新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

前回は「非同期サンプリング」の主要設定パラメータがサンプリング周波数であることを説明しましたが、これに対して「同期サンプリング」ではサンプリング周波数の設定はなく、1回転当たりのサンプリング数 A を設定することで、回転数に応じてサンプリング周波数が自動的に決まります。今回は、「同期サンプリング」における1回転当たりのサンプリング数Aが何に影響し、どのように設定値を決めるのか等について説明します。

振動波形データのサンプリングの説明においては、「非同期」か「同期」かで全く内容が異なってきますので、以下の説明においても「非」が付いているかどうか、よく注意して読んでください。

同期サンプリングにおける1回転当たりのサンプリング数の設定

前々回、2014年3月号の「分かりにくい用語とその意味(8) 同期サンプリングと非同期サンプリング」でも説明したように、同期サンプリングにおけるサンプリング周波数fs(Hz)は、式(5)で示すように、回転数Sに比例して変化する値であり、同期サンプリングにおけるサンプリング周波数は固定の値として解析装置で設定するものではありません。1回転当たりのサンプリング数Aを設定することで、回転数に応じて自動的に決まるものです。

fs = A×S / 60 式(5)
ただし、
 A : 1回転当たりのサンプリング数
 S : 回転数 ( rpm )

では、設定値である1回転当たりのサンプリング数Aはどのように決めればよいのでしょうか。 非同期サンプリングにおいては、前回の説明のように、サンプリング周波数fsの設定値により周波数解析の最高周波数Fmaxが決まりますが、同期サンプリングでは1回転当たりのサンプリング数Aの設定値とその時の回転数によって周波数解析の最高周波数Fmax が決まります。
つまり、同期サンプリングにおける周波数解析の最高周波数Fmaxは、式(6)に示すようになります。

Fmax = fs / 2.56 = A×S / (60×2.56) = A×S / 153.6 式(6)

これは、回転数Sの関数であり、例えば、対象機械の回転数が一定の時にはFmaxの値も一定ですが、スタートアップ時やシャットダウン時のように回転数が変化している時、また可変速運転を行っている機械の場合には、その時の回転数に比例してFmaxも変化します。
では、次数比解析を行う場合、つまりスペクトルグラフやウォーターフォールにおいて横軸を次数表示にした場合に、周波数解析の最高次数Dmaxはどうなるかというと、式(7)に示すように、1回転当たりのサンプリング数 A を2.56で割った値となります。

※ 次数:回転数に同期した周波数を1次として、その倍数で表した値。例えば、回転数3600rpmの時には60Hzが1次であり、30Hzが0.5次、120Hzが2次ということになる。

Dmax = A / 2.566 式(7)

したがって、1回転当たりのサンプリング数Aを32個とした場合は12.5次まで、Aを128個とした場合は50次までの次数比解析が可能ということになります。
このように、次数比解析における解析可能最高次数Dmaxは、1回転当たりのサンプリング数Aの設定により決まる値であり、回転数が変わっても最高次数Dmaxは変わりません。
ここまで見ると、1回転当たりのサンプリング数Aは多ければ多いほど、高次までの解析ができるので良いのではないかと思えます。確かに、できるだけ高次まで解析したいということであればAを多く取るように設定するほうが良いということになります。
しかし、解析するためのひとつづきの波形データとしてサンプリングするデータ数Nは有限個であり、前回の非同期サンプリングの場合と同じく、このNに応じて周波数解析におけるライン数Lが式(2)で示すように決まり、さらに最高次数Dmaxをライン数Lで割ることにより次数分解能⊿Dが決まりますので、式(8)に示すように1回転当たりのサンプリング数Aをデータ数Nで割ることにより、次数分解能⊿Dを算出することができます。

⊿D = Dmax / L = A / N 式(8)

したがって、できるだけ次数分解能を細かく取るためには、実用的に最高次数を何次まで取る必要があるのか検討して、必要以上にAを多くしないように設定することが望まれます。
つまり、相反する結果となる最高次数Dmaxと次数分解能⊿Dの両方を考慮しながら1回転当たりのサンプリング数Aを決定する必要があります。

表7に同期サンプリングのデータ数と1回転当たりのサンプリング数の設定例における最高次数と次数分解能の値を示します。

表7. 同期サンプリングの設定例における最高次数と次数分解能
データ数
N
ライン数
L = N / 2.56
1回転あたりのサンプリング数A(個) 最高次数
Dmax = A / 2.56 (次)
次数分解能
⊿D = A / N (次)
1,024 400 32 12.5 0.031
64 25 0.063
128 50 0.125
2,048 800 32 12.5 0.016
64 25 0.031
128 50 0.063
4,096 1,600 32 12.5 0.008
64 25 0.016
128 50 0.031

さて、上記の式(7)と式(8)を考慮して1回転当たりのサンプリング数Aとデータ数Nを設定することになりますが、最高次数Dmaxを検討するためには、前回の非同期サンプリングで説明した表6の機械構成要素に対する監視・解析データ収集のための上限振動数の推奨値を参考にすることができます。表6の上限振動数として「回転数」の倍数として示されているものに関しては、その倍数の値を最高次数として読み換えることができます。例えば、送風機であれば「羽枚数 × 3」が最高次数であり、すべり軸受であれば10次が最高次数ということになります。

表6. 監視・解析データ収集のための上限振動数
構成要素 上限振動数
歯車 かみあい周波数 × 3
送風機 回転数 × 羽根数 × 3
ポンプ 回転数 × ベーン数 × 3
電動機、発電機 電源ラインの周波数 × 2 × 3
転がり軸受 回転数 × 転動体の数 × 6
回転軸振動 回転数 × 10
すべり軸受 回転数 × 10

※表6は下記文献より引用しています。
ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動 カテゴリーⅠ)【第2版】振動技術研究会 (v_TECH)

本コラム関連製品

infiSYS RV-200

Kenjin

infiSYS 3.0