2024/07/02 業界コラム 瀧本 孝治 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST推進企画...もっと見る マーケティング部 ST推進企画 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。 今回は、周波数解析、エンベロープ処理、および無線振動センサに関してお話しします。 5-2 周波数解析による異常診断 振動測定による異常の有無の判断は、前回の5-1節で述べたようにOA値で評価することができますが、その異常要因まで知ることはできません。このような異常振動が発生した要因を推定するためには、その振動に含まれる主要な周波数成分 (スペクトル) を知ることが重要となるため、OA値による状態監視だけではなく、振動波形データのFFT演算による周波数解析が有効な手法としてよく用いられています。 周波数解析の結果から表6に示すような振動因果マトリックス5) 等を参考に、その振動要因を推定することができます。例えば、回転数3,600 rpmの回転機械で異常振動の周波数成分がほぼ60 Hz成分 (1X成分) のみであったとすると、不釣合いの可能性が高いということになります。また、60 Hz成分 (1X成分) と120 Hz成分 (2X成分) が主要スペクトルである場合は、軸クラックやミスアライメント、ミスカップリングなどが考えられるということになります。 表6 振動因果マトリックスの例 (一部抜粋) 5-3 転がり軸受の損傷検知とエンベロープ処理 転がり軸受の最も一般的な損傷として、軸受内部に異物が混入して内輪や外輪に圧痕を生じ、それを起点として微小クラックの発生、さらに成長してフレーキングに発展することがあります。このように内輪や外輪に圧痕が生じると、そこを転動体が通過するたびに衝撃振動を発生することになり、この衝撃振動は内輪または外輪の固有振動数による減衰自由振動となります。その減衰自由振動の繰り返し周期は、損傷の生じた箇所 (軸受部品) と回転数、および転がり軸受の諸元に依存するため、繰り返し周期の逆数である繰り返し周波数を調べることで、どの軸受部品に損傷が生じているのかを知ることが可能となります。式(6)から式(9)に各損傷周波数の計算式6)を示します。 なお、転動体個数を \(N\)、回転周波数を \(f_{r}\) (Hz)、ピッチ円直径を \(P\) (mm)、転動体直径を \(B\) (mm)、接触角を \(\phi\) とします。 \begin{align} 外輪損傷周波数 BFPO&=\frac{N}{2}f_{r}\left( 1-\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{6} \\ \\ 内輪損傷周波数 BPFI&=\frac{N}{2}f_{r}\left( 1+\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{7} \\ \\ 転動体損傷周波 BSF&=\frac{P}{2B}f_{r}\left[ 1-\left( \frac{B}{P}\right) ^{2}\cos ^{2}\phi \right] \tag{8} \\ \\ 保持器損傷周波 FTF&=\frac{f_{r}}{2}\left( 1-\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{9} \\ \end{align} 損傷に起因する衝撃振動は振動センサで検出されますが、その波形信号は軸受部品の固有振動数に由来する数kHzのリンギング信号に上記の損傷周波数が変調されたような形となり、元の波形をそのままFFT演算しても損傷周波数を見出すことが困難です。損傷の初期段階では特にそれが顕著であり、軸受異常の兆候を早期に検知するためには、図6に示すようなエンベロープ処理を行った波形のFFT演算が必要となります。 図6 外輪損傷振動波形のエンベロープ処理イメージ6 無線振動センサシステム 4章でも述べたように、ポータブル振動計による巡回データ収集に対して、現場作業の効率化、測定状態の安定化、高頻度データ収集等を目的として、振動センサの常設化を行う場合、現場から監視室までの新たなケーブル敷設を必要としない無線振動センサの設置が適しており、まずは小規模な導入で効果を見極め、導入効果を確認した後に規模を拡大し、本格的な導入に移行するスモールスタートとしての導入にも適しています。 表7に当社の無線振動センサであるe-SWiNSシリーズとZARKシリーズより、主な機種での仕様比較を示しますが、無線通信方式やセンサの形状・大きさ、システム構成等、多種多様にあります。表8に典型的な例としての機種選定ガイドを参考に示しますが、実際の機種選定においては、測定箇所のスペースや環境、求められるデータ収集頻度など、実際のアプリケーションと目的に即した機種をそれぞれの仕様や特徴等、総合的に判断して選定することが重要ですので、ご検討の際には当社の営業担当窓口にご相談ください。 表7 無線振動センサの主な仕様比較 (新川電機製) 画像をクリックすると拡大表示できます。 ※1 OA はオーバーオール値の略で、広帯域振動値のことを示す。 ※2 e-加速度は、エンベロープ検波加速度 (1 kHz以上の振動データをエンベロープ処理) を表している。 ※3 WakeUp機能:振動値が設定したウェイクアップ閾値を超えると自動的に起動してデータ収集を行う。 ※4 e-SWiNS (920MHzタイプ) は、電源供給型の中継器 (パワードリピータ WS-1APR) で中継可能。 中継器の通信距離は屋内 500 m、屋外 1.2 kmでホッピング回数3回まで。 ※5 中継器ZARK X8Ⅱには外部電源 (AC 100 ~ 240 V) の供給が必要。ZARK X8Ⅱに接続するCA-302等IEPE有線センサの駆動用定電流電源 (4 mA @ 24 VDC) はZARK X8Ⅱより供給。 表8 無線振動センサ機種選定ガイド (典型例) いよいよ次回は最終回となりますが、無線振動センサの選定に関して、もう少し詳しくお話をすすめてまいります。 参考文献 5) 松下修己,田中正人,小林正生,古池治孝,神吉博 : 続 回転機械の振動 実機の振動問題と振動診断,コロナ社,(2012) 6) ISO 13373-3:2015,“Condition monitoring and diagnostics of machines — Vibration condition monitoring — Part 3: Guidelines for vibration diagnosis” 本コラム関連製品 e-SWiNS(920MHz)ZARK & Machine DossierinfiSYS 3.0infiSYS V-Assist この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月