2014/04/08 業界コラム 瀧本 孝治 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 今回は、前回の「同期サンプリング」と「非同期サンプリング」に関連して、それぞれのサンプリングデータによる解析結果に及ぼすパラメータ設定に関してお話します。まずは、比較的分かりやすい「非同期サンプリングにおけるサンプリング周波数の設定」に関して説明します。 非同期サンプリングにおけるサンプリング周波数の設定振動解析装置で非同期サンプリングを行う場合には、サンプリング周波数fs(Hz)を決めて設定する必要があります。このサンプリング周波数が何に影響するかというと、式(1)に示すように周波数解析の最高周波数Fmax(Hz)に影響します。なお、2014年1月号「分かりにくい用語とその意味(6) サンプリング周波数」の中でも触れましたが、サンプリング定理より、サンプリング周波数fsは最高周波数Fmaxの2倍以上であることが必要条件であり、原理的には最低限 fs = 2 × Fmax でも良いということになります。しかし、現実的にはアンチエリアジングフィルタの特性やデジタル処理の都合等から通常のFFTアナライザや振動解析装置では、サンプリング周波数fsは最高周波数Fmaxの2.56倍( fs = 2.56 × Fmax )としているのが一般的であり、本コラムでは2.56倍を使って説明します。 まず、振動解析のスペクトルグラフにおいて解析・表示できる最高周波数、つまり周波数解析の最高周波数Fmax(Hz)について、サンプリング周波数fs(Hz)との関係は式(1)の通りであり、できるだけ高い周波数まで解析するためには、サンプリング周波数をできるだけ高く設定する必要があるということになります。 Fmax = fs / 2.56 式(1) しかし、解析するためのひとつづきの波形データとしてサンプリングするデータ数 N は有限個であり、このNに応じて周波数解析におけるライン数Lが式(2)で示すように決まり、さらに最高周波数Fmaxをライン数Lで割ることにより周波数分解能⊿fが決まりますので、式(3)に示すようにサンプリング周波数fsをデータ数Nで割ることにより、周波数分解能⊿fを算出することができます。 L = N / 2.56 式(2) ⊿f = Fmax / L = fs / N 式(3) したがって、できるだけ周波数分解能を細かく取りたいということになると、サンプリング周波数fsはできるだけ低く設定した方が良いということになります。 つまり、相反する結果となる最高周波数Fmaxと周波数分解能⊿fの両方を考慮しながらサンプリング周波数fsを決定する必要があります。 表5にデータ数とサンプリング周波数の設定例における最高周波数と周波数分解能の値を示します。 表5. 非同期サンプリングの設定例における最高周波数と周波数分解能 データ数 N ライン数 L = N/2.56 サンプリング 周波数fs (Hz) 最高周波数 Fmax = fs/2.56 (Hz) 周波数分解能 ⊿f = fs/N (Hz) データ取込み時間 T = 1/⊿f (s) 1,024 400 2,560 1,000 2.5 0.4 5,120 2,000 5 0.2 10,240 4,000 10 0.1 25,600 10,000 25 0.04 2,048 800 2,560 1,000 1.25 0.8 5,120 2,000 2.5 0.4 10,240 4,000 5 0.2 25,600 10,000 12.5 0.08 4,096 1,600 2,560 1,000 0.625 1.6 5,120 2,000 1.25 0.8 10,240 4,000 2.5 0.4 25,600 10,000 6.25 0.16 なお、表5にはデータ取込み時間Tも示していますが、これは、2014年2月号の「分かりにくい用語とその意味(7) データ収集間隔 / データ保存間隔」の図11に示すように、サンプリング周期⊿tにデータ数Nを掛けた値となります。サンプリング周期⊿tはサンプリング周波数fsの逆数( ⊿t = 1 / fs )ですので、データ取込み時間Tと周波数分解能⊿fとは、式(4)のように逆数の関係になります。 T = ⊿t×N = N / fs = 1 / ⊿f 式(4) つまり、周波数分解能をできるだけ細かく取るためには、データ取込み時間をできるだけ長くする必要があるとも言えます。 図11.波形データ収集間隔とデータ取込み時間さて、上記の式(1)と式(3)を考慮してサンプリング周波数fsとデータ数Nを設定することになりますが、周波数解析の最高周波数Fmaxを検討するための参考として、表6に機械構成要素に対する監視・解析データ収集のための上限振動数の推奨値を示します。 表6. 監視・解析データ収集のための上限振動数 構成要素 上限振動数 歯車 かみあい周波数 × 3 送風機 回転数 × 羽根数 × 3 ポンプ 回転数 × ベーン数 × 3 電動機、発電機 電源ラインの周波数 × 2 × 3 転がり軸受 回転数 × 転動体の数 × 6 回転軸振動 回転数 × 10 すべり軸受 回転数 × 10 ※表6は下記文献より引用しています。 ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動カテゴリーⅠ)【第2版】振動技術研究会(v_TECH) 非同期サンプリングでは上記の通りサンプリング周波数が主要な設定パラメータですが、同期サンプリングではサンプリング周波数の設定はなく、1回転当たりのサンプリング数 A を設定することで、回転数に応じてサンプリング周波数が自動的に決まり、回転数が変化すれば、それに応じてサンプリング周波数も変化します。 次回は同期サンプリングにおける1回転当たりのサンプリング数Aが何に影響し、どのように設定値を決めるのか等について説明します。 本コラム関連製品 inifiSYS RV-200KenjininfiSYS 3.0 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月