2024/06/25 業界コラム 瀧本 孝治 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 回転機械から発生する振動には多くの情報が含まれていて、振動振幅の傾向監視や周波数成分の解析などにより、その機械における異常兆候の検知や異常要因の診断が可能となります。 今回は、転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視、およびISO規格による振動の評価基準についてお話しします。 4 転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視 今回監視対象とするのは、転がり軸受支持で、一次危険速度よりも低い回転数で運転され、剛性ロータとして分類される回転機械であり、例えば、モータ、ポンプ、ファン、ブロワなどとなります。 これらの振動測定では、転がり軸受の振動が直接伝わるような軸受箱などに加速度センサを設置するのが一般的であり、図4に示すシステム構成のイメージとなります。このイメージの一番左のシステムを除いて全て無線システムを示していますが、元々センサが設置されていない機械に無線振動センサを設置して、従来のポータブル振動計による巡回点検よりも高頻度な振動データ収集を自動的に行うことでより的確な状態監視を行うことが可能となります。このように新たに振動センサを設置する場合、現場から監視室までのケーブル敷設が必要ない無線センサがより適していると言えます。 その無線振動センサに関しては、次回の6章で説明します。 図4 転がり軸受支持の汎用回転機械の状態監視システム構成イメージ5 機械振動の評価と解析診断技術5-1 ISO規格による評価基準 従来から機械振動の測定方法と評価基準に関しては、主に滑り軸受支持の大型高速回転機械が対象となる回転軸の振動 (軸振動) の測定と評価に対応したISO 7919シリーズが、また主に転がり軸受支持の汎用回転機械が対象となる軸受自体または軸受台座など非回転部の振動に対応したISO 10816シリーズが、参考とすべきISO規格として参照されてきました。しかし、これらの2つのシリーズは1つのシリーズ規格としての統合改定が進められ、2016年以降、順次ISO 20816シリーズとして発行されてきています。 現時点 (2024年4月時点) では、表4に示すようにPart 1~Part 5までと、Part 8、Part 9がISO 20816として発行されており、Part 1~Part 5までしかなかったISO 7919シリーズは全てISO 20816シリーズに統合されて廃止規格となっています。しかし、Part 6、Part 7、Part 21に関してはまだISO 20816シリーズが発行されていないため、ISO 10816シリーズが現行規格として残っています。 表4 ISO 20816シリーズ規格一覧 ISO 20816 Series Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration —(機械振動 ― 機械振動の測定と評価 ―) ISO 20816-1 General guidelines (一般的指針) ISO 20816-2 Land-based gas turbines, steam turbines and generators in excess of 40 MW, with fluid-film bearings and rated speeds of 1500 r/min, 1800 r/min, 3000 r/min and 3600 r/min(定格回転数1,500 rpm、1,800 rpm、3,000 rpm及び3,600 rpmで、流体膜軸受を持つ40 MWを超える陸用ガスタービンおよび蒸気タービンと発電機セット) ISO 20816-3 Industrial machinery with a power rating above 15 kW and operating speeds between 120 r/min and 30000 r/min(定格出力が15 kWを超え運転回転数が120 rpmから30,000 rpmの産業機械) ISO 20816-4 Gas turbines in excess of 3 MW, with fluid-film bearings(流体膜軸受を持つ、3 MWを超えるガスタービン) ISO 20816-5 Machine sets in hydraulic power generating and pump-storage plants(水力発電及び揚水発電プラントにおける機械セット) ISO 10816-6 Reciprocating machines with power ratings above 100 kW(定格出力が100 kWを超える往復動機械) ISO 10816-7 Rotodynamic pumps for industrial applications, including measurements on rotating shafts(回転軸における測定を含む産業用途のターボポンプ) ISO 20816-8 Reciprocating compressor systems (往復動圧縮機システム) ISO 20816-9 Gear units (歯車装置) ISO 10816-21 Horizontal axis wind turbines with gearbox(ギアボックスを持つ水平軸風力タービン) さて、ISO 20816シリーズにおけるPart 1として一般的指針を示したISO 20816-1 3)のScope (適用範囲)を要約すると、以下のような内容が示されています。 