2012/09/04 業界コラム 瀧本 孝治 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 今回も、前回に引き続き、「すべり軸受ロータキット」を使った、異常発生時の解析事例を紹介します。 ミスアライメント例えばタービンとコンプレッサやタービンと発電機のセットのように、複数の回転機械を連結する場合、各回転軸の回転中心線を一直線に合わせる必要があります。しかし、連結される回転機械同士の軸受の心が平行にずれていたり、傾いていたりして、軸受の心がずれる状態をミスアライメントと言います。このミスアライメントの状態の軸同士をカップリングで強制的に結合して運転すると、回転数の2倍の周波数成分(2X)の振動が発生します。また、3倍、4倍等の高次の成分も発生することがあります。 前回、図14で紹介したすべり軸受ロータキットでは、図20にあるように、モータとロータ主軸の間にある中間軸ユニットの固定部をゆるめて、中間軸ユニットをねじることでミスアライメントの状態を模擬することができます。 図20.ロータキットによるミスアライメントの模擬図21にロータキットにおける正常時とミスアライメント状態でのオービット&波形グラフとスペクトル(次数表示)を示します。 図21の(a)の正常状態において、オービットはほぼ円形となり、振動波形は歪の少ないサイン波に近い状態であることが分かります。この時のスペクトルを見ると、回転同期成分(1X)が主成分であることが分かります。 これに対して、図21の(b)のミスアライメント状態では、波形1周期に2個の山を持つような歪が生じ、オービットもハート型に歪んでいます。また、スペクトルを見ると、回転数の2倍の周波数成分である2X成分が顕著に現れていることが分かります。 オービット&波形グラフ スペクトル(次数表示) 図21. 正常時とミスアライメント発生時の解析グラフ (a) 正常状態 オービット&波形グラフ スペクトル(次数表示) 図21. 正常時とミスアライメント発生時の解析グラフ (b) ミスアライメント状態 ロータ構成部品の飛散高速回転機械においては、小さなロータ構成部品の欠損でも、放置しておくと大きな破損につながり、重大な事故に発展する可能性があります。 図22は、このようなロータ構成部品の欠損(飛散)をロータキットで模擬するための回転円板の断面を示しています。円板にはラジアル方向に穴が開けてあり、その中に鋼球が入っていて、穴の内側(底)と外側近くに磁石が取り付けられています。外側近くの磁石には中心に小さな穴が開いていて、細い棒を差し込むことができます。 図22.ロータ構成部品飛散の模擬 ロータを回転させる前に細い棒で鋼球を突いて、鋼球を穴の底の磁石に吸着させます。その状態でロータの回転数を徐々に上昇させて行くと、やがて遠心力が吸着力を超えたところで鋼球が穴の底の磁石から離脱します。そのまま鋼球を飛散させてしまうと危険ですので、このロータキットでは、穴の底の磁石から離脱した鋼球は外側近くの磁石に吸着されて保持されるようになっています。 図23は、ロータキットにてロータ構成部品飛散を模擬した際のポーラ線図を示しています。 これを見ると、回転上昇とともに回転同期成分(1X)の振幅と位相が変化して約2,320rpmの危険速度を通過後、2,488rpmにて鋼球が飛散(実際には内側の磁石から外側の磁石に移動)すると同時に、ポーラ線図のプロットが突変しています。このケースでは飛散の前後で、1X振幅が93μm p-pから140μm p-pに、位相角が50度から63度に突変しており、飛散によりアンバランスの状態が増大していることが分かります。なお、このケースでは、ロータ構成部品の飛散により、たまたま振動値が増加していますが、ロータの元々のアンバランスの量と角度と、飛散する部品の質量と角度との関係で、必ずしも振幅が増大する訳ではなく、ほとんど変わらなかったり、小さくなるケースも考えられます。したがって、振動振幅値だけを監視していても、このような異常は見落とされてしまう可能性があります。しかし、ロータ構成部品の脱落はアンバランス量と角度の変化、つまり振動ベクトルの変化を伴うため、仮に振動振幅値が変化しないケースであっても、位相角に変化を生じることになりますので、ポーラ線図を見ることで異常を発見できる可能性が高くなります。 図23.ロータ構成部品飛散時のポーラ線図このロータキットでは、回転を上昇させることでしかロータ部品の飛散を模擬することができませんので、スタートアップ時だけの異常検知のように勘違いされるかもしれませんが、実機において定格運転中で負荷変動等の運転状態の変化がない時であっても、ロータ構成部品が飛散すると、それまで大きく変化していなかった振動ベクトルが突変しますので、ポーラ線図による監視で異常を検知することができます。また、トレンドグラフで1X振幅と1X位相角をプロットさせることでも、その両方またはいずれかが突変しますので、ロータ部品の飛散といった異常発生を検知できる可能性があります。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200infiSYS 3.0Kenjin この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月