公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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例年より早い冬の訪れとなりました。雪が降ると交通機関のダイヤが乱れ易く、余裕を持って移動する必要があります。都会では歓迎されない積雪ですが、子供たちは大喜びで雪遊びをします。

筆者も、朝、起きたとき窓の外に見る真っ白な雪景色は、子供の時から好きです。心が引き締まってすっきりしますし、更に朝日が差してくると美しい風景になります。雪に恵まれない国から見れば、日本の貴重な観光資源でもあります。

また、日本の四季折々の美しい風景が、「心」に与える影響は多大なものです。「心」で直接「心」をコントロールすることは難しいのですが、環境を変えて間接的にコントロールすることは容易です。机上の整理整頓で並べ方を変えたりキーボードを掃除しても分かります。環境と心とは、相互依存の「対」になった関係にあります。

「新潟市内の公園の雪景色」 2016年1月 筆者撮影

地球の歴史を思い浮かべて、課題の大きさを相対化する

科学の進歩に尽力された先達のお陰で、宇宙の果てから素粒子の世界までを垣間見ることができるようになりました。また宇宙の歴史で見ると、150 億年前のビッグバンから、ちょっと怖い 10 億年後の地球の未来まで明らかになっています。今、分かり易く解説された本や映像の恩恵で、専門書を読まなくても、古代の人々に比べて無限ともいえる時間と空間を旅し、そこから「今、ここ」を眺めることができます。仏教文化が根付いている日本では当たり前のようにしている「無常と涅槃の世界観」を科学的に説明できるのです。

 

地球大変動の歴史のなかから、生命は誕生したのですが、地中に生まれた生物が海中に進出して以降も、「氷河期」どころではない「地球の全球凍結」という大変寒い時代があったことが分かっています。6 億 5 千万年前、厚い氷河が地球の全表面を覆っていました。平均気温はマイナス 40℃、赤道上でもマイナス 30℃、厚さ 1 キロもの氷の世界です。地球温暖化とは真逆の厳しい環境が、気の遠くなるような 1000 万年も続いたのです。その時、海中の生物は、何も方策なく生き延びたわけではなく、あらゆる可能性を試していました。いつ終わるともしれない雪解けを待つ・・・「過去のことも未来のことも悩まず、ひたすら待ち続ける」・・・単細胞の生物に備わる遺伝子が、私たちのなかにもあります。そうでなければ、「今、ここ」に生きていないのですから。そして全球凍結が終わった後、カンブリア爆発といわれる、多様性のある生物が出現したのです。

 

また、地底深くに住む生物は、地熱と地層に浸透してくる海水を利用して繁栄していることが分かってきました。「全球凍結」による悪影響も少なかったと思います。

地球の生物は、地球の中心部の核から、マントルによって熱が運ばれ続けている限り、全滅することは無いのです。地球は、人類だけの世界ではありません。

課題からくるストレスに対し、視点を変えて、「今、ここ」に生きる

視点を大きく変えてみることで、「どんなストレス」も、小さい悩みであることがわかると思います。しかしながら、無為無策で後回しすることを勧めている訳ではありませんし、小さな問題として無視して良いと言っているのではありません。ストレスは、生き延びる工夫を促すシグナルです。「神は細部に宿る」との格言もあります。細部こそ、今すべきことかもしれません。

 

飛行機に乗る際、窓際の席を予約し、ずっと空と地上を眺め続ける方法もお勧めです。国内ですと飛行時間が短いので、直ぐ着陸態勢に入りますが。北陸新幹線の開業前、新潟から金沢まで連続 4 時間の列車の旅が、車窓の風景を眺め続けるのに良い方法でした。(今は、北陸新幹線の上越妙高駅で乗り換えになりました。)個人差はありますが、

3~4 時間が程よい時間と思います。

 

毎日できる手軽な方法として、日中は、外に出て、木々の多い公園などを考え事をしないで風景をしっかり見ながら、ゆっくり散歩することにしています。

「広島近くの瀬戸内海」 2014年1月 筆者撮影

「車窓から、立山連峰を望む」 2016年10月 筆者撮影

参考文献

  1. 中沢弘基「生命誕生」(講談社現代新書 2014年5月)

— 編者紹介 —

中沢弘基(なかざわひろもと)

 

1940年長野市生まれ。

物質・材料研究機構名誉フエロー。日本地球惑星科学連合フエロー。元東北大学大学院理学研究科教授、元無機材質研究所総合研究官、元日本粘土学会会長。

著書:「生命の起源 地球が書いたシナリオ」(新日本出版社、2006年)

主な受賞歴:日本結晶学会賞(1978年)、科学技術庁長官賞(1992年)、 井上春成賞(1998年)、全国発明表彰発明賞(1999年)、 産学官連携功労者表彰経団連会長賞(2006年)

褒章:紫綬褒章(X線導管を用いた走査型X線分析顕微鏡の発明)(2000年)

叙勲:瑞宝中綬章(2011年)

 

生命の起源を探る研究を進めていくと、物理や化学の論理だけでは説明できない、さまざまな謎に直面します。なぜ岩石や鉱物ばかりの原始地球に炭素や水素でできた有機分子が出現したか? しかも、アミノ酸や糖など生物をつくる基本的な有機分子はみんな、なぜ水溶性で粘土鉱物と親和的なのか? なぜ、それらがタンパク質や DNA など高分子に進化したのか? いずれもよく知られた事実ですが、「なぜそうなのか?」は今の物理や化学では説明できていません。生命の起源や進化に関する。“なぜ?” には、 生物学、物理学、化学など個々の専門分野の常識では答えられない謎がたくさんあるのです。その最たるものは 「なぜ、生命が発生して、生物には進化という現象があるのか?」 という根源的な命題です。(「はじめに」より)

ニュートン「地球と生命」(ニュートン プレス 2015年7月)