新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。
 そこで、本コラムでは「振動」、およびその振動による「状態監視」、さらに振動を監視するための「無線振動センサシステム」に関して4回に分けてお話しします。

はじめに

 機械の状態を監視するためには、温度、圧力、流量、トルクなど様々な状態監視パラメータがありますが、本コラムでは機械の状態監視と診断を行う上で、多くの異常、損傷現象の検知、診断に有効で、多様な種類の機械に幅広く適用可能な振動計測に関して述べます。なお、回転機械は計測監視対象としての側面より、滑り軸受支持の大型高速回転機械と転がり軸受支持の汎用回転機械に大別して考えることができますが、本コラムでは4章以降(第2回以降)で転がり軸受支持の汎用回転機械を対象とした状態監視と診断に関して、また6章(第3回、第4回)でそのためのセンサとなる無線振動センサについて説明します。

 第1回となる今回は、振動の基本的な話と振動の位置付けに関して説明します。

1 振動とは

 振動と言うと、感覚的には何かがユラユラゆれていたり、手で触れるとガタガタ、ブルブルと感じたりするものを思い浮かべるかと思いますが、私たちが扱う「機械振動」という面から「振動」の定義をJIS規格で確認すると、「機械系の運動又は位置を表す量の大きさが平均値又は基準値よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す時間的変化」1)ということになります。

 これは、例えば、回転機械のロータが回転に伴って振れ回って、ある方向から見れば近づいたり離れたりを繰り返す状態、これを軸振動といいますが、さらに軸振動が軸受を介してケーシングに伝達して、ケーシングのある部分の位置が時間とともに変動を繰り返す状態、これらを機械振動と言うことができます。

 そこで繰り返しの速さ、つまり振動周波数 (1秒間の繰り返し回数:Hz) はどの程度かというと、機械の状態監視と診断においては、一般的に数Hzから数十kHz程度までを測定対象として扱っています。

 さて、実際の振動現象は結構複雑な挙動をする場合が多いのですが、これは複数の周波数の単振動 (正弦振動とも言う) を合成したものと考えることができます。なお単振動 (正弦振動) とは、「独立変数の正弦関数で表される周期振動」1)と定義されていて、 \( D \) を振幅、 \( ω \) を角振動数、 \( t \) を独立変数、 \( \phi \) を振動の位相角とすると、単振動における変位 \( d \) は、式(1)で表されます。

\[ d=D\sin \left( \omega t+\phi \right) \tag{1}\]

 また、振動周波数を \(f\) とすると、角周波数 \(ω\) は式(2)のようになります。

\[ ω=2\pi f \tag{2}\]

 ここで図1に、単振動を示す例として理想的なバネとおもりだけから構成されていて、減衰のない単純な系を示します。初めにおもりを平衡点のゼロの位置から下方に変位\(D\)だけ引っ張った状態、つまりマイナス \(D\) の位置に持ってきます。この状態から解放すると、おもりは平衡点を中心にプラス \(D\) とマイナス \(D\) の間を上下に繰り返し変動することになり、その運動を時間変化で見ていくと図のようにサイン波形を示します。この運動は \(f\) を振動周波数、 \(T\) を周期とする単振動を示しています。

 図1のように振幅 \(D\) は振動変位の片振幅ということになりますが、機械振動の変位を計測する場合は、プラスのピークからマイナスのピークまでの両振幅2 \(D\)で 表すのが一般的です。

図1 理想的なばね - おもり系における単振動時間波形

2 振動監視パラメータ

 振動監視を行う際、変位 (Displacement) 、速度 (Velocity) 、加速度 (Acceleration) の3種類の振動監視パラメータを用います。ここでは、それぞれの振幅に対して英語の頭文字を使って、変位はD、速度はV、加速度はAとして表します。

 それでは、振動監視パラメータである「変位」「速度」「加速度」の関係を説明します。

 どのような運動でも、その変位を微分すると速度になり、速度を微分すると加速度になります。これは単振動においても同じで、図2に示すように「変位」「速度」「加速度」は微分、積分の関係になります。

図2 振動監視パラメータにおける微分・積分の関係

 そこで、周期Tで繰り返される正弦関数の部分を取り除いて、振動振幅と周波数の関係だけに注目すると、「変位 \(D\)」「速度 \(V\)」「加速度 \(A\)」は式(3)~(5)に示すような関係になります。

\begin{align}
変位 D&=V/{\omega }=V/2\pi f =A/\left( 2\pi f\right) ^{2} \tag{3}\\
\\
速度 V&=\omega D=2\pi fD=A/2\pi f \tag{4}\\
\\
加速度 A&=\omega V=2\pi fV=\left( 2\pi f\right) ^{2}D \tag{5}
\end{align}

