2012/07/10 業界コラム 瀧本 孝治 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前回は代表的な解析グラフとして、トレンドグラフ、オービット、スペクトル、ボード線図、ポーラ線図を紹介しました。今回はその中で、見た目はよく似ていても、その演算処理や意味合いの全く異なる「オービット」と「ポーラ線図」に関して、両者の違いや意味合いについてもう少し詳しく説明します。 オービットとポーラ線図前回、図4と図8でも紹介していますが、もっとよく見比べていただくために図10の(a)と(b)をご覧ください。 図10 (a)のオービットと図10 (b)のポーラ線図、一見すると似ているのでひょっとすると混同されている方もいるかもしれません。実際、20年以上前にX-Yレコーダを使ってポーラ線図を描かせるための解析機器として開発されたVM-13Vベクトルモニタを発売開始した当初、社内の営業マンでも勘違いしている人が多く、どうしてX-Y方向に2個のセンサをつけなくても1方向の軸振動センサでポーラ線図を描けるのかとか、どうしてフェーズマーカ(位相基準)がないとポーラ線図を描けないのかといった質問を受けました。 図10. オービットとポーラ線図 (a)オービット 図10. オービットとポーラ線図 (b)ポーラ線図 まず、図10を見て、よく似ている点は何でしょう。類似点を列挙してみると、 正方形のグラフエリア上に円とか楕円のようなデータが表示されている。 ??? あれ?パッと見よく似ているように見えて、実は異なる部分の方が多そうです。 そこで、表1にオービットとポーラ線図の概要をまとめてみましたが、これを見ると全く違うものであることがよく分かると思います。 表1. オービットとポーラ線図の概要 オービット ポーラ線図 座標 直交座標系 極座標系(複素平面) 目盛線 方眼 目盛は縦軸、横軸ともグラフ中央をゼロとしてプラス / マイナスの変位量で表す 同心円+放射状 同心円の目盛は振幅値を、放射状の目盛は位相角を0~360°で表す 表示されるデータ 動的な軸心の軌跡 振動ベクトル 別名 リサージュ ナイキスト線図、ベクトル図 入力データ 回転軸に直交する同一測定面上に90度の角度を持って設置(いわゆるX-Y取付け)された2つの軸振動センサによる振動波形 軸振動センサによる振動波形1点と同一回転軸上で検知された1パルス / 1回転のフェーズマーカ(位相基準)信号 オービットは軸心位置の瞬時値を連続的に直交座標系に表したもの、つまり動的(ダイナミック)な軸心の軌跡を直交座標系に表したものです。この動的な軸心の軌跡がオービットと呼ばれる由縁ですが、描画処理の観点からリサージュとも呼ばれます。 これに対して、ポーラ線図は、振動波形から抽出した回転同期成分(または回転同期の2倍の周波数成分)の振幅値と位相角を極座標で表したものであり、同心円の目盛線が振幅値を表し、放射状の目盛線が位相角を表しています。複素平面表示であることからナイキスト線図と呼ばれたり、振動ベクトルを表していることからベクトル図とも呼ばれます。 最新の解析システムを使わない測定・描画方法更に、それぞれのグラフの意味合い、両者の違いを理解していただくために少しクラシックな測定・描画方法を使って説明します。 まず、図11にオシロスコープを使ったオービットの計測方法を示しています。 図11. オシロスコープを使ったオービット計測オービットは図のように、90度離して取り付けられた軸振動センサXとYで測定した振動波形をオシロスコープの水平軸と垂直軸に入力することで描画することができます。オシロスコープは通常、水平軸に時間、垂直軸に入力信号の瞬時値をプロットして行きますが、ここでは水平軸にXの振動波形信号を、垂直軸にYの振動波形信号を入力してリサージュ、つまりオービットを描かせるようにしています。なお、infiSYS RV-200やKenjinなどの振動解析システムでは、更にオービット上にフェーズマーカ(位相基準)の位置を示すとともに、フェーズマーカ直前のプロットをブランクにすることで、オービットの回転方向が分かるようにしています。 余談になりますが、図11の軸振動計測において、XとYそれぞれの振動波形をローパスフィルタに通して振動波形の平均値、つまり静的(スタティック)なデータとしてオシロスコープではなく、X-Yレコーダに入力することで、静的な軸心の軌跡である軸軌跡(Shaft Centerline Plot)を描画することができます。 次に、図12にベクトルモニタとX-Yレコーダを使ったポーラ線図の作成システムを示しています。 図12. ベクトルモニタとX-Yレコーダによるポーラ線図作成ここにはベクトルモニタという特別な機器が登場していますが、ベクトルモニタは、位相基準信号に同期して中心周波数が変化する狭帯域のトラッキングフィルタにより、振動波形から回転同期成分の抽出を行っています。図13に抽出された回転同期成分の振動波形信号と位相基準信号のイメージを示していますが、ベクトルフィルタではこの図に示す振幅値と位相角を演算し、さらにそれを複素平面に展開した場合のグラフのX軸である実部(Real part)とY軸である虚部(Imaginary part)の値に演算して出力しています。この実部の値をX-YレコーダのXchに、虚部の値をYchに入力することで、ポーラ線図を作成することができます。 なお、図13に示すハイスポットとは、調和振動において測定対象の回転軸が軸振動センサに最も近づく点のことです。 図13. 振動(回転同期成分)の振幅と位相角この図では軸振動センサはX方向1点のみの設置の絵になっていますが、実際の機械では図11のようにY方向にも軸振動センサが設置されていることが一般的です。ポーラ線図は図12のようにX方向の軸振動センサと位相基準センサの組合せで生成されるだけでなく、Y方向の軸振動センサと位相基準センサの組合せでも生成することができます。このように同一回転軸上で位相基準を検知するセンサが設置されていれば、全ての軸振動センサで計測した振動波形に対する振動ベクトルを計測してポーラ線図を描画することができます。しかし、これは軸振動センサによる振動波形1点と同一回転軸上で検知された1パルス / 1回転のフェーズマーカ(位相基準)信号により算出されるものであり、X方向とY方向の軸振動センサの組合せにより生成されているものではないことがお分かりいただけると思います。 軸振動センサの取付方向のX,YやグラフのX軸とY軸、更にX軸,Y軸といってもオービットがプロットされる空間位置を表す直交座標系の場合と、振動ベクトルがプロットされる複素平面の場合など、異なる意味のX,Yが登場することも分かりにくくしている要因かもしれません。 軸心の軌跡の空間位置をイメージできるオービットは比較的分かりやすいと思いますが、振動ベクトルという複素平面で表現されるポーラ線図の方は、その意味を理解しないとなかなか分かりにくいのではないかと思います。 振動ベクトルのプロットであるポーラ線図をより深く理解するためには、図13に示したハイスポットだけでなく、加振力となるヘビースポット(重心点)の方向との関係なども理解する必要があるかと思いますが、その説明はまた別の機会とさせていただきます。 次回はロータキットを使った異常振動の解析事例を紹介する予定です。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200infiSYS 3.0Kenjin この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月