公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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新川電機の東京本社は千代田区麹町にあります。

地名の由来を、千代田区のホームページで調べますと、「徳川時代に大名旗本の小路となったことから「小路町(こうじまち)」となり、元禄年間(1688年~1704年)に「麹屋」をはじめ、有力な商屋の繁栄を見るようになってから、「麹」が当てられたと考えられる。」ようです。

「麹屋」の「麹」が、江戸の人々の健康にどれだけ貢献したかは、麹から造られる「あま酒」を、当時、夏バテ防止に売る商売が成立していたことから分かります。
筆者も、2年前の夏、八海山の「麹だけでつくったあまさけ」が、元気回復に大変効いたので、麹に対する認識を改め、その後、書店で、下記に引用する「麹のちから!」を見つけました。
農学博士 山元正博 (株)源麹研究所会長 が書かれた、深い内容で楽しめる本です。

麹菌は、きわめて不思議な微生物です。学名は「Aspergillus(アスペルギルス)」。日本以外の国では、「Aspergillus」という名前の付いた微生物のほとんどが病原性の菌です。ところが日本の麹菌のみが、これらの強力な毒素を生産しないのです。

近年の研究で、日本の麹菌にもこれらの毒素を生産する遺伝子コードが存在していることがわかっています。 しかし、その遺伝子が発現するための必須条件であるイニシエーターやレギュレーターが欠損しているのが麹なのです。 ・・・
これまで微生物学者が発見した有用菌のほとんどは、青カビに代表されるように自分だけが生き残ろうとする特徴を持っています。・・・
麹菌は他の微生物と共生するのです。他者を攻撃しないやさしい微生物なのです。(p206~211)

麹は大量の酵素を生産します。私たちが生命を維持するのに必要な酵素の7割は、麹が生産しているといわれますから、麹は実に大切な微生物です。
もちろん、あらゆる生物が酵素を生産しているのですが、たいがいの生物は体内にその酵素を留めておいて外に出すことはありません。

ところが麹は、出し惜しみせずに、さまざまな酵素を外に分泌します。たとえば、「糖化酵素」。これを利用してお米のデンプンを糖に変えて造られるのがお酒です。
これに対してお味噌造りでは、麹の生産する「タンパク分解酵素」を利用しています。原料の大豆のタンパク質が「タンパク分解酵素」によって分解され、やがて味噌になるのです。醤油造りもこれに準じます。
味噌・醤油造りと同じように、麹菌の出すタンパク分解酵素を、料理に利用しようというのが「塩麹」です。 ・・・

麹に水を加えれば、麹の酵素が水に溶け出します。この酵素を刺身や肉に漬けると、タンパク質が分解されてアミノ酸に変わり、うま味を増してくれるのです。
しかし、単に、麹に水を加えるだけでは、麹は腐敗するか、アルコール発酵を始めてしまいます。これを防止するために塩を入れる。それが塩麹です。

うま味をつくるタンパク分解酵素が働くのは、30~50℃ 前後です。塩麹の温度を60℃まで上げると、タンパク分解酵素は分解して量が減るか、あるいは消えてしまいます。それでは、塩麹を使う本来の意味は、ほとんどなくなってしまいます。(p38~40)

出典:山元正博 「麹のちから!」より※1

以上長く引用した理由は下記2点です。

  1. 麹菌は有用な酵母と共生できる。 同時に、有毒菌の混入を防ぐ必要がある。
  2. 麹菌の出す酵素を有効に生かすため、発酵温度は45℃ 以下にする。

発酵食品を作り出す 主な微生物の種類

 微生物の種類  特徴と作られる発酵食品
麹菌 カビ

<特徴>

麹菌は、類縁菌と違い毒素を出さない

また、他の菌とも共生できる

そのため、特に雑菌混入を防ぐ必要がある

  • 蒸した穀物に麹菌(種麹)を振りかけ繁殖させて麹を作る
  • 麹には、米麹、麦麹、玄米麹、大豆麹などあり
  • 麹を使い、米麹、あま酒、塩麹などの発酵に使う
  • 麹菌の糖化酵素で、お米のデンプンを糖に分解し、
    その後、酵母菌で日本酒を醸造する
  • 麹菌のタンパク分解酵素で、大豆のタンパク質を分解し、
    その後、酵母菌で味噌、醤油を醸造する
  • タンパク分解酵素で、ポリアミン、アミノ酸が作られる
納豆菌 細菌
  • 蒸し煮にした大豆に繁殖させて納豆を作る
  • 納豆菌のタンパク分解酵素で、ポリアミン、アミノ酸が作られる
乳酸菌 細菌
  • 糖を餌にして乳酸を作る
  • 動物由来と植物由来とがある
  • ヨーグルト(動物由来)、漬け物(植物由来)の発酵に使う
  • 乳酸菌のタンパク分解酵素で、ポリアミン、アミノ酸が作られる
酵母菌 微生物
  • 糖をアルコールに変える
  • パンの発酵、ビール、ワインの醸造に使う
酢酸菌 細菌
  • アルコールを酸化させて食酢を生成する
  • 酢の発酵に使う

