2010/10/05 業界コラム 瀧本 孝治 渦電流変位センサの原理と特徴 vol.1 ~ 原理と特徴(概要) ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前々回、前回とISO振動診断技術者認証セミナー募集に合わせて「ISO規格に基づく振動診断技術者の認証制度」について書きましたが、今回から再び技術的な解説に戻ります。 2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」でも渦電流式変位センサの原理に関して簡単に述べましたが、今回はさらに理解を深めていただくために、別のアプローチで渦電流式変位センサの原理について説明してみます。 まず、2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」において言葉で説明した渦電流式変位センサの原理の概要は図1のようにまとめることができます。 図1. 渦電流式変位計の測定原理の考え方 ( 流れ ) 今回は、さらに理解を深めるため、図2の模式図を用いて渦電流式変位センサの測定原理の全体像を説明します。ターゲットは、導電体であるので高周波電流による交流磁束\(\phi\)が加わった場合、ターゲット内部の磁束変化によってファラデーの電磁誘導の法則に従い、式(1)に示した起電力が発生します。 \[ e=-\frac{d\phi }{dt} \; \left[ V\right] \tag{1} \] この起電力により渦電流 \(i_{e}\) が流れます(図2(a))。ここで、簡単化のためセンサコイルに対し等価的にターゲット側にニ次コイルが発生するとします((図2(b))。ニ次コイルの電気的定数を抵抗 \(R_{2}\) 、インダクタンス \(L_{2}\) とし、センサコイルのそれらを \(R_{C}\) 、\(L_{C}\) とし、各コイル間の結合係数が距離 \(x\) により変化するとすれば変圧器の考え方と同様になります(図2(c))。ここで、等価的にセンサ側から見た場合、式(2)、式(3)のようにターゲットが近づくことにより、\(R_{C}\) および \(L_{C}\) が変化したと解釈できます(図2(d))。 \( R_{c}\rightarrow R_{c}+\Delta R\left( x\right) \; \left[ \Omega \right] \tag{2} \) \( L_{c}\rightarrow L_{c}+\Delta L\left( x\right) \; \left[ H\right] \tag{3} \) 即ち、距離 \(x\) の変化に対して \(\Delta R\) 及び \(\Delta L\) が変化し、センサのインピーダンス \(Z_{C}\) が変化します。勿論、\(x\rightarrow \infty\) の時、\(\Delta R\rightarrow 0\) および \(\Delta L\rightarrow 0\) です。したがって、このインピーダンス \(Z_{C}\) を計測すれば、距離 \(x\) を計測できます。 図2. 渦電流式変位センサ計測原理図渦電流式変位センサの例を図3に示します。外観上の構成要素としてはセンサトップ、同軸ケーブル、同軸コネクタからなっています。センサトップ内には、センサコイルが組み込まれ、また、高周波電流の給電用に同軸ケーブルがセンサコイルに接続されています。この実例のセンサ系の等価回路を図4に示します。変位\(x\)を計測することは、インピーダンス \(Z_{s}\)を用いて、\(V_{c}\)を求めることを意味します。以下に、概要を示します。 センサコイルは、インダクタンス\(L_{c}\left[ H\right]\)、及び、抵抗\(R_{c}\left[ \Omega \right]\)の直列回路と見なした。 同軸ケーブルは、インダクタンス\(L_{2}\left[ H\right]\)、及び、抵抗\(R_{2}\left[ \Omega \right]\)、及び、静電容量\(C_{2}\left[ F\right]\)からなる系とする。 センサには、発振器から励磁角周波数 \(\omega \left[ rad/s\right]\)の高周波励磁電圧\(V_{i}\left[ V\right]\)、電流\(I_{c}\left[ A\right]\)がある付加インピーダンス\(Z_{2}\left[ \Omega \right]\)を通して供給される。 図3. 渦電流式変位センサの構成例図4. 渦電流式変位センサのセンサ系等価回路変位計測値としての出力電圧\(V_{C}\)は、図4より式(4)のように表されます。 \[ V_{c}=\frac{Z_{s}}{Z_{s}+Z_{a}}V_{i} \; \left[ V\right] \tag{4} \] ここで、図4の発振器側から検知コイル側を見た時のインピーダンス\(Z_{S}\) は、式(5)のように表されます。 \begin{align} &Z_{s}=\frac {\left( R_{c}+R_{2}\right) +j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) }{\left\{ \left( R_{c}+R_{2}\right) +j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) +\frac{1}{j\omega C_{2}}\right\} j\omega C_{2}} \\ &=\frac{R_{c}+R_{2}}{1-\omega ^{2}\left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}}\times \\ &\left[ 1+j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}\left\{ \frac{1}{\left( R_{c}+R_{2}\right) C_{2}}\left( 1-\omega ^{2}\left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}\right) -\frac{R_{c}+R_{2}}{L_{c}+L_{2}}\right\} \right] \; \left[ \Omega \right] \tag{5} \end{align} ここに、 \( R_{c}=R_{0}+\Delta R\left( x\right) \; \left[ \Omega \right] \) \( L_{c}=L_{0}+\Delta L\left( x\right) \; \left[ H \right] \) \( R_{0}\):検知コイルの抵抗 \(\left[ \Omega \right] \) \( L_{0}\):検知コイルの自己インダクタンス \(\left[ H \right] \) 以上から、\( \Delta L\left( x\right) \)、\( \Delta R\left( x\right) \)により変化する\(Z_{S}\)を求めることにより、目的の変位\( x \)を計測できることになります。 上記のような原理により、渦電流式変位センサは下記に示す特徴を有することになります。 非接触で変位・振動を測定できる ターゲットとの距離(ギャップ)に比例した電圧を出力し、直流(静止した状態の距離)から高い周波数まで応答するため、振動だけでなく軸位置計のような変位測定にも使用可能である。 ターゲットは導電体(通常は金属)に限られる ターゲット表面に渦電流を発生させることで測定が可能となるため、通常ターゲットは良導体である金属に限られる。また、その原理よりターゲットの固有抵抗と透磁率の違い、つまり材質の違いにより特性が変わる。 ターゲットは磁性材に限らない 上記とは逆に、電流が流れる材質であれば測定ができるため商用周波数などの低周波で励磁するインダクタンス式の変位計と異なり、ターゲットは鉄鋼材などの磁性体である必要はなくアルミや銅など非磁性の金属でもターゲットとすることができる。 センサは耐環境性に優れている 原理的に電流の流れない絶縁物は感知しないので、油や水がかかっても影響を受けないで測定が可能である。 前回(2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」)とは別のアプローチによる、より詳しい原理説明を試みてみましたが、決して簡単な説明とはならなかったことをお許しください。 次回は、同じ渦電流式変位センサでもキャリアの励磁方式による違い、さらに今回の最後のところで、渦電流式変位センサの特徴を簡単に述べましたが、次回から取扱上の注意点にもつながる具体的な説明を行ないます。 本コラム関連製品 FKシリーズVCシリーズVGシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月