新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。
 今回で最後となりますが、無線振動センサの各種タイプの比較と遠隔振動診断サービスに関してお話しします。

 無線振動センサの導入検討においては、各機種のカタログや仕様書等の確認のほか、以下の6-1~6-7節に示すそれぞれのタイプの特徴や比較などについても合わせて参考にしてください。

6-1 クラウド型とオンプレミス型システム

 ZARKシリーズでは、データ収集監視サーバとなるパソコンをユーザの構内に配置するオンプレミス型 (図4参照、表7の⑤) だけではなく、図7のようなクラウド型 (表7の⑥) も選択することができます。

 オンプレミス型は構内に設置した監視用パソコン上の設備状態監視ソフトウェアinfiSYS 3.0により、ZARK Nanoで収集したデータを一元管理するため、データを社外に出さず、ユーザ自らデータを保管、インターネットなどの外部環境に左右されず安全かつ安定した運用をしたい、また他の社内システムとの連携を図りたいといった場合に適しています。

図4 転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視システム構成イメージ
(回転機械の振動と状態監視 ( その 2 )より)

表7 無線振動センサの主な仕様比較 (新川電機製)
(回転機械の振動と状態監視 ( その 3 )より)

無線振動センサの主な仕様比較

画像をクリックすると拡大表示できます。

 クラウド型はAWS (Amazon Web Services) 上のデータ活用プラットフォームMachine Dossierにより、ZARK NanoおよびZARK X8Ⅱで収集したデータを一元管理し、スマートフォンやパソコンのWEBブラウザからいつでもどこでも、設備の状態を監視し、データを共有することができます。また、Machine Dossierに用意されているWeb APIの利用で、収集したデータを他のクラウドや社内システムへの取り込みもできます。さらに、クラウド型の場合、サーバの調達、設置および専用アプリケーションソフトのインストールが不要であり、オンプレミス型に比べてイニシャルコストが少なくて済むため、オンプレミス型以上にスモールスタートに適しています。

 なお、ZARKシリーズだけでなくe-SWiNSシリーズの場合もinfiSYS 3.0を適用すればWebブラウザ対応となるため、社内ネットワークに接続できる環境とアクセス権限があれば、遠隔でも監視解析データを見ることができるため、監視用のPCやスマートフォン、タブレットに特別なソフトウェアを実装しなくても、専門知識を有する振動診断技術者による遠隔診断が可能となります。

※ ZARKシリーズの中継器ZARK X8Ⅱには、オンプレミス対応のZX-3A2およびクラウド対応のZX-3A0とZX-3A1の3機種があり、1台のZARK X8Ⅱに対して、ZX-3A2ではZARK Nanoを32台まで、ZX-3A0ではZARK Nanoを16台まで接続可能です。また、図7のZX-3A1ではZARK NanoとCA-302等の有線センサ (最大8台) の両方を合計で最大16台まで接続できます。

図7 クラウド型構成イメージ(ZX-3A1ハイブリッドタイプ適用例)

6-2 センサと無線送信子機の一体型と分離型

 表7の②のようにセンサと無線送信子機が一体型の方がシンプルな構成となりますが、表7の①③④等のセンサ分離型に比べセンサとしてのサイズが一般的に大きくなります。一方、分離型のセンサは小型で測定箇所の設置スペースが狭い場合に有利となりますが、センサを有線で接続する無線送信子機の設置場所の検討が必要となります。

 なお、表7の⑤⑥のZARK Nanoは一体型センサではあるものの \(\phi\) 28×50 (H)と分離型センサと同程度に小型であるという優位な点があります。その一方で、Bluetooth LE通信のため中継器ZARK X8Ⅱまでの距離が約40 mと比較的短いという点とZARK X8Ⅱに外部から電源供給 (AC 100~240 V) が必要という点を考慮する必要があります。

6-3 バッテリー型と電源供給型

 表7の①の電源供給型では無線送信子機設置場所に電源ラインを引き込むことが必要ですが、表7の②~⑥のバッテリー型はその必要がなくシンプルな構成となります。一方、バッテリー型では通信距離が電源供給型に比べ短い場合が多く、電源供給型であれば無線送信子機から親機まで直接伝送できる場合でも、バッテリー型では中継器を経由する必要が出てくる場合があります。使用条件にもよりますがバッテリー型では通常数年毎にバッテリーの交換が必要となりますが、電源供給型ではその必要がないという点がメリットと言えるかもしれません。

6-4 920 MHz帯と2.4 GHz帯無線通信方式

 920 MHz帯(表7の①~③)は、2.4 GHz帯 (表7の④~⑥) に比べて回折性に優れているため、障害物の影響を受けにくいという特徴があり、障害物の多い工場建屋内などでは920 MHz帯の方が有利であると言えます。しかし、ISA100や無線LANが既存または設置できる環境であれば、汎用性のある2.4 GHz帯の方が適している場合もあります。

