公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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食用塩は、輸入塩や工業的な製塩法で安価となり、必要では有るが、特別に注意を払わ ない食材のようですが、飲食時の「塩の成分と濃度」にもっと関心を持ちたいものです。

塩分は濃度が重要

海で遭難・漂流し救助された方は「海では真水が一番大切」と語っています。
体内の塩分濃度0.9%に対して、現在の海水の塩分濃度は3.1~3.8%で、地球に生命が誕生した当時の「太古の海」より、塩分濃度が高くなっています。
陸上に上がった生物は、魚類と違い、塩分濃度の高い海水から、塩分だけを体外に排出する能力が弱まっています。そのため、海水をそのまま飲むと喉が渇きを覚え、薄めるための真水を欲します。

熱中症は、汗をかいて体内から塩分が失われ、血液中の塩分濃度が下がった状態です。体は脱水症状を起こして血液中の塩分濃度を高めようとします。この時、真水を飲むと、更に塩分濃度が下がり危険な状態になりますから、塩分1%以上の水が必要です。

スポーツや真夏の暑さで、体内の水分と塩分は、汗と共に多量に失われます。PETボトル入りスポーツドリンクの塩分は、0.1%と意外に少なく、経口補水液の塩分は、0.4%です。(市販品を筆者が測定した値、精度±0.1%) スポーツドリンクには、糖質も多く入っていますから、健康な若い人用です。糖尿病予備軍に入っている人には、過剰な糖質が負担になります。
水分と塩分の補給は、海水の成分に近い割合の塩(伝統海塩)だけを、水またはお湯に溶かして、0.7~0.8%に薄めたものが良いと思います。

減塩生活

健康診断で「高血圧症」と診断された後は「減塩生活」に入る方が多いと思います。高血圧の状態が継続すると怖いのは、劣化した血管からの出血です。本当の根本原因はともかく、「当面、血圧を上げない手段としての減塩生活」が推奨されます。

減塩方法として、ご家庭での料理の際の「塩分量」を減らすことが多いと思いますが、実際には「食事で摂取した塩分量と、消化し吸収した塩分量」が異なり、吸収した塩分量(主としてナトリウム)も、腎臓の機能が正常なら、過剰なナトリウムはカリウムと共に、水分に含まれて、速やかに排出されます。そのため減塩の有効性は、血圧が下がったか否か? という結果でしか判断できません。
過度な減塩をされても、塩分(ミネラル)の貯蔵庫である「骨」を溶かして、血液中に必要なミネラルを補充しますから、短期的な応急処置としては副作用が現れず、血圧も下がることが多いと思います。
ところが「高血圧症」は、心理的な問題も含めて多くの「生活習慣病」的要因もあるため、塩分量制限のみに頼った方法による効果は限定的です。

「高血圧症」となった原因が、日常的な塩分摂取過多による血管の老化でないなら、「過度な減塩生活」は、生命に必要とされる塩分の慢性的な不足を招き、活力の低下と冷え性や骨が脆くなる(骨そしょう症)などのリスクが高まります。

正しく減塩

今まで減塩といえば、1日の塩分摂取量10グラム未満(最新版では8グラム)・・・という実際には把握の難しい方法しか有りませんでしたが、正しく減塩する方法として最新の「デジタル塩分計を使用した塩分濃度測定と濃度調整法」を紹介させて頂きます。

塩分濃度は0.9%が基準

0.9%の根拠は、「必要な塩分(消費量と体内貯蔵量の合計)が分からなくても、体を構成する60兆個の細胞は、濃度0.9%で生きている」ということです。

摂取している水分量と、体内から失われる塩分量

1日に体外に排出される水分量は、大人の場合、通常、2.5リットルです。

個人差はありますが、安静にしていた場合でも尿や便、汗などから2.5リットルが 自然に排出されます。但し、食事から1リットル程度の水分が補給でき、細胞内のミトコンドリアでもエネルギーが作られる際にも、0.3リットル程度の代謝水が生じるため、飲料水として、1日に、1~1.5リットル程度の新鮮な水が必要です。

※参考文献 3) 18ページより引用

ここで、食事から塩分が補給され、腎臓で塩分を再吸収しなくて済む場合を想定します。この場合、摂取した新鮮な塩分と同じ量の古くなった塩分0.9%分は体外に排出します。

