新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。
 今回は、周波数解析、エンベロープ処理、および無線振動センサに関してお話しします。

5-2 周波数解析による異常診断

 振動測定による異常の有無の判断は、前回の5-1節で述べたようにOA値で評価することができますが、その異常要因まで知ることはできません。このような異常振動が発生した要因を推定するためには、その振動に含まれる主要な周波数成分 (スペクトル) を知ることが重要となるため、OA値による状態監視だけではなく、振動波形データのFFT演算による周波数解析が有効な手法としてよく用いられています。

 周波数解析の結果から表6に示すような振動因果マトリックス5) 等を参考に、その振動要因を推定することができます。例えば、回転数3,600 rpmの回転機械で異常振動の周波数成分がほぼ60 Hz成分 (1X成分) のみであったとすると、不釣合いの可能性が高いということになります。また、60 Hz成分 (1X成分) と120 Hz成分 (2X成分) が主要スペクトルである場合は、軸クラックやミスアライメント、ミスカップリングなどが考えられるということになります。

表6 振動因果マトリックスの例 (一部抜粋)

振動因果マトリックスの例

5-3 転がり軸受の損傷検知とエンベロープ処理

 転がり軸受の最も一般的な損傷として、軸受内部に異物が混入して内輪や外輪に圧痕を生じ、それを起点として微小クラックの発生、さらに成長してフレーキングに発展することがあります。このように内輪や外輪に圧痕が生じると、そこを転動体が通過するたびに衝撃振動を発生することになり、この衝撃振動は内輪または外輪の固有振動数による減衰自由振動となります。その減衰自由振動の繰り返し周期は、損傷の生じた箇所 (軸受部品) と回転数、および転がり軸受の諸元に依存するため、繰り返し周期の逆数である繰り返し周波数を調べることで、どの軸受部品に損傷が生じているのかを知ることが可能となります。式(6)から式(9)に各損傷周波数の計算式6)を示します。

 なお、転動体個数を \(N\)、回転周波数を \(f_{r}\) (Hz)、ピッチ円直径を \(P\) (mm)、転動体直径を \(B\) (mm)、接触角を \(\phi\) とします。

\begin{align}
外輪損傷周波数 BFPO&=\frac{N}{2}f_{r}\left( 1-\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{6} \\
\\
内輪損傷周波数 BPFI&=\frac{N}{2}f_{r}\left( 1+\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{7} \\
\\
転動体損傷周波 BSF&=\frac{P}{2B}f_{r}\left[ 1-\left( \frac{B}{P}\right) ^{2}\cos ^{2}\phi \right] \tag{8} \\
\\
保持器損傷周波 FTF&=\frac{f_{r}}{2}\left( 1-\frac{B}{P}\cos \phi \right) \tag{9} \\
\end{align}

 損傷に起因する衝撃振動は振動センサで検出されますが、その波形信号は軸受部品の固有振動数に由来する数kHzのリンギング信号に上記の損傷周波数が変調されたような形となり、元の波形をそのままFFT演算しても損傷周波数を見出すことが困難です。損傷の初期段階では特にそれが顕著であり、軸受異常の兆候を早期に検知するためには、図6に示すようなエンベロープ処理を行った波形のFFT演算が必要となります。

図6 外輪損傷振動波形のエンベロープ処理イメージ

6 無線振動センサシステム

 4章でも述べたように、ポータブル振動計による巡回データ収集に対して、現場作業の効率化、測定状態の安定化、高頻度データ収集等を目的として、振動センサの常設化を行う場合、現場から監視室までの新たなケーブル敷設を必要としない無線振動センサの設置が適しており、まずは小規模な導入で効果を見極め、導入効果を確認した後に規模を拡大し、本格的な導入に移行するスモールスタートとしての導入にも適しています。

 表7に当社の無線振動センサであるe-SWiNSシリーズとZARKシリーズより、主な機種での仕様比較を示しますが、無線通信方式やセンサの形状・大きさ、システム構成等、多種多様にあります。表8に典型的な例としての機種選定ガイドを参考に示しますが、実際の機種選定においては、測定箇所のスペースや環境、求められるデータ収集頻度など、実際のアプリケーションと目的に即した機種をそれぞれの仕様や特徴等、総合的に判断して選定することが重要ですので、ご検討の際には当社の営業担当窓口にご相談ください。

表7 無線振動センサの主な仕様比較 (新川電機製)

無線振動センサの主な仕様比較

画像をクリックすると拡大表示できます。

※1 OA はオーバーオール値の略で、広帯域振動値のことを示す。

※2 e-加速度は、エンベロープ検波加速度 (1 kHz以上の振動データをエンベロープ処理) を表している。

※3 WakeUp機能:振動値が設定したウェイクアップ閾値を超えると自動的に起動してデータ収集を行う。

※4 e-SWiNS (920MHzタイプ) は、電源供給型の中継器 (パワードリピータ WS-1APR) で中継可能。
中継器の通信距離は屋内 500 m、屋外 1.2 kmでホッピング回数3回まで。

※5 中継器ZARK X8Ⅱには外部電源 (AC 100 ~ 240 V) の供給が必要。ZARK X8Ⅱに接続するCA-302等IEPE有線センサの駆動用定電流電源 (4 mA @ 24 VDC) はZARK X8Ⅱより供給。

表8 無線振動センサ機種選定ガイド (典型例)

無線振動センサ機種選定ガイド

いよいよ次回は最終回となりますが、無線振動センサの選定に関して、もう少し詳しくお話をすすめてまいります。

参考文献

5) 松下修己,田中正人,小林正生,古池治孝,神吉博 : 続 回転機械の振動 実機の振動問題と振動診断,コロナ社,(2012)

6) ISO 13373-3:2015,“Condition monitoring and diagnostics of machines — Vibration condition monitoring — Part 3: Guidelines for vibration diagnosis”

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