2010/04/06 業界コラム 瀧本 孝治 API 670規格-Machinery Protection Systems-概要 vol.1システム構成要素と非接触変位センサに対する要求仕様 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST推進企画...もっと見る マーケティング部 ST推進企画 前回までのコラム「回転機械の状態監視」の中でも「API 670規格に準拠したセンサ」とか「API 670規格で規定された監視モニタ」など何度も登場した「API 670規格」に関して、その概要を説明します。 1.API 670規格とはAPI 670規格とはアメリカ石油協会(American Petroleum Institute)の規格で、石油精製、石油化学プラントにおける重要な回転機械の監視・保護機器に関する詳細な要求事項が示されたものであり、現在2000年12月発行の4th Editionが最新版として適用されています。この規格は表1のタイトルが示すように、当初非接触の軸振動と軸位置の監視システムに関するものでしたが、2nd Editionからケーシング振動やベアリング温度なども取り込み、4th Editionでは機械の保護に関する重要なパラメータとして回転数、オーバースピード検知、更に回転機械ではありませんがレシプロコンプレッサのピストンロッドドロップ監視なども取り込みタイトルを「Machinery Protection Systems」と改訂しています。 なお、API 670 5th Editionに関して2008年にTaskForceが招集され、現在、現行規格の改訂に関する討議が行なわれています。 表1. API 670規格 Edition Title Issue 1st Noncontacting Vibration and Axial Position Monitoring System 1976/06 2nd Vibration, Axial-Position, and Bearing-Temperature Monitoring Systems 1986/06 3rd 1993/11 4th Machinery Protection Systems 2000/12 2.適用範囲とシステム構成要素API 670 規格は以下の状態パラメータを監視している機械保護システム(Machinery Protection System)に対する最低限の要求事項をカバーしたものです。 軸振動(Radial Shaft Vibration) ケーシング振動(Casing Vibration) 軸位置(Shaft Axial Position) 回転数(Shaft Rotational Speed) ピストンロッドドロップ(Piston Rod Drop) 位相基準(Phase Reference) オーバースピード(Overspeed) 温度(Temperatures) API 670規格における機械保護システム(Machinery Protection System)とは図1に示すように、トランスデューサシステム(Transducer System)とモニタシステム(Monitor System)から構成されています。トランスデューサシステムはセンサ(Sensor)とケーブル、更に必要な場合にはシグナルコンディショナ(Signal Conditioner)とで構成されます。センサの種類としては、非接触変位センサ(Proximity Probe)、測温抵抗体(RTD)、熱電対(Thermocouple)、加速度センサ(Accelerometer)、および電磁ピックアップ(Magnetic Speed Sensor)が挙げられていますが、規格本文では非接触変位センサ、加速度センサおよび電磁ピックアップに対する要求仕様が掲載されています。特に、非接触変位センサに関しては詳細な要求仕様が述べられています。また、シグナルコンディショナとしては、非接触変位センサのための発振・復調器(Oscillator-Demodulator)※1のみが対応しており、その他のセンサに関してはシグナルコンディショナに相当するものはありません。 ※1 発振・復調器(Oscillator-Demodulator)は、新川電機のFKシリーズのドライバ(Driver)に相当する部分です。 図1. API 670規格で規定されている機械保護システム(Machinery Protection System)の構成要素※図1は、API Standard 670 Fourth Edition, December 2000の”Figure 1-Machinery Protection System”より転載しています。 モニタシステムは、信号処理(Signal Processing)、警報ロジック(Alarm / Shutdown Integrity Logic Processing)、電源(Power Supply)、表示(Display Indication)、入出力(Input / Output)、保護リレー(Protective Relay)の各機能ブロックから構成されたもので、状態監視項目に応じて、軸振動、軸位置、ケーシング振動、温度、ピストンロッドドロップ、回転数、オーバースピードが挙げられています。 