2022/10/12 業界コラム 上島 敬人 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電...もっと見る 【略歴】 総合家電メーカーにて42年間白物家電の設計開発部門にて下記業務に従事。 《商品設計(電気系)》 ハードウェア設計・評価:アナログ設計、SW電源、インバーター等 プリント基板設計:製造性、法規に熟知した実装パターン設計 品質・信頼性評価:EMC、熱、電気系信頼性評価・対策 開発マネジメント:FMEA、DR、法規等QMS管理・対内外折衝、VE推進 《電気系開発技術・システム開発》 CAD/PDMを中心としたシステム開発・運用 CAE:電磁界シミュレーションを活用したEMC検証、対策 【取得資格】 iNARTE EMC Design Engineer 皆様、こんにちは。EM上島Lab 上島です。 第三話では、電流により発生する磁界の向きについてお話をさせていただきました。 磁界の向きがわかると言うことは、ノイズを含んだパワー線から影響を受けたくない配線をどうすればいいかという考えにつながります。商品を構成する中で、考え通りの配線を構造設計に伝えるにあたり、理論的な解釈を内に秘める (自己満足する) のでなく、具体的な位置関係、距離、仕様を明確化する必要があります。 磁界の強さを求める 図1 線分による磁界線分による磁界について考えてみます。図1において微少部分\(dl\)の電流により点Pに現れる磁界の強度はビオサバールの法則より以下となります。 \[ dH=\frac{Idl\sin\theta}{4\pi r ^2} \rm{[A/m]} \] この式はあくまで微少部分\(dl\)による磁界の強さなので、ある長さの配線の磁界を考える場合、無限長の電流による磁界の強さを求める必要があります。数学的な変換は割愛しますが、三角関数の変換を行いながら特定座標の積分を計算することにより以下の式を得ることができます。 図2 アンペールの法則 \[ H=\frac{I}{2\pi r} \] \(H\) : 磁界の強さ \(I\) : 電流 \(r\) : 円形領域の半径 この式は第3話でお話ししたアンペールの法則による磁界の強さの式になります。 つまり磁界の強さは電流に比例し、半径に反比例するということですので、直感的にはノイジーな配線から離せば良いことはわかります。では、この距離\(r\)は具体的にどうすればいいのかについて考えてみたいと思います。距離\(r\)を求めるには磁界\(H\)による対配線信号のS/N比により検証することが必要で一義的に絶対値が求まるものではありません。 検証方法を考える検証の方法としては以下の方法が考えられます。 感応評価 保護したい信号が、つまるところ影響を受けなくなるまで離す。 定量評価 信号のS/N比を求め、ノイズレベルが十分小さくなるレベルを定義する。 すぐに取りかかれるのは、1.の感応評価で簡単なのですが、少し説得力に欠けます。物作りにはばらつきがつきものです。一方、回路の挙動は設計通りに動作 (不動作) しますので、(不) 動作点に対する、ばらつきを定量的に押さえることが重要です。この点において感応評価は不十分なことが多いのです。感応評価で一定のばらつきを押さえる方法として、供試品の台数を増やし、統計学的に答えを近似させる方法は考えられます。この場合、n数を増やすほど精度が上がりますが、時間と工数、費用を考えると限界があることが想像できます。 定量的な評価では、あらかじめ設計計算で押さえたS/N比を基に数値により、半径\(r\)を定義することでばらつきによる影響も把握することが可能で、実験やCAEなどにより、仕様を決めていきます。 アンペールの式に戻ると、影響を受ける磁界の強さを測ることができれば、半径\(r\)を規定することができます。言い換えるとS/N比を十分確保できる最小\(r\)を定義することで配線の仕様を作ることができます。磁界の強さ\(H\)は直接測らなくとも、代替方法は考えられます。 例えば、信号線上に現れる歪み (ノイズ) レベルの変化やCAEによる磁界解析で得られる電界や磁界のレベル変化を得ることにより相対的な値として定義することが可能と考えます。 そうは言っても現実はさて、このように理論的に『離す』仕様を決めるわけですが商品構造上制約が多くあります。プリント基板から引き出すワイヤ-の位置やアクチュエーターの位置など商品として満足させるための仕様や制約の中まとめていかなくてはならないため、一生懸命定義付けた『\(r\)』を実現できないことも多々あると思います。私が商品開発に携わってきた時代、まだまだCAEも未熟で感応評価が当然のように考えられていた時代では限られた時間と工数の中、切った張ったの実験結果を基に構造設計者と協議をする日々でした。ばらつきも十分考慮できていないにもかかわらず、構造から提示された代替案を追試験して今日もまた日が暮れるといった状態でした。電気設計者と構造設計者の意思疎通があまり良くないのは (主観ですいません)こういったことも原因でしょうか。 最近なら3D構造データと電磁界CAEで得られた磁界変化を可視化し現物がなくても仕様が決定できる・・みたいなことが現実に起きつつあるのだと思います。 多様性を認め合い、仲良く開発を進められる日も間近かもしれません。 次回は、配線から配線になぜ影響するのかについて考えていこうと思います。 最後までお読みいただきありがとうございました。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする Electrical & Magnetic EM上島Lab 代表 上島 敬人さんのその他の記事 2024/09/10 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第3話 イミュニティ対策は必要か 2024/07/09 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第2話 ノイズはどこから来るのか 2024/05/14 業界コラム 家電をとりまく迷惑ノイズの実際問題第1話 イミュニティの世界 2024/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第12話 (最終回) 仮説を立てる 2023/12/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第11話 ノイズに対峙するということ 2023/10/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第10話 ノイズは厄介者 ? 2023/08/08 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第9話 ノイズの第一歩 2023/06/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第8話 ノイズはどこからやってくるのか 2023/04/11 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第7話 ノイズはなにものなのか その2 2023/02/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第6話 ノイズはなにものなのか 2022/12/13 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第5話 配線は受け身ですから 2022/10/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第4話 配線をどう決めるのかの実際問題について 2022/08/09 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第3話 ネジと電気磁気学の意外な関係 2022/06/14 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第2話 シールドはガウス(の法則)と知り合い ? 2022/04/12 業界コラム 身近にある家電 with ノイズのストーリー第1話 配線のノイズはクーロン力で考える 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月