出典:ポポロ2014年3月号別冊 「 高血圧・糖尿病にならない毎日みそ生活」より筆者編集※2

ポリアミンは、アミノ酸のアルギニンからタンパク質を合成する途中段階のもの。代表的なポリアミンは、プトレスシン スペルミジン、スペルミンです。分子量が 202 以下で、そのまま腸から吸収され、老化防止の有効性が立証済みです。※3

人間の器官と分泌する消化酵素の種類

器官 消化酵素 役割
唾液腺  唾液アミラーゼ

(αーアミラーゼ)

 炭水化物  大まかに分解
 リパーゼ  脂肪  分解可能な柔らかさにする
 ペプシン  タンパク質  大まかに分解
 レンニン

(凝集酵素)

 乳製品  大まかに消化
小腸  アミノペプチターゼ  タンパク質  ポリペプチドにする

アミノ酸 10~100 個ペプチド結合

 ジペプチターゼ  タンパク質  ジペプチドにする

アミノ酸 2 個ペプチド結合

 ホスファターゼ  脂肪  リン酸塩を柔らかくする
 ラクターゼ  乳糖
(ラクトース)
 ブドウ糖とガラクトースにする
 スクラーゼ  しょ糖
(スクロール)
 ブドウ糖と果糖にする
 マルターゼ  麦芽糖
(マルトース)
 ブドウ糖にする
すい臓  アミラーゼ  デンプン  ブドウ糖にする
 キモトリプシン  ポリペプチド  分解、アミノ酸にする
 トリプシン  ポリペプチド  分解、アミノ酸にする
 リパーゼ  トリグリセリド
(中性脂肪)
 脂肪酸に分解する

出典:鶴見孝史 「 酵素がつくる腸免疫力」より筆者編集※4

消化酵素の節約

毎食、下記2点を心がけると、分泌する消化酵素を節約できます。

  1. 食物酵素が豊富な生の食品を摂取する。
  2. 発酵菌が消化した食品を、生または50℃ 以下で摂取する。

ご家庭での発酵食品作り

市販の「あま酒」は、発酵を止めるため、麹菌を、加熱、殺菌して出荷されています。加熱温度により、保存方法と賞味期限は、以下の2つに大別されます。 (例)
酵素以外の栄養は豊富に含まれていますから、美味しいと感じます。

加熱 保存方法 賞味期限
高温 常温(開栓前) 数ヶ月~ 1年
低温 10℃以下 40日~ 数ヶ月

手作りの目的は、糖化酵素、タンパク分解酵素と生きている麹菌を摂取して、健康増進です。

発酵の保温温度と継続時間

一般的な解説書情報

あま酒の場合
60℃ 4~6H 保温 糖化酵素でデンプンは糖化され甘くなりますが、タンパク分解酵素は失活、麹菌は死滅。
塩麹の場合
60℃ 4H 保温 ← 目的から考えれば、少し高過ぎです。
45℃ 48H以上 保温 ← 時間は掛かりますが、こちらが適切です。

竹林味噌醸造所の商品添付の説明書

あま酒の場合
50~55℃ 5~6H 保温
塩麹の場合
直射日光の当たらない常温 1週間

あま酒を低温発酵で作った方のWEB情報

冷蔵庫の低温度でも3日ほどでできるようです。また、酵母菌が混入すると、甘酸っぱくなるようです。

タンパク分解酵素を残す場合の条件を実験確認

あま酒の場合
40~45℃ 48H 保温 ← 早く作成する場合
尚、空気中からの入る雑菌の混入防止が必要ですが、醸造メーカー並の混入防止は難しいと思い、「図解 植物酵素の手作り帖」を参考にしました。

腐敗を避けるため、砂糖を使用

あま酒を作るのに砂糖? と思われる方が当然多いと思いますが、「砂糖は、麹菌と酵素によってブドウ糖と果糖に分解されます。」但し、摂取する時は、ブドウ糖の他に、果糖の甘みが入ります。
砂糖の混合比について

 植物酵素を作る場合は、材料の重量比 1.1倍の白砂糖を使用
 例: イチゴの植物酵素
イチゴ  600g (約2パック) ※量は自由に選択
白砂糖  660g (イチゴの1.1倍)
米麹  6~7g (イチゴの1%)

