新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

今回は、前回の「同期サンプリング」と「非同期サンプリング」に関連して、それぞれのサンプリングデータによる解析結果に及ぼすパラメータ設定に関してお話します。まずは、比較的分かりやすい「非同期サンプリングにおけるサンプリング周波数の設定」に関して説明します。

非同期サンプリングにおけるサンプリング周波数の設定

振動解析装置で非同期サンプリングを行う場合には、サンプリング周波数fs(Hz)を決めて設定する必要があります。このサンプリング周波数が何に影響するかというと、式(1)に示すように周波数解析の最高周波数Fmax(Hz)に影響します。なお、2014年1月号「分かりにくい用語とその意味(6) サンプリング周波数」の中でも触れましたが、サンプリング定理より、サンプリング周波数fsは最高周波数Fmaxの2倍以上であることが必要条件であり、原理的には最低限 fs = 2 × Fmax でも良いということになります。しかし、現実的にはアンチエリアジングフィルタの特性やデジタル処理の都合等から通常のFFTアナライザや振動解析装置では、サンプリング周波数fsは最高周波数Fmaxの2.56倍( fs = 2.56 × Fmax )としているのが一般的であり、本コラムでは2.56倍を使って説明します。

まず、振動解析のスペクトルグラフにおいて解析・表示できる最高周波数、つまり周波数解析の最高周波数Fmax(Hz)について、サンプリング周波数fs(Hz)との関係は式(1)の通りであり、できるだけ高い周波数まで解析するためには、サンプリング周波数をできるだけ高く設定する必要があるということになります。

Fmax = fs / 2.56 式(1)

しかし、解析するためのひとつづきの波形データとしてサンプリングするデータ数 N は有限個であり、このNに応じて周波数解析におけるライン数Lが式(2)で示すように決まり、さらに最高周波数Fmaxをライン数Lで割ることにより周波数分解能⊿fが決まりますので、式(3)に示すようにサンプリング周波数fsをデータ数Nで割ることにより、周波数分解能⊿fを算出することができます。

L = N / 2.56 式(2)
⊿f = Fmax / L = fs / N 式(3)

したがって、できるだけ周波数分解能を細かく取りたいということになると、サンプリング周波数fsはできるだけ低く設定した方が良いということになります。
つまり、相反する結果となる最高周波数Fmaxと周波数分解能⊿fの両方を考慮しながらサンプリング周波数fsを決定する必要があります。

表5にデータ数とサンプリング周波数の設定例における最高周波数と周波数分解能の値を示します。

表5. 非同期サンプリングの設定例における最高周波数と周波数分解能
データ数
N
ライン数
L = N/2.56
サンプリング
周波数fs
(Hz)
最高周波数
Fmax = fs/2.56
(Hz)
周波数分解能
⊿f = fs/N
(Hz)
データ取込み時間
T = 1/⊿f
(s)
1,024 400 2,560 1,000          2.5             0.4
5,120 2,000          5             0.2
10,240 4,000        10             0.1
25,600 10,000        25             0.04
2,048 800 2,560 1,000          1.25             0.8
 5,120 2,000          2.5             0.4
 10,240 4,000          5             0.2
 25,600 10,000        12.5             0.08
4,096 1,600  2,560 1,000          0.625             1.6
 5,120 2,000          1.25             0.8
 10,240 4,000          2.5             0.4
 25,600 10,000          6.25             0.16

なお、表5にはデータ取込み時間Tも示していますが、これは、2014年2月号の「分かりにくい用語とその意味(7) データ収集間隔 / データ保存間隔」の図11に示すように、サンプリング周期⊿tにデータ数Nを掛けた値となります。サンプリング周期⊿tはサンプリング周波数fsの逆数( ⊿t = 1 / fs )ですので、データ取込み時間Tと周波数分解能⊿fとは、式(4)のように逆数の関係になります。

T = ⊿t×N = N / fs = 1 / ⊿f 式(4)

つまり、周波数分解能をできるだけ細かく取るためには、データ取込み時間をできるだけ長くする必要があるとも言えます。

図11.波形データ収集間隔とデータ取込み時間

さて、上記の式(1)と式(3)を考慮してサンプリング周波数fsとデータ数Nを設定することになりますが、周波数解析の最高周波数Fmaxを検討するための参考として、表6に機械構成要素に対する監視・解析データ収集のための上限振動数の推奨値を示します。

表6. 監視・解析データ収集のための上限振動数
構成要素 上限振動数
歯車 かみあい周波数 × 3
送風機 回転数 × 羽根数 × 3
ポンプ 回転数 × ベーン数 × 3
電動機、発電機 電源ラインの周波数 × 2 × 3
転がり軸受 回転数 × 転動体の数 × 6
回転軸振動 回転数 × 10
すべり軸受 回転数 × 10

※表6は下記文献より引用しています。
ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動カテゴリーⅠ)【第2版】振動技術研究会(v_TECH)

非同期サンプリングでは上記の通りサンプリング周波数が主要な設定パラメータですが、同期サンプリングではサンプリング周波数の設定はなく、1回転当たりのサンプリング数 A を設定することで、回転数に応じてサンプリング周波数が自動的に決まり、回転数が変化すれば、それに応じてサンプリング周波数も変化します。

次回は同期サンプリングにおける1回転当たりのサンプリング数Aが何に影響し、どのように設定値を決めるのか等について説明します。

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