この規格は ; 完成した機械の回転部分、非回転部分および非往復動部分における振動の測定と評価のための一般的条件と手順を規定するものである。 絶対および相対両方の半径方向軸振動 (radial shaft vibration) 測定には適用可能であるが、軸方向軸振動 (axial shaft vibration) には適用できない。 振動の大きさと振動の変化の両者に関するこの一般的評価基準は、運転中の監視と受入試験の両方に適用する。 評価基準は機械自身によって生じる振動に関するものであり、外部から伝達される振動についてのものではない。 この規格は、ねじり振動については規定していない。 また、ISO 20816-1では機械の振動の厳しさを判定するために、以下に示す評価基準Ⅰと評価基準Ⅱの二つの考え方が示されています。 評価基準 Ⅰ : 安定運転状態下で定格回転数における振動の大きさ各軸受で測定された軸振動、または各軸受または台座で測定された非回転部の振動の大きさは、4つの評価ゾーンに対して評価される。 軸振動の両振幅 (peak-to-peak) で示される回転軸の制限振動値は、機械の運転回転数が上がるにつれて減少することが一般的に認められている。 非回転部の場合、一般に軸受箱などの構造部品の広帯域振動速度の実効値 (rms) の測定は、問題のない運転に関して回転軸要素の運転条件を適切に特徴付けるものである。 そこで、非回転部で測定した振動の評価ゾーンはA~Dに分けられ (図5参照) 、それぞれの境界線は振動数 \(f_{x} ~ f_{y}\) の範囲における振動速度の実効値 (rms) で規定されている。 評価基準 Ⅱ : 振動の大きさの変化振動の大きさの変化に対する評価であり、定常運転状態において生じる振動が変化する場合について適用される。 広帯域振動の大きさが著しく増加または減少した場合には、たとえ振動の大きさが評価基準ⅠのゾーンCに達するほど大きくなくても何らかの処置が必要になることがある。 このような振動の変化は瞬時又は徐々に生じて、何らかの損傷発生の兆候または差し迫った破損やその他の正常でない状態を警告することがある。 ※ 広帯域振動の大きさ:特定のスペクトルの値ではなく、測定対象の帯域 (例えば10 Hz~1,000 Hz) における振動値。オーバーオール振動値 (OA値) とも呼ばれる。 図5 ISO 20816-1 規格の非回転部振動における評価ゾーン分類 ISO 20816シリーズのPart 1であるISO 20816-1には、上記のような内容の他にシリーズに共通する測定方法などについての記載もありますが、機械の種類に対応した評価基準Ⅰの具体的な値は、Part 2以降に示されています。Part 3のISO 20816-3 4)が「定格出力が15 kWを超え運転回転数が120 rpmから30,000 rpmの産業機械」の振動の測定と評価に関する規格であり、転がり軸受支持の汎用回転機械の多くが対象となるため、具体的な参照値として、ISO 20816-3規格の中の非回転部における振動の評価ゾーン境界値を表5に示します。なおISO 20816-3における振動周波数範囲 \(f_{x} ~ f_{y}\) は通常10 Hz~1,000 Hzです。 表5 定格出力15 kW超で120~30,000 rpmの産業機械における評価ゾーン境界値 (ISO 20816-3より) ISO 20816-3規格における監視対象は、Scopeに以下の a) ~ j) のように示されています。 a) 出力が40 MW以下の蒸気タービンおよび発電機 b) 通常運転回転数が1,500 rpm、1,800 rpm、3,000 rpm、3,600 rpm以外で,出力が40 MWを超える蒸気タービンおよび発電機 c) ロータリーコンプレッサ d) 出力が3 MW以下の産業用ガスタービン e) ターボファン f) 機械と電動機のカップリングがフレキシブルな場合は,あらゆるタイプの電動機。機械と電動機のカップリングがリジッドな場合は,その機械を対象とするISO 20816の他のパート,またはISO 20816-3のいずれかで評価することができる。 g) ロールおよびミル h) コンベヤ i) 可変速カップリング j) ブロワまたはファン 今回は、振動の大きさによる評価について説明しましたが、次回は周波数解析による異常診断および無線振動センサシステムに関してお話しします。 参考文献 3) ISO 20816-1:2016, “Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration — Part 1: General guidelines” 4) ISO 20816-3:2022, “Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration — Part 3: Industrial machinery with a power rating above 15 kW and operating speeds between 120 r/min and 30 000 r/min” 本コラム関連製品 e-SWiNS(920MHz)ZARK & Machine DossierinfiSYS 3.0infiSYS V-Assist この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月