新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

これまで回転機械の軸振動や軸位置計測用途として使用される渦電流式変位センサに関して述べてきましたが、今回は渦電流方式以外の原理で回転機械の振動監視に適用されるセンサについて説明します。

主な振動センサの方式と測定パラメータ

これまで回転機械の軸振動を計測するセンサとして、渦電流式変位センサの原理、特徴、取扱上の注意点などに関して説明してきましたが、機械の振動計測にはそれ以外のセンサも使用されています。

図1に示すように、振動センサには被測定物(ターゲット)に接触しないで振動を計測する非接触型のセンサと、振動を測定する箇所に固定して、振動体と一緒にセンサ自体が振動することで振動を計測する接触型のセンサがあります。図1では主な振動センサの方式として8種類の方式を示していますが、この中で回転機械の状態監視・診断によく利用されるセンサとしては、非接触型では渦電流式変位センサ、接触型では動電型速度センサと圧電型加速度(速度)センサが挙げられます。

今回は、この中の動電型速度センサに関して説明します。

図1. 主な振動センサの方式と測定パラメータ

動電型振動センサ

動電型振動センサは図2に示すように、ケースに固定されたマグネットと、検出コイルを保持したボビン、そのボビンを支持するバネで構成されていま す。このバネは測定軸方向(図2の上下方向)には動くが、横軸方向(図2の水平方向)には動かないような、板状の柔らかいバネになっています。

ところで、お蕎麦屋さんに出前を頼むと、出来上がった汁蕎麦を岡持ちに入れ、その岡持ちを専用の機械に載せてバイクで運んで来てくれます。この時、バイクが道のでこぼこに合わせてガタガタと振動しても、岡持ちはガタガタと振動することは無く、蕎麦や汁がこぼれないようになっています。この機械は出前機というそうですが、実はこの出前機と動電型速度センサには共通点があります。出前機は岡持ちを載せる台をバネで吊り下げていますが、岡持ち(中身を含む)と台から成る質量とバネから構成される系の固有振動数より高い周波数でバイクが振動したとしても、岡持ちは振動しないようになっています。

図2の動電型速度センサの場合も、検出コイル、ダンピングコイルを含むボビンの質量と、これを支えるバネから構成される系の固有振動数より高い周波数でセンサ自体が振動しても、出前機の岡持ちと同様に、ボビンは振動しません。その状態においては、センサ本体と一緒に振動するマグネットと検出コイルは相対的に振動することになります。これはちょうど図3に示すように、コイルにマグネットを繰り返し近づけたり遠ざけたりしているのと同じ状態と言えます。この時、前号の電磁ピックアップの動作原理で説明したのと同じファラデーの電磁誘導の法則に沿ってコイルに誘導起電力が発生します。

図2. 動電型速度振動センサの構造
図3. コイルに生じる誘導起電力のイメージ図

コイルを貫通する磁束が変化するとファラデーの電磁誘導の法則に沿ってコイルに誘導起電力が生じる。破線の矢印は誘導起電力の作る磁束であり、実線矢印で示す磁石による磁束の変化を妨げる方向に生じる。

この誘導起電力は式(1)に示す通り、コイルを貫通する磁束を微分したものに比例します。つまり、これは磁束の変化速度に比例するということですが、この磁束の変化速度はマグネットの移動速度に比例するということになります。したがって、動電型速度センサは振動速度に比例した電圧を出力することになります。

\[ V=-N\frac{d\phi }{dt} \tag{1} \]

\(N\):コイルの巻き数 \( \phi\):磁束 \(V\):誘導起電力

なお、ダンピングを考慮しない場合、ボビンとバネから成る系の固有振動数においてボビンは大きく振動(共振)してしまい、図4の二点鎖線で示すように実際の振動体の振動よりも大きな振動をしているかのような電圧を出力してしまいます。そこで実際のセンサでは、適当なダンピング(制動)を効かせるようにして、図4の実線に示すような特性にしています。

図2では「ダンピングコイル」を使っていますが、これは検出コイルとは別に閉ループのコイルをボビンに巻いたもので、ボビンとマグネットが相対的に動く時、その相対速度が速ければ早いほどダンピングコイルに大きな電流が流れて制動をかけることになります。このダンピングには様々な方式があり、図2のようなダンピングコイル以外に、ボビン自体にも誘導電流が発生しますので、それをダンピングの主要素として利用したり、検出コイルから出力電圧を取り出す導線の途中に一部電流を帰還させるための抵抗器をコイルに並列に取付けた物もあります。

図4. 動電型速度センサの周波数特性

始めの方で、板状で柔らかいバネという表現をしましたが、この柔らかいとはバネ定数\(k\)が小さいということを意味しています。

一般的に動電型速度センサの測定周波数範囲は10Hz~1kHz程度ですので、ボビンとバネから成る系の固有振動数は10Hz程度の低い周波数に抑えておく必要があります。ここで系の固有振動数を低くするためには、できるだけ質量を大きくするか、バネ定数を小さくする必要がありますが、質量自体はあまり大きくとることができないため、できるだけバネ定数を小さくする、つまり柔らかいバネを使うということになります。

ほとんどのケースで、動電型速度センサはセンサ用電源を必要としない、取扱いの容易な高感度の振動センサとして使用されていますが、上記の通り非常に柔らかいバネで支えられたボビンがマグネットやセンサケース本体と相対的に振動することになるため、機械的にはあまり頑丈とは言えない、比較的デリケートな構造を持つセンサです。

このため、ボビンの可動範囲(通常数mm)を超えるような大振幅の振動を加えたり、大きな衝撃を加えるとダメージを受ける可能性があります。

また、横軸方向の振動の影響を受けにくくするため、特殊な形状の板状のバネを使っていますが、これも横軸方向に大きな振動が加わる状態となると、その時の様々な条件によっては横軸方向の固有振動数が現れたり、ボビンとケースが接触したりするような異常状態が発生する可能性があります。

さて、次号は圧電型加速度センサと圧電型速度センサについて説明します。

※ 新川電機では一般的な速度振動を計測、監視するアプリケーションにおいては、動電型速度センサではなく圧電型速度センサを推奨しています。

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