API 670規格では、これらの各構成要素に対する機能、精度、寸法などの要求仕様や取り付け方法などに関して詳細に述べています。 3.非接触変位センサ(Proximity Probe)ここでは、トランスデューサシステムとして特に詳細に規定されている非接触変位センサ(Proximity Probe)に関して少し詳しく見ていきます。まず、主な要求仕様を表2にまとめてみました。 表2. 非接触変位センサ(Proximity Probe)に対する要求仕様 項目 API Standard 670, 4th Edition, 2000 Specifications スケールファクタ (ISF: Incremental Scale Factor) 7.87mV/μm ±±5%(試験温度) 7.87mV/μm ±10%(使用温度範囲) 直線性 (DSL:Deviation from Straight Line) 傾き7.87mV/μmの最近似直線からの偏差 ±25.4μm以内(試験温度) ±76μm以内(使用温度範囲) リニアレンジ(Linear Range) 2mm以上 使用温度範囲 センサ (Sensor) :-35℃~+120℃ 延長ケーブル (Extension Cable) :-35℃~+65℃ ドライバ (Oscillator-Demodulator) :-35℃~+65℃ 湿度 100% RH(ただし非浸漬、コネクタ保護時) 校正ターゲット材質 AISI 4140 steel(JIS SCM440相当) センサトップ径 標準 :φ7.6mm~φ8.3mm オプション :φ4.8mm~φ5.3mm センサネジ部 標準 :3/8-24UNFリバース・マウント オプション :3/8-24UNF, 1/4-28UNF, :M10×1, M8×1 フレキシブルアーマオプション 標準 :フレキシブルアーマなし オプション :ステンレスフレキシブルアーマ付 センサケーブル長 1m(0.8m~1.3m) 延長ケーブル長 4m(3.6m以上) 電源 -24VDC この中で使われている、スケールファクタ(ISF: Incremental Scale Factor)、直線性(DSL: Deviation from Straight Line)、リニアレンジ(Linear Range)に関して図2を使って説明します。 図2. 非接触変位センサの精度に関する用語説明 スケールファクタは、基準単位長さ当たりの出力変化(\( \Delta y \) / \( \Delta x \))であり、API 670規格では基準単位長さを通常250μmとしてスケールファクタ基準値を7.87mV/μmと規定しています。また、実測スケールファクタの規定値に対する差であるスケールファクタ誤差を、7.87mV/μmの±5%と規定しています。このスケールファクタ誤差が振動計測時の精度に関与する値であり、[振動の読み値]×[スケールファクタ誤差]が測定誤差に対応します。例えば、振動測定値が100μmであったとすると、その誤差は±5μmということになります。(ここでは、振動モニタの変換精度は含んでいません。) API 670における直線性の定義は、傾き7.87mV/μmの最近似直線に対する実測データ(校正曲線)の偏差 \(d\) であり、±25.4μm以内と規定されています。これは軸位置計のような変位測定に対する精度に対応しています。これは測定値(軸位置の値)に係わらず、どの測定点においても最大±25.4μmの誤差を含む可能性があるということになります。 リニアレンジとは、上記のスケールファクタと直線性がAPI 670規格の規定値を満足する変位 \(x\) の範囲のことであり、これが2mm以上あることが要求されています。 図3にFK-202Fトランスデューサの標準特性を示しています。この例では、変位0.25mm~2.25mmの範囲でスケールファクタ誤差と直線性が規定値を満足しており、この範囲がリニアレンジとなります。 図3. FK-202Fトランスデューサの標準特性例表2に示す通り、API 670規格では精度や機能だけでなく、センサの形状、ネジ部の寸法やケーブル長まで細かく規定されています。なお、API 670規格準拠の非接触変位センサとして適用されているトランスデューサシステムは、システムケーブル長5mと9mのものが一般的に使われていますが、API 670規格では[センサケーブル長1m]+[延長ケーブル長4m]のシステムケーブル長5mのシステムのみが規定されています。 さて、次回は図1の下半分に示すモニタシステムに関して説明します。 本コラム関連製品 FKシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. 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