2014/08/05 業界コラム 瀧本 孝治 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前回は、位相基準センサと変位センサが実際の空間における真上の方向に取付けられている場合、振動波形のピークの点、つまり振れ回っているロータが最も上の方向に動いて、変位センサに最も接近した点を「ハイスポット」と呼び、その時の振幅Aが振動ベクトルの大きさ、位相基準とハイスポットの角度差が振動ベクトルの方向を示す位相角θとして、ポーラ線図上に示されることを説明しました。今回は、このハイスポットとヘビースポット(重心点)の関係について説明します。 説明モデルの前提条件は前回と同様に下記の通りとします。 説明モデルの前提条件できるだけ考えやすく、分かりやすくするため、下記のように単純化したモデルを説明の前提条件とします。 ポーラ線図における真上の方向(天の方向)を振動ベクトルの0(ゼロ)度として、回転方向とは逆方向に角度を取って行く。つまり、回転方向より遅れ方向をプラス(+)、進み方向をマイナス(-)とする。 単純にするために、ロータ上の位相基準マークとして取付けられた切欠き状のキー溝を検知する位相基準センサの取付角度を実際の空間における真上の方向(天の方向)で0度として、ロータの振動変位を測定する変位センサの取付角度も実際の空間における真上の方向(天の方向)で0度とする。 また、測定対象となるロータは、両端を軸受で支持された質量が無視できる回転軸の中央に質量を有する1つの円板が取付けられた理想的なロータ(いわゆるジェフコットロータ)であり、軸振動としては不釣合いによる調和振動のみ発生するものとする。つまり、回転同期成分(1X)の振動のみ発生するロータを対象として考える。 ハイスポットとヘビースポットの位相角ロータを軸方向から見た場合、ロータの中心点と、そのロータの質量の中心である重心点、つまりヘビースポットが完全に一致していれば、ロータを回転させても振動は発生しません。しかし、ロータの中心点とヘビースポットが一致していない場合、つまり重心の偏りである不釣合いがある状態でロータを回転させると、ヘビースポットの遠心力により、ロータに振れ回り振動を励起させるような加振力が発生し、ロータが振動することになります。 図17. 不釣合いを持つロータこの不釣合いによる振れ回り振動を抑えるためには、ロータの中心点に対してヘビースポットと反対方向に適当なおもりを付加して、ロータのバランスを取ることが必要となります。そこで、ヘビースポットの位置と大きさが分かればよいのですが、これは単純に振動を測定していても分かりません。 そこで、まずハイスポットの位置や大きさ、つまり振動ベクトルとヘビースポットの位置との関係を考えてみましょう。 図17に示すようなロータの中心点とヘビースポットの位置が一致していない、不釣合いを持つロータを考えてみます。ここでは仮に、ヘビースポットの方向が位相基準よりも45°回転進み方向にあったとします。 このロータを回転させた時の状態を図18に示します。 図18. 回転数変化に伴う位相角の変化まず、ロータの回転数が危険速度に比べて十分に低い場合(ω≪ωn)、図18①に示すように、ロータはヘビースポットの方向に引っ張られる形で振れ回り、ヘビースポットとハイスポットはほぼ同じ方向、つまりヘビースポットの方向と振動ベクトルの位相角はほぼ同じとなります。このモデルでは、ヘビースポットの方向が位相基準よりも45°進み方向にあるものとしていますので、回転方向とは逆の遅れ方向に角度をとる位相角はほぼ315°ということになります。 次に、回転数が上昇して危険速度に到達した場合(ω=ωn)、図18②に示すように、ロータはヘビースポットの方向から90°遅れた方向にピークを持つような振れ回り運動をしますので、位相角は①の状態からもほぼ90°遅れた状態となります。従って、このロータでの危険速度における位相角は 315 + 90 = 405° 、つまり45°ということになります。 最後に、さらに回転数が上昇して、危険速度に比べて十分に高い場合(ω≫ωn)、図18③に示すように、ロータはヘビースポットの方向から180°遅れた方向にピークを持つような振れ回り運動をしますので、位相角は②の状態からさらにほぼ90°遅れた状態となります。従って、この状態での位相角は 45 + 90 = 135° ということになります。 このように、ロータは危険速度より低い回転数では、回転数上昇とともに位相角が遅れて行き、振動振幅が上昇し、危険速度では位相角が初期位相から90°遅れるとともに最大振幅となります。危険速度を超えてさらに回転数を上昇させて行くと、さらに位相角が初期位相から180°に向けて遅れて行き、振動振幅は減少して行きます。 この様子をポーラ線図上にプロットすると、その軌跡は図19と図20に示すようになります。 図19. 回転数変化に伴うポーラ線図上の振動ベクトルの軌跡図20. 回転数変化に伴うポーラ線図上の振動ベクトルの軌跡と波形図20を見ると、ヘビースポットの方向は、危険速度における振動ベクトル②の位相角から90°進み方向にあるということが分かります。 したがって、ロータの回転数を低速回転から1次の危険速度を超える高速回転数範囲まで変化させて、ポーラ線図上で振動ベクトルの軌跡をプロットすることができれば、ロータ上のどの方向にヘビースポットがあるのかが分かります。そうすると、ロータの中心点に対してヘビースポットと反対方向に適当なおもりを付加して、ロータのバランスをとればよいという事になりますが・・・。 しかし、これだけではおもりの質量をいくらにするのが適当な値という事になるのかは分かりません。 また、危険速度を超えることなく、停止状態から一気に定格回転数に到達するようなロータで、ある一定の回転数での振動ベクトルしか計測できないような場合、ヘビースポットの方向さえ知ることができません。 そこで次回は、試しおもり付加してバランス調整を行う方法について説明します。 本コラム関連製品 infiSYS RV-200KenjininfiSYS 3.0 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月