新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。
 今回は、転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視、およびISO規格による振動の評価基準についてお話しします。

4 転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視

 今回監視対象とするのは、転がり軸受支持で、一次危険速度よりも低い回転数で運転され、剛性ロータとして分類される回転機械であり、例えば、モータ、ポンプ、ファン、ブロワなどとなります。

 これらの振動測定では、転がり軸受の振動が直接伝わるような軸受箱などに加速度センサを設置するのが一般的であり、図4に示すシステム構成のイメージとなります。このイメージの一番左のシステムを除いて全て無線システムを示していますが、元々センサが設置されていない機械に無線振動センサを設置して、従来のポータブル振動計による巡回点検よりも高頻度な振動データ収集を自動的に行うことでより的確な状態監視を行うことが可能となります。このように新たに振動センサを設置する場合、現場から監視室までのケーブル敷設が必要ない無線センサがより適していると言えます。

 その無線振動センサに関しては、次回の6章で説明します。

図4 転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視システム構成イメージ

5 機械振動の評価と解析診断技術

5-1 ISO規格による評価基準

 従来から機械振動の測定方法と評価基準に関しては、主に滑り軸受支持の大型高速回転機械が対象となる回転軸の振動 (軸振動) の測定と評価に対応したISO 7919シリーズが、また主に転がり軸受支持の汎用回転機械が対象となる軸受自体または軸受台座など非回転部の振動に対応したISO 10816シリーズが、参考とすべきISO規格として参照されてきました。しかし、これらの2つのシリーズは1つのシリーズ規格としての統合改定が進められ、2016年以降、順次ISO 20816シリーズとして発行されてきています。

 現時点 (2024年4月時点) では、表4に示すようにPart 1~Part 5までと、Part 8、Part 9がISO 20816として発行されており、Part 1~Part 5までしかなかったISO 7919シリーズは全てISO 20816シリーズに統合されて廃止規格となっています。しかし、Part 6、Part 7、Part 21に関してはまだISO 20816シリーズが発行されていないため、ISO 10816シリーズが現行規格として残っています。

表4 ISO 20816シリーズ規格一覧

ISO 20816 Series Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration —
(機械振動 ― 機械振動の測定と評価 ―)
ISO 20816-1 General guidelines (一般的指針)
ISO 20816-2 Land-based gas turbines, steam turbines and generators in excess of 40 MW, with fluid-film bearings and rated speeds of 1500 r/min, 1800 r/min, 3000 r/min and 3600 r/min
(定格回転数1,500 rpm、1,800 rpm、3,000 rpm及び3,600 rpmで、流体膜軸受を持つ40 MWを超える陸用ガスタービンおよび蒸気タービンと発電機セット)
ISO 20816-3 Industrial machinery with a power rating above 15 kW and operating speeds between 120 r/min and 30000 r/min
(定格出力が15 kWを超え運転回転数が120 rpmから30,000 rpmの産業機械)
ISO 20816-4 Gas turbines in excess of 3 MW, with fluid-film bearings
(流体膜軸受を持つ、3 MWを超えるガスタービン)
ISO 20816-5 Machine sets in hydraulic power generating and pump-storage plants
(水力発電及び揚水発電プラントにおける機械セット)
ISO 10816-6 Reciprocating machines with power ratings above 100 kW
(定格出力が100 kWを超える往復動機械)
ISO 10816-7 Rotodynamic pumps for industrial applications, including measurements on rotating shafts
(回転軸における測定を含む産業用途のターボポンプ)
ISO 20816-8 Reciprocating compressor systems (往復動圧縮機システム)
ISO 20816-9 Gear units (歯車装置)
ISO 10816-21 Horizontal axis wind turbines with gearbox
(ギアボックスを持つ水平軸風力タービン)

 さて、ISO 20816シリーズにおけるPart 1として一般的指針を示したISO 20816-1 3)のScope (適用範囲)を要約すると、以下のような内容が示されています。

この規格は ;

  • 完成した機械の回転部分、非回転部分および非往復動部分における振動の測定と評価のための一般的条件と手順を規定するものである。
  • 絶対および相対両方の半径方向軸振動 (radial shaft vibration) 測定には適用可能であるが、軸方向軸振動 (axial shaft vibration) には適用できない。
  • 振動の大きさと振動の変化の両者に関するこの一般的評価基準は、運転中の監視と受入試験の両方に適用する。
  • 評価基準は機械自身によって生じる振動に関するものであり、外部から伝達される振動についてのものではない。
  • この規格は、ねじり振動については規定していない。