 さらに図3は、振動周波数が変化しても振動速度が振幅10 mm/s peak一定で振動している物があると仮定した場合の変位と加速度の振幅を式(3)と(5)に当てはめて示したものです。なお、振動エネルギーは振動速度の二乗に比例しますが、その関係は周波数には依存しないため、図3は周波数に対して振動エネルギーが一定である振動体を示しているとも言うことができます。

 図3のグラフから、振動変位の振幅は周波数に反比例していて、周波数が低くなると振幅が増大しています。また、加速度の振幅は周波数に比例して、周波数が高くなると増大しています。このことから一般的には、転がり軸受や歯車の異常に伴うような比較的高い周波数の振動を測定するには加速度が適していて、回転軸の振れ回りのような比較的低い周波数の振動を測定するには変位が適していると言えます。

 表1に振動監視パラメータと適用周波数範囲の目安を示しますので、参考として見てください。

図3 全周波数帯域で振動速度が一定振幅の場合の変位と加速度の振幅

表1 振動監視パラメータと適用周波数および適用対象

振動監視パラメータ 適用周波数範囲 適用対象・異常現象 適用センサ例
振動変位 1 Hz ~ 200 Hz すべり軸受で支持された回転機械
アンバランス、ミスアライメント、ガタ
渦電流式変位センサ
FK-202F
振動速度 10 Hz ~ 1 kHz 転がり軸受で支持された回転機械
アンバランス、ミスアライメント、ガタ、ギヤ異常
圧電型速度センサ
CV-86
振動加速度 1 kHz以上 転がり軸受で支持された回転機械
転がり軸受の異常、ギヤ異常
圧電型加速度センサ
CA-302

※適用周波数範囲は目安であり上記範囲外で適用される場合もある。また、適用対象と異常現象についても主なものを目安として示したものであり、これ以外にも適用されることがある。

※適用センサ例として示した機種の応答周波数は、表に示す測定パラメータの適用周波数範囲をカバーしておりこの周波数範囲に制限されている訳ではない。

3 回転機械の状態監視と診断における振動の位置付け

 回転機械設備の状態監視と診断には、その設備に対する入力と出力 (電力、流量、圧力、回転数、トルク等) といった主効果パラメータと、その設備が稼働することにより変化する振動や音、温度、潤滑油の状態などの二次効果パラメータがあります。例えばISO 17359規格2)では、“Table A.1 — Examples of condition monitoring parameters by machine type”として、電動機や蒸気タービンといった機械の種類に応じて、状態監視に適用可能なパラメータが示されていますが (表2に抜粋提示) 、この中で挙げられた動機械に対して、振動は幅広く適用可能な監視パラメータの一つであることが分かります。

表2 機械の種類に対する状態監視パラメータの適用例

機械の種類に対する状態監視パラメータの適用例

 また、ISO 17359規格のTable B.2からTable B.10には、表2に示された「機械の種類」ごとの欠陥に適した計測パラメータが示されています。これらには、振動が多くの欠陥に対して異常兆候として表れる、または変化するということで、機械状態監視の測定パラメータとして非常に有効なことを示しています。参考として、“Table B.6 — Example of pump faults matched to measurement parameters and techniques”のポンプの欠陥に適した測定パラメータの例を表3に示します。Table B.6以外でも、多くの欠陥発生に対して振動が兆候として表れる、または変化するパラメータであることが示されています。

 このように、振動監視と振動解析診断技術は、広範囲の動機械の多くの異常現象に対して、最も広く一般的な状態監視診断技術として適用できることが示されています。

表3 ポンプの欠陥に適した測定パラメータの例

ポンプの欠陥に適した測定パラメータの例

次回は、汎用回転機械の状態監視およびISO規格による機械振動の評価などに関してお話しします。

参考文献
1) JIS B 0153:2001「機械振動・衝撃用語」
2) ISO 17359:2018, “Condition monitoring and diagnostics of machines — General guidelines”

本コラム関連製品

e-SWiNS(920MHz)

ZARK & Machine Dossier

infiSYS 3.0

infiSYS V-Assist