2011/04/12 業界コラム 瀧本 孝治 渦電流センサ以外の振動センサ vol.1 ~ 動電型振動センサ ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST推進企画...もっと見る マーケティング部 ST推進企画 これまで回転機械の軸振動や軸位置計測用途として使用される渦電流式変位センサに関して述べてきましたが、今回は渦電流方式以外の原理で回転機械の振動監視に適用されるセンサについて説明します。 主な振動センサの方式と測定パラメータこれまで回転機械の軸振動を計測するセンサとして、渦電流式変位センサの原理、特徴、取扱上の注意点などに関して説明してきましたが、機械の振動計測にはそれ以外のセンサも使用されています。 図1に示すように、振動センサには被測定物(ターゲット)に接触しないで振動を計測する非接触型のセンサと、振動を測定する箇所に固定して、振動体と一緒にセンサ自体が振動することで振動を計測する接触型のセンサがあります。図1では主な振動センサの方式として8種類の方式を示していますが、この中で回転機械の状態監視・診断によく利用されるセンサとしては、非接触型では渦電流式変位センサ、接触型では動電型速度センサと圧電型加速度(速度)センサが挙げられます。 今回は、この中の動電型速度センサに関して説明します。 図1. 主な振動センサの方式と測定パラメータ動電型振動センサ動電型振動センサは図2に示すように、ケースに固定されたマグネットと、検出コイルを保持したボビン、そのボビンを支持するバネで構成されていま す。このバネは測定軸方向(図2の上下方向)には動くが、横軸方向(図2の水平方向)には動かないような、板状の柔らかいバネになっています。 ところで、お蕎麦屋さんに出前を頼むと、出来上がった汁蕎麦を岡持ちに入れ、その岡持ちを専用の機械に載せてバイクで運んで来てくれます。この時、バイクが道のでこぼこに合わせてガタガタと振動しても、岡持ちはガタガタと振動することは無く、蕎麦や汁がこぼれないようになっています。この機械は出前機というそうですが、実はこの出前機と動電型速度センサには共通点があります。出前機は岡持ちを載せる台をバネで吊り下げていますが、岡持ち(中身を含む)と台から成る質量とバネから構成される系の固有振動数より高い周波数でバイクが振動したとしても、岡持ちは振動しないようになっています。 図2の動電型速度センサの場合も、検出コイル、ダンピングコイルを含むボビンの質量と、これを支えるバネから構成される系の固有振動数より高い周波数でセンサ自体が振動しても、出前機の岡持ちと同様に、ボビンは振動しません。その状態においては、センサ本体と一緒に振動するマグネットと検出コイルは相対的に振動することになります。これはちょうど図3に示すように、コイルにマグネットを繰り返し近づけたり遠ざけたりしているのと同じ状態と言えます。この時、前号の電磁ピックアップの動作原理で説明したのと同じファラデーの電磁誘導の法則に沿ってコイルに誘導起電力が発生します。 図2. 動電型速度振動センサの構造図3. コイルに生じる誘導起電力のイメージ図コイルを貫通する磁束が変化するとファラデーの電磁誘導の法則に沿ってコイルに誘導起電力が生じる。破線の矢印は誘導起電力の作る磁束であり、実線矢印で示す磁石による磁束の変化を妨げる方向に生じる。 この誘導起電力は式(1)に示す通り、コイルを貫通する磁束を微分したものに比例します。つまり、これは磁束の変化速度に比例するということですが、この磁束の変化速度はマグネットの移動速度に比例するということになります。したがって、動電型速度センサは振動速度に比例した電圧を出力することになります。 \[ V=-N\frac{d\phi }{dt} \tag{1} \] \(N\):コイルの巻き数 \( \phi\):磁束 \(V\):誘導起電力 なお、ダンピングを考慮しない場合、ボビンとバネから成る系の固有振動数においてボビンは大きく振動(共振)してしまい、図4の二点鎖線で示すように実際の振動体の振動よりも大きな振動をしているかのような電圧を出力してしまいます。そこで実際のセンサでは、適当なダンピング(制動)を効かせるようにして、図4の実線に示すような特性にしています。 図2では「ダンピングコイル」を使っていますが、これは検出コイルとは別に閉ループのコイルをボビンに巻いたもので、ボビンとマグネットが相対的に動く時、その相対速度が速ければ早いほどダンピングコイルに大きな電流が流れて制動をかけることになります。このダンピングには様々な方式があり、図2のようなダンピングコイル以外に、ボビン自体にも誘導電流が発生しますので、それをダンピングの主要素として利用したり、検出コイルから出力電圧を取り出す導線の途中に一部電流を帰還させるための抵抗器をコイルに並列に取付けた物もあります。 図4. 動電型速度センサの周波数特性始めの方で、板状で柔らかいバネという表現をしましたが、この柔らかいとはバネ定数\(k\)が小さいということを意味しています。 一般的に動電型速度センサの測定周波数範囲は10Hz~1kHz程度ですので、ボビンとバネから成る系の固有振動数は10Hz程度の低い周波数に抑えておく必要があります。ここで系の固有振動数を低くするためには、できるだけ質量を大きくするか、バネ定数を小さくする必要がありますが、質量自体はあまり大きくとることができないため、できるだけバネ定数を小さくする、つまり柔らかいバネを使うということになります。 ほとんどのケースで、動電型速度センサはセンサ用電源を必要としない、取扱いの容易な高感度の振動センサとして使用されていますが、上記の通り非常に柔らかいバネで支えられたボビンがマグネットやセンサケース本体と相対的に振動することになるため、機械的にはあまり頑丈とは言えない、比較的デリケートな構造を持つセンサです。 このため、ボビンの可動範囲(通常数mm)を超えるような大振幅の振動を加えたり、大きな衝撃を加えるとダメージを受ける可能性があります。 また、横軸方向の振動の影響を受けにくくするため、特殊な形状の板状のバネを使っていますが、これも横軸方向に大きな振動が加わる状態となると、その時の様々な条件によっては横軸方向の固有振動数が現れたり、ボビンとケースが接触したりするような異常状態が発生する可能性があります。 さて、次号は圧電型加速度センサと圧電型速度センサについて説明します。 ※ 新川電機では一般的な速度振動を計測、監視するアプリケーションにおいては、動電型速度センサではなく圧電型速度センサを推奨しています。 本コラム関連製品 CVシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月