2010/07/07 業界コラム 瀧本 孝治 軸振動センサの取付け ~ ISO規格及びAPI規格による規定 ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST推進企画...もっと見る マーケティング部 ST推進企画 2010年4月号でAPI 670規格における非接触変位センサに対する要求仕様を説明しましたが、今回は非接触変位センサを軸振動センサとして使用する場合の、センサ取付けに関して説明します。(先月のコラム末尾で「次回はISO規格に基づく機械状態監視診断技術者(振動)の認証制度について紹介する予定」との予告をしましたが、都合によりテーマを変更しました。) 1.軸振動センサのセットギャップ 軸振動センサとして使用される渦電流式非接触変位センサは基本的にセンサとターゲットとの距離(ギャップ)を測定する変位計です。ではなぜ変位計で軸振動を測定できるのかということに関して、今年1月号の「回転機械の状態監視vol.2 ~渦電流式変位センサの原理~」でも説明しましたが、もう一度説明します。 渦電流式変位センサの周波数応答はDC~10kHz程度までと広く、通常の軸振動計測で対象となる数十Hzから数百Hzの範囲では距離(センサ入力)の変化に対する変換器の出力は一対一で追従します。渦電流式変位計の静特性は図1の(a)に示すように使用するレンジ内で距離に比例した電圧を出力します。仮にターゲットが \(x_{2}\) を中心に \(x_{1}\) から \(x_{3}\) の範囲で振動している場合、時間に対する距離の変化は図1の(b)に示され、変換器の出力電圧は図1の(c)のように時間に対する電圧波形となって現れます。この時、出力電圧 \(y_{1}\) , \(y_{2}\) , \(y_{3}\) に対する距離 \(x_{1}\) , \(x_{2}\) , \(x_{3}\) は既知の値で比例関係にあり、振動モニタなどにより \(y_{3}\) と \(y_{1}\) の偏差( \(y_{3}-y_{1}\) )を演算処理することにより振動振幅を測定することができます。 図1. 非接触変位計で振動計測を行なう原理さて、機械の運転前にセンサをターゲットとなる回転軸に対して適当なギャップを持って固定する必要がありますが(これをセットギャップと呼ぶ)、図1よりセットギャップは \(x_{2}\) であることが理想的です。しかし、機械運転前の停止している位置は \(x_{1}\) から \(x_{3}\) の範囲のどこになるか分かりません。また、機械の回転上昇とともに軸受内の潤滑油膜の圧力上昇によりロータが浮き上がり、ギャップ平均値も変化することになります(変化量はセンサの取付け角度によっても異なる)。また、場合によっては温度上昇に伴い、センサスリーブなどの取付治具とそのサポート部との線膨張差によるギャップ平均値が変化する可能性もあります。したがって、セットギャップはこれらの要素を含めてもセンサのリニアレンジを外れることがないように設定する必要があります。 ここで、渦電流式変位センサとしてAPI 670規格に準拠したFK-202Fトランスデューサを使用する場合、図2に示すようにリニアレンジは0.25~2.25mmですので、セットギャップはその中央である1.25mmとするのが理想的ということになります。しかし、ギャップ1.25mmを中心に±1mmの範囲でリニアレンジを持っていますので、実用的には予想される最大の振動値(または振動モニタレンジ)とロータの浮き上がりに伴うギャップ変化などを考慮してもリニアレンジを外れることのない十分な余裕を持った範囲でセッティングするということになります。例えば、最大振動値にギャップ変化要因を加えてもリニアレンジに比べ十分に小さい値という場合、セッティングの作業性や、もしもの時にセンサトップがロータに接触する可能性を低くするという観点から、セットギャップはリニアレンジ中央の1.25mmではなく、もう少し広めにセットするということも考えられます。 注)図2は標準校正ターゲット(SCM440平面)による特性を示しています。ターゲット材質によっては特性が大きく異なる場合がありますのでご注意ください。 図2. FK-202Fトランスデューサの標準特性例2.ISO規格およびAPI規格による 軸振動センサ取付けに関する規定回転機械の回転軸における振動測定と評価基準について規定しているISO 7919-1※1規格において、軸振動センサの取付け角度と数量は3.3 Measurement proceduresの3.3.1 Generalに次のように規定されています。