出典: 青木滋・青木和美 「 「図解 植物酵素の手作り帖」より※5

生米麹のみ発酵の場合の温度条件と砂糖の量

長時間一定温度を保つ器具として、タニカ電器販売(株)製の「かもしこ」を利用しました。

「かもしこ」外観

材料の計量

生米麹に砂糖をまぶし、お湯を準備

材料をしっかり混ぜる

材料を「かもしこ」にセット

温度設定
タイマー設定

出来上がり→冷蔵庫へ

①「かもしこ」を使用した発酵温度管理 (白砂糖は0.3倍)

温度  40~45℃で発酵(試行済み)
生米麹  340g
白砂糖  90g (生米麹の0.3倍)
 350cc
時間  48H 保温 その後、冷蔵庫で寝かせる

② 更に、砂糖を減量して試行

「かもしこ」を使用した発酵温度管理 (白砂糖は0.2倍)

温度  40~43℃で発酵(試行済み)
生米麹  340g
白砂糖  60g (生米麹の0.2倍)
 400cc (350ccに50cc追加)
時間  48H 保温 その後、冷蔵庫で寝かせる

 

結果は、いずれも腐敗することなく、あま酒を作ることができました。

③ 常温の場合、砂糖の量は多く要りますが、糖度限界を確認中です。

常温(5月の室温)で発酵 (白砂糖を増量)

温度  20~25℃で発酵(試行中)
生米麹  180g
白砂糖  100g (生米麹の0.6倍)
 280cc (生米麹+白砂糖)
時間  1週間 ゆっくり発酵
糖度の目安(概算)

白砂糖が生米麹に浸透して糖度は下がりますが、発酵によってブドウ糖が生成されるため、糖度は再上昇します。
白砂糖も発酵によってブドウ糖と果糖に分解されますが、糖度への影響は未確認。
(例) 砂糖不使用の100%フルーツジャムでは、糖度40度です。

1週間後の状況:
腐敗はしませんでした。しかし、常温では、発酵が始まるまで日数が掛かりました。開始3日目頃から、ブクブクと泡を出し発酵していることを確認できましたが、甘酸っぱい味なので、酵母菌が混入し、麹菌と共存して発酵している様です。入れた砂糖の量も多過ぎて、最後まで砂糖の甘さが残りました。
最後、「かもしこ」を使い、43℃に加熱して、追加2時間で出来上がりました。

④ 次回予定の試行内容

【「かもしこ」を使わないで、普通の器具で発酵を促進させる方法】

  • 最初、湯煎で、40~45℃に昇温して麹菌を「刺激」し、発酵を開始させる。
  • その後、保温してゆっくり常温に戻し、2~3日間室温で寝かせる。

※ 電子レンジについて

  • 電子レンジで加熱する場合、通常モードの1分30秒加熱で菌は死滅します。
  • 「かもしこ」の説明書にも、容器の殺菌方法として、記載されています。
  • 電子レンジに「弱モード(200W以下)」または「解凍モード」がある場合に限り、加熱時間を30秒以下にすれば、麹菌を殺菌しないで「刺激」できるようです。※6

今回、発酵の進捗度を味覚で確認しましたが、ポケット糖度計を使用すれば糖度の変化を数値化して把握できます。

引用文献

  1. 山元正博 「麹のちから!」(風雲舎 2012年)、p38-40,p206-211
  2. ポポロ2015年3月号別冊 「高血圧・糖尿病にならない毎日みそ生活」、p74 の表に筆者加筆・編集
  3. 早田邦康 「日本人はなぜ長寿世界一になったか」(現代書林 2009年)
  4. 鶴見孝史 「「酵素がつくる腸免疫力」( 大和書房 2013年)、p53 の表を筆者加筆・編集
  5. 青木滋・青木和美 「図解 植物酵素の手作り帖」(マガジンランド 2012年)、p66
  6. Dr.クロワッサン特別編集 「村上祥子さんが提案 電子レンジですぐできる簡単発酵食品で免疫力アップ」(マガジンハウス 2015年1月)、p26

株式会社 アタゴ 製 ポケット糖度計のご紹介

特長

  1. 器械全体を水で丸洗いできる衛生設計
  2. サンプルがこぼれにくく拭き取りやすい造形美
  3. 低温から高温サンプルまで対応可能
  4. 自動温度補正機能付
  5. 屋外での測定も安心の ELI 機能付
  6. 机上でも安定した測定が可能なデザイン
  7. 誤って水に落としても「浮く」機能を搭載

機能とデザイン