Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表

上島 敬人

【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る
【略歴】
総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。
《商品設計(電気系)》
 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等
 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計
 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策
 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進
《電気系開発技術・システム開発》
 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用
 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策

【取得資格】
 iNARTE EMC Design Engineer

皆様、こんにちは。EM上島Lab 上島です。
第三話では、電流により発生する磁界の向きについてお話をさせていただきました。
磁界の向きがわかると言うことは、ノイズを含んだパワー線から影響を受けたくない配線をどうすればいいかという考えにつながります。商品を構成する中で、考え通りの配線を構造設計に伝えるにあたり、理論的な解釈を内に秘める (自己満足する) のでなく、具体的な位置関係、距離、仕様を明確化する必要があります。

磁界の強さを求める

図1 線分による磁界

線分による磁界について考えてみます。図1において微少部分\(dl\)の電流により点Pに現れる磁界の強度はビオサバールの法則より以下となります。

\[ dH=\frac{Idl\sin\theta}{4\pi r ^2} \rm{[A/m]} \]

この式はあくまで微少部分\(dl\)による磁界の強さなので、ある長さの配線の磁界を考える場合、無限長の電流による磁界の強さを求める必要があります。数学的な変換は割愛しますが、三角関数の変換を行いながら特定座標の積分を計算することにより以下の式を得ることができます。

図2 アンペールの法則

\[ H=\frac{I}{2\pi r} \]

\(H\) : 磁界の強さ \(I\) : 電流 \(r\) : 円形領域の半径

この式は第3話でお話ししたアンペールの法則による磁界の強さの式になります。
つまり磁界の強さは電流に比例し、半径に反比例するということですので、直感的にはノイジーな配線から離せば良いことはわかります。では、この距離\(r\)は具体的にどうすればいいのかについて考えてみたいと思います。距離\(r\)を求めるには磁界\(H\)による対配線信号のS/N比により検証することが必要で一義的に絶対値が求まるものではありません。

検証方法を考える

検証の方法としては以下の方法が考えられます。

  1. 感応評価
    保護したい信号が、つまるところ影響を受けなくなるまで離す。
  2. 定量評価
    信号のS/N比を求め、ノイズレベルが十分小さくなるレベルを定義する。

すぐに取りかかれるのは、1.の感応評価で簡単なのですが、少し説得力に欠けます。物作りにはばらつきがつきものです。一方、回路の挙動は設計通りに動作 (不動作) しますので、(不) 動作点に対する、ばらつきを定量的に押さえることが重要です。この点において感応評価は不十分なことが多いのです。感応評価で一定のばらつきを押さえる方法として、供試品の台数を増やし、統計学的に答えを近似させる方法は考えられます。この場合、n数を増やすほど精度が上がりますが、時間と工数、費用を考えると限界があることが想像できます。
定量的な評価では、あらかじめ設計計算で押さえたS/N比を基に数値により、半径\(r\)を定義することでばらつきによる影響も把握することが可能で、実験やCAEなどにより、仕様を決めていきます。
アンペールの式に戻ると、影響を受ける磁界の強さを測ることができれば、半径\(r\)を規定することができます。言い換えるとS/N比を十分確保できる最小\(r\)を定義することで配線の仕様を作ることができます。磁界の強さ\(H\)は直接測らなくとも、代替方法は考えられます。
例えば、信号線上に現れる歪み (ノイズ) レベルの変化やCAEによる磁界解析で得られる電界や磁界のレベル変化を得ることにより相対的な値として定義することが可能と考えます。

そうは言っても現実は

さて、このように理論的に『離す』仕様を決めるわけですが商品構造上制約が多くあります。プリント基板から引き出すワイヤ-の位置やアクチュエーターの位置など商品として満足させるための仕様や制約の中まとめていかなくてはならないため、一生懸命定義付けた『\(r\)』を実現できないことも多々あると思います。私が商品開発に携わってきた時代、まだまだCAEも未熟で感応評価が当然のように考えられていた時代では限られた時間と工数の中、切った張ったの実験結果を基に構造設計者と協議をする日々でした。ばらつきも十分考慮できていないにもかかわらず、構造から提示された代替案を追試験して今日もまた日が暮れるといった状態でした。電気設計者と構造設計者の意思疎通があまり良くないのは (主観ですいません)こういったことも原因でしょうか。
最近なら3D構造データと電磁界CAEで得られた磁界変化を可視化し現物がなくても仕様が決定できる・・みたいなことが現実に起きつつあるのだと思います。
多様性を認め合い、仲良く開発を進められる日も間近かもしれません。

次回は、配線から配線になぜ影響するのかについて考えていこうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。