2012/08/07 業界コラム 瀧本 孝治 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 今回は、すべり軸受で支持され、一次危険速度よりも高い回転数で運転される高速回転機械の異常現象を模擬することのできる「すべり軸受ロータキット」を使った、異常発生時の解析事例を紹介します。 すべり軸受ロータキット新川電機では、一次危険速度よりも高い回転数で運転される高速回転機械の異常現象を模擬することのできる油潤滑のすべり軸受で支持されたオリジナルのロータキットを製作しています。(図14参照) このロータキットを使って模擬できる異常現象は、不つりあい、オイルホワール、ミスアライメント、ロータ構成部品の飛散、熱曲がりです。このロータキットに取り付けたフェーズマーカ(位相基準センサ)と軸振動センサの信号をinfiSYS RV-200やKenjin等の振動解析システムに取り込むことで、バランシングのトレーニングや振動解析と診断のトレーニングを行うことができます。なお、このロータキットでは、オイルホワールを発生しやすいように真円軸受を使っています。 このロータキットは、2010年8月号で紹介した「ISO規格に基づく振動診断技術者の認証制度」の訓練(新川センサテクノロジで実施)での使用は勿論のこと、新川電機が主催するCMSセミナーや大型回転機械状態監視セミナー、さらにお客様の事務所で実施させていただく解析診断システムのご紹介とデモンストレーションでも使用しています。 図14のロータキットの全長は約1m、重量は本体だけでも約28kgあり、コントローラ等の付属品を含めて専用ケースに入れると80kg前後となります。さらに、ロータキットを固定する架台も40kg前後あり、これをデモンストレーション実施場所に搬送するだけでも大変なため、全長が半分程度のものや2/3程度のものも社内用として製作し、お客様でのデモンストレーションに使っています。 図15に、すべり軸受ロータキットとポータブル振動解析システムKenjinを使った異常振動現象発生と振動解析のデモンストレーションの構成を示します。 図14.すべり軸受ロータキット 図15.デモンストレーション構成 オイルホワール振動それでは、上記で紹介したすべり軸受ロータキットでオイルホワール振動を発生させた時のポータブル振動解析システムKenjinによる解析データの説明をします。 オイルホワール振動は、すべり軸受で支持された回転機械特有の自励的な不安定振動で、すべり軸受の形状や油膜特性などの影響により発生します。この振動は、一次危険速度の2倍以下の回転数において発生し、回転同期周波数(1X)の約1/2倍の周波数成分(約0.5X)の振動が発生するといった特徴があります。 また、潤滑油の粘性や軸受荷重などの影響を受けますので、ある条件でオイルホワールが発生している機械を同じ回転数で運転していても、潤滑油の温度や機械の負荷状態などを変えることにより発生しなくなることもあります。 なお、上記のように一次危険速度の2倍以下の回転数においてオイルホワールが発生した状態では、振動主成分の周波数は回転同期周波数の約1/2であり回転数の上昇とともに上昇して行きますが、さらに回転数を上昇して一次危険速度の2倍以上になると、回転数が上昇しても振動主成分の周波数は一次危険速度と同じで一定となるオイルホイップと呼ばれる状態になります。 ここから解析グラフを使って、このロータキットで発生したオイルホワール振動の解析データを見てみます。 まず、図16と図17のS-V線図を見てください。 図16.S-V線図(OA)図16.S-V線図(OA)S-V線図は、横軸に回転数、縦軸に振動振幅値を示したグラフで、オーバーオール振幅(OA)、1X振幅、2X振幅、および0.5X振幅を色分けして重ね描きすることができます。 図16はOA振幅のみ表示していますが、これから2,321rpmが一次危険速度であることが分かります。振動値は一次危険速度通過後徐々に小さくなっていますが、3,530rpm到達時に突然大きくなり、回転数を3,900rpmあたりまで上昇させた後、徐々に回転数を下げて3,530rpm以下になっても振動値が小さくならず、3,205rpmまで下がったところでやっと小さくなっていることが分かります。そこで、図17のように1X振幅、2X振幅、および0.5X振幅を重ね描きしてみると、高い回転数での過大振動は回転同期成分(1X)によるものではなく、0.5X成分が支配的であることが分かります。この過大振動発生時のスペクトルを図18に示しますが、これからも0.5X成分が主成分であることが分かります。 図18.スペクトルこれらの解析グラフは、一次危険速度の2倍以下の回転数において、回転同期周波数(1X)の約1/2倍の周波数成分(約0.5X)の振動が発生していると いう、先に述べたオイルホワールの特徴が現れていることを示しています。したがってこの解析結果から、高速回転中にオイルホワールが発生している可能性が高いという推測をすることができます。 また、図19にオイルホワール発生中のオービット&波形グラフを示していますが、グラフデータ上の白丸(○)はフェーズマーク(位相基準)の位置を示すもので、この白丸から次の白丸までが1回転であるということになります。このグラフから振動波形1周期の中に白丸がほぼ2個ずつあることが分かりますので、この振動は約0.5X成分であることが分かります。 図19.オービット&波形グラフこのように、色々なグラフを使って発生している振動の特徴を捉えることができますので、各振動の状態によってその特徴を捉えやすい何種類かの解析グラフを見ることで、振動の状態をより確実に捉えてゆくことが可能となります。 次回もロータキットによる異常振動発生時の解析について事例を説明します。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200infiSYS 3.0Kenjin この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月