2014/09/09 業界コラム 瀧本 孝治 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前回は、回転数の変化に伴い、ヘビースポットに対するハイスポットの位相が変化するとともに振動振幅値も変化して、ポーラ線図上の振動ベクトルの軌跡が円弧を描いて変化することと、危険速度における振動ベクトルより90度進み方向にヘビースポットがあることを説明しました。今回は、振動ベクトルを利用してロータのバランス調整(不釣合い修正)を行う方法について説明します。 一速度一面効果ベクトルバランス法ここでは、前回および前々回と同じ前提条件の説明モデルに対して、ある一定の回転数におけるベクトルからアンバランス(不釣合い)を打ち消すための修正おもりの取付位置と質量の求め方について説明します。 まず、前々回からの復習の意味も含め、ロータの位相基準信号と軸振動波形の測定イメージ、およびそれぞれの信号波形とそれに対応するポーラ線図上の振動ベクトルのイメージを一つにまとめて図21 に示します。図21の (b) (c) は前々回の図15と同じものですが、この位相基準信号と振動波形の入力として、ロータモデルに対するそれぞれの信号の測定センサ配置のイメージを追記しています。 図21. ロータにおける位相基準および軸振動波形測定イメージと振動ベクトルの関係それでは、図21の測定から振動ベクトルプロットまでの流れを踏まえて、図22に示すロータのイメージとポーラ線図を使って一速度一面効果ベクトルバランス法について説明します。 なお、一速度一面効果ベクトルバランス法は、下記の条件で実施することが必要です。 (a) 図22の ① ~ ⑤ の振動ベクトル計測時の回転数はいずれも同じ回転数とする。 (b) 試しおもりと修正おもりの軸中心からの距離は同じとする。 また、図22の ② ~ ⑤ のポーラ線図の100μmの円周上に試しおもりと修正おもりの位置をプロットしていますが、これは取付角度を視覚的に分かりやすくためのものであり、100μmの円周上にプロットしていることには特に意味はありません。この例で示したポーラ線図の最大円が100μmのため、その円周上にプロットしているだけです。 では、図22の ① ~ ⑤ に沿って説明します。 ① バランス前の初期状態における振動ベクトルを示しています。 この例では、(100μm, 30°)であり、分かりやすくするために原点から(100μm, 30°)に向けて矢印を引いています。 ① バランス前の初期状態における振動ベクトル (100μm, 30°) 図22. 一速度一面効果ベクトルバランスの例② このロータの位相基準から遅れ方向105°の位置に100gの試しおもりを付けて回転させた時の振動ベクトルを示しています。この時の振動ベクトルは(60μm, 60°)となり、これも原点から矢印を引いて示しています。 ② 試しおもり付加(100g, 105°)時の振動ベクトル(60μm, 60°)図22. 一速度一面効果ベクトルバランスの例③ 初期ベクトルから試しおもり付加時のベクトルに向かって矢印を引いていますが、これは(100g, 105°)の試しおもりを付加した影響(効果)によるベクトルの変化を示すもので、試しおもりによる効果ベクトルと呼びます。 ③ 試しおもり付加による効果ベクトル(バランス前→試しおもり付加時)図22. 一速度一面効果ベクトルバランスの例④ 試しおもりによる効果ベクトルを平行移動して、ベクトルの始点をポーラ線図の原点に合わせます。この時、ポーラ線図上で効果ベクトルは(57μm, 178°)であることが分かります。 ④ 効果ベクトルを原点に平行移動(57μm, 178° )図22. 一速度一面効果ベクトルバランスの例⑤ 試しおもりの代わりに修正おもりを取付けることにより、アンバランスを解消するためには、修正おもりによる予想効果ベクトルがバランス前の初期ベクトルを打ち消すように、大きさが同じで角度が正反対となるようにすればよいことが分かります。この例では、初期ベクトル(100μm, 30°)を打ち消すための修正おもりによる予想効果ベクトルは(100μm, 210°)とする必要があります。 そこで、試しおもりによる効果ベクトルと修正おもりによる効果ベクトルを比較してみると、大きさが 100μm / 57μm = 1.75 倍で、角度が 210 – 178 = 32° となっています。 試しおもりによる効果ベクトルは、試しおもり(100g, 105°)によって得られたものですので、修正おもりは、質量を 100g × 1.75 = 175g とし、取付角度を 105 + 32 = 137° とすればよいということになります。 ⑤ 効果ベクトルと修正おもりによる予想効果ベクトルの比較と修正おもりの算出図22. 一速度一面効果ベクトルバランスの例上記の流れで得られた結果に従って、(100g, 105°)の試しおもりを外して、代わりに(175g, 137°)の修正おもりを取付ける事で、この回転数におけるアンバランス振動は最小限に抑えられることになります。 図23は滑り軸受で支持されたロータキットで、不釣合い、ミスアライメント、ロータ部品の飛散、およびオイルホワール現象による異常振動を発生させることができます。このロータ部分には20度ピッチで試しおもり、修正おもりを取付けられるようになっていて、上記の方法でバランス調整の演習を行うことができるようになっています。 図23. 滑り軸受ロータキット Model 9E12-001図24に、このロータキットとポータブル振動解析システムKenjinを使って、約3000rpmにおける、バランス調整前の初期ベクトルと試おもりを付加したときのベクトルを計測し、そこから得られた効果ベクトルを基に計算した修正おもりによるバランス調整例を示しています。 (a) 試しおもりによる効果ベクトル測定 (b) バランス調整前後のポーラ円 図24. ロータキットによるバランス調整実例 修正おもりの計算値は(0.58g, 129°)ですが、付属のおもりは0.2gピッチで、取付け角度20度ピッチのため、実際の修正おもりは(0.6g, 120°)として約3000rpm で運転したところ、バランス調整前83μmから、バランス調整後13μmに抑えることができています。図24の (b) はバランス調整前後のポーラ円を示していますが、全回転数域でうまくバランス調整ができていることがわかります。 実際の回転機械のバランス調整は、上記のような一面調整だけではなく、複数面の調整を要することが一般的ですが、基本的な考え方は上記の方法で理解していただけるのではないかと思います。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200KenjininfiSYS 3.0 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月