6-5 ZARK NanoのWakeUp機能

 表7の⑤⑥のZARK Nanoには、通常のデータ収集間隔とは関係なく、振動値が設定したウェイクアップ閾値を超えた際に自動的に起動してデータ収集を行うWakeUp機能というものがあります。

 例えば、過大振動が発生しても長時間は持続しないようなケースにおいて、データ収集間隔が長いとこのような短期的な異常振動を取りこぼすリスクが生じることになります。このようなケースでの異常振動データの取りこぼしリスクを低減するためにはWakeUp機能が有効です。

6-6 ZARK Nanoとスマートフォンによるオフラインデータ収集 (巡回収集)

 ZARK Nanoのデータ収集は、常設の無線ネットワーク環境において、中継機と無線アクセスポイント経由で自動的に行われるため、運用時の省力化と高頻度のデータ収集、監視が行えます。一方ZARK Nanoは、図8のような中継機と無線アクセスポイントのない環境でも、 スマートフォンを用いることで巡回点検方式のデータ収集にも適応できます。したがって、よりスモールスタートとしての振動監視データ収集を始めたいという場合には、図8のようなZARK Nanoとスマートフォンによるオフライン方式を適用することができます。

図8 スマートフォンによる振動データの巡回収集イメージ

6-7 収集・伝送データの種類

(1) 振動OA値

5-1節で述べたようにISO規格に準じた評価を行うためには振動OA値、通常は10 Hz~1 kHzの帯域の速度の実効値を用いることになります。しかし、転がり軸受の損傷は1 kHzを超える帯域の加速度の振幅増大として現れやすいため、加速度OA値の傾向監視も有効なデータとなります。

(2) スペクトルデータ

5-2節で述べたように、異常振動の要因を推定するためにはFFT演算によるスペクトルデータが有効です。スペクトルデータは通常800ラインとか1600ライン、またはそれ以上のライン数の大容量データとなります。しかし、振動レベルの大きな特徴的なスペクトルの把握が重要となるケースが多いため、大容量の詳細なスペクトルデータの中のトップ10だけでも振動診断のための有効なデータとなります。したがって、データ伝送負荷を軽減するためにトップ10のみ伝送している機種もあります。

(3) エンベロープ加速度

5-3節で述べたように、転がり軸受の損傷の早期検知と損傷部位を特定するためには加速度波形をエンベロープ処理してFFT演算をしたスペクトルデータであるエンベロープ加速度 (e加速度) が有効です。

(4) 波形データ

波形データは一般的に伝送負荷の大きなデータ (例えば1波形のサンプル数が8192点) ですが、上位のPCにて細かな解析が可能となるだけでなく、生波形の観察自体が専門技術者にとっては有意義なこともあり、通信容量や頻度、その他の問題がなければ価値があるものとなります。

(5) 温度データ

無線振動センサに内蔵された温度センサは、振動センサの設置部付近、つまり機械の表面温度に近い温度を測定しています。転がり軸受の損傷や過大負荷の状態、または巻線の短絡等の異常で機械自体が発熱している場合、センサ設置部の温度も上昇するため、振動OA値と同時に温度の傾向監視も行うことは異常検知に有効です。

7 診断サポートサービス infiSYS V-Assist

 先に述べた状態監視ソフトウェア (Machine DossierやinfiSYS 3.0) では、各種の警報機能や警報発生時のメール機能、診断機能やレポート作成機能などを備えているため、設備の異常発生の情報共有と技術者によるタイムリーな診断が可能となります。

 しかし、対象のプラントや自社内に振動解析診断に関わる技術者や専門家がいない、または人員的に十分にサポートできないというようなケースも考えられます。そのような場合でも、図9に示すような遠隔振動状態監視サービス (infiSYS V-Assist) を利用することで、自動的に対象機械の異常診断を行うことが可能となります。この遠隔振動状態監視サービスでは、自動警報メール通知や簡易診断メール通知、さらに精密診断報告書の作成、これらをまとめた月次報告書などのサービスが提供されます。

図9 遠隔振動状態監視サービス (infiSYS V-Assist) のシステム構成例

これで、今回のコラム「回転機械の振動と状態監視」全4回シリーズを終了します。ここまでご購読いただきありがとうございました。
今回のテーマに関してご興味のある方、さらに詳しい内容を知りたい方、具体的に回転機械の状態監視をご検討の方は、ぜひ弊社営業までお問い合わせください。

本コラム関連製品

e-SWiNS(920MHz)

ZARK & Machine Dossier

infiSYS 3.0

infiSYS V-Assist