排出された水分から計算:2.5リットル × 0.9% = 23グラム
補給された水分から計算:1.5リットル × 0.9% = 14グラム

結果、1日当たり、14~23グラムの塩分摂取量が、体には最適な補給量です。

  • 水分の摂取量が少ない人は、摂取する塩分量を、上記より少なくする必要が有ります。水分が腎臓で再吸収され体内を循環しますから、塩分濃度が高まり腎臓に更に負担を掛けるからです。
  • 細胞の活性を高めるためにも、新鮮な良い水をしっかり摂ることが必要です。
  • 塩分不足の場合は、腎臓で「塩分の再吸収」がフル稼働し負担になりますし、体内の古くなった塩分も入れ替りが遅くなり、活力が低下します。

摂取する塩分量と高血圧との相関関係に関する疫学調査

1日で摂取する塩分量が、30グラム以下なら、高血圧に影響の無いことが大規模な疫学調査で報告されています。

1988年には、世界32ヶ国、52センターが参加して、1万人あまりを対象に、「インターソルト」という大規模な調査が行われました。
その結果から明らかになったことは、1日3g以下という極端に食塩摂取の少ない民族では高血圧の人がほとんどいないこと、1日30g以上のような極端に食塩摂取の多い民族では高血圧の人が多いことでした。しかし、その中間に属する大多数の民族については、食塩摂取と血圧の相関関係は認められなかった、というのです。
塩分よりも、むしろ、肥満やアルコールなどの影響のほうが強いという結果が出ているほどです。

※参考文献 1) 38ページより引用

最適な塩分量を摂取する方法

最新の家庭用デジタル塩分計で、塩分濃度による摂取量の調整が可能になりました。

塩分摂取した時間帯でも、血液の塩分濃度は変動しますから、1日単位の塩分量調整でなく、毎食毎に、濃度換算0.5~0.8%になるような塩分摂取で、体への負担を少なくします。

塩分濃度の上限が、0.8%の理由

  • 塩分濃度の中心値は、0.9%ですが。加工食品に使用している塩の種類は、特別に記載していない場合、塩分の99%以上が、塩化ナトリウムです。
  • 体内の塩分は、ナトリウム以外にカリウム、マグネシウム、カルシウム、微量元素とあり、それぞれがミネラルバランスを保っています。ナトリウムのみの0.9%では、体内のナトリウム濃度以上になり、浸透圧では逆転し、ミネラルバランスを崩します。安全サイドに、濃度調整値を0.8%に下げています。

塩辛いものを食べてはいけないのか?

  • 濃い味が好みの方は、例えば、料理の塩分濃度が2%なら、塩分濃度を下げるのに必要な「お湯または真水」を用意し、重量比で約2倍分を合わせて飲みます。
  • 塩辛いものをそのまま食べる場合も同様に、塩分濃度を下げるのに必要な「お湯または真水」を合わせて飲みます。試してみますと「エッ」と思うほどの水分量が必要です。
  • 漬け物は酵素が多く良い食品ですが、浅漬けの場合でも、塩分濃度は2%以上有ります。水またはお湯で、0.8%に薄めて頂くと、必要な水分量が「見える化」されます。
  • 醤油は塩分濃度が高い調味料です。減塩でなくても構いませんが、薄めて頂きましょう。

注意:カフェインを含む飲料は、体内の水分を排出する作用が強く、料理の塩分濃度を薄める効果は少なくなります。

薄味の勧め

  • 計算が煩わしいので、薄味に慣れて、塩分濃度を0.8%に合わせた方が便利です。
  • 細胞が吸収する時の塩分は、0.9%ですから、「舌の味覚」では美味しいと感じます。

塩分濃度で調整する方法の利点

  • ご家族と同じ料理でも本人だけが塩分を薄めて食べることができ、料理を分けて作る必要性と頻度は少なくなります。
  • 「高血圧症」で無くても、体に優しい方法のため、健康増進になります。

デジタル塩分計で塩分濃度調整例

参考文献

皆様は、書店で最初、どのコーナーに行かれますか? 筆者は、健康関連コーナーです。「病気にならない健康法」を知りたい場合、本を通しての著者との出会いが重要です。今回採り上げた「塩」に関する参考文献はそのような経緯で見つけたのです。「塩」を善玉として説明した本は意外な程少なく、筆者の見る限り下記の3冊だけでした。

  1. 上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる」(現代書林 2012年)
  2. 村上謙顕 「日本人には塩が足りない! ミネラルバランスと心身の健康」(東洋経済新報社 2009年)
  3. 新谷弘実 「水と塩を変えると病気にならない」(マガジンハウス 2013年)