前々回、前回とISO振動診断技術者認証セミナー募集に合わせて「ISO規格に基づく振動診断技術者の認証制度」について書きましたが、今回から再び技術的な解説に戻ります。
2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」でも渦電流式変位センサの原理に関して簡単に述べましたが、今回はさらに理解を深めていただくために、別のアプローチで渦電流式変位センサの原理について説明してみます。
まず、2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」において言葉で説明した渦電流式変位センサの原理の概要は図1のようにまとめることができます。

今回は、さらに理解を深めるため、図2の模式図を用いて渦電流式変位センサの測定原理の全体像を説明します。ターゲットは、導電体であるので高周波電流による交流磁束\(\phi\)が加わった場合、ターゲット内部の磁束変化によってファラデーの電磁誘導の法則に従い、式(1)に示した起電力が発生します。
この起電力により渦電流 \(i_{e}\) が流れます(図2(a))。ここで、簡単化のためセンサコイルに対し等価的にターゲット側にニ次コイルが発生するとします((図2(b))。ニ次コイルの電気的定数を抵抗 \(R_{2}\) 、インダクタンス \(L_{2}\) とし、センサコイルのそれらを \(R_{C}\) 、\(L_{C}\) とし、各コイル間の結合係数が距離 \(x\) により変化するとすれば変圧器の考え方と同様になります(図2(c))。ここで、等価的にセンサ側から見た場合、式(2)、式(3)のようにターゲットが近づくことにより、\(R_{C}\) および \(L_{C}\) が変化したと解釈できます(図2(d))。
\( L_{c}\rightarrow L_{c}+\Delta L\left( x\right) \; \left[ H\right] \tag{3} \)
即ち、距離 \(x\) の変化に対して \(\Delta R\) 及び \(\Delta L\) が変化し、センサのインピーダンス \(Z_{C}\) が変化します。勿論、\(x\rightarrow \infty\) の時、\(\Delta R\rightarrow 0\) および \(\Delta L\rightarrow 0\) です。したがって、このインピーダンス \(Z_{C}\) を計測すれば、距離 \(x\) を計測できます。

渦電流式変位センサの例を図3に示します。外観上の構成要素としてはセンサトップ、同軸ケーブル、同軸コネクタからなっています。センサトップ内には、センサコイルが組み込まれ、また、高周波電流の給電用に同軸ケーブルがセンサコイルに接続されています。この実例のセンサ系の等価回路を図4に示します。変位\(x\)を計測することは、インピーダンス \(Z_{s}\)を用いて、\(V_{c}\)を求めることを意味します。以下に、概要を示します。
- センサコイルは、インダクタンス\(L_{c}\left[ H\right]\)、及び、抵抗\(R_{c}\left[ \Omega \right]\)の直列回路と見なした。
- 同軸ケーブルは、インダクタンス\(L_{2}\left[ H\right]\)、及び、抵抗\(R_{2}\left[ \Omega \right]\)、及び、静電容量\(C_{2}\left[ F\right]\)からなる系とする。
- センサには、発振器から励磁角周波数 \(\omega \left[ rad/s\right]\)の高周波励磁電圧\(V_{i}\left[ V\right]\)、電流\(I_{c}\left[ A\right]\)がある付加インピーダンス\(Z_{2}\left[ \Omega \right]\)を通して供給される。


変位計測値としての出力電圧\(V_{C}\)は、図4より式(4)のように表されます。
ここで、図4の発振器側から検知コイル側を見た時のインピーダンス\(Z_{S}\) は、式(5)のように表されます。
&Z_{s}=\frac {\left( R_{c}+R_{2}\right) +j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) }{\left\{ \left( R_{c}+R_{2}\right) +j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) +\frac{1}{j\omega C_{2}}\right\} j\omega C_{2}} \\
&=\frac{R_{c}+R_{2}}{1-\omega ^{2}\left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}}\times \\
&\left[ 1+j\omega \left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}\left\{ \frac{1}{\left( R_{c}+R_{2}\right) C_{2}}\left( 1-\omega ^{2}\left( L_{c}+L_{2}\right) C_{2}\right) -\frac{R_{c}+R_{2}}{L_{c}+L_{2}}\right\} \right] \; \left[ \Omega \right] \tag{5}
\end{align}
ここに、
\( L_{c}=L_{0}+\Delta L\left( x\right) \; \left[ H \right] \)
\( R_{0}\):検知コイルの抵抗 \(\left[ \Omega \right] \)
\( L_{0}\):検知コイルの自己インダクタンス \(\left[ H \right] \)
以上から、\( \Delta L\left( x\right) \)、\( \Delta R\left( x\right) \)により変化する\(Z_{S}\)を求めることにより、目的の変位\( x \)を計測できることになります。
上記のような原理により、渦電流式変位センサは下記に示す特徴を有することになります。
- 非接触で変位・振動を測定できる
ターゲットとの距離(ギャップ)に比例した電圧を出力し、直流(静止した状態の距離)から高い周波数まで応答するため、振動だけでなく軸位置計のような変位測定にも使用可能である。 - ターゲットは導電体(通常は金属)に限られる
ターゲット表面に渦電流を発生させることで測定が可能となるため、通常ターゲットは良導体である金属に限られる。また、その原理よりターゲットの固有抵抗と透磁率の違い、つまり材質の違いにより特性が変わる。 - ターゲットは磁性材に限らない
上記とは逆に、電流が流れる材質であれば測定ができるため商用周波数などの低周波で励磁するインダクタンス式の変位計と異なり、ターゲットは鉄鋼材などの磁性体である必要はなくアルミや銅など非磁性の金属でもターゲットとすることができる。 - センサは耐環境性に優れている
原理的に電流の流れない絶縁物は感知しないので、油や水がかかっても影響を受けないで測定が可能である。
前回(2010年1月号の「回転機械の状態監視 vol.2」)とは別のアプローチによる、より詳しい原理説明を試みてみましたが、決して簡単な説明とはならなかったことをお許しください。
次回は、同じ渦電流式変位センサでもキャリアの励磁方式による違い、さらに今回の最後のところで、渦電流式変位センサの特徴を簡単に述べましたが、次回から取扱上の注意点にもつながる具体的な説明を行ないます。
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