2014/05/13 業界コラム 瀧本 孝治 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前回は「非同期サンプリング」の主要設定パラメータがサンプリング周波数であることを説明しましたが、これに対して「同期サンプリング」ではサンプリング周波数の設定はなく、1回転当たりのサンプリング数 A を設定することで、回転数に応じてサンプリング周波数が自動的に決まります。今回は、「同期サンプリング」における1回転当たりのサンプリング数Aが何に影響し、どのように設定値を決めるのか等について説明します。 振動波形データのサンプリングの説明においては、「非同期」か「同期」かで全く内容が異なってきますので、以下の説明においても「非」が付いているかどうか、よく注意して読んでください。 同期サンプリングにおける1回転当たりのサンプリング数の設定前々回、2014年3月号の「分かりにくい用語とその意味(8) 同期サンプリングと非同期サンプリング」でも説明したように、同期サンプリングにおけるサンプリング周波数fs(Hz)は、式(5)で示すように、回転数Sに比例して変化する値であり、同期サンプリングにおけるサンプリング周波数は固定の値として解析装置で設定するものではありません。1回転当たりのサンプリング数Aを設定することで、回転数に応じて自動的に決まるものです。 fs = A×S / 60 式(5) ただし、 A : 1回転当たりのサンプリング数 S : 回転数 ( rpm ) では、設定値である1回転当たりのサンプリング数Aはどのように決めればよいのでしょうか。 非同期サンプリングにおいては、前回の説明のように、サンプリング周波数fsの設定値により周波数解析の最高周波数Fmaxが決まりますが、同期サンプリングでは1回転当たりのサンプリング数Aの設定値とその時の回転数によって周波数解析の最高周波数Fmax が決まります。 つまり、同期サンプリングにおける周波数解析の最高周波数Fmaxは、式(6)に示すようになります。 Fmax = fs / 2.56 = A×S / (60×2.56) = A×S / 153.6 式(6) これは、回転数Sの関数であり、例えば、対象機械の回転数が一定の時にはFmaxの値も一定ですが、スタートアップ時やシャットダウン時のように回転数が変化している時、また可変速運転を行っている機械の場合には、その時の回転数に比例してFmaxも変化します。 では、次数比解析を行う場合、つまりスペクトルグラフやウォーターフォールにおいて横軸を次数※表示にした場合に、周波数解析の最高次数Dmaxはどうなるかというと、式(7)に示すように、1回転当たりのサンプリング数 A を2.56で割った値となります。 ※ 次数:回転数に同期した周波数を1次として、その倍数で表した値。例えば、回転数3600rpmの時には60Hzが1次であり、30Hzが0.5次、120Hzが2次ということになる。 Dmax = A / 2.566 式(7) したがって、1回転当たりのサンプリング数Aを32個とした場合は12.5次まで、Aを128個とした場合は50次までの次数比解析が可能ということになります。 このように、次数比解析における解析可能最高次数Dmaxは、1回転当たりのサンプリング数Aの設定により決まる値であり、回転数が変わっても最高次数Dmaxは変わりません。 ここまで見ると、1回転当たりのサンプリング数Aは多ければ多いほど、高次までの解析ができるので良いのではないかと思えます。確かに、できるだけ高次まで解析したいということであればAを多く取るように設定するほうが良いということになります。 しかし、解析するためのひとつづきの波形データとしてサンプリングするデータ数Nは有限個であり、前回の非同期サンプリングの場合と同じく、このNに応じて周波数解析におけるライン数Lが式(2)で示すように決まり、さらに最高次数Dmaxをライン数Lで割ることにより次数分解能⊿Dが決まりますので、式(8)に示すように1回転当たりのサンプリング数Aをデータ数Nで割ることにより、次数分解能⊿Dを算出することができます。 ⊿D = Dmax / L = A / N 式(8) したがって、できるだけ次数分解能を細かく取るためには、実用的に最高次数を何次まで取る必要があるのか検討して、必要以上にAを多くしないように設定することが望まれます。 つまり、相反する結果となる最高次数Dmaxと次数分解能⊿Dの両方を考慮しながら1回転当たりのサンプリング数Aを決定する必要があります。 表7に同期サンプリングのデータ数と1回転当たりのサンプリング数の設定例における最高次数と次数分解能の値を示します。 表7. 同期サンプリングの設定例における最高次数と次数分解能 データ数N ライン数L = N / 2.56 1回転あたりのサンプリング数A(個) 最高次数Dmax = A / 2.56 (次) 次数分解能⊿D = A / N (次) 1,024 400 32 12.5 0.031 64 25 0.063 128 50 0.125 2,048 800 32 12.5 0.016 64 25 0.031 128 50 0.063 4,096 1,600 32 12.5 0.008 64 25 0.016 128 50 0.031 さて、上記の式(7)と式(8)を考慮して1回転当たりのサンプリング数Aとデータ数Nを設定することになりますが、最高次数Dmaxを検討するためには、前回の非同期サンプリングで説明した表6の機械構成要素に対する監視・解析データ収集のための上限振動数の推奨値を参考にすることができます。表6の上限振動数として「回転数」の倍数として示されているものに関しては、その倍数の値を最高次数として読み換えることができます。例えば、送風機であれば「羽枚数 × 3」が最高次数であり、すべり軸受であれば10次が最高次数ということになります。 表6. 監視・解析データ収集のための上限振動数 構成要素 上限振動数 歯車 かみあい周波数 × 3 送風機 回転数 × 羽根数 × 3 ポンプ 回転数 × ベーン数 × 3 電動機、発電機 電源ラインの周波数 × 2 × 3 転がり軸受 回転数 × 転動体の数 × 6 回転軸振動 回転数 × 10 すべり軸受 回転数 × 10 ※表6は下記文献より引用しています。 ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動 カテゴリーⅠ)【第2版】振動技術研究会 (v_TECH) 本コラム関連製品 infiSYS RV-200KenjininfiSYS 3.0 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月