2012/05/15 業界コラム 瀧本 孝治 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 これまで、回転機械の状態監視システムに使用されるセンサから各種モニタに関して説明してきましたが、今回から数回に渡り回転機械の振動解析と診断に関して説明します。 振動解析と診断とは振動解析を含む回転機械の解析・診断を身近なものとの比較で分かりやすく説明するためによく用いられるのが、人の健康診断だと思います。その例に従って説明すると、血液や尿を採取してその成分を分析したり、心電図をとって心筋で発生する微弱な電位をグラフ化したりすることが、機械における潤滑油の分析や振動解析に相当します。また、血液検査の結果や心電図等から人の健康状態を診断したり、検査結果に異常がある場合には、その原因となっている病気やその兆候を特定することが、機械においては潤滑油分析や振動解析結果を基に、機械の健全性を判断したり、異常兆候がある場合には、それがどの部分でどういう原因で発生しているのかを特定する、異常診断ということに相当します。 この回転機械の解析・診断手法として最も一般的に振動解析が利用される理由としては、計測しやすい、リアルタイム性があるといったことと、多くの異常状態が振動現象として現れ、またその振動データが異常状態ごとの特徴を持っている、つまり振動データが多くの情報を持っているということが挙げられます。 ISO機械状態監視診断技術者(振動)、いわゆる振動診断技術者のテキストである「ISO基準に基づく機械設備の状態監視と診断(振動 カテゴリーⅡ)【第2版】振動技術研究会(v_TECH)」によると、代表的な振動解析法として以下の解析法が挙げられています。 時間領域の解析 時間波形、振幅の確率密度関数等を利用して、振幅の大きさや、時間的変動、波形の衝撃性・対象性などを解析する。【図1の(a)に時間領域の解析例として波形グラフを示します。】 周波数領域の解析 FFT(高速フーリェ変換)等を利用して、振動にどのような周波数成分(スペクトル)が含まれているかを解析する。【図1の(b)に周波数領域の解析例としてスペクトルグラフを示します。】 空間領域の解析 リサージュ(オービット)図形等を利用して、回転軸中心が空間的にどの様な軌跡をたどって運動(振動)しているかを解析する。【図1の(c)に空間領域の解析例としてオービット図を示します。】 さらに、回転軸(ロータ)の危険速度より高い回転数で運転するフレキシブルロータにおいては、ポーラ線図やボード線図等を利用して、回転同期成分(1X)の振動振幅値と位相角を解析する位相解析も一般的によく利用されています。【図1の(d)に位相解析例としてポーラ線図を示します。】 図1. 代表的な振動解析例(a)波形グラフ(時間領域の解析例) (b)スペクトルグラフ(周波数領域の解析例) (c)オービット図(空間領域の解析例) (d)ポーラ線図(位相解析例) 新川電機では、1990年に位相解析専用機のベクトルモニタVM-13VとマルチチャンネルベクトルフィルタMF-1220を開発、さらに1998年には位相解析と周波数解析を行い、多様な解析グラフを表示したり、周波数解析結果から診断したりすることのできる大型回転機械振動解析診断システムRV-100と汎用回転機械振動解析診断システムBV-100を開発しています。また2008年にはRV-100の描画機能に対して、測定点のツリービュー化や8点までの測定点を1つのウィンドウに一括表示するタイル表示の採用などの描画改善を施したRV-110を発売。さらに、2011年に転がり軸受支持の小型回転機械からすべり軸受支持の大型回転機械まで対応して、データ収集速度や描画機能、操作性など大幅に改善したinfiSYS RV-200を開発しています。 振動解析の信号処理の流れここでは、図2に示す振動解析診断システムinfiSYS RV-200の信号処理の流れを基に説明します。 図の左下に示しているのはすべり軸受で支持された大型回転機械のロータのイメージであり、1回転1パルスの位相基準を検知するセンサ(フェーズマーカ)と振動波形信号を捕らえる軸振動センサが設置されています。フェーズマーカはキー溝等の1回転に1箇所の切り欠きまたは突起部分を非接触変位センサで検知するもので、連結された一連のロータに1個のセンサが設置され、その名前の通り位相解析を行なう場合の位相基準として使われると同時に、回転数計測にも使われます。また、軸振動センサは図では1個のみ描かれていますが、実際には各軸受けに90度の角度をなして2個ずつ設置されます。 これらのセンサで捕らえた位相基準信号と振動波形信号は振動モニタに入力され、振動モニタで振幅変換等のモニタリング演算処理が行なわれますが、それと同時にバッファアンプを介して、入力信号と同じ波形をバッファ信号として出力しています。このバッファ信号はデータ収集装置DAQpodに入力され位相解析や周波数解析等の解析演算処理が行なわれます。 一方、図2の中央下に示しているのは小型回転機械の転がり軸受のイメージであり、通常はケーシング上の転がり軸受の振動が直接伝わりやすい箇所に加速度センサが設置され、ロータの異常や転がり軸受の異常によって発生する振動波形を捕らえています。これらの振動波形信号は直接データ収集装置DAQpodに入力され、周波数解析等の解析演算処理が行なわれます。 図2. 振動解析システム(infiSYS RV-200)の信号処理の流れデータ集数装置DAQpodでデジタル化され、解析演算処理されたデータはイーサネットによるデジタル通信で解析ソフトウエアの実装された解析PCであるinfiSYSビューステーションに伝送されます。infiSYSビューステーションではデータ収集装置DAQpodから送られた解析データを加工して各種解析グラフに展開する描画処理を行なうと共に、データベースに解析データを保存します。この時、大量の解析データは、警報発生や機械のスタートアップ / シャットダウン(トランジェント状態)等のイベントがない限り、一定期間(1日~31日間で設定)経過後に間引き処理がなされ、長期データとしてデータベースに保存されます(最長5年間)。なお、イベント時のデータは間引きされることなく、警報時データおよびトランジェントデータとして保存されます。 さて、次回は各種の解析グラフに関して説明する予定です。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200infiSYS 3.0Kenjin この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月