 また、ISO 20816-1では機械の振動の厳しさを判定するために、以下に示す評価基準Ⅰと評価基準Ⅱの二つの考え方が示されています。

評価基準 Ⅰ : 安定運転状態下で定格回転数における振動の大きさ

各軸受で測定された軸振動、または各軸受または台座で測定された非回転部の振動の大きさは、4つの評価ゾーンに対して評価される。

  • 軸振動の両振幅 (peak-to-peak) で示される回転軸の制限振動値は、機械の運転回転数が上がるにつれて減少することが一般的に認められている。
  • 非回転部の場合、一般に軸受箱などの構造部品の広帯域振動速度の実効値 (rms) の測定は、問題のない運転に関して回転軸要素の運転条件を適切に特徴付けるものである。
    そこで、非回転部で測定した振動の評価ゾーンはA~Dに分けられ (図5参照) 、それぞれの境界線は振動数 \(f_{x} ~ f_{y}\) の範囲における振動速度の実効値 (rms) で規定されている。
評価基準 Ⅱ : 振動の大きさの変化

振動の大きさの変化に対する評価であり、定常運転状態において生じる振動が変化する場合について適用される。

  • 広帯域振動の大きさが著しく増加または減少した場合には、たとえ振動の大きさが評価基準ⅠのゾーンCに達するほど大きくなくても何らかの処置が必要になることがある。
  • このような振動の変化は瞬時又は徐々に生じて、何らかの損傷発生の兆候または差し迫った破損やその他の正常でない状態を警告することがある。

※ 広帯域振動の大きさ:特定のスペクトルの値ではなく、測定対象の帯域 (例えば10 Hz~1,000 Hz) における振動値。オーバーオール振動値 (OA値) とも呼ばれる。

図5 ISO 20816-1 規格の非回転部振動における評価ゾーン分類

 ISO 20816シリーズのPart 1であるISO 20816-1には、上記のような内容の他にシリーズに共通する測定方法などについての記載もありますが、機械の種類に対応した評価基準Ⅰの具体的な値は、Part 2以降に示されています。Part 3のISO 20816-3 4)が「定格出力が15 kWを超え運転回転数が120 rpmから30,000 rpmの産業機械」の振動の測定と評価に関する規格であり、転がり軸受支持の汎用回転機械の多くが対象となるため、具体的な参照値として、ISO 20816-3規格の中の非回転部における振動の評価ゾーン境界値を表5に示します。なおISO 20816-3における振動周波数範囲 \(f_{x} ~ f_{y}\) は通常10 Hz~1,000 Hzです。

表5 定格出力15 kW超で120~30,000 rpmの産業機械における評価ゾーン境界値 (ISO 20816-3より)

定格出力15 kW超で120~30,000 rpmの産業機械における評価ゾーン境界値

 ISO 20816-3規格における監視対象は、Scopeに以下の a) ~ j) のように示されています。

a) 出力が40 MW以下の蒸気タービンおよび発電機
b) 通常運転回転数が1,500 rpm、1,800 rpm、3,000 rpm、3,600 rpm以外で,出力が40 MWを超える蒸気タービンおよび発電機
c) ロータリーコンプレッサ
d) 出力が3 MW以下の産業用ガスタービン
e) ターボファン
f) 機械と電動機のカップリングがフレキシブルな場合は,あらゆるタイプの電動機。
機械と電動機のカップリングがリジッドな場合は,その機械を対象とするISO 20816の他のパート,またはISO 20816-3のいずれかで評価することができる。
g) ロールおよびミル
h) コンベヤ
i) 可変速カップリング
j) ブロワまたはファン

今回は、振動の大きさによる評価について説明しましたが、次回は周波数解析による異常診断および無線振動センサシステムに関してお話しします。

参考文献

3) ISO 20816-1:2016, “Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration — Part 1: General guidelines”

4) ISO 20816-3:2022, “Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration — Part 3: Industrial machinery with a power rating above 15 kW and operating speeds between 120 r/min and 30 000 r/min”

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