはなかなか見つけられませんが、いくつもの過去の失敗を整理してみると、大きくは以下に方向付けできるように思います。

  1. 回路のインピーダンスを下げる
  2. 高圧回路と低圧回路を実装設計上分離する
  3. スイッチング歪みを極力小さくする
  4. デバイスのディレーティングを十分にとる

回路設計、デバイスの選定時に一歩踏み込んで考える、実装設計時に工夫するなど外乱だけではなく、相互回路間干渉を想像できるかあるいは、過去の知恵 (失敗) を思い出せるかがポイントだと考えます。

自滅は経験則で乗り切れるか

私は、今もテニスのシニアリーグ戦に参加しており毎月試合があります。『自滅』というとスポーツでは、 (勢い余って) ミスが続き、結局負けてしまうことを指しますが、私も多分に漏れず、若かりし頃は自滅が多くそれほど勝率が良くなかった思い出です。
いまでこそ、経験が生きているのか (実は勢いがなくなってきた結果か ? ) ミスも少なく昨年は10戦8勝2敗、勝率8割で終わりました (ちなみに2敗は足の痙攣で棄権) 。

ノイズは見えませんから、制御基板の『自滅』しそうな回路は事前にはわからない事が多いです。試作品を動作させてみてアレッとなるのですが、なかなか原因がつかめず悩み抜いたこともしばしば。どのような回路・デバイスが弱そうなのか。あるいは、どのような回路がノイズ源としてやばそうなのか。これも経験のなせる技なのか回路やパターンをみればなんとなくわかるようになってきました。

これらを理論立ててナレッジ化することで経験値が少なくとも同じ轍を踏まない開発ができるのだと思いますが、目前の利益に直結しないナレッジ化は付加価値を低く見られがちで、仕組み化は難しい側面があります。最近はやりの生成AIが突破口かもしれません。

次回、第8話では外部からのイミュニティノイズを侵入させない考え方について考察します。
最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は7月号に掲載予定です。