2025/05/13 業界コラム 上島 敬人 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題 第7話 自己ノイズで自滅 ? Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer 皆様こんにちは、EM上島Lab 上島です。 これまで、製品の外部から侵入するノイズについて考察してきました。 今回は外部からの因子がなさそうなのに、製品に不具合が起きてしまう一つの要因について考えます。新品を購入して間もないのに『あれ ? 動かなくなってしまった』・・みたいなです。 製品の中はノイズがいっぱいコラム『身近にある家電withノイズのストーリー』でも考察してきたように、ノイズはスイッチングさえすれば発生します。その周波数やエネルギーは、駆動負荷やスイッチングデバイスの種類により多種多様です。方形波信号には奇数次高調波が含まれ、高速のdv / dtスイッチングは回路パターンのインピーダンスの影響を受け歪みます。 商品の中ではこのように多種多様な信号≒ノイズがいっぱいなのです。 SN比SN比という言葉を聞いたことがあると思います。 文字通りS:信号とN:ノイズ (雑音) の量を対数で表わしたもので、数値が高いほど信号品質が良いことを表わしています。 SN比が悪い (小さい) と何が起きるのでしょうか。 信号Sによって伝達しようとしたデータがノイズNで意図しない変化が起きます。 伝達すべきデータが意図に反してかわってしまう。 信号で動作させようとした負荷が意図通りの挙動をしない。 要するに意図に反して想定通りの動作をしない『誤動作』に至ることになります。 図1 SN比 基本波と全高調波総和の比率ちなみに、S / Nの『/』は『比』を表わす記号であり、『S / N比』は比が多重になっており間違いだそうです (どうでもいい話でした) 。 自滅しない設計とは商品に搭載される制御基板にはセンサー回路や信号制御回路、負荷の駆動回路など様々な回路が一つあるいは複数のプリント基板に集約されていることが多いですね。小信号回路や高電力回路が混在した制御基板を『自分』とすると、自分のなかで生じたノイズで自分が誤動作してしまうことがあり得ます。これをいろいろ方言がありますが『自滅』とか『自家中毒』とか呼んだりします。 雷のような自然災害のせいにはできませんので、自滅しないような回路設計、実装設計をしなければなりません。 こうすれば自滅しないという確定的なものはなかなか見つけられませんが、いくつもの過去の失敗を整理してみると、大きくは以下に方向付けできるように思います。 回路のインピーダンスを下げる 高圧回路と低圧回路を実装設計上分離する スイッチング歪みを極力小さくする デバイスのディレーティングを十分にとる 回路設計、デバイスの選定時に一歩踏み込んで考える、実装設計時に工夫するなど外乱だけではなく、相互回路間干渉を想像できるかあるいは、過去の知恵 (失敗) を思い出せるかがポイントだと考えます。 自滅は経験則で乗り切れるか私は、今もテニスのシニアリーグ戦に参加しており毎月試合があります。『自滅』というとスポーツでは、 (勢い余って) ミスが続き、結局負けてしまうことを指しますが、私も多分に漏れず、若かりし頃は自滅が多くそれほど勝率が良くなかった思い出です。 いまでこそ、経験が生きているのか (実は勢いがなくなってきた結果か ? ) ミスも少なく昨年は10戦8勝2敗、勝率8割で終わりました (ちなみに2敗は足の痙攣で棄権) 。 ノイズは見えませんから、制御基板の『自滅』しそうな回路は事前にはわからない事が多いです。試作品を動作させてみてアレッとなるのですが、なかなか原因がつかめず悩み抜いたこともしばしば。どのような回路・デバイスが弱そうなのか。あるいは、どのような回路がノイズ源としてやばそうなのか。これも経験のなせる技なのか回路やパターンをみればなんとなくわかるようになってきました。 これらを理論立ててナレッジ化することで経験値が少なくとも同じ轍を踏まない開発ができるのだと思いますが、目前の利益に直結しないナレッジ化は付加価値を低く見られがちで、仕組み化は難しい側面があります。最近はやりの生成AIが突破口かもしれません。 次回、第8話では外部からのイミュニティノイズを侵入させない考え方について考察します。 最後までお読みいただきありがとうございました。 次回は7月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2025/05/13 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題 第7話 自己ノイズで自滅 ? 2025/03/11 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第6話 お互い様ノイズ インパルスノイズ 2025/01/15 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第5話 静電気ってなに 2024/11/12 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第4話 雷によるサージノイズの侵入を考える 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年7月2025年6月2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月