なお、ISO 7919-1の日本語に翻訳された一致規格としてJIS B 0910※2が発行されていますので、以下の規定内容はJIS B 0910から抜粋、引用しています。 JIS B 0910の「3.3測定手順」の「3.3.1一般」では、「機械の各軸受又はその近くに2個1組の変換器を設置する・・・(中略)・・・二つの変換器は、軸受上半部又は下半部のいずれかに、互いに90°±5°離れて取付ける」ということが規定されています。ただし「軸振動についての情報が十分にあれば、直交する二つの変換器の組合せの代わりに、各測定面に一つの変換器を採用してもよい」としています。 API 670規格※3では、6 Transducer and Sensor Arrangements / 6.1 Location and Orientation / 6.1.1 Radial Shaft Vibration Probesで以下に示すように規定されています。 監視されるラジアルベアリングにおいて、2つのラジアル方向の検出器を設置しなければならない。これら2つの検出器は以下の通りでなければならない。 同一平面状に90°(±5°)離して、シャフトの中心線に対して垂直(±5°) 垂直中心線から45°(±5°)に配置 マシントレインを駆動端側から見た時、軸の回転方向に係わらず、Y検出器を垂直中心線の左側、X検出器を垂直中心線の右側とする 軸受から75mm以内に配置 上記ISO規格およびAPI規格で規定されている内容を要約して表1に示します。また、API 670規格で規定されている内容に沿った軸振動センサ取付けイメージを図3に示します。 ※1.ISO 7919-1:Mechanical vibration of non-reciprocating machines – Measurements on rotating shafts and evaluation criteria -Part 1: General guidelines ※2.JIS B 0910:非往復動機械の機械振動 -回転軸における測定及び評価基準- 一般的指針 ※3.API Standard 670 Fourth Edition:Machinery Protection Systems 表1. 軸振動センサの取付けに関する規定 項目 ISO 7919-1(JIS B 0910) API 670 4th センサ数量 / 測定点 2個1組のセンサを設置する ただし、軸振動についての情報が十分にあれば、1つのセンサを採用してもよい 2個のセンサを取付けなければならない センサ間の取付角度 90°±5° 90°±5° 回転軸とセンサの垂直度 規定なし ±5° 垂直中心線に対する センサ取付角度 規定なし 45°±5° ベアリングとセンサ間距離 各軸受又はその近く 75mm以内 図3. API 670規格による軸振動センサ取付けイメージ3.センサ・マウンティング・キット(取付治具)上記2項の規定に沿って、1項で述べたセットギャップで実際にセンサを取付ける場合、図4や図5に示すようなマウンティング・キット(取付治具)を利用することができます。 図4のエクスターナル・マウンティング・キットは、マシンケース外部からセンサを取付ける必要がある場合に適用します。この方式では、例えば試運転後にセンサ・セットギャップを変更する必要が生じた場合でも、マシンケースを取外すことなくギャップ調整を行なうことができるというメリットがあります。 図5のインターナル・マウンティング・キットはセンサ・マウンティング・ブラケットを機内(マシンケース内)の軸受側面に直接取付けることで、ケーシング固有の振動やセンサスリーブの振動など不要な振動の影響を受ける可能性がなく、より安定した軸と軸受の相対振動を計測できるというメリットがあります。 注)センサスリーブが長くなると、スリーブの共振などの振れによる悪影響が懸念されます。スリーブ長が300mm以上となる場合には、サポートなどによりスリーブを固定することを推奨します。 図4. エクスターナル・マウンティング・キット図5.インターナル・マウンティング・キットさて、次回は今回ご紹介できなかったISO規格に基づく機械状態監視診断技術者(振動)の認証制度について紹介する予定です。 本コラム関連